碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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ETV特集「沖縄の夜を生きて~基地の街と女性たち~」

2023年04月07日 | 「しんぶん赤旗」連載中のテレビ評

 

 

沖縄から届いた声

 

3月25日、ETV特集「沖縄の夜を生きて~基地の街と女性たち~」(NHK)が放送された。

終戦後、アメリカの統治下にあった沖縄。基地の周辺には米軍の認証を受けたバーやクラブが林立しており、それらの店は「Aサイン」と呼ばれた。認証を受けていない店も多く存在し、全体として大歓楽街となった。

そんな街に集まってきたのが、沖縄戦で家族の命を奪われ、生きる術(すべ)を失った若い女性たちだ。彼女たちの中には沖縄本島の出身者だけでなく、周辺の離島から来た者が少なくない。特に奄美大島出身者が多かったことが判明している。奄美は耕地が乏しかった。

その上、米軍統治のために本土と切り離されてしまったことで、島民は出稼ぎ先を失う。しかも終戦後には深刻な飢餓に陥っていたのだ。番組では奄美出身者を中心に、かつて店を経営していた人、ホステスだった人など当事者が証言していく。

91歳の女性は戦争で12歳までしか学校に行けず、1960年代のコザでホステスになった。「男の人、触ってくるのが嫌でね。みんなパンツを2、3枚履いてた。私は無学だったから事務所とかでは働けない。ハウスメイドかホステスか、それくらいだった」

また83歳になる元ホステスの女性が語る。「兄さんもお金がないから私のところに来る。姉さんも子どもが5、6人いてお金がない。みんな店に行ってツケで食べて、それを私が払ってきた」

さらに72歳の女性は出産と離婚を経験した後、18歳でホステスになった。店には「男に貢いで借金した子、男に売られて来た子とか、いろいろ」な女性がいたと言う。

どの人もテレビカメラの前で話すどころか、これまで誰にも明かさなかった自身の過去を率直に語っている。そこには取材する側とされる側の間の信頼関係があり、ディレクターの植田恵子と杉本美泉の誠実な取材姿勢が反映されている。

昨年、沖縄は「復帰50年」を迎えた。この番組も本来は昨年流される予定だった。しかしコロナ禍で制作中断を余儀なくされてしまい、ようやく今回の放送となった。沖縄の女性たちが実名で語り残してくれた辛い体験を、多くの人が共有することが出来たのだ。

(しんぶん赤旗「波動」2023.04.06)

 


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