碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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「家飲みドラマ」再び

2023年07月28日 | 「しんぶん赤旗」連載中のテレビ評

 

 

「家飲みドラマ」再び

 

ビール好きのヒロイン、伊澤美幸(栗山千明)が帰ってきた。ドラマ25「晩酌の流儀2」(テレビ東京系)である。

不動産会社に勤務する彼女は、一日の終わりに美味しい酒を飲むことを無上の喜びとしている。

最高の状態で酒と向き合うためには準備も必要だ。定時に退社して、ボルダリングやボウリングで汗を流したりする。

さらに行きつけのスーパーで安くて旨い食材を探す。モットーは「家飲みで一番大事なのは、最小のコストで最大のパフォーマンスを出すこと」。

帰宅後の手早い料理でガーリック豚テキや茄子の揚げびたしを作るかと思うと、焼き鳥や握り寿司にも挑戦する。

毎回の見せ場が待望の1杯目だ。うっとりした目でビールが注がれたグラスを見つめ、やがて静かに、しかし情熱的に黄金色の液体を喉に流し込む。

そして2杯目。美幸は「これが私の流儀だ!」と、別のグラスを冷蔵庫から取り出す。適度に冷えた状態のグラスで飲み続けたいからだ。このこだわりが快感を呼ぶ。

振り返れば、グルメドラマは社会の価値観の変化を反映してきた。食と向き合うドラマという新ジャンルを切り開いたのは「深夜食堂」(TBS系)だ。

次に架空の人物が、一人で実際の店に行って食事をする構造を「孤独のグルメ」(テレビ東京系)が完成させた。

好きな場所で好きなものを食べる自由という幸せを提示しただけでなく、一人飯のネガティブなイメージを払拭し、個人の多様性を尊重する社会に先駆けたのだ。

長く続いたコロナ禍の中で、「家飲み」に注目したのが昨年の「晩酌の流儀」だった。

自分の家で、誰にも気兼ねすることなく、好きな酒を好きな料理と共に味わう。一見当たり前のような行為の中に、自分にとっての価値を再発見したのだ。

食も酒も身近な存在でありながら奥の深いテーマだ。おかげでグルメドラマには幅広い年齢の視聴者が集まる。またテレビ局にとっては小さな予算で制作可能な優良コンテンツでもある。

今や刑事ドラマや医療ドラマと並んで、ドラマジャンルの新定番となった感があるグルメドラマ。一人飯、一人晩酌の次はどんな仕掛けが登場してくるのか、大いに楽しみだ。

(しんぶん赤旗「波動」2023.07.27)

 


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