碓井広義ブログ

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ギャラクシー賞 受賞作が映す「現在」

2024年06月22日 | 「毎日新聞」連載中のテレビ評

 

 

<MediaNOW!>

ギャラクシー賞 受賞作が映す「現在」

 

5月31日、放送批評懇談会が主催する第61回「ギャラクシー賞」の贈賞式が行われた。事前に公表されていたテレビ部門の入賞作はドラマとドキュメンタリーを合わせた14本。当日、その中から大賞1本と優秀賞3本が発表された。大賞に選ばれたのは、連続ドラマW「フェンス」(WOWOW)だ。

物語の舞台は2022年に本土復帰50年を迎えた沖縄。雑誌ライターの小松綺絵(松岡茉優)は、米兵による性的暴行事件の被害を訴えるブラックミックスの女性、大嶺桜(宮本エリアナ)を取材するために沖縄までやって来た。桜の経営するカフェバーを訪ね、彼女の父親が米軍人であることや、祖母・大嶺ヨシ(吉田妙子)が沖縄戦体験者で平和運動に参加していることを聞き出す。

綺絵は東京都内のキャバクラで働いていた頃の客だった、沖縄県警の伊佐兼史(青木崇高)に会い、米軍犯罪捜査の厳しい現実を知る。浮かび上がってくる事件の深層。ジェンダー、人種、世代間の相違、沖縄と本土、日本とアメリカといった、さまざまな「フェンス」を乗り越えようとする人間の姿が描かれていく。

脚本は「アンナチュラル」(TBS系)などの野木亜紀子。県警と米軍の力関係や軍用地売買など、現在の沖縄が抱える多様な問題も取り込んだ、緊張感に満ちたクライムサスペンスだった。

また優秀賞作品の中で注目したのが、NHKスペシャル「“冤罪(えんざい)”の深層~警視庁公安部で何が~」だ。4年前、横浜市にある中小企業の社長ら3人が逮捕された。容疑は軍事転用が可能な精密機械の中国への不正輸出。身に覚えのない経営者たちは無実を主張するが、警察側は無視する。長期勾留の中で1人は病気で命を落とした。

ところが突然、「起訴取り消し」という異例の事態が発生する。「冤罪」だったのだ。会社側は東京都と国に損害賠償を求めて裁判を起こし、証人となった現役捜査員は法廷で「捏造(ねつぞう)ですね」と告白する。

制作陣は関係者への徹底取材で「捏造」の構造を探り、「冤罪」の背景に光を当てていく。中には勇気を奮って内部告発を行い、組織の暴走と腐敗を止めようとした捜査員もいた。しかし、捏造の当事者やその上司には反省も罪の意識もない。彼らとっては「正当な業務」だったのだ。

見ていて戦慄(せんりつ)するのは、この事件が人ごとではないからだ。公安部にとっては、証拠も含めて「何とでもなる」という実例と言っていい。現在のリアルな「闇」に迫る出色の調査報道だった。

(毎日新聞 2024.06.08夕刊)

 


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