「週刊新潮」に寄稿した書評です。
倉本 聰『ニングル』
理論社 2420円
ニングルとは、北海道・十勝岳の原生林に棲む、体長十数センチの「小さなヒト」。妖精ではなく先住民だ。著者は平均寿命二百七十年の彼らと出会い、話を聞くことになる。それは環境破壊をやめない人類に対する、強烈な「警告」だった。このノンフィクション小説の刊行は1985年。本書は新装復刻版だ。マウイ島の大火、記録的な猛暑などに遭遇した今こそ読まれるべき「予見の書」である。(2023.10.18発行)
岡本 仁『ぼくのコーヒー地図』
平凡社 2420円
著者はコーヒー好きの編集者。ただし「家ではコーヒーを飲まない」外飲み派だ。本書では記憶の中の「いい店」を紹介している。地元の人たちに混じってコーヒーを味わう、北海道の「六花亭帯広本店」。マスターのあっさりした接客が好きだという、京都・河原町「六曜社地下店」。東京ではベートーベンの胸像が店内を見守る「銀座ウエスト」などを挙げる。店を選ぶ時の大事な要素は安心感だ。(2023.09.25発行)
松岡 完『ケネディという名の神話』
中央公論新社 2090円
1963年11月、日米初の衛星中継が行われた。この時飛び込んできたのが、ケネディ大統領暗殺のニュースだ。あれから60年。人気は現在も続いているが、それは単に「指導者不在の時代」の偶像としてなのか。政治学者である著者は、ホワイトハウスへの道程や大統領としての光と影を検証することで、「神話」の実相を解明していく。その生と死だけでなく、死後までを丁寧に追った労作だ。(2023.10.10発行)
小竹雅子
『「市民活動家」は気恥ずかしい~だけど、こんな社会でだいじょうぶ?』
現代書館 1980円
著者は20代半ばだった1980年代に「障害児を普通学校へ」の活動に関わった。しかし、身近に障害児がいたわけはない。90年代には介護保険法の成立を目指す活動に参加。2000年代からは介護保険制度を考えるセミナーを実施してきた。当事者でも専門家でもない人間が、一人の「市民」として「制度」と向き合い続けた約40年。「活動家」の概念を変えてしまいそうな、市民活動エッセイ集だ。(2023.10.15発行)
【週刊新潮 2023.11.23号】