フジ”月9”ドラマ
「エルピス」好調の陰に
作り手と主演・長澤まさみの覚悟
実在した事件から着想
フジテレビ系の“月10”ドラマ「エルピス-希望、あるいは災い-」(カンテレ)が話題だ。
平均世帯視聴率(関東地区、カッコ内は個人視聴率=ビデオリサーチ調べ)こそ、10月24日の初回放送から8.0%(4.4%)、7.3%(3.8%)、6.3%(3.4%)と1桁台を推移しているが、「今どきのドラマは、リアルタイム視聴の視聴率だけでは評価できません。1時間ごとに更新されるTVerの再生回数ランキングでは今季ナンバーワンドラマとの評価の高い『silent』(フジ系)がダントツですが、こちらも世帯視聴率は1桁台です。『エルピス』も同ランキングではベスト5の常連ですから、ヒットしていると見ていいでしょう」(キー局関係者)という。
“路チュー写真”を週刊誌に撮られたことで、報道番組のキャスターを降板させられた「大洋テレビ」のアナウンサー・浅川恵那(長澤まさみ=35)が、若手ディレクターの岸本拓朗(真栄田郷敦=22)と“路チュー写真”の相手だった元恋人で報道局のエース記者の斎藤正一(鈴木亮平=39)と共に、連続殺人事件の冤罪疑惑を追うというストーリー。
7日放送の第3回では、行き詰まっておえつしながら、キッチンに座り込んだ長澤が元恋人の鈴木と濃厚なキスを交わし、再び一夜を共にするというシーンも放送され、強烈なインパクトを残した。
「ゲロを吐いた長澤まさみをたばこを吸った鈴木亮平がキスで受け止めた」「演技とはいえキスシーン………エグい」とSNS上でも話題となった。
しかし、話の本筋はあくまで「冤罪事件」。
メディア文化評論家の碓井広義氏は、「ここ数年のドラマの中でも出色の作品だと思います」として、こう続ける。
「視聴者を強烈に引き込むサスペンスであると同時に『冤罪事件』を真正面から扱っています。冤罪事件は、警察や裁判所など公権力の大失態ですが、発表報道を垂れ流して、結果としてそれに加担してしまったマスコミにも責任の一端はあるわけです。ともすれば、自分たちにも批判の矛先が向きかねないリスクもある中で、テレビ局を舞台に、こうしたテーマのドラマを作るのはとてもスリリングなことだと思います」
異例ともいえる「参考文献提示」
このドラマが実際の事件から着想を得ていることも注目に値すると言う。
「ドラマの冒頭で、『このドラマは実在の複数の事件から着想を得たフィクションです』とうたっていますが、エンドロールでは9冊もの『参考文献』が挙げられています。これも異例のことですが、うち5冊が『足利事件』に関するものです。ここまで堂々と手の内を明かし、“単なる絵空事ではないんだぞ”と問題提起しているのは、作り手の肝の据わった覚悟や、ドラマというものへの熱い思いを感じます」
さらに、「コンフィデンスマンJP」(2018年)以来の地上波ドラマ主演となる長澤まさみについてはこう付け加えた。
「人気女優としての地位を十分に築いている長澤さんですが、そこに安住せず、次のステップに進もうと圧倒的な熱量で演じている姿は、どこか彼女がドラマの中で演じている浅川アナとダブりますね」
作り手も演者も熱量たっぷり。オトナの鑑賞にも十分堪える社会派エンターテインメントだ。
(日刊ゲンダイ 2022.11.11)