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碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

【新刊書評】2022年7月後期の書評から 

2022年10月30日 | 書評した本たち

 

 

【新刊書評2022】

週刊新潮に寄稿した

2022年7月後期の書評から

 

石井 徹

『「少年マガジン」編集部で伝説のマンガ最強の教科書~感情を揺さぶる表現は、こう描け!』

幻冬舎 1870円

テレビドラマはもちろん、映画でも漫画を原作とした作品が目立つ。では創作物の元になる漫画はいかに創られているのか。編集者という補助線を引くことで、その秘密が見えてくる。著者は「マガジン」グループの伝説的編集者。自身の方法論を開陳すると共に、分析するのは『ONE PIECE』『進撃の巨人』『鬼滅の刃』などだ。読者の喜怒哀楽を揺り動かす作品のキーワードは「強い感動」である。(2022.06.20発行)

 

杉本 竜『近代日本の競馬』

創元社 2750円

競馬は身近な娯楽だ。馬券を買うも買わぬもよし。テレビ中継で走る馬を眺めるだけでも心躍るものがある。そんな競馬のはじまりは明治日本の欧化政策。戦前唯一の「公認賭博」であり、知的推理を伴う大衆娯楽でもあった。これまで「軍馬育成」の観点から論じられることが多かったが、本書は「競馬」自体の歴史的再検証を行っている。いわば競馬を通して見た、近代日本社会の新たな姿だ。(2022.06.20発行)

 

上野昻志『黄昏映画館~わが日本映画誌』

国書刊行会 7700円

蓮實重彦、山根貞男、山田宏一といえば、日本の映画批評におけるビッグネームだ。そんな彼らが、かつて編集者として担当していた書き手が、今年81歳になる上野昻志である。何冊もの評論集を著してきた上野だが、本書は実に25年ぶり。しかも50年分の仕事を収めた980頁の大著だ。加藤泰、鈴木清順、大島渚から、相米慎二、長谷川和彦、北野武まで、同時代を生きた監督たちの実相が見えてくる。(2022.06.25発行)

 

夢枕 獏『仰天・俳句噺』

文藝春秋 1760円

近年、著者が取り組んできたものが二つあった。一つは俳句で、「ゴジラも踏みどころなし花の山」は名句だ。そしてもう一つが「がん治療」である。ステージⅢのリンパがんと診断され、多くの連載も休んだ。しかし病床でも続けたのが作句だった。本書は辛い自分をも笑い飛ばす破天荒な闘病記であり、支えとなった俳句に対する感謝のエッセイ集である。夢枕獏の武器は、やはり「言葉の力」だ。(2022.06.30発行)

 

大竹昭子:著、アネケ・ヒーマン&クミ・ヒロイ:写真

『いつもだれかが見ている』

亜紀書房 1870円

14枚の写真がある。いずれもポートレートだ。ただし被写体の年齢も性別も国籍も撮影場所も異なっている。何かを凝視する三つ編みの少女。ピアノの鍵盤に手を置くアジア系の女性。まるで日常の瞬間を切り取ったような写真だからこそ、見る側の想像力が刺激される。14の物語は、不思議なほど読み終わった実感が希薄だ。また掌編であるのに長い時間を過ごしたような感覚が残るのも大竹マジックか。(2022.07.04発行)

 

木村草太

『増補版 自衛隊と憲法~危機の時代の憲法議論のために』

晶文社 1760円

終息の道が見えない、ロシアのウクライナ侵攻。安倍元総理の暗殺。参院選での与党大勝。岸田政権は当然のように改憲へと邁進している。敵基地攻撃能力や防衛能力、さらに核保有・核共有の話題も出て来た。そんな状況に流されないために、自衛隊と憲法について「知るべきこと」が凝縮されているのが本書だ。特に9条改正に関して検討すべきポイントが見えてくる。本質的な議論はここからだ。(2022.07.15発行)