碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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【新刊書評】2022年6月前期の書評から 

2022年09月25日 | 書評した本たち

 

 

【新刊書評2022】

週刊新潮に寄稿した

2022年6月前期の書評から

 

椎名 誠『シルクロード・楼蘭探検隊』

産業編集センター 1320円

椎名誠には「探検」の文字がよく似合う。少年時代に憧れたシルクロード。本書では二つの旅を回想している。敦煌までのツアーに参加したのが1980年。8年後には日中共同楼蘭探検隊のメンバーとしてタクラマカン砂漠に足を踏み入れる。風景の変化に感動し、「砂の海」の過酷さを味わい、敬愛する探検家・ヘディンを思った。長い時間が過ぎた今だからこそ分かること、書けることがあるのだ。(2022.05.23発行)

 

中丸美繪『鍵盤の天皇~井口基成とその血族』

中央公論新社 3300円

約40年前、75歳で没した井口基成。ピアノ演奏者・教育者として日本音楽界の巨人的存在だった。戦後、齋藤秀雄や吉田秀和などと一緒に「子供のための音楽教室」を開設。小澤征爾も中村紘子もその一期生だ。鬼教師として君臨する一方、酒と美食を愛し、スキャンダラスな私生活を送った。本書は基成だけでなく、優れたピアニストだった妻・秋子、妹・愛子の生涯をも明らかにする本格評伝だ。(2022.05.23発行)

 

マイケル・ケイン:著、太田黒奉之:訳

『わが人生。~名優マイケル・ケインによる最上の人生指南書』

集英社 2310円

若き日のマイケル・ケインに、ジョン・ウエインが言ったそうだ。スターでい続けたいなら「低い声で話し、多くを語るな」と。自身が80代半ばに達した時、それまでの成功と失敗、喜びと悲惨の体験から得た教訓を伝えようと決意する。例えば「人生は常にオーディション」は役者以外にも当てはまる。さらに人生は逆転できること、真剣に楽しむことなどが多彩な出演作品を背景に語られていく。(2022.05.31発行)

 

佐藤 卓『マークの本』

紀伊國屋書店 2750円

「マーク」とはシンボルマークのこと。ブランド、施設、組織などを一目で理解させる「顔」の役割を持つグラフィックデザイナーである著者はこのジャンルの第一人者だ。本書には「明治 おいしい牛乳」や「ロッテ キシリトールガム」のパッケージ、音符がモチーフの「島村楽器」のマークなどが登場する。デザイナー自身が開陳する、発想から完成までのプロセスは、まるで知的冒険の旅だ。(2022.05.30発行)

 

秀島史香『なぜか聴きたくなる人の話し方』

朝日新聞出版 1540円

ラジオは音声だけが頼りだ。それなのに聴く人の気持ちが和むのはなぜか。「もっと聴いていたい」と思われる話し方とは何か。そんな疑問に25年のキャリアを持つラジオDJが答えていく。会話のポイントは「簡潔&完結」。沈黙は「お互いを理解する時間」。大切なのは「もっと知りたいという気持ち」。ラジオの現場から生まれたアドバイスの数々は、リモートによるコミュニケーションでも有効だ。(2022.05.30発行)

 

倉本 聰『破れ星、流れた』

幻冬舎 1980円

現在87歳の著者、初の自伝エッセイだ。クリスチャンでありながら、ケンカも大好だった父。感性豊かな一方で、小ずるさも見せる息子への無言の教えが素晴らしい。2浪して東大に入るが、芝居と映画と酒にのめり込む日々が続く。やがてラジオのニッポン放送に入社。ラジオドラマ制作の経験が、後の脚本家・倉本聰に大きな影響を与えたことがよく分かる、抱腹絶倒の秘話が語られていく。(2022.06.10発行)