<週刊テレビ評>
「大豆田とわ子と三人の元夫」
脱ストーリーの実験作
困ったドラマだ。「どんな話?」と聞かれて、「こんな筋だよ」と即答しづらいのだ。「大豆田とわ子と三人の元夫」(関西テレビ制作・フジテレビ系、火曜午後9時)である。
珍しい姓の大豆田とわ子(松たか子)。平凡な姓を持つ田中(松田龍平)、佐藤(角田晃広)、中村(岡田将生)が元夫だ。3人は離婚後も、とわ子が気になって仕方ない。とはいえ元妻の争奪戦を繰り広げるわけではない。4人の微妙な関係と日常が、じんわりとユーモラスに描かれていく。
しかし一瞬も目を離すことはできない。いや、正確にはどんなセリフも聞き逃すことができない。ストーリーよりも大事なのは、登場人物たちの関係性が生む「セリフ」だからだ。脚本の坂元裕二が仕掛けた、<脱ストーリー>という実験作と言っていい。
2017年の「カルテット」(TBS系)以上に、舞台劇のような言葉の応酬はスリリングで、行間を読む面白さがある。個々のセリフが持つニュアンスを、絶妙な間と表情で伝える俳優陣にも拍手だ。
とわ子が、亡くなった親友・綿来かごめ(市川実日子)に、元夫との関係が「面倒くさい」と愚痴ったことがある。かごめは「面倒くさいって気持ちは好きと嫌いの間にあって、どっちかっていうと好きに近い」と言い当てる。
また、勝手な持論を展開する元夫の中村に、とわ子が言う。「私が言ってないことは分かった気になるくせに、私が言ったことは分からないフリするよね」
そして、3回の離婚経験があるとわ子は「かわいそう」で、「人生に失敗している」と決めつける取引先の社長がいた。「人生に失敗はあったって、失敗した人生なんてないと思います」と言い返す、とわ子。ドラマ全体が、まるでアフォリズム(警句・格言)を集めた一冊の本のようだ。
さらに、このドラマの特色として、恋愛や結婚そして離婚に関する一般的イメージや既成概念を揺さぶっていることがある。たとえば、かごめは「恋愛になっちゃうの、残念」と言っていた。互いを好ましく思う男女に、恋愛や結婚以外のつながり方があっていい。
同時に、一人でいることを幸福と感じる生き方もある。それぞれもっと自由に、自分らしさを大切にして生きてみたら? かごめは、そう言いたかったのではないか。
ドラマは終盤に入り、とわ子に新たな出会いがあった。オダギリジョーが演じる外資系ファンドの男だ。よもや4度目の結婚でハッピーエンドなんてことはないだろうが、ぜひ見る側の予想など、きれいに裏切ってほしい。
(毎日新聞 2021.06.05夕刊)