朝ドラ60年、家族の物語紡いで
時代のヒロイン、幅広く愛され
NHKの連続テレビ小説(朝ドラ)が今年、放送開始60年を迎えた。「おちょやん」が先週で終わり、17日から104作目となる「おかえりモネ」が始まった。清原果耶(かや)さんが演じる女性が気象予報士として成長していく物語だ。日本の朝を彩ってきた「朝ドラ」の魅力は、こんなヒロインの成長を視聴者が毎日、見守れること。この伝統を守りながら新しい視点も織り込むことで、幅広い世代に長く支持されてきた。(道丸摩耶) ◇
◆朝刊の連載小説意識
連続テレビ小説が初めて放送されたのは、「上を向いて歩こう」が大ヒットした昭和36年。第1作目は、ラジオドラマとしてその3年前に放送されて好評だった「娘と私」をテレビドラマ化した。月曜~金曜に1回20分、1年間の放送で、NHKによると、長編小説のテレビドラマ化という意味で「連続テレビ小説」と名付けられた。また、朝刊の連載小説を意識して朝の放送となったという。
翌年以降は、月曜から土曜まで朝8時15分開始、15分間の放送に。50年からは、半年間ごと年2作品に。朝の時計代わりに見ている人も多く、平成22年の「ゲゲゲの女房」から午前8時開始に繰り上がった際は、時間の変更自体が話題となった。102作目の「エール」からは、働き方改革に伴う制作現場の負担軽減のため、土曜日の新作放送がなくなっている。
◆企画、2年半前から
大河ドラマと並びNHKを代表するドラマなだけに、制作の準備期間は長い。すでに作品の概要とヒロインが発表されている「ちむどんどん」は来年の放送予定だ。「梅ちゃん先生」(堀北真希主演)、「なつぞら」(広瀬すず主演)などの朝ドラを担当してきたNHKドラマ部の木村隆文エグゼクティブ・ディレクターは「どの時代のどんな女性を描くかという企画が決まるのは2年~2年半前。誰に脚本を依頼するかを決め、舞台となる地域に取材に行くなど準備を進める」と解説する。
“朝の顔”となる主演俳優も、毎回注目を集める。オーディションの有無も作品によって違う。木村さんが初めてたずさわった「純ちゃんの応援歌」(昭和63年度)では、演技経験がなかった山口智子が起用されて話題となったが、最近は実績ある俳優が選ばれることが多い。
放送は半年間だが、撮影期間は1年近くに及ぶことも。その間に「スタッフも含め、皆が家族のようになっていく」のだという。100作目の「なつぞら」には、山口や松嶋菜々子(平成8年度「ひまわり」)、小林綾子(昭和58年度「おしん」幼少期)ら歴代ヒロインが出演して盛り上げた。木村氏は「朝ドラから巣立った俳優が大人になって帰ってきてくれたことに感動した」と振り返る。
◆伝統と新たな視点と
木村氏にとって、朝ドラとは「古典芸能」のようなもの。60年にわたる伝統と100を超える作品があり、王道のスタイルはありつつも、新しい視点も盛り込む。全体の物語に加え週ごとにテーマがあり、その週の全5本に起承転結を持たせるなど編集には工夫が必要となる。
すべての朝ドラに共通するのは「家族の物語」ということだ。「例えば『梅ちゃん先生』は主人公が女医になる物語だが、医療ドラマではない。時代によって形は違えど、家族の物語が根底にある」(木村氏)
元上智大教授でメディア文化評論家の碓井広義(うすい・ひろよし)氏は「半年間、毎日接するドラマは他にはない。一緒に時間を過ごす隣人や友人のように、登場人物を身近に感じられるのが朝ドラの魅力だ」と分析する。
その上で、「NHKも視聴率を気にしなければいけない時代なのかもしれないが、朝ドラには神社仏閣のような、変わらない場所という安心感がほしい」と注文をつける。「朝の支度をしながら耳で音声を聞くだけの日もあれば、1日くらい見られない日があってもついていけるのが朝ドラだ」と碓井氏。伝統をつなぎながらも、新たな魅力をまとった作品の誕生に期待を寄せている。
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■「おかえりモネ」 今作は現代版オリジナル
碓井氏によると、朝ドラの「3大要素」は(1)女性が主人公の一代記(2)職業ドラマ(3)自立へ向かう成長物語-だという。2010年代からは、「実在した人物」をモデルにした「実録路線」が盛んになってきた。「カーネーション」「花子とアン」「マッサン」「とと姉ちゃん」「おちょやん」などは、いずれも実在の女性をモデルにした。
実録路線が盛んということは、「現代の魅力的な女性が描きにくい」ことの裏返しでもある。現代を舞台に架空の人物を描いた近年の作品では「あまちゃん」が成功したが、別の作品では「視聴者が離れたり、話が迷走したりすることもあった」と碓井氏は振り返る。17日から始まった「おかえりモネ」は、久々に現代を舞台に架空の人物を描く。碓井氏は「新型コロナウイルスで閉塞(へいそく)感を抱える日本の朝に、どんな物語を届けてくれるか楽しみだ」と話した。
今年度後期は、ラジオ英語講座を題材とした「カムカムエヴリバディ」、来年は、沖縄が舞台となる「ちむどんどん」の放送が控える。
(産経新聞 大阪夕刊 2021.05.20)