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碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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「特別総集編」で再確認する、ドラマ『半沢直樹』の魅力

2020年07月05日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム

 

 

「特別総集編」で再確認したい、

ドラマ『半沢直樹』の魅力とは!?

 

7月19日(日)から、『半沢直樹』の新作が始まることになりました。一時はどうなるかと思いましたが、とにかく、もうすぐ「新たな半沢」に会えるわけです。

しかも5日(日)からは、2週にわたり、前シーズンの「特別総集編」が流されます。新作本編への「架け橋」という意味でも、こんなに嬉しいことはありません。

今回の特別総集編で、ドラマ『半沢直樹』の魅力を再確認しておきたいと思います。

2013年の夏、『半沢直樹』が現れた!

第1のポイントは、大量採用の「バブル世代」が主人公だったことです。企業内では、「楽をして禄(ろく)を食(は)む」などと、負のイメージで語られることの多かった彼らに、しっかりスポットを当てたストーリーが新鮮でした。

原作は、池井戸潤さんの小説『オレたちバブル入行組』と『オレたち花のバブル組』の2作です。どちらも優れた企業小説の例にもれず、内部にいる人間の生態を巧みに描いていました。

制作陣がその気になれば、ドラマは大阪編だけでもワンクールの放送は可能だったでしょう。しかし、それだと、結果的に『半沢直樹』が実現した、あの密度とテンポの物語展開は無理だったかもしれません。

第2のポイントは、主演の堺雅人さんです。前年、フジテレビ『リーガルハイ』とTBS『大奥』の演技で、ギャラクシー賞テレビ部門個人賞を受賞していました。シリアスとユーモアの絶妙なバランス、そして群を抜く目ヂカラ。堺さんは当時、まさに「旬の役者」だったのです。

演出もまた「倍返し」の力技

前述のように、『半沢直樹』は1話分に詰め込まれている話の中身が濃く、またスピーディでした。それでいて、わかりづらくないし、見る側も置いてきぼりをくわない。それを支えていたのは、八津弘幸さんのダイナミックな脚本と福澤克維さんをはじめとする演出陣の力技です。

特にチーフ・ディレクターの福澤さんは、『半沢直樹』の前に、同じ日曜劇場の『南極大陸』や『華麗なる一族』なども手がけていました。こうした「男のドラマ」を作らせたら、ピカイチの演出家です。

ワンカットの映像でも、一目見れば「福澤作品」とわかるほど個性が強い画(え)を撮る。往年の和田勉さん(NHK)を彷彿させる、極端なほどの人物のアップ。かと思うと、一転してカメラをドーンと引き、大群衆を入れ込んだロングショット。そのメリハリの利いた映像とテンポが心地いい。

忘れられないのは、『半沢直樹』の第1話の冒頭のシーンです。まず、半沢の顔のアップ。そこからズームアウト(画角が広がり背景も見えてくる)していく長いワンカットが使われました。あのワンカットを敢行する思いきりのよさ、大胆さが見事です。

その一方で、福澤さんの演出は細部にまでしっかりと及んでいる。登場人物たちのかすかな目の動きや表情。台詞のニュアンス。さらに大量のエキストラが登場するシーンでも、一人一人に気を配り、画面の隅にいる人物からも緊張感のある演技を引き出していく。

大胆であること、そして繊細であること。福澤演出には、「天使のように大胆に、悪魔のように細心に」の黒澤明監督と重なるものがあります。

また銀行、そして金融業界が舞台の話となれば、背景が複雑なものになりがちですが、『半沢直樹』は物語の中に解説的要素を組み込み、実にわかりやすくできていました。

銀行内部のドロドロとした権力闘争やパワハラなどの人間ドラマをリアルに描きつつ、自然な形で銀行の業務や金融業界全体が見えるようにしていた。「平易」でありながら、「奥行」があったのです。

半沢の武器は「知恵」と「友情」

主人公の半沢は、「コネ」も「権力」も持っていません。その代わりに、「知恵」と「友情」を武器にして、内外の敵と戦っていきます。

しかもその戦いは、決して正義一辺倒ではありません。政治的な動きもすれば、裏技も使う。また巨額の債権を回収するためなら、手段を選ばない狡猾(こうかつ)さもあります。そんな「清濁併せのむヒーロー像」が共感を呼んだのでした。

窮地に陥る主人公。損得抜きに彼の助太刀(すけだち)をする仲間たち。そして際立つ存在としての敵(かたき)役。勧善懲悪がはっきりしていて分かりやすい、まるで時代劇の構造です。

威勢のいい「たんか」は、『水戸黄門』の印籠代わりと言っていい。主人公は我慢に我慢を重ね、最後には「倍返しだ!」とミエを切って勝負をひっくり返す。見る側は痛快に感じ、留飲が下がるというわけです。

骨太なストーリーの原作小説。そのエッセンスを生かす形で、起伏に富んだ物語を再構築した脚本。大胆さと繊細さを併せ持つ、達意の演出。それに応えるキャストたちの熱演。それらの総合力が、このドラマを、見る側の気持ちを揺さぶる、また長く記憶に残る1本に押し上げたのです。


ドラマ続編の作られ方 「BG」と「ハケン」は好対照 

2020年07月05日 | 「北海道新聞」連載の放送時評

 

 

碓井広義の放送時評>

ドラマ続編の作られ方 

「BG」と「ハケン」は好対照 

ヒットドラマの続編を制作する。その場合、主に二つの方向がある。前作の設定を変えるか、それとも踏襲するか。

木村拓哉主演「BG~身辺警護人~」(テレビ朝日-HTB)は明らかに前者だ。2年前の第1シーズンとの最大の違いは、主人公の島崎章(木村)が組織を離れたことである。警備会社を買収したIT系総合企業社長の劉光明(仲村トオル)が、利益のためなら社員の命さえ道具扱いする人物であることを知ったからだ。

いわばフリーランスのBG(ボディーガード)となった島崎。最初の依頼人は業務上過失致死罪で服役していた、元大学講師の松野(青木崇高)だった。女性研究員が窒息死した事故の責任を問われた松野だが、出所後は指導教授(神保悟志)に謝罪するために大学へ行こうとしており、警護を頼んできたのだ。

研究員の死には隠された事実があった。島崎は万全のガードを行いつつ、松野の言動にも注意の目を向ける。チームによる警護から個人作業へ。そこから生じる島崎の緊張感を、木村が抑制の効いた演技で表現していた。

前シーズンでは警護する相手が政財界のVIP中心で、物語がやや類型的だった。しかし、今回から対象者の幅が広がり、第2話では盲目のピアニスト(川栄李奈)の身体だけでなく、彼女の折れかけていた心も護(まも)っていた。ドラマ全体として、設定の大胆な変更が“進化”として結実している。

一方、篠原涼子主演「ハケンの品格」(日本テレビ-STV)は、13年前の第1シーズンとほとんど変わっていない。ヒロインの大前春子(篠原)は特Aクラスのスーパーハケン。仕事は早くて確実で、求められた以上の成果をあげる。ただし残業は拒否するし、プライベートにも踏み込ませない。

今回の派遣先は大手食品会社だが、海外との商談を成立させたり、人気蕎麦(そば)店とのコラボ商品の開発を進めたりと活躍中だ。

とはいえ、このドラマで見るべきは春子の「働き方」だけではない。何かと派遣社員を差別する上司(塚地武雅)に、「(ハケンは)生きるために泣きたくても笑っているんです!」という本音と、「有給たっぷりの皆さんとは違うんです」という皮肉をぶつける。また返す刀で、不満ばかり口にする派遣の後輩を「お時給ドロボー!」と叱りとばすのも痛快だ。

この13年の間に、世の中にはさまざまな変化があった。現在も刻々と変わりつつある。だからこそ、本質を見抜く目を持つ「ブレないヒロイン」の存在が貴重なのかもしれない。

(北海道新聞 2020.07.04)