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碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

<2019年11月の書評>

2019年11月30日 | 書評した本たち

 

 

<2019年11月の書評>

 

松本一弥

『ディープフェイクと闘う~「スロージャーナリズム」の時代』

朝日新聞出版 1760円

スロージャーナリズムとは、「ゆったりした時間軸の中で問題を深く掘り下げてく」報道を指す。それがフェイクの時代への対抗策だと著者は言う。なぜヘイト表現が横行するのか。なぜ大統領の「つぶやき」が世界を翻弄するのか。メディア不信を押し返す論考だ。(2019.09.30発行)

 

原 武史『「松本清張」で読む昭和史』

NHK出版新書

今年生誕110年を迎える松本清張。その作品をテキストとして、「昭和史」を解読していくのが本書だ。占領期の闇に迫る『日本の黒い霧』。格差社会を背景とした『点と線』。そして高度経済成長の暗部を描く『砂の器』。歴史家、思想家としての清張が甦る。(2019.10.10発行)

 

丸々もとお、丸田あつし『日本夜景遺産 15周年記念版』

河出書房新社 2860円

夜景評論家と夜景フォトグラファーによる究極の「夜景大全」だ。自然夜景、施設型夜景、ライトアップ景など多彩な美しさを堪能できる。香港やモナコと並ぶ「世界新三大夜景」の長崎・稲佐山も、「アゲハチョウの夜景」青森・釜臥山も陶然とする眺めだ。(2019.10.30発行)

 

田中 聡『電源防衛戦争~電力をめぐる戦後史』

亜紀書房 1980円

いまだ全貌が見えない関西電力のスキャンダル。そもそも電力はいつから「利権ビジネス」となったのか。発電所から左翼勢力を排除した田中清玄。原子力発電を強行する正力松太郎と中曽根康弘。権力、金、暴力が支配する驚きの内幕は、電力版「黒い報告書」だ。(2019.10.07発行)

 

カル・ニューポート:著、池田真紀子:訳

『デジタル・ミニマリスト~本当に大切なことに集中する』

早川書房

「一億総スマホ中毒」の時代。便利な道具を使うのではなく、道具に使われているのではないか。行為依存と疲労感。特にSNSには「より大事なこと」から注意をそらす力があると著者は言う。本書は、テクノロジーを活用しながら主体性を失わないためのヒントだ。(2019.10.15発行)

 

小谷野敦『哲学嫌い~ポストモダンのインチキ』

秀和システム 1650円

突然乱入して斬りまくる、小谷野流〝道場破り〟の一冊だ。今回の相手は哲学。それは学問ではなく、文学ではなく、宗教でも精神分析でもないと容赦ない。しかし、取り上げられた古今東西の文献の「読み方」は独自で興味深く、哲学講談として大いに楽しめる。(2019.10.15発行)

 

小須田 健『哲学の解剖図鑑』

エクスナレッジ 1760円

神社、お寺、戦争などを、絵とコンパクトな文章で解説してきたシリーズの最新刊。男と女、自由、幸福、正義などについて、古今東西の哲学者たちがいかに考えてきたのかを展望できる。カントもヘーゲルもフーコーも、どこか親しげに感じられる異色の哲学入門書だ。(2019.10.07発行)

 

山森宙史『「コミックス」のメディア史』

青土社 2640円

電子コミックスの売り上げが、紙のコミックスのそれを上回ったのは2年前だ。そもそもコミックスは書籍なのか雑誌なのか。また読み物なのか商品なのか。さらに受け手の経験としては読書なのか消費なのか。モノとしての戦後マンガの歴史と実相が見えてくる。(2019.10.23発行)

 

青柳英治、長谷川昭子『専門図書館探訪』

勉誠出版 2200円

専門図書館は、特定の分野について知りたい人の駆け込み寺だ。野球殿堂博物館、神戸ファッション美術館、日本カメラ博物館、日本海事センターなど様々な施設が、ユニーク資料や情報を一般公開している。知られざる〝宝の山〟にアクセスするための必携ガイド本。(2019.10.25発行)

 

町田哲也『家族をさがす旅~息子がたどる父の青春』

岩波書店 2310円

現役証券マンにして作家でもある著者。父の緊急入院によって異母兄の存在を知った。かつて映画界にいたことを手掛かりに、父のき日の足跡をたどり始める。交差する病状と探査行。理屈ではなく自分に繋がる父。家族とは何かを問う、異色のノンフィクションだ。(2019.10.24発行)

 

田尻久子『橙書店にて』

晶文社 1815円

著者は熊本市にある書店の店主だ。小ぶりな店だが、渡辺京二は常連客だし、村上春樹の朗読会も開かれる。何より「みょうなか本ばっかり置いとるけん、つぶれんごつ買わんといかん」と立ち寄る町の人たちが素敵だ。優しい時間が流れる本屋から生まれたエッセイ集。(2019.11.10発行)

 

内田樹、平川克美『沈黙する知性』

夜間飛行 1980円

小学校以来60年のつき合いが続く2人の最新対話集だ。社会、知性、自由、グローバルといった話題が展開されるが、村上春樹と吉本隆明をめぐる話が特に熱い。「ありえた世界」を想像させる村上。知識人と大衆の中間にいた吉本。身体性が共通するキーワードだ。(2019.11.11発行)

 


週刊朝日で、NHK大河「沢尻エリカ」騒動について解説

2019年11月30日 | メディアでのコメント・論評

 

 

NHK大河「沢尻エリカ代役」

川口春奈に決定の舞台裏

 

11月16日朝の、女優・沢尻エリカ容疑者の突然の逮捕劇によって、CM放送中止、楽曲出荷停止など各方面に大きな衝撃が走った。なかでも最も逮捕の影響が懸念されていたのが、斎藤道三の娘でのちに織田信長の正妻となる帰蝶(濃姫)役で出演予定だったNHK大河ドラマ「麒麟(きりん)がくる」だ。21日夕方、NHKは帰蝶役を女優の川口春奈に変更すると発表した。

川口は、ドラマ「ヒモメン」「イノセンス 冤罪弁護士」や映画「一週間フレンズ。」、「クノールカップスープ」のCMなどに出演する人気女優。沢尻より9歳若い24歳の女優の抜擢(ばってき)となった。

沢尻容疑者は出演クレジットでは女性の一番手、事実上のヒロイン扱いだ。クランクインは6月で、すでに10話ぶんの撮影が進んでいたという。放送開始の1月まで時間がない中で時代劇初挑戦となる川口に白羽の矢が立った。

この起用について、ドラマ評論家の吉田潮さんは、

「顔や名前も知られていて、実績もそれなりにある。『若い』という声もあがるかもしれませんが、相手役の染谷将太さんとの並びを考えると、しっくりくるのではないかとも感じます。出演者変更が発表されたということは放送も間に合うということでしょうから、いろいろよかったのではないでしょうか」

織田信長役の染谷は27歳。出演者の変更で、帰蝶の役どころも変わってくるだろうか。吉田さんは言う。

「もともとNHKが沢尻容疑者でどんな帰蝶を目指していたか気になるところですね。川口春奈は『ヒモメン』でのコメディー系の演技がよかったので、相手を振り回すような帰蝶というのもよさそうな気がします」

代役発表前日の20日にはNHKの木田幸紀放送総局長が定例会見の場で沢尻容疑者逮捕と「麒麟がくる」について、「出演者の方もスタッフも絶対口にしないですが、ショックだと思います」と語っていた。

出演者に薬物検査の義務づけも必要なのではという問いに対して、

「所属事務所を通して事前に確認しているが、こういうことが起きている。さらに対応を検討していく必要がある」

と答えた。

「これは相当ピリピリしていたことを裏づける発言だという気がします。ピエール瀧さんの時にはそんな発言はしていませんし今回の騒動の大きさが如実に表れているという気がします」

と芸能評論家の三杉武さんは言う。

放送中の大河ドラマ「いだてん」でも、出演者のピエール瀧=麻薬取締法違反(使用)罪で有罪判決=が逮捕され、急きょ代役をあてた。今回も剛力彩芽、のん、満島ひかり、蒼井優、貫地谷しほり、杏……沢尻容疑者の逮捕後から、大河の代役として、各マスコミやネット上ではさまざまな名前があがり、盛り上がりをみせていた。

この騒動をポジティブにとらえるのもいいのではないかと、上智大学の碓井広義教授(メディア文化論)は言う。

「『いだてん』の場合は放送開始後の騒動が続いたかたちですが、今回は役どころが大きかっただけに、放送開始後の逮捕だった場合、本当に取り返しのつかない事態に陥る可能性もありました」

川口春奈をむかえ、「麒麟がくる」はリスタートする。碓井教授は言う。

「沢尻容疑者の騒動によって、次に放送される大河ドラマが『麒麟がくる』という作品で、日本のほとんどの人が、信長の正妻役が沢尻エリカから川口春奈という女優に代わったことを認識した。それは確かなんです。ここからは前向きにとらえ、制作陣と出演者たちみんなが、放送開始にむけて団結していけるのではないでしょうか」

沢尻容疑者の捜査の進展とともに、大河ドラマ「麒麟がくる」の今後の撮影状況もおおいに気になる出来事となりそうだ。(本誌・太田サトル)

(週刊朝日  2019年12月6日号)