碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

『家売るオンナの逆襲』  課題発見&「生き方」提案するヒロイン

2019年02月23日 | 「毎日新聞」連載中のテレビ評


<週刊テレビ評>
家売るオンナの逆襲 
課題見つけ「生き方」提案

決めゼリフ「私に売れない家はありません!」も変わっていない。一度は地方で小さな不動産屋を開いていたヒロイン、三軒家万智(北川景子)が夫となった屋代課長(仲村トオル)を従えて、古巣のテーコー不動産新宿営業所に帰って来た。まさに「家売るオンナの逆襲」(日本テレビ系)である。

今クールでも、「それが私の仕事ですから!」と難しい物件を売りまくっている万智。その驚異的な実績の秘密はどこにあるのか。たとえば、夫の定年退職を機に、住み替えを計画している熟年夫婦がいた。しかし、長年の専業主婦暮らしにうんざりし、離婚したいとさえ思っている妻(岡江久美子)が、どんな物件にも難癖をつけるため、なかなか決まらない。

万智は、この夫婦の自宅を訪問した際に、妻が発揮している生活の知恵と合理的精神に着目する。その上で、妻自身の「自活」に対する甘い認識を指摘し、夫に対する不満の解決策を提示。それによって夫婦は墓地に隣接する一軒家を購入し、今後も2人で暮らすことで一件落着する。

またトランスジェンダーの夫を持つキャリアウーマン(佐藤仁美)も登場した。彼女は夫の気持ちを頭で理解しながらも、感情的にはかなり複雑な思いをしている。万智は、娘を含む家族3人が互いに自分を押し殺すことなく住める家を探してきた。

そして1人暮らしの口うるさい女性客(泉ピン子)。万智は彼女が胸の内に隠していた「孤独死」への不安を察知する。しかも、それを解消すると同時に、彼女が愛用してきた閉鎖寸前のネットカフェを守り、それぞれに事情のある利用客たちも救ってしまった。

こうした万智の仕事ぶりを見ていると、単に家を売っているのではないことに気づく。顧客たちが、どんなことで悩んでいるのか。何に困っているのか。彼らが個々に抱えている問題を発見し、それを解決しているのだ。そのためには徹底的なリサーチを行う。時には探偵まがいの行動にも出る。相手を観察し、課題を見つけ、情報を集めて分析し、顧客に合った解決法を見つけるのだ。これを単独で行っている三軒家万智、やはり天才的不動産屋かもしれない。

しかも万智が見抜くのは顧客自身も気づいていない問題点や課題だ。家はその解決に寄与するツール(道具)に過ぎない。つまり万智は新しい家を提案するのではなく、家を通じて新たな「生き方」を提案しているのだ。このドラマの醍醐味(だいごみ)はヒロインによる問題発見・解決のプロセスにある。脚本は大石静のオリジナル。北川景子の代表作になりそうな勢いだ。

(毎日新聞 2019.02.23 東京夕刊)

HTB「イチオシ!モーニング」 2019.02.23

2019年02月23日 | テレビ・ラジオ・メディア
今日も、にぎやかな土曜日
























書評した本: 『フェイクニュースを科学する』ほか

2019年02月23日 | 書評した本たち



週刊新潮に、以下の書評を寄稿しました。


笹原和俊 
『フェイクニュースを科学する』

化学同人 1620円

フェイクニュースはなぜ生まれ、いかに拡散し、私たちの脅威となるのか。その仕組みを解明しようという試みだ。計算社会科学を専門とする著者は、情報の生産者と消費者の関係を「情報生態系」の中で考察。「見たいものだけ見る」時代の危うさが見えてくる。


小谷野敦 
『近松秋江伝~情痴と報国の人』

中央公論新社 3240円

この評伝から浮かんでくる人物像は、文学以外ほぼ社会的失格者だ。妻は愛想をつかして家出。おかげで出世作『別れたる妻に送る手紙』が書けた。また著者が「ストーカー」と呼ぶ、女性に対する執着ぶりも、『黒髪』などの作品を生む。実践=表現の作家だった。

(週刊新潮 2019年2月14日号)


なかにし礼
『がんに生きる』

小学館 1404円

著者は二度のがん闘病を経験した。切らない選択をし、珍しかった陽子線治療に挑んだ。しかし最も大きいのは、「善き人」から「正直な人間」へと意識が変わったこと。その上で、がんを理想的な病と捉え、自身を成長させようとしてきた。これは生き方の指南書だ


図書館さんぽ研究会
『図書館さんぽ』

駒草出版 1512円

週末に一日楽しめる場所として、図書館と学校と博物館を兼ねたような日比谷図書文化館、子どもたちと本をつなぎ、町の産業も支援する岩手県の紫波町図書館などを紹介する。また全国の注目すべき105館のリストも充実。図書館が目的の旅も悪くない。


小谷野敦
『とちおとめのババロア』

青土社 1512円

純次は38歳になる仏文学の准教授。ネットお見合いで知り合った相手は、なんと皇室の一員だった。ラブホテルの外でSPならぬ側衛が待機するデート。奇にして貴なる恋愛の一部始終を描いた表題作が秀逸だ。他に風俗遍歴を淡々と語る「五条楽園まで」など全5編。

(週刊新潮 2019年2月7日号)



フェイクニュースを科学する 拡散するデマ、陰謀論、プロパガンダのしくみ (DOJIN選書)
笹原和俊
化学同人


近松秋江伝-情痴と報国の人 (単行本)
小谷野敦
中央公論新社


がんに生きる
なかにし礼
小学館


図書館さんぽ -本のある空間で世界を広げる-
図書館さんぽ研究会
駒草出版


とちおとめのババロア
小谷野敦
青土社