碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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「倉本聰 ドラマへの遺言」 第4回

2018年01月13日 | 日刊ゲンダイ連載「倉本聰 ドラマへの遺言」

倉本聰 ドラマへの遺言 
第4回

喫煙シーンにTV局が抵抗するか
視聴者から文句が上がるか


物語の舞台は海辺の高台にある「やすらぎの郷」という名の老人ホーム。住人たちは、かつて一世を風靡した芸能人や作り手であり、テレビに貢献してきたという共通点を持っている。しかも演じるのは倉本の呼びかけに応じた浅丘ルリ子(77)、加賀まりこ(74)、八千草薫(87)といった本物の大女優たち。ノスタルジーに満ちた“虚実皮膜”の人間模様が第一の見どころだった。

碓井 「やすらぎの郷」には、倉本先生がこれは言っておかないといけないぞ、と思っていることが物語の中に織り込まれていました。介護問題からテレビ局の視聴率至上主義、さらに禁煙ファシズムともいうべき風潮にまで及んでおり、それらがスリリングにして痛快でしたね。僕も含め、視聴者の気持ちはつかんだと思います。

倉本 そうですね。変な言い方をすると、この年になると怖いものがあまりなくなるし、やらないならやらなくてもいいよっていう開き直りがありますから。

碓井 なかでもびっくりしたのは「テレビをダメにしたのはそもそもテレビ局じゃないか」と、“本丸”に攻め込むようなことを第1回で主人公に言わせたこと。主人公は倉本先生自身を思わせるベテラン脚本家の菊村栄(石坂浩二=76)であり、一種の先生の宣言だと感じました。

倉本 やっぱりね、常に怒りのパッションを持っていないと、僕の場合は書けないんですよ。このドラマで僕の過去の系譜からいうと、一番近いのは、第6話。カリカチュアライズ(欠点や弱点などを面白おかしく誇張し、風刺的に描くこと)をせずにリアルにやろうと思いました。世の中や若者に対する怒りのエネルギー。ハッピー(松岡茉優=22)のレイプ事件も描きましたが、書く材料には事欠かなかった。

碓井 第6話では、菊村がやすらぎの郷の理事長で医師の名倉(名高達男=66)から肺のレントゲン写真を見せられて、「長生きする気はないんでしょ?」と聞かれます。菊村が「はい」と明るく答えると、名倉は「たばこは無理にやめるとストレスになる。副流煙を気にする人とは付き合わなければいいんです」と。菊村が「あなたは名医だ」とうれしそうに笑っていました。いまや喫煙自体が犯罪扱いですからね(笑い)。

倉本 テレビ局が喫煙シーンについて抵抗してくるか、視聴者からは文句が上がってくるのかなんて思ってたんですが、プロデューサーが僕に気を使ってくれたのか、抗議の報告は一切ありませんでした。ネットの書き込みなんかを見ていると随分あったと思うんですけど、自由にやらせてくれたことはありがたかったですね。(来遊につづく)

(聞き手・碓井広義)

▽くらもと・そう 1935年1月1日、東京都生まれ。東大文学部卒業後、ニッポン放送を経て脚本家。77年北海道富良野市に移住。84年「富良野塾」を開設し、2010年の閉塾まで若手俳優と脚本家を養成。21年間続いたドラマ「北の国から」ほか多数のドラマおよび舞台の脚本を手がける。

▽うすい・ひろよし 1955年、長野県生まれ。慶大法学部卒。81年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。現在、上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。笠智衆主演「波の盆」(83年)で倉本聰と出会い、35年にわたって師事している。





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