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碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

”1人飯のプロ” 「孤独のグルメ」井之頭五郎の説得力

2017年06月08日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評



日刊ゲンダイに連載しているコラム「TV見るべきものは!!」。

今週は、「孤独のグルメ」について書きました。


テレビ東京系「孤独のグルメ Season6」
“1人飯のプロ”の説得力ある言葉

開始から5年。シリーズも6を数えるまでになった深夜の人気番組だ。しかし主人公の井之頭五郎(松重豊)が、出かけた先の町で早々に仕事を済ませ、食べもの屋に入るという、いつものパターンは変わらない。

今期も新宿の淀橋市場で豚バラ生姜焼き定食、世田谷区太子堂で回転寿司など、どれもうまそうに食べている。しかも、このドラマの名物である五郎のモノローグというか、心の中の声がよりパワーアップしているのだ。

先日の舞台は渋谷道玄坂の「長崎飯店」だった。皿うどんに入っていた、たくさんのイカやアサリに「皿の中の有明海は豊漁だあ」と感激。また春巻きのパリパリ食感を、「口の中でスプリングトルネードが巻き起こる」と熱い実況中継をしていた。

さらに追加注文の特上ちゃんぽんに長崎ソースをドバドバかけて食し、「胃ぶくろの中が『長崎くんち』だ。麺が蛇踊りし、特上の具材が舞い、スープが盛り上げる。最高のちゃんぽん祭りだ!」と大絶賛である。

もしもこれを情報番組で、若手の食リポーターが語っていたら噴飯ものだろう。「オーバーなこと言ってんじゃないよ!」と笑われてしまう。

だが、我らが五郎の言葉には“一人飯のプロ”としての説得力がある。食への好奇心、感謝の気持ち、そして遊び心の3つが、今まで以上に“増量”されているからだ。

(日刊ゲンダイ 2017.06.07)

現代の”世話物” 日曜劇場「小さな巨人」の学園問題

2017年06月08日 | 「北海道新聞」連載の放送時評



北海道新聞に連載している「碓井広義の放送時評」。

今回は、日曜劇場「小さな巨人」について書きました。


現代の「世話物」としての刑事ドラマ
日曜劇場「小さな巨人」の学園問題

今期、刑事ドラマが林立している。「CRISIS 公安機動捜査隊特捜班」(関西テレビ―UHB)、「警視庁捜査一課9係」(テレビ朝日―HTB)、「警視庁・捜査一課長」(同)、「緊急取調室」(同)などだ。

その中で、「小さな巨人」(TBS―HBC)に注目したい。主人公は元警視庁捜査1課の刑事・香坂(長谷川博己)だ。出世街道を順調に歩んでいたが、上司である捜査1課長・小野田(香川照之)によって所轄署へと飛ばされる。前半の芝署編ではIT企業社長の誘拐事件や社長秘書の自殺などが発生。真相を探るうち、黒幕として署長(春風亭昇太)が浮かんでくるという大胆な展開だった。誰が味方で誰が敵なのか。「敵は味方のフリをする」のであり、見る側も気を抜けない。

そして現在の豊洲署編では、事件の現場が「早明学園」という学校法人となっている。経理課長が失踪するが、その背後には学園の“不正”があった。しかも内偵中の刑事(ユースケ・サンタマリア)も殺害されてしまう。この学園には元警視庁捜査一課長の富永(梅沢富美男)が専務として天下っている。かつて捜査一課刑事だった香坂の父親を自殺へと追い詰めた、因縁の人物でもあった。香坂はここでもまた警察という巨大組織の力学に翻弄され、苦戦を強いられる。

徐々に明らかになってくるのは、早明学園が行っている「不正な土地取引」だ。しかもそこには“政治家との癒着”が見え隠れする。となると、やはり思い浮かぶのは「森友学園問題」であり、「加計学園問題」である。単なる政治家ではなく、総理大臣という最高権力者の関与が指摘される現在進行形の事件。もちろん現実の“学園問題”とは設定が異なるが、「学校を舞台とする政治家がらみのスキャンダル」という意味で実にタイムリーだ。

そういえば、歌舞伎の演目には時代物と世話物がある。江戸時代の人たちから見て、過去の世界を舞台にした歴史物語が時代物。一方、当時のリアルタイムな出来事を扱っていたのが世話物だ。近松門左衛門「心中天網島」のような心中事件や殺人事件、さらにスキャンダルも世話物の題材となった。

この「小さな巨人」は、まさに現代の世話物かもしれない。今年2月、ドラマが準備されていた頃に森友問題が発覚し、制作者たちは急きょ、この現実の事件を物語の中に取り込むことを決意した。今後、政治家の倫理と犯罪性をどこまで描くのか。リアルとフィクション、双方の“学園問題”の進展は予断を許さない。

(北海道新聞 2017.06.06)