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碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

大泉洋主演「終りに見た街」が描いた、現実的な「苦み」

2024年09月25日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

戦争は過去のものではない

という現実的な「苦み」

大泉洋主演

「終りに見た街」

(テレビ朝日系)

 

先週末、テレビ朝日の開局65周年記念ドラマ「終りに見た街」が放送された。

原作は山田太一の小説。1982年と2005年にドラマ化されている。今回の脚本はクドカンこと宮藤官九郎だ。

田宮太一(大泉洋)は売れっ子とは言えない脚本家。妻(吉田羊)、高校生の娘(當真あみ)、小学生の息子(今泉雄土哉)と暮らしていたが、突然、戦時中の昭和19年にタイムスリップしてしまう。

そこは社会の空気も人々の気持ちも、現代とは違い過ぎる日本だ。太一たちは周囲に悟られないよう適度に溶け込みながら、終戦を待とうとする。

戦時下の「現在」で生きること。東京大空襲や敗戦という「未来」を知っていること。太一の葛藤は深まる。

だが、それ以上の苦悩は、子どもたちがこの時代に飲み込まれていったことだ。娘は「お国のために死んだ人を笑うの?」と怒り、息子は「僕だって戦いたい!」と叫ぶ。

「正気を失っている」と太一は驚くが、普通の人たちが「正気を失う」のが戦争なのだという事実に見る側も慄然とする。

そして、衝撃のラスト。現代に戻った太一を襲う悲劇は原作の通りだが、起きていることを理解する時間がないため、どこか置き去りにされた感じは否めない。

しかし、山田太一とクドカンが伝えようとしたのは、戦争は過去のものではないという現実的な「苦み」だったことは確かだ。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2024.09.24)

 


小泉今日子・小林聡美「団地のふたり」の滋味

2024年09月18日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

何十年も寝かした結果の付加価値

小泉今日子・小林聡美

「団地のふたり」

(NHKBS)

 

プレミアムドラマ「団地のふたり」(NHKBS)の舞台は、築58年になる夕日野団地だ。

大学非常勤講師の野枝(小泉今日子)とイラストレーターの奈津子(小林聡美)。2人はこの団地で生まれ育った幼なじみだ。

若い頃は結婚や仕事で他の街に住んだりしたが、今は団地の実家で暮らしている。どちらも55歳の独身だ。

このドラマで最も魅力的なのは彼女たちの関係性かもしれない。保育園に始まり、小学校も中学校も同じ地元の公立で、ずっと親友だった。今は奈津子が作った夕食を差し向かいで楽しんでいる。

昔のことも今のことも、たわいない話を延々と続けられる相手がいるシアワセ。

野枝が仕事で落ち込んだ時、奈津子は何も聞かずにわざとバカなことを言って笑わせる。そして「大丈夫、私はノエチ(野枝の呼び名)のいいとこも悪いとこも知ってるから」と励ますのだ。

そんな2人の日常は淡々としているが、小さな出来事は起きる。野枝の兄(杉本哲太)が保存していたオフコースなどの古い「楽譜」を、奈津子がフリマアプリで出品すると高額で売れたのだ。

何十年も寝かした結果の付加価値。「この団地も立ってるだけでそうなったらいいなあ」と奈津子。「そうなったら素敵だね」と野枝。

見ているこちらもつい、「人間もそうだといいね」と応じたくなったのは、このドラマの滋味のせいだ。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2024.09.17)


「鉄オタ道子、2万キロ~秩父編~」旅先の〝ありのまま〟と向き合う

2024年09月11日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

旅先の〝ありのまま〟と向き合う

一人旅が心地いい

 

玉城ティナ主演

「鉄オタ道子、2万キロ~秩父編~」

 

玉城ティナ主演の連ドラ「鉄オタ道子、2万キロ」(テレビ東京系)が放送されたのは2022年1月から3月だった。

家具メーカーで営業の仕事をしている大兼久道子(玉城)は、大の鉄道好きだ。出張先で地元の鉄道を楽しむのはもちろん、2日の有給をとって列車に乗り込み、ローカル駅や秘境駅を目指す。

2年前は、駅舎が民宿を兼ねる函館本線の比羅夫駅に始まり、福島県・会津鉄道の大川ダム公園駅、地下40mのトンネルにある新潟県の筒石駅などを訪れていた。

先週木曜の深夜に流された「秩父編」は2年ぶりの新作の前編だ。開通55周年の西武秩父線に乗り、終点の西武秩父駅で降りた道子は、横瀬駅までのんびりと歩く。

途中で小さな滝を眺めたり、アニメの聖地巡りの男女と出会ったりするが、ドラマチックなことが起きるわけではない。

横瀬駅前の食堂で食べるのも、ごく普通の野菜カレーだ。名所や名物には無関心な道子だが、食堂のおばちゃんの話には耳を傾ける。窓から見える武甲山を削って生まれたセメントが戦後、東京のビルや高速道路の建設を支えたというのだ。

初めてのホームに降り立った時、必ず「ここ、どこだよ……」とつぶやく道子。その上で、行った先の「ありのまま」と自然体で向き合っていく。そんな道子流一人旅が心地いい。

後編は12日(木)深夜に放送される予定だ。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2024.09.10)

 


中村倫也主演「Shrink(シュリンク)」は、精神科や精神科医に対するハードルを下げる!?

2024年09月05日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

精神科や精神科医に対する

不要なハードルを下げる効果がありそうだ

 

「Shrink(シュリンク)

ー精神科医ヨワイー」

 

先週末、土曜ドラマ「Shrinkー精神科医ヨワイー」(NHK)がスタートした。

主人公の弱井幸之助(中村倫也)は新宿の路地裏で精神科医院を営んでいる。ハーバードの医科大学院に留学した俊英だが、大学の医局を辞めて開業医の道を選んだ。

第1話の患者はシングルマザーの雪村葵(夏帆)。保育園に通う息子を育てながら働いているが、突然、通勤電車の中で胸が苦しくなり、倒れてしまう。

「パニック症」だった。過労や徹夜、ストレスなどによって交感神経が過剰に働き、激しい動悸や息苦しさなどの症状を起こす病気だ。

弱井は「脳の誤作動」によるものだと説明し、葵は「この苦しさに名前をつけて欲しかった」と感謝する。電車や会議室といった閉鎖空間に不安を覚える葵だが、弱井の指導で少しずつ日常を取り戻していく。

アメリカでは精神科医をスラングで「シュリンク」と呼ぶ。患者の日常的な悩みをシュリンク(小さく)してくれる身近な存在という意味だ。

一方、日本では昔から精神科はどこか「特別なところ」と思われているふしがある。受診をためらい、悩みや苦しみを我慢してしまうことの危うさ。

このドラマには、精神科や精神科医に対する不要なハードルを下げる効果がありそうだ。物語は全3話。この後は「双極症」「パーソナリティ症」が続く。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2024.09.04)

 


栗山千明主演「晩酌の流儀3」「孤独のグルメ」と並ぶ定番へ

2024年08月30日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

「孤独のグルメ」と並ぶ定番へ

栗山千明主演

「晩酌の流儀3」

 

栗山千明が金曜深夜に帰ってきた。ドラマ25「晩酌の流儀3」(テレビ東京系)である。

シーズン1の放送は一昨年の夏。まだ続いていたコロナ禍の中、「家飲み」に注目したグルメドラマだった。

自分の家で、誰にも気兼ねすることなく、好きな酒を好きな料理と共に味わう。一見当たり前の行為に新たな価値を見出したのだ。

不動産会社勤務の伊澤美幸(栗山)は、一日の終わりにおいしい酒を飲むことが無上の喜びだ。食材を調達して料理を作り、晩酌に臨む。

今回もこの基本構造は変わらないが、いくつかのマイナーチェンジが行われた。

まず、引っ越しをしたことによる出会いがあった。商店街の魚屋(友近)や肉屋(ナイツの土屋伸之)だ。彼らとのからみが晩酌へのいい助走となっている。

しかも、これまで行きつけだったスーパーの店長や店員も出てくるのが嬉しい。知った顔がいる安心感はシリーズ物には必要だ。

そして、大きな変化は晩酌の酒にある。美幸はいつもひたすらビールを飲んできた。

しかし今回、1杯目はビールだが、2杯目にバリエーションが生まれたのだ。

ジンソーダ、緑茶ハイなどが登場し、先週はハイボールだった。料理とのマッチング具合も見る側にとって晩酌のヒントとなる。

食も酒も身近な存在だが、奥の深いテーマだ。「孤独のグルメ」と並ぶ定番を目指して欲しい。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2024.08.28)


「錦糸町パラダイス」地元ドラマとして、一見の価値あり!

2024年08月21日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

“地元ドラマ”として、一見の価値あり!

「錦糸町パラダイス〜渋谷から一本〜」

 

深夜ドラマの醍醐味は、ゴールデン・プライムタイムではお目にかかりそうもない作品と出会えることだ。今期のドラマ24「錦糸町パラダイス〜渋谷から一本〜」(テレビ東京系)は、まさにそんな1本となっている。

小さな清掃会社の社長を務める大助(賀来賢人)。そこで働く幼なじみの裕ちゃん(柄本時生)。同じく社員で2人の後輩・一平(落合モトキ)。錦糸町は3人にとっての故郷であり地元だ。

そしてもう一人、錦糸町出身のルポライター・坂田(岡田将生)がいる。地元で起きたワケありな事件を調べ、QRコードを利用して公表していく謎の男だ。若手企業家を支援する補助金の不正受給。違法なフィリピンパブ。女性社員を困らせるセクハラ上司。さらに、女子中学生の飛び降り自殺の真相も探っている。

とはいえ、ドラマ全体として大きな筋の物語が展開されるわけではない。清掃の依頼先での出来事や、行きつけの喫茶店や居酒屋でのやりとりが、ゆるやかに描かれていく。

また、車椅子生活となった裕ちゃんと大助の過去の因縁はあったりするが、ヘンに重く扱ったりしていない。俳優たちの演技も含め、いわゆるドラマチックな作りとは距離を置いた見せ方と空気感がやけに心地いい。

何かと賑やかな「新宿野戦病院」(フジテレビ系)とはひと味違う “地元ドラマ”として、一見の価値ありの佳作だ。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2024.08.20)

 


「しょせん他人事ですから」中島健人のコメディセンス

2024年08月14日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

見る側を和ませる

中島健人のコメディセンス

「しょせん他人事(ひとごと)ですから

~とある弁護士の本音の仕事~」

 

弁護士が活躍するリーガルドラマは数えきれないほど作られてきた。

今期の「しょせん他人事ですから~とある弁護士の本音の仕事~」(テレビ東京系)は、主人公の保田理(中島健人)が「ネットトラブル」専門の弁護士であることが新鮮だ。

最初の依頼人は人気の主婦ブロガー(志田未来)。人妻風俗勤務という事実無根の噂を広められて炎上した。

また兄妹2人組のアーティスト(野村周平・平祐奈)は、身に覚えのない「中学時代のいじめ動画」が拡散されて炎上。物心両面で大きな被害を受けた。

このドラマの見所は、ネットトラブルへの具体的な対処法がわかることだ。書き込みやサイトを消す「削除請求」や、書き込んだ者を特定する「情報開示請求」などの流れが物語の形で示される。

さらに問題となる書き込みをした側の顛末も描かれる。主婦ブロガーを中傷していたのは同じマンションに住む主婦(足立梨花)だった。

そしてアーティストの偽情報を広めたのは広告会社の部長(小出伸也)だ。どちらも「ちょっとつぶやいただけ」という認識だが、リツイートであっても責任を負う場合がある。

自分が扱う案件を「他人事」と言い切る保田は変わり者に見える。

だが、一歩引いた全体の俯瞰と、第三者としての冷静な対応は見事で、弁護士として優秀だ。演じる中島のコメディセンスが見る側を和ませてくれる。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2024.08.13)


「GO HOME」小芝風花の笑顔と熱量

2024年08月07日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

小芝風花の笑顔と圧倒的な熱量

「GO HOME~警視庁身元不明人相談室~」

 

毎年、東京都内で亡くなり、身元が分からないご遺体は約100体あるという。対応しているのが警視庁本部に設けられた「身元不明相談室」だ。  

小芝風花主演「GO HOME~警視庁身元不明人相談室~」(日本テレビ系)のモデルとなった実在の部署である。

三田桜(小芝)は、この相談室所属の捜査官。10歳上の同期である月本真(大島優子)とコンビを組み、身元不明の遺体を家族など関係者の元へ帰す仕事をしている。

これまでに白骨の人体模型にされていた行方不明のバスケット選手や、アパートで変死していた身元不明の老人などと向き合ってきた。

先週、登場したのはバイク事故で亡くなった大学生だ。彼には集団強盗事件に関与していた疑いがあった。

だが、その理由を探っていくと、命がけで友人を救おうとしていたことが明らかになる。

当事者が身元不明人となった背後に何があったのか。そして帰るべき場所はどこなのか。それがこのドラマのキモだ。

いわゆる刑事ドラマのような殺人や追跡や犯人逮捕といった派手な見せ場はない。また、桜の「亡くなった人」への強すぎる思いも、おせっかいと紙一重かもしれない。

しかし、市井の人たちを深い悩みや葛藤から救うヒューマンドラマとして、見る側を揺さぶるものがある。物語をけん引しているのは、小芝の笑顔と圧倒的な熱量だ。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2024.08.06)

 


松下奈緒主演「スカイキャッスル」 最大のポイントは・・・

2024年07月31日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

松下奈緒主演「スカイキャッスル」

最大のポイントは・・・

 

松下奈緒主演「スカイキャッスル」(テレビ朝日系)が始まった。

浅見紗英(松下)、二階堂杏子(比嘉愛未)、夏目美咲(高橋メアリージュン)の3人が暮らすのは、高級住宅街「スカイキャッスル」。夫はいずれも医学界に君臨する「帝都病院」の医師だ。

経歴、容姿、財力に恵まれた彼女たちだが、更なる強い望みがある。我が子を、セレブ医師への最短コースである「帝都医大付属高校」に合格させることだ。高校受験をめぐるマウントバトルが展開されていく。

からんでくるのは、3000万円で合格を請け負う「受験コーディネーター」の九条彩香(小雪)や、3人とは価値観も教育観も異なる、小説家の南沢泉(木村文乃)などだ。特に泉は紗英の「秘めた過去」を知っているらしい。

また「お受験」の成功者である冴島香織(戸田菜穂)が謎の死を遂げたことで、サスペンスの要素も加わった。

原作は韓国のヒットドラマ「SKYキャッスル~上流階級の妻たち~」。超学歴社会という現実を背景にした緊迫感は韓国ならではのものだった。

しかし、「ドクターX」を思わせる帝都医大や、日本風セレブの描写に笑ってツッコミを入れながら楽しむエンタメとして悪くない。

最大のポイントは、セレブ妻たちの野心や見栄や秘密がいかに「崩壊していくか」であり、見る側がどれだけ「溜飲を下げるか」だ。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2024.07.30)


「西園寺さんは家事をしない」一見、適温のラブコメだが・・・

2024年07月24日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

一見、適温のラブコメだが・・・

松本若菜主演

「西園寺さんは家事をしない」

 

猛暑の中、暑苦しい恋愛ドラマは見たくない。その意味で、松本若菜主演「西園寺さんは家事をしない」(TBS系)の温度と湿度は好ましい。

アプリ制作会社で働く西園寺一妃(さいおんじ いつき、松本)は38歳の独身。仕事は好きだが、家事は大嫌い。

最近、家賃収入が見込める賃貸付き物件の中古住宅を購入。家事ゼロの日常を目指してリニューアルしたばかりだ。

ところが、その賃貸の部屋に同じ会社のエンジニア・楠見俊直(松村北斗)と4歳の娘・ルカ(倉田瑛茉)が住むことになる。

優雅で気ままな一人暮らしは一転し、大家と店子の関係を超えた「偽(にせ)家族」としての生活が始まってしまった。

幼い娘を抱えて仕事と家事の両立に追われる楠見。彼を助けることで、西園寺の理想の生活が脅かされるのではないか。楠見も見る側もそれを心配した。しかし西園寺は言う。

「やりたくないことをやってる人を、やらなくていいようにすることが、私のやりたいことだからやってるの!」

その言葉の背後には、完璧に家事をこなしていた母親が、突然家を出てしまったという少女時代の苦い記憶がある。

家事とは炊事、洗濯、清掃、さらに育児なども含む、毎日処理すべき生活上の実務全てだ。家事との向き合い方は、その人の「生き方」に関わっている。

一見、適温のラブコメだが、意外な奥深さがありそうだ。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2024.07.23)

 


警察ドラマの珍品「ギークス~警察署の変人たち~」

2024年07月17日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

警察ドラマの珍品

松岡茉優主演

「ギークス~警察署の変人たち~」

 

異色の警察ドラマと言っていい。松岡茉優主演「ギークス~警察署の変人たち~」(フジテレビ系)である。

まず、刑事が活躍する話ではない。鑑識課の西条唯(松岡茉優)、医務室の吉良ます美(田中みな実)、そして交通課の基山伊織(滝沢カレン)の3人が雑談しながら、結果的に「事件解決をアシスト」するのだ。

ギークとは、突出した知識を持つ人や専門家を指す、アメリカの俗語。唯は記憶力、ます美は心理分析、伊織は地域情報と、それぞれが武器を持つギークという設定だ。

これまでに、有名スポーツ選手の結婚披露宴で起きた強盗・殺人事件や、石段からの転落傷害事件に関わってきた。

しかし、謎解き部分に大きな意外性や驚きがあるわけではない。それよりも3人のキャラクターショーを楽しむドラマになっている。

たとえば、ジグソーパズル好きな唯が、事件の真相に触れると「ハマっちゃった」とつぶやく。他人の心の隙に付け込んで支配する「マニピュレーター」や、仕草など他者から見える部分に向けた「公的自己意識」などを得意げに解説する、ます美。そんなシーンこそが最大の見せ場だ。

不思議なのは、定時に帰ることから「省エネ3人組」と呼ばれ、行きつけの居酒屋で管を巻く彼女たちが、少しも仲良しに見えないこと。警察ドラマの珍品として、逆に一見の価値がある。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2024.07.16)


「新宿野戦病院」クドカンが描く、愛あるサバイバル

2024年07月10日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

宮藤官九郎脚本

「新宿野戦病院」

クドカンが描く「愛あるサバイバル」

 

新たな「クドカンドラマ」の登場だ。宮藤官九郎脚本「新宿野戦病院」(フジテレビ系)である。

物語の舞台は新宿・歌舞伎町にある「聖まごころ病院」。

主人公は2人いる。ヨウコ・ニシ・フリーマン(小池栄子)は元軍医の日系アメリカ人だ。英語と日本語(岡山弁)のバイリンガル。外科医を探していたこの病院で働くことになった。

もう1人は院長(柄本明)の甥で美容皮膚科医の高峰亨(仲野太賀)だ。ポルシェを乗り回し、港区女子とのギャラ飲みに励んでいる。無邪気な「ゆとりモンスター」だ。

ヨウコの信条は「遅かれ早かれ死ぬのが人間。目の前にある命は平等に助ける」。確かに戦地では男も女も善人も悪人も命に区別はない。

一方、亨には貧乏人も金持ちも平等に助けるという発想がない。両者のギャップが笑いを生んでいく。

この2人を取り巻く人たちがまたクセが強い。

何が起きても動じない、ジェンダー不詳の看護師長・堀井しのぶ(塚地武雅)。ギャラ飲みとパパ活の区別にこだわる、内科医の横山勝幸(岡部たかし)。さらに地域の支援活動家、南舞(橋本愛)もかなりのワケアリだ。

そこに反社、ホスト、不法移民、トー横少女など歌舞伎町に生息する多様な人々がからんでくる。

すでに元暴力団の老人による発砲事件も起きた。やはりここは戦場なのだ。クドカンが描く「愛あるサバイバル」に注目だ。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!」2024.07.09)


水川あさみ主演「笑うマトリョーシカ」奥行きのあるヒューマンサスペンスを期待

2024年07月03日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

水川あさみ主演

「笑うマトリョーシカ」

奥行きのあるヒューマンサスペンスを期待

 

7月になり、夏の連続ドラマが始まった。その中で早くも先週金曜にスタートしたのが、水川あさみ主演「笑うマトリョーシカ」(TBS系)だ。

主要人物は3人いる。道上香苗(水川)は東都新聞文芸部の記者。厚生労働大臣として初入閣した代議士、清家一郎(桜井翔)。そして清家の有能な秘書である、鈴木俊哉(玉山鉄二)だ。

初回は、スピーディーな展開と濃厚な中身で見る側を引きつけていた。カギとなるのは、香苗が清家を取材した際に感じた、強い「違和感」だ。若き総理候補とも呼ばれる清家だが、「主体性」というものが希薄だった。ソツのない言動も、まるで「AI」のようだ。

その分、秘書の鈴木が不思議な威圧感を放っている。香苗の目には彼が「策士」に見えた。清家を操っているのは鈴木かもしれないのだ。高校時代からの友人である清家と鈴木が、いかにして現在の立場までたどり着いたのか、知りたくなる。

さらに、清家が学生時代に書いた「卒業論文」が登場した。テーマは、ヒトラーを操ったという、エリック・ヤン・ハヌッセンだ。これもドラマの中でどう機能していくのか、かなり興味深い。

原作は早見和真の同名小説で、そこでの主な語り手は鈴木だ。しかしドラマでは、香苗を軸に絶妙なトライアングルが形成されている。3人の俳優が拮抗する、奥行きのあるヒューマンサスペンスが期待できそうだ。

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2024.07.02)


米倉涼子主演『エンジェルフライト』古沢良太の脚本が見事

2024年06月27日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

米倉涼子主演

「エンジェルフライト」

古沢良太の脚本が見事だ

 

海外で亡くなった人たちの遺体を、日本にいる遺族の元に届ける。それを実現するのが、「国際霊柩送還士」というスペシャリストだ。

米倉涼子主演「エンジェルフライト」(NHK BS)は、知られざる彼らの活動を描いている。

伊沢那美(米倉)が社長、柏木(遠藤憲一)が会長を務める「エンジェルハース」は羽田空港内にある会社だ。遺体送還の依頼があれば、世界のどこへでも飛ぶ。 

海外で不慮の事故や災害に遭遇した遺体は、ひどい損傷を負った場合が多い。那美たちは遺体に丁寧なエンバーミング(遺体衛生保全)を施し、生前の姿に近づけるのだ。 

マニラでギャングの抗争に巻き込まれて亡くなった青年。開発支援でアフリカ某国に赴き、テロ事件で命を落とした人たち。那美は新人の凛子(松本穂香)と共に、体を張って使命を果たす。

23日放送の第3話では、ソウルで急死した大衆食堂主人の恵(余貴美子)と、やはり現地で客死した会社社長の大波(井上肇)を同時に送還する事態が発生した。

悪天候で遺体を運べる便が限られ、那美たちはどちらを優先的に空輸するか、苦渋の選択を迫られる。

恵と大波、それぞれが歩んできた人生だけでなく、彼らの帰りを待つ人たちの思いも織り込まれた物語。予測を超えた鮮やかな展開を見せる、古沢良太(「どうする家康」など)の脚本が見事だ。

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2024.06.26)


「探検ファクトリー」もの作りニッポンの真骨頂と矜持

2024年06月19日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

「探検ファクトリー」NHK

〈オトナの工場見学〉で見えてくる

もの作りニッポンの真骨頂と矜持

 

土曜昼の「探検ファクトリー」(NHK)。テーマは「日本のもの作り」だ。お笑いコンビ・中川家の2人と吉本新喜劇座長のすっちーが、全国各地の「町工場」を訪ね歩いている。

始まったのは2022年4月だ。37年間も続いた「バラエティ生活笑百科」の後継枠だが、堂々の3年目に突入した。

記憶に残る回が何本かある。ノーベル賞の晩餐会でも使われる、高級スプーンやフォークを製造する新潟県燕市の工場。

バチカン宮殿や皇居からも注文が入るという山形県の絨毯(じゅうたん)工場。原盤作成からジャケット製作までを行う、横浜市のアナログレコード工場などだ。

共通するのは機械による大量生産ではなく、手仕事が中心であること。独創的なアイデアを実現する高い技術力を持つこと。そして働く人たちの濃いキャラクターだ。

先週の舞台は秋田県大仙市。体重や体脂肪を測る「体組成計」の工場だ。

体重はともかく、体脂肪をどうやって計測しているのか。以前から不思議だったが、今回判明した。 

体に微弱な電気を流し、その「流れにくさ」の数値を測定。独自の計算式に当てはめて筋肉や脂肪の量を導き出すのだ。

体組成計は4つのセンサーを持つ精密機器だ。それを1台ずつ手作業で組立てている。

「オトナの工場見学」で見えてくるのは、もの作りニッポンの真骨頂と、それを支える人たちの矜持(きょうじ)だ。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2024.06.18)