碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

「最高の教師」 松岡茉優の緊張感のある演技が光る

2023年08月23日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

「最高の教師~1年後、私は生徒に■された」

松岡茉優の緊張感のある演技が光っている

 

松岡茉優主演「最高の教師~1年後、私は生徒に■された」(日本テレビ系)が、9月2日から第2章に突入する。

主人公は高校教師の九条里奈(松岡)。事なかれ主義だった彼女は卒業式の当日、担任クラスの生徒に突き落とされ、命を奪われた。

しかし、なぜか1年前にタイムスリップ。「2周目の人生」を生きながら生徒たちと真剣に向き合い、自身の死の真相を探っていく。

その設定から、「ブラッシュアップライフ」を想起したりもするが、こちらは学校が舞台のサスペンスドラマだ。

しかも、いじめやスクールカースト、貧困家庭の問題など社会的なテーマを取り込んでいる。

友だちから疎外されることに怯える生徒や、親の借金に苦しむ生徒などを救ってきた九条。松岡の緊張感のある演技が光っている。

また、第2のヒロインともいえる存在感を示したのが、九条と同じく「2周目」を生きる生徒、鵜久森(くぐもり、芦田愛菜)だ。

1周目で壮絶ないじめを受けて自殺した彼女が、自分の「生きる意味」を見出す展開は見事だった。今年の春まで現役の高校生だった芦田が役柄に込める思いまで伝わってきた。

しかし先週、鵜久森は何者かに呼び出され、もみ合った末に転落死してしまった。

九条は自身の死に加え、鵜久森の2度目の死についても背負うことになる。最高の教師は、最高の卒業式を迎えることが出来るのか?

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2023.08.22)


「初恋、ざらり」で、小野花梨と風間俊介が 確かな演技力で見る側に伝えるリアル

2023年08月16日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

ドラマ24「初恋、ざらり」(テレビ東京系)

小野と風間が

確かな演技力で見る側に伝えるリアル

 

中盤に差し掛かった「初恋、ざらり」(テレビ東京系)は、一筋縄ではいかない恋愛物語だ。

ヒロインは軽度知的障害と自閉症をもつ上戸有紗(小野花梨)。運送会社でアルバイトをしているが、仕事の流れが理解できなかったり、空気が読めずに周囲とぶつかったりして落ち込んでしまう。

そんな有紗が、優しい先輩・岡村龍二(風間俊介)を好きになる。しかも両想いだ。初めての恋に一喜一憂する有紗。障害のことはずっと言えないでいたが、ふとしたはずみで告白してしまう。

このドラマでは、障害のある人たちが抱える、もどかしさやつらさなどが丁寧に描かれていく。

たとえば、有紗はコンパニオンのアルバイトをしていた頃、客から強く体を求められると応じてしまった。誰かに「必要とされる」ことで、「自分の価値」を確かめていたのだが、見る側も切なくなるエピソードだ。

一方、有紗の障害を知った岡村の心も揺れ動く。彼女の母親(若村麻由美)から「あんた、有紗の面倒を一生みてくれるの⁉」と迫られ、何も言えなかった。

また、“普通”であろうと無理をして倒れた有紗を見たとき、自分が追いつめていたことに気づいて愕然とする。

障害をもつ当事者のリアル。障害をもつ人を支えようとする側のリアル。それぞれが背負う葛藤を、小野と風間が確かな演技力で見る側に伝える、静かな問題作だ。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2023.08.15)


伊藤沙莉「シッコウ‼」で執行補助者 今後日本2人目の「女性執行官」になるのではと期待

2023年08月09日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

伊藤沙莉「シッコウ‼」で執行補助者

今後日本2人目の

「女性執行官」になるのではと期待

 

執行官とは、裁判の判決内容が実現されない場合、それを強制的に遂行する人だ。

たとえば、黒沢明監督の映画「天国と地獄」。誘拐事件の最中にもかかわらず、破産した権藤(三船敏郎)の邸宅を訪れ、家財道具に差し押さえのシールを貼る男たちがいた。彼らは「執行官」だったのだ

あまり知られていないこの職業にスポットを当てたのが、「シッコウ!!~犬と私と執行官~」(テレビ朝日系)である。  

主人公の吉野ひかり(伊藤沙莉)は動物保護カフェのアルバイト。「執行官」の小原樹(織田裕二)と知り合い、犬が苦手な彼の「執行補助者」を務めるようになった。

■それぞれの事情に動揺しながらも…  

家賃不払いによる部屋の明け渡しに応じない男や、差し押さえの執行対象となったが無断で引っ越すシングルマザー。

彼らの事情を知って動揺するひかりだが、執行は「人生リスタートのきっかけづくり」だという小原の思いも理解し始める。  

このドラマ、ストーリーを引っ張る形の織田が時々、主人公に見えることがある。

しかし、あくまでも主演は伊藤だ。圧の強い織田の演技を正面で受けとめるかと思うと、さらりといなして鮮やかな返し技を見せたりもする。伊藤沙莉、やはりただ者ではない。

今は補助者のひかりだが、「まだ日本に1人しかいない」という女性執行官になっていくのではないか。異色の「お仕事ドラマ」として目が離せない。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは‼」2023.08.08)


若村麻由美が“代役”主演 「この素晴らしき世界」は 今期ドラマのダークホース!

2023年08月03日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

若村麻由美が“代役”主演

「この素晴らしき世界」は

今期ドラマのダークホース!

 

ドラマでも映画でも、代役を務めるのは楽ではない。元々他の俳優のために用意された役柄だ。うまく演じても「穴埋め」といわれ、失敗すればキャリアに傷がつく。

ましてや「この素晴らしき世界」(フジテレビ系)の場合は主役だ。体調不良で降板した鈴木京香の代わりが若村麻由美と聞いて、「よく引き受けたなあ」と感心した。

主人公はパート主婦の浜岡妙子(若村)。ある日、芸能事務所から驚きの依頼を受ける。看板女優・若菜絹代(若村の二役)のスキャンダルが発覚し、謝罪会見を開きたい。

しかし本人はアメリカへと遁走。姿形がそっくりの妙子に代役となって欲しいというのだ。報酬は300万円。一度だけのつもりで会見を乗り切ったが、事務所は妙子を手放そうとせず……。

■堂々たる主演ぶり

まず、若村の堂々たる主演ぶりが目を引く。平凡な主婦、大物女優、さらに“女優になりすました主婦”という3態を見事に演じ分けているのだ。

中でも、無理だったはずのなりすましや異世界だった芸能界に、かすかな快感を覚えて戸惑う妙子の表現など、若村自身が代役とはとても思えない。

このドラマはオリジナル作品であり、妙子同様見る側も先が読めないところがミソだ。しかも「烏丸マル太」と称する脚本家の正体は不明。これまた誰かの“なりすまし”なのか、“代役”なのか。

今期ドラマのダークホース的な一本となった。

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2023.08.02)


目黒蓮主演「トリリオンゲーム」の見どころは躍動感

2023年07月26日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

目黒蓮主演「トリリオンゲーム」TBS系

見どころは躍動感だ

 

猛暑に対抗できる、ぶっ飛んだ勢いのドラマがあってもいい。「トリリオンゲーム」(TBS系)はそんな1本だ。

ハル(目黒蓮)とガク(佐野勇斗)は中学の同級生。新卒採用試験で再会し、一緒に起業することになる。だが資金も人脈も事業計画もない。あるのはハルの飛び抜けた話術とガクの優れたIT技術だけだ。

にもかかわらず、ハルは「1兆ドル(トリリオンダラー)を稼ぐ!」と宣言。徒手空拳の戦いを開始する。

目黒といえば、昨年秋の「silent」(フジテレビ系)で演じた聴覚障害の青年が鮮烈だった。

今回は全く逆のキャラクターだ。饒舌でハッタリが得意。計算高いくせに悪いことにはノーブレーキ。ただし発想力と実行力は特筆ものだ。

ガクをハッカー大会に出場させて大物投資家(吉川晃司)とつながる。

生真面目な大学生・凛々(福本莉子)を採用して社長に抜擢。

さらにAI(もどきの)機能付きオンラインショップを開き、フラワーアレンジメントで成功する。

このドラマの見どころは、対照的な個性とスキルの2人が組んだことで生まれる、物語の躍動感だ。

投資ビジネスの現実がどこまで描かれているかより、大ボラのような夢に挑む彼らがどこまで行けるのか、具体的にどうやって到達するのか、それが見たくなってくる。

原作は同名漫画で、脚本は朝ドラ「マッサン」などのベテラン、羽原大介だ。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!! 2023.07.25)

 


「ハヤブサ消防団」は、あくまでも「池井戸ミステリー」

2023年07月19日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

木曜ドラマ「ハヤブサ消防団」テレビ朝日系

あくまでも「池井戸ミステリー」

 

池井戸潤の小説が原作のドラマと聞けば、やはり気になる。木曜ドラマ「ハヤブサ消防団」(テレビ朝日系)のことだ。

しかも物語の舞台は銀行でも町工場でもない。山奥の小さな集落である。それでいて、あくまでも「池井戸ミステリー」なのだ。興味津々、13日の初回を見てみた。

主人公はミステリー作家の三馬太郎(中村倫也)。かつて「明智小五郎賞」受賞で注目されたが、その後はあまり売れていない。

ふとしたことから、山間部のハヤブサ地区に移住することを決意。そこには母と離婚して長年疎遠だった亡父が暮らした、古い民家があった。

ストレスも減って、執筆もはかどる太郎。最大の変化は地元の消防団に参加したことだ。工務店勤務の勘介(満島慎之介)をはじめ、団員たちとの交流も始まる。

実は、この地区では連続放火と思われる火事が頻発していた。のどかな山村での陰湿な事件。放火犯かと疑われていた男性の住民が遺体で見つかり・・・。

ゆったりした風景の中、ミステリアスな事態がいいテンポで進んでいく。また集落全体をフルに使ったロケーション映像がドラマにリアル感を与えている。

そして、クセの強い消防団の面々。生瀬勝久、梶原善、橋本じゅん、岡部たかしなどドラマ好きには堪らないキャスティングだ。

望洋としていながら観察眼が光る主人公はもちろん、彼らからも目が離せない。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2023.07.18)


NHKドラマ10「悪女について」 大健闘だった田中みな実

2023年07月12日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

NHKドラマ10「悪女について」

大健闘だった田中みな実

 

先週、NHKドラマ10「悪女について」の後編が放送され完結した。

莫大な富を築いた実業家・富小路公子(田中みな実)が、所有するビルから転落死する。自殺か他殺かも不明だ。

毀誉褒貶の激しかった公子について、生前の彼女を知る人たちが、小説家(木竜麻生)の取材を受ける形で語っていく。

ある者は「ひどい女」だと言い、ある者は「正直で真っすぐな人」だと言う。

このドラマ、注目ポイントが2つあった。

まず、有吉佐和子が45年前に書いた原作小説を、いかにして2023年のドラマにするのか。脚本・演出は山田洋二監督の薫陶を受けてきた平松恵美子だ。

平松は時代背景をバブル期から現代までに設定し、社会の仕組みや人間の感情を巧妙に操ることで成功を収めていく女性の実像に迫っていた。

どんな犠牲を払ってでも、自分が望むものを、自分の力で手に入れる。そんな公子は、確かに単純な「悪女」ではない。

次の注目点は、ドラマ初主演となる田中みな実である。

「悪女について」は過去に何度かドラマ化されている。中でも11年前のTBS版は、ヒロインが沢尻エリカだったことでも話題となった。

今回、田中は意外なほどの自然体で公子を演じている。虚実が混在する謎の人生。ある時は愛らしく、ある時は狂気さえ感じさせる多面体の女性に挑んでいた。大健闘だったと言っていい。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2023.07.11)


気持ちよくゴール出来た「合理的にあり得ない」

2023年07月06日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

「合理的にあり得ない

 ~探偵・上水流涼子の解明~」

天海祐希と共に

気持ちよくゴール出来た

 

先週いっぱいで4月クールのドラマはすべて店じまいとなった。天海祐希主演「合理的にあり得ない~探偵・上水流涼子の解明~」(関西テレビ・フジテレビ系)も全11話で完結した。

タイトル通り主人公の涼子は探偵だが、元弁護士という特殊な過去を持っている。振り返れば、天海の人気を決定づけたのも「離婚弁護士」での弁護士役だった。

その後、「女王の教室」で教師、「トップキャスター」でニュースキャスターを演じ、「BOSS」や「緊急取調室」での刑事が当たり役となった。

弁護士、教師、キャスター、そして刑事。いずれも知性的な職業であり、誰にでも似合うわけではない。

見る側に違和感を持たせることなく、説得力と納得感のある演技を披露することが可能な俳優はそう多くない。

天海の強みは、知性とユーモアが共存するキャラクターを演じられることにある。

涼子のとぼけたコスプレや、助手の貴山伸彦(松下洸平)との掛け合い漫才的トークは、「緊急取調室」の真壁有希子が見せる硬軟自在の境地を進化させたものだ。

ドラマの終盤では、涼子が弁護士資格を剥奪された傷害事件の真相をしっかり解明していた。貴山の関与も明かされたが、その過ちを涼子は許す。

モヤモヤが残る最終回も少なくない中で、このドラマは見る側が主演の天海と共に気持ちよくゴールすることが出来た。

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2023.07.05)


「Dr.チョコレート」最後まで走り切った10歳に拍手!

2023年06月29日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

日テレ「Dr.チョコレート」

最後まで走り切った

白山乃愛に拍手!

 

当初は「ドクターX」(テレビ朝日系)のパロディーかと思った。先週幕を閉じた「Dr.チョコレート」(日本テレビ系)である。何しろDr.チョコレートこと天才外科医・寺島唯は10歳なのだ。

「あちらが熟女ドクターなら、こちらは少女だ!」などと、企画・原案の秋元康御大なら考えそうではないか。

物語の設定も奇想天外だった。唯(白山乃愛)の父(山本耕史)は天才心臓外科医で、母(安達祐実)は長寿遺伝子の研究者。幼い頃から外科手術のシミュレーションに励み、高度な医療技術を身に付けたという。

2年前、両親が爆発事故を装った手口で殺害される。この時、父の愛弟子だった野田哲也(坂口健太郎)の右腕を切断する手術を行い、命を救ったのが唯だ。以来、野田は唯の代理人「ティーチャー」となる。

このドラマ、白山なくしては成り立たなかった。というか、昨年の「東宝シンデレラ」オーディションで最年少グランプリに輝いた白山の「女優デビュー」こそが、最大の目的だったのかもしれない。

そんな大人たちのもくろみはともかく、とびきりの笑顔と生真面目な演技で最後まで走り切った白山に拍手だ。

また主演でありながらティーチャー役に徹して白山を支え続けた坂口も見事だった。7月には、主演らしい主演作「CODE-願いの代償-」(日本テレビ系)が始まる。

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2023.06.28)


「ペンディングトレイン」には決着をつけなくてはならない「課題」が結構ある

2023年06月22日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

「ペンディングトレイン」

決着をつけなくてはならない

「課題」が結構ある

 

今期ドラマの多くがゴール間近となった。連ドラの最終回は作品全体の評価につながる勝負どころだ。

今週最終回を迎える「ペンディングトレイン-8時23分、明日 君と」(TBS系)も例外ではない。

いや、それどころか「最も注目すべき最終回」と言っていいかもしれない。なぜなら、決着をつけなくてはならない「課題」が結構あるからだ。

2023年春、美容師の直哉(山田裕貴)や消防士の優斗(赤楚衛二)ら普通の人々が乗った電車が30年後の未来にタイムワープしてしまう。

深い森の中での集団サバイバルが続いていたが、先週、ようやく過去の世界に戻ることができた。

しかし、そこは3年先の26年5月だった。この年、小惑星による大災害が起きることを知る彼らを、周囲は好奇と疑いの目で見るばかり。生還の喜びも無力感と絶望感へと変わってしまう。

さあ、この状態での最終回だ。まずは世界を荒廃させる小惑星衝突問題。映画「アルマゲドン」のような展開は無理だとしても、地球規模のパニックをどう回避するのか。

また、これまで果敢に運命を切り開いてきた直哉と優斗だが、先週いきなり心が折れてしまった。

2人と紗枝(上白石萌歌)との関係も含め、見る側が納得のいく大団円は用意されているのか。

物語における「ペンディング(保留)事項」を一気に処理すると同時に、後味の良さも残してほしい。

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2023.06.21)


「波よ聞いてくれ」小芝風花の演技は見事! 主演女優賞級だ

2023年06月15日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

「波よ聞いてくれ」

小芝風花の演技は見事!

主演女優賞級だ

 

 
 

「風間公親-教場0-」俳優・木村拓哉の真骨頂 表情を変えず、少ない言葉で伝える凄み

2023年06月08日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

「風間公親-教場0-」

「俳優・木村拓哉」の真骨頂

 

過去の「教場」(フジテレビ系)や「教場Ⅱ」(同)の主な舞台は警察学校だった。そこには木村拓哉が演じる教官・風間公親と、多彩な訓練生たちによる群像劇の面白さがあった。

現在放送中の「風間公親-教場0-」は、風間が鬼教官になる以前の物語である。彼が立っているのは生徒の前ではなく、現実の事件現場だ。しかも捜査をしながら刑事指導官として若手を育成していく。個別の事件の解決もさることながら、風間がいかにして風間になったのかが興味深い。

7話と8話に登場したのは、新人刑事の鐘羅路子(白石麻衣)だ。ダメ男とばかり付き合ってしまう悪癖はあるが、風間に言わせれば「男女の感情について独特の感性とアンテナ」を持っている。

1人暮らしの小田島澄香(ソニン)が変死体で見つかった事件。現場の様子を観察した路子は、容疑者が男性だと指摘する。実際、犯人は澄香が行っていた違法薬物を扱うビジネスのパートナー、名越哲弥(小池徹平)だった。

彼が病的な心配性であることをテコにした逮捕劇。また澄香が密かに仕掛けた名越への逆襲。ベテラン脚本家、君塚良一の手腕が冴える。

このドラマでの木村は笑わない。いや、ほとんど表情を変えない。それに発する言葉も少ない。しかし、風間の胸の奥底にある感情はしっかり伝わってくる。「俳優・木村拓哉」の真骨頂だ。

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2023.06.07)


「日曜の夜ぐらいは…」どこにでもいそうな3人が何とも切なく愛おしい

2023年06月01日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

「日曜の夜ぐらいは…」

どこにでもいそうな3人が

何とも切なく愛おしい

 

「日曜の夜ぐらいは…」(ABCテレビ・テレビ朝日系)は、どこにでもいそうな3人の女性が織りなす友情物語だ。

サチ(清野菜名)は足の不自由な母(和久井映見)を支えながら働いている。地方在住の若葉(生見愛瑠)は祖母(宮本信子)と同じ工場に勤務。そして翔子(岸井ゆきの)は1人暮らしのタクシー運転手だ。それぞれが鬱屈を抱えながら日々を生きていた。

3人が知り合ったのは、ラジオのリスナー限定バスツアーだ。どこか気が合い、互いに友だちを得たように感じる。その一方で、「友情」に対して後悔や裏切りといった言葉が思い浮かぶ3人は、無理に距離をとる。このあたりの微妙な感情を、脚本の岡田恵和が繊細にすくい上げていく。

ツアーの最中、一緒に買った3枚の宝くじ。その中の1枚が3000万円当たったことで物語にドライブがかかる。再会して均等に分け合うが、その後は慣れない大金に戸惑い気味だ。結局、共同出資でカフェを開きたいという話になった。

サチに金の無心をする父親(尾美としのり)や、若葉の有り金を持ち去る母親(矢田亜希子)を振り切り、翔子の口癖である「つまんねえ人生」を変えることはできるのか。

生きることに不器用で、幸福になることを恐れているような3人が何とも切なく愛おしい。等身大の女性の喜怒哀楽を伝える清野たちのリアルな演技も見どころだ。


日曜劇場 「ラストマン―全盲の捜査官―」 全体として楽しんで見られるが、 多少の難点はある

2023年05月24日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

日曜劇場

「ラストマン―全盲の捜査官―」

全体として楽しんで見られるが、

多少の難点はある

 

福山雅治の福山雅治による福山雅治のためのドラマ。それが日曜劇場「ラストマン―全盲の捜査官―」(TBS系)だ。

主人公の皆美広見(福山)はFBI特別捜査官。全盲であるにも関わらず、必ず事件を終わらせるという意味で「ラストマン」と呼ばれている。

いや、それだけではない。知的でハンサム。能力を誇ったり、威張ったりしない。誰に対しても優しく接するジェントルマンだ。そんな人物、福山にしか演じられない。

このドラマが巧みだったのは、警部補の護道心太朗(大泉洋)をバディとして置いたことだろう。

今や国民的「可愛がられキャラ」となった大泉。自然なおかしみを漂わせる彼の存在が、「ザ・福山」的演技に漂う圧迫感を緩和しているのだ。

また、同じ福山が主演する「ガリレオ」シリーズ(フジテレビ系)の物理学者、湯川学との差別化も上手に行われている。

いい意味で唯我独尊の湯川と比べ、皆美は他者の力を積極的に借りるし、感謝もする男だ。全体として楽しんで見られる作品になっている。

ただし、多少の難点はある。嗅覚や聴覚が非常に優れ、またハイテク装置で視力を補う皆美に、全盲であることのハンディが感じられなさ過ぎる。

実際の全盲の方たちが、「安易に利用しているだけではないか」と感じてもおかしくないのだ。今後の修正点の一つとして挙げておきたい。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2023.05.23)


NHK土曜ドラマ 「正義の天秤 season2 」今や亀梨和也の代表作

2023年05月18日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

NHK土曜ドラマ

「正義の天秤 season2 」

今や亀梨の代表作と言っていい

 

元外科医の異色弁護士、鷹野和也(亀梨和也)の再登場だ。NHK土曜ドラマ「正義の天秤season2 」である。

鷹野は恩人の佐伯弁護士(中村雅俊)が急死した事務所に助っ人として入った。呼んだのは佐伯の娘で弁護士の芽依(奈緒)だ。

第2話では人気俳優・泉(矢野聖人)の覚せい剤所持事件が扱われた。

泉は「警察にハメられた」と主張するが、薬物常習者であることも分かっている。そんな泉を弁護することに悩む芽依。彼を逮捕した山本警部補(田中要次)に過剰捜査の有無を確認するが、山本は自殺してしまう。

超自信家で傲岸不遜な鷹野。今回も芽依はポンコツ扱いだ。「弁護士なら感じるな、考えろ!」とブルース・リーの逆を説く。

そして法廷では、山本を助けようと違法捜査に手を出した女性警察官に向って、「正義と関わる者は、何が正しくて何が間違っているのか、わからなくなることがある。そんな時、大事なことは徹底的に悩むことだ」と語りかける。

違法捜査による証拠は効力を持たない。幹や根に毒があれば、果実も有毒と見なされる。それが「毒樹の果実」だ。無罪となった泉だが、後に薬物で再び逮捕された。

亀梨は、感情を表に出さない鷹野の内面まで丁寧な演技で表現している。だからこそ、法廷での逆転劇に強いカタルシスが生まれるのだ。今や亀梨の代表作と言っていい。

(日刊ゲンダイ 2023.05.17)