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碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

「東京サラダボウル」奈緒のレタス頭は・・・

2025年01月15日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

奈緒×松田龍平

「東京サラダボウル」

レタス頭も

ただのファッションではなさそうで・・・

 

ドラマ10「東京サラダボウル」(NHK)は、ひと味違う警察ドラマだ。

鴻田麻里(奈緒)は東新宿署・国際捜査係の刑事。外国人による事件と向き合うが、国籍に関わらず困っている人を放っておけない。特徴はレタスを思わせる緑色の髪だ。

有木野了(松田龍平)は警視庁・通訳センター所属の中国語通訳人。対象者の事情には関心を示さず、淡々と仕事をこなす男だ。

立場も性格も異なる2人が、まるでバディのような形で案件に取り組んでいく。

初回では行方不明となった中国人女性を探し回った。その過程で麻里は有木野が持つ捜査能力に気づく。実は元刑事だったのだ。

「どんなに被疑者に寄り添おうとしても彼らは必ず嘘をつく。それに警察官だってクズはいる」と有木野。そんな彼の過去も徐々に明らかになるはずだ。

一方、「裏側に何かあっても、自分の目で見たこと以外は信じたくない」と言う麻里も、何かしら事情を抱えている。レタス頭もただのファッションではなさそうだ。

麻里によれば、東京都の外国人居留者は約68万人。この数字は、たとえば船橋市や静岡市の人口より多い。

東京は人種が溶け合う坩堝(るつぼ)ではなく、違う人たちが混在するサラダボウルなのだ。

麻里と有木野、この異色コンビを通じて普段は見えない、または見ようとしない東京の断面が露呈してくるかもしれない。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2025.01.14)


Nスぺ「“冤(えん)罪”の深層」は、調査報道の秀作

2025年01月09日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

NHKスペシャル

「“冤(えん)罪”の深層

〜警視庁公安部・内部音声の衝撃〜」

深層と闇に迫った調査報道の秀作だ

 

年末年始特番の喧騒がようやく下火となった先週末、ガツンとくるドキュメンタリーが放送された。NHKスペシャル「“冤(えん)罪”の深層〜警視庁公安部・内部音声の衝撃〜」である。

大川原化工機は横浜市にある化学機械製造会社だ。5年前、社長ら経営者3人が公安部に逮捕された。軍事転用可能な精密機械を中国などに不正輸出した容疑だった。

身に覚えのない彼らは無実を主張したが、無視される。長期勾留の中で1人は病気で命を落とした。末期のがんだったが、最後まで保釈は許されなかった。ところがその死から5カ月後、突然起訴が取り消される。「冤罪」だったのだ。

これまでも取材陣は公安部の捜査を検証する番組を作ってきた。第3弾の今回は、入手した部内会議の音声記録を軸に独自取材が展開される。驚くのは録音の内容だ。

最前線の捜査員たちは「いずれ国家賠償請求訴訟になる」と疑問や不満を抱えていた。一方、幹部たちは無理筋を承知で事件化へと突き進んでいく。

本当に中国の軍事組織とつながっているかではなく、「それらしい絵」を作ることが重要だったのだ。背後には自身の組織内評価への強い執着があった。やがて幹部たちは昇任を果たし、退職後も取材拒否を続けている。

個人的な欲が組織を動かし、警察による犯罪を生む。その深層と闇に迫った調査報道の秀作だ。

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2025.01.08)

 


2024年「秀作ドラマ」ベスト5

2024年12月25日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

2024年「秀作ドラマ」ベスト5

第1位は「不適切にもほどがある!」

 

第5位「新宿野戦病院」(フジテレビ系) 

元軍医ヨウコ(小池栄子)が秀逸だ。「すべての命は平等」が信条で、新宿・歌舞伎町に生息する人々への偏見もない。また〝ルミナ〟ウイルスは現実への痛烈な風刺だった。

第4位「舟を編む~私、辞書つくります~」(NHK) 

辞書編集部へと異動してきた岸辺みどり(池田エライザ)の目を通して、地道な辞書作りが魅力的に描かれた。人に何かを伝えたい時、つながろうとする時、言葉の力が必要となる。

第3位「海に眠るダイヤモンド」(TBS系) 

鉄平(神木隆之介)を軸に、異なる時代と場所で濃密な人間ドラマが展開された。風化させてはいけない「戦争」や「原爆被爆」などを、物語に丁寧に織り込んでいったことも高く評価したい。

第2位「虎に翼」(NHK) 

戦前・戦後を法曹人として生き抜いた寅子(伊藤沙莉)。憲法第14条が明記する「法の下の平等」や「差別禁止」は今、本当に実現されているのか。この問いかけこそ全体を貫くテーマだ。

第1位「不適切にもほどがある!」(TBS系) 

昭和からやって来た市郎(阿部サダヲ)が、違和感をおぼえるたびに「なんで?」と問いかける。それは令和と昭和、両方の時代や社会に対する、笑いながらの鋭い「批評」となっていた。

来年もまた1本でも多くの挑戦的かつ刺激的なドラマと出会いたい。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!! 2024.12.24)

 


「宙(そら)わたる教室」今年後半の収穫と言える一本!

2024年12月18日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

今年後半の収穫と言える一本!

窪田正孝主演

「宙(そら)わたる教室」

 

先週、ドラマ10「宙わたる教室」(NHK)が完結した。

舞台は新宿にある夜間定時制高校。年齢も経歴もさまざまな生徒たちが学んでいる。そこに赴任してきたのが理科教師の藤竹(窪田正孝)だ。

藤竹は部活としての「科学部」の立ち上げを呼びかける。参加したのは読み書きが苦手な岳人(小林虎之介)。40代女性のアンジェラ(ガウ)。保健室登校の佳純(伊東蒼)。そして、中卒で集団就職した70代の長嶺(イッセー尾形)だ。

物語のタテ軸は、火星の重力下でクレーターを再現する実験。ヨコ軸はそれぞれに抱える葛藤と向き合う生徒たちだ。実験の試行錯誤と並行して、岳人と不良仲間の関係や、長嶺の自分に対する怒りなどが描かれていく。

藤竹は一方的に指導したりしない。学びながら自分を変えていこうとする彼らを見つめ続ける。教室は彼らが自分自身で「あきらめていたものを取り戻す場所」だからだ。

また、思うようにいかない実験も、失敗などあり得ない。なぜなら、「誰もやったことがないこと」を試みているからだ。

大団円は学会での発表だった。岳人は「1年前には想像できなかった場所に立っている」と目を輝かせ、藤竹は「どんな人間にも必ず可能性はあります」と断言する。

原作は伊予原新の同名小説。脚本は澤井香織。今年後半の収穫と言える一本になった。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2024.12.17)

 


「それぞれの孤独のグルメ」淡い一期一会が心地よい

2024年12月11日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

淡い一期一会が心地よい

孤独のグルメ特別編

「それぞれの孤独のグルメ」

 

ドラマ「孤独のグルメ」(テレビ東京系)がスタートしたのは2012年だ。12年前だから干支(えと)も一回りしたことになる。今期は「それぞれの孤独のグルメ」と題した特別編を放送中だ。

趣向はシンプル。たまたま主人公の井之頭五郎(松重豊)と同じ店で食事をする、さまざまな職業の人物たちの「独り飯」を見せていくのだ。

ただし、ここが大事なところだが、彼らと五郎がからむわけではない。いや、あえてからませない。それぞれに食べ、それぞれに味わい、食後はそれぞれの世界に戻っていく。この淡い一期一会が心地よい。

印象に残った回がいくつかある。東京・神保町の焼肉店に入ったのは、看護師の板谷由夏だ。救命救急センターでの夜勤を終えた彼女を、「上タン塩」と「ゲタカルビ」が優しくねぎらう。

また客室乗務員の比嘉愛未は、空港スタンバイの終了間際に出雲行きが決まってしまう。フライトを終え、出雲市にある店で選んだのは餃子と白飯。特に「しそ餃子」との出会いが感動的だ。 

さらに、千葉県香取市のドライブインで空腹を満たす女性トラックドライバーは黒木華だ。見た目も態度も言葉もトラッカーとしか思えない黒木が、ガッツリ系の「豚肉キムチ卵炒め定食」を見事に平らげていた。

同じ役柄で主演ドラマが出来そうな女優陣に拍手を送りつつ、五郎単独の新シーズンを待ちたい。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2024.12.10)

 


奈緒の自然体の演技「あのクズを殴ってやりたいんだ」

2024年12月04日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

奈緒の自然体の演技が効いている

「あのクズを殴ってやりたいんだ」

TBS系

 

火曜ドラマ「あのクズを殴ってやりたいんだ」(TBS系)が佳境に入ってきた。

佐藤ほこ美(奈緒)は市役所勤務の29歳。明るくて真面目な性格だが、結婚式当日になって新郎に逃げられるなど男運は良くない。

そんな彼女が、訳ありの元プロボクサー・葛谷海里(玉森裕太)に恋をする。そして自分を変えるべく始めたのがボクシングだった。

互いに魅かれ合っているが、どちらも相手のことを気遣うあまり、自分の気持ちをストレートに伝えられずにいた。

一度は離れたものの、海里はアメリカでのカメラマン修行を終えて帰国。ほこ美はプロテストに合格するが、スパーリングで強打されて入院してしまう。

このドラマが、いわゆるラブコメであることは間違いない。しかし、どこか流し見できない磁力があるのも確かだ。

たとえば、ほこ美は人一倍努力家だが、ずっと「努力に裏切られてきた人生」だとつぶやく。

その上で仕事も恋も努力することをやめない。ほこ美と同年齢である奈緒の自然体の演技が効いている。

また、ほこ美の母・明美(斉藤由貴)が、自分はほこ美を幸せにできないと言う海里を叱る。

「勝手に決めてんじゃないわよ! ほこ美の幸せは、ほこ美が決める!」

こういう生きたセリフの連打がドラマを引っ張っていく。脚本は泉澤陽子と鹿目けい子による完全オリジナルだ。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2024.12.03)

 


日曜劇場「海に眠るダイヤモンド」野木亜紀子脚本の狙いと問いかけ

2024年11月28日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

ドラマの舞台である長崎の端島(軍艦島)

 

日曜劇場「海に眠るダイヤモンド」

野木亜紀子脚本の狙いと問いかけ


日曜劇場「海に眠るダイヤモンド」(TBS系)が中盤に入ってきた。

1955年、大学を卒業した鉄平(神木隆之介)は故郷の炭鉱の島に戻り、働き始めた。

一方、2018年の東京に住むホストの玲央(神木の二役)は、会社経営者のいづみ(宮本信子)と知り合い、彼女の秘書を務めることになった。

物語は2つの時代と場所を行き来しながら展開されている。

当初、脚本の野木亜紀子の狙いは、昭和の経済成長の光と影を描くことではないかと思った。だが、どうやらそれだけではないようだ。

それは先日の第4話に表れていた。鉄平の家では、20歳だった長兄がビルマで戦死。16歳の姉と14歳の妹は福岡の空襲で命を失っていたのだ。

父の一平(國村隼)は、名誉なことだと信じて息子を戦場に送った自分を、ずっと責め続けている。

また鉄平の幼なじみである百合子(土屋太鳳)は、母や姉と出かけた長崎で原爆に遭遇していた。

姉はその時に亡くなり、母も長く患った末に白血病で逝った。いつか自分も発症するのではないか。百合子はその恐怖を抱えながら生きている。

鉄平が言う。「死んだ者たちは帰らない。過去の過ちは消えない。私たちは祈る。今度こそ間違えないようにと」。

しかし70年後の今、この国は胸を張って「間違えていない」と言い切れるだろうか。野木の強烈な問いかけがそこにある。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2024.11.27)

 


志田未来主演「下山メシ」新たな<グルメ女優>の誕生だ

2024年11月20日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

新たな「グルメ女優」の誕生だ

志田未来主演「下山メシ」

 

なぜ山に登るのかと問われて、「そこに山があるからだ」と言ったのはイギリスの登山家であるジョージ・マロリーだ。

しかし、木ドラ24「下山メシ」(テレビ東京系)の主人公、フリーのイラストレーター・みねこ(志田未来)は違う。声を大にして「下山メシがあるから!」と断言する。下山メシとは、文字通り山を下りた後に味わう、おいしい料理を指す。

第1話で登ったのは奥多摩の御岳山(みたけさん)。立ち寄ったのは、古里(こり)駅前の「はらしま食堂」だ。まずは生ビールを一杯。志田の飲みっぷりがいい。続いてメインの「あじフライ定食」に取りかかる。

ここからは一気に志田未来版「孤独のグルメ」だ。ただし井之頭五郎(松重豊)の〈心の声〉ほど饒舌ではない。あじフライにかぶりつき、「ああ、カロリーで疲れが癒されていく」と言った後は、ひたすらもぐもぐ、サクサクと食べ続ける。

そして「やっぱり揚げ物の選択は間違ってなかった」と満足げにつぶやいたのは、何と2分後のことだ。ワンカット長回しのカメラを前に、セリフ無しの食べる動作と顔の表情だけで、料理の味と下山メシの愉悦を表現してみせたのだ。

しかも見る側をまったく飽きさせないのは、少女時代の「女王の教室」(日本テレビ系)や「14才の母」(同)から現在まで培ってきた強靭な演技力の賜物といえる。新たな「グルメ女優」の誕生だ。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2024.11.19)


松下洸平主演「放課後カルテ」丁寧なドラマ化アレンジ

2024年11月13日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

松下洸平主演「放課後カルテ」

「セクシー田中さん」問題を踏まえた、

丁寧なドラマ化アレンジ

 

松下洸平主演「放課後カルテ」(日本テレビ系)は良質な医療ドラマだ。

主人公は大学病院から小学校に赴任してきた、小児科医の牧野峻(松下)。産休に入った養護教諭の代役だ。口のきき方や態度に愛嬌がなく、横柄な印象を与える牧野が、様々な問題を抱える生徒たちと向き合っていく。

たとえば、授業中でも友だちと話している最中でも、突然眠くなってしまう生徒がいる。教室では浮いた存在であり、本人も「こんな自分が嫌い」と悩んでいた。牧野は睡眠障害の「ナルコレプシー」だと指摘。親だけでなく、生徒たちにも理解と協力を求める。

また、クラスで作った七夕飾りを密かに壊す女子生徒もいた。両親の離婚問題からくる孤独感。抑えきれない破壊衝動は自傷行為へと走らせる。隠していた傷に気づいた牧野は、「私は私が怖い」と言う彼女の本心を引き出そうとする。

当初、公立の小学校に医師が常駐するという設定に違和感があった。しかし、それも徐々に消えてしまった。医師である牧野は、周囲と適度な距離を保っているからだ。親とも先生とも違う、その「近すぎない関係」が生徒たちの命を救うことにつながっていく。

原作は日生マユの同名漫画。「セクシー田中さん」問題を踏まえて、ドラマ化に際してのアレンジは丁寧に行われている。脚本は「救命病棟24時」などのひかわかよだ。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2024.11.12)

 


「民王R(たみおう アール)」光る遠藤憲一の快演

2024年11月06日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

光る遠藤憲一の快演

「民王R(たみおう アール)」

(テレビ朝日系)

 

遠藤憲一主演「民王」(テレビ朝日系)が放送されたのは2015年。この秋、9年ぶりの続編として登場したのが「民王R」(同)だ。

前作では、時の総理大臣・武藤泰山(遠藤)とバカ息子(菅田将暉)の心と身体が入れ替わったことで大騒動が起きた。

一方、今回の入れ替わりの対象は「全国民」だ。毎回、泰山が予測できないランダムな人物の中に入ってしまう、破天荒な設定となっている。

初回では秘書の冴島優佳(あの)と入れ替わった。

与党の長老たちが、自分たちの利権や都合で閣僚人事を決める様子を目の当たりにしていた優佳は、泰山として臨んだ記者会見で叫ぶ。

「よく聞けよ、永田町の政治家ども! 政治家が互いの貸し借りやシガラミのために理想を語れなくなって、どーすんだよ!」

また第2話では、中小企業で働く青年と入れ替わった。真面目に働いても手取りは少なく、将来の希望も見えづらい若者たち。

何でも「自己責任」だと言われ、孤立化する彼らの現実を知った泰山は、「疲れたら足を止めてもいい。だが、また走り出したくなった時、目の前に走れる道を用意する。それが政治家の務めだ」と決意する。

全体は奇想天外なドタバタ劇だが、笑いながら政治や社会に鋭いツッコミを入れていくところがこのドラマのミソだ。遠藤の快演がそんな離れ業を可能にしている。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2024.11.05)

 


『Qros(キュロス)の女』栗山(桐谷健太)の記者魂

2024年10月31日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

栗山の「記者魂」が光る

桐谷健太主演

「Qros(キュロス)の女

 スクープという名の狂気」

 

ドラマプレミア23「Qrosの女~スクープという名の狂気」(テレビ東京系)。主人公は、「週刊キンダイ」で多くのスクープを放ってきた芸能記者、栗山孝治(桐谷健太)である。

タイトルの「キュロス」とは、「ユニクロ」のようなファストファッションのブランド名だ。そのCМに登場した謎の美女(黎架)が話題となり、栗山たちも正体を明らかにしようと動き出す。

ただし、このドラマは彼女をめぐる探索物語に留まらない。芸能界の裏側で発生する、いくつものスキャンダル。それを暴こうとする側と隠そうとする側のリアルな攻防戦が大きな見所だ。

たとえば、人気アイドルと有名塾講師の不倫。スピリチュアル団体のビジネスに利用される若手女優。さらに大物落語家によるセクハラ、モラハラ、パワハラの三大ハラスメントもあった。

いったんスクープされれば、彼らの芸能人生命は断たれてしまう。やり過ぎだという声に対し、編集長の林田(岡部たかし)が言う。「俺たちはネタを提供してるだけ。それを元にジャッジしてるのは世間様だ」と。

さらに「人間の後ろ向きな欲望みたいなものが膨らんで、そのはけ口として誰かをめちゃくちゃに攻撃して暴走する。その群集心理が一番怖いんだよ」

だからこそ、間違った情報を世の中に出さないためなら何でもする、栗山の「記者魂」が光る。 

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2024.10.30)

 


「ドクターX」の〈後継医療ドラマ〉として真価が問われる「ザ・トラベルナース」

2024年10月23日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

「ドクターX」の

〈後継医療ドラマ〉として問われる真価

「ザ・トラベルナース」

 

岡田将生主演「ザ・トラベルナース」(テレビ朝日系)が2年ぶりの復活を果たした。

このドラマの特色は3つある。まず、あまり知られていなかったトラベルナース(有期契約で仕事をするフリーランスの看護師)をテーマにしたこと。

次にナースとして男性看護師を設定したことである。看護師と聞けば女性を思い浮かべる人は今も多い。しかし現場では多くの男性看護師が活動しているのだ。

そして第3のポイントが、主人公の那須田歩(岡田)と対比する形でベテランのスーパーナース、九鬼静(中井貴一)を置いたことだ。

歩は、医師の指示を受けずに一定レベルの診断や治療を行うことが可能な「ナース・プラクティショナー」の資格を持つ。腕もいいが自信過剰でプライドも高い。

そんな歩を「プライドだけが無駄に高く、患者に寄り添えない、不適切で無能なナース!」などと諭せるのは静しかいない。

前シーズンの舞台は、利益第一主義の院長・天乃(松平健)が君臨する「天乃総合メディカルセンター」だった。

今回の「西東京総合病院」では、新たに院長に就任した薬師丸(山崎育三郎)がもくろむ「改革」が、様々な波紋を起こしそうだ。

12年も続いた「ドクターX」が、12月公開の「劇場版」で幕を閉じることが報じられた。〈後継医療ドラマ〉としての真価が問われる秋になる。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2024.10.22)

 


NHK土曜ドラマ「3000万」は、一見の価値あり!

2024年10月16日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

ライト感覚のクライムサスペンスは

一見の価値あり!

安達祐実主演「3000万」NHK

 

土曜ドラマ「3000万」(NHK)の主人公、佐々木祐子(安達祐実)はコールセンターで働く派遣社員。夫(青木崇高)と小学生の息子と暮らす、ごく普通の主婦だ。

ところが、ある事故をきっかけに夫婦は3000万円を手に入れてしまう。しかもそれは強盗事件に絡むヤバい金だった。

このドラマの特色は、NHKが立ち上げた「脚本開発チーム」による作品であることだ。

海外ではシリーズドラマの制作に複数の脚本家が関わり、共同執筆することは珍しくない。ストーリーやセリフなど各人が得意な部分で力を発揮したり、アイデアを出し合って最適解を探ったりする。

今回のプロジェクトはNHK独自のスタイルで進められたようだが、2話までを見た段階で言えば、脚本は上々の出来具合いだ。

生活感あふれる日常から、犯罪という非日常へとジャンプする導入部。シアワセを呼ぶはずだった札束に振り回される悲喜劇の連続。

佐々木夫妻、強盗グループ、そして警察の三者が絶妙に交錯していく展開は、つい先が見たくなる。

俳優陣も大健闘だ。安達祐実は良識的かと思えば突然大胆な行動に走って、見る側をハラハラさせる妻を熱演。青木崇高は根拠なき楽観主義が苦笑いを誘う、元ミュージシャンの夫がよく似合う。

いわばライト感覚のジェットコースター型クライムサスペンスの本作、一見の価値は十分ある。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2024.10.15)


朝ドラ「おむすび」 ギャルで「納得と共感」を得られるか

2024年10月09日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

ギャルで「納得と共感」を得られるか

NHK朝ドラ「おむすび」

 

新たな連続テレビ小説「おむすび」(NHK)がスタートした。

舞台は2004年の福岡県糸島郡。主人公は高校1年の米田結(橋本環奈)だ。両親と祖父母との5人暮し。姉の歩(仲里依紗)が東京に居るらしい。

第1週で分かったのは、このドラマが「食」「ギャル」「災害」という3つのテーマを含んでいることだ。

結の家は農家で、食べることも大好き。「おいしいもん食べたら悲しいこと、ちょっとは忘れられるけん」などと言わせて、食に関わる将来を暗示させている。

また、結は1995年の阪神淡路大震災の被災者でもある。神戸に住んでいたが、震災を機に父親の故郷である糸島に移り住んだ。災害に遭遇した人たちの当時と現在、さらに「これから」も描こうとしていると見た。

さて、問題は「ギャル」である。ギャル文化の全盛期は90年代後半だ。ドラマの背景である2000年代半ばにもギャルはいたものの、往時の勢いはない。特に地方では微妙な存在と化していた。

そのギャルを、物語の中で何らかの価値観の「象徴」にしたいようだが、やや強引な印象は否めない。「食」や「災害」といったテーマとは異なり、ギャルに理屈抜きの拒否反応を示す視聴者は少なくないからだ。

石破首相の所信表明演説ではないが、ギャルで見る側の「納得と共感」を得られるのか。逆に制作陣の腕の見せ所かもしれない。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2024.10.08)

 


「虎に翼」画期的な “社会派の朝ドラ”となった

2024年10月03日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

「虎に翼」

画期的な

“社会派の朝ドラ”となった

 

連続テレビ小説「虎に翼」(NHK)が幕を閉じた。見終わって再認識したのは、この作品がいかに“異色の朝ドラ”だったかということだ。

佐田寅子(伊藤沙莉)のモデルは三淵嘉子。戦前に初の女性弁護士となり、戦後は初の女性判事となった。「あさま山荘事件」が起きた1972年には初の家庭裁判所所長に就任している。

司法界の「ガラスの天井」を次々と打ち破っていった嘉子の軌跡は、戦前・戦後における“試練の女性史”だ。それはドラマにも十分反映されており、画期的な“社会派の朝ドラ”となった。

ややもすれば堅苦しくなりそうな物語だったが、硬軟自在の伊藤に救われた。寅子が納得のいかない事態に遭遇した時に発する「はて?」は、見る側の心の声も代弁する名セリフとなった。

ただ、さすがに後半は少し詰め込み過ぎだったかもしれない。「戦争責任」「原爆裁判」「尊属殺の重罰」「少年法改正」などが並び、さらに「同性婚」「夫婦別姓問題」「女性と仕事」といった現在につながるテーマも取り込んでいった。

しかし、これも制作陣の確信犯的仕掛けだったはずだ。憲法第14条が明記する「法の下の平等」や「差別禁止」は、どのような経緯をたどってきたのか。そして、今の社会においても本当に実現されているのか。この問いかけこそ本作を貫く大きなテーマだった。

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2024.10.02)