渡辺武著わかりやすい漢方薬
第二章 漢方はどう診断するか
1 身体の中の熱と冷え
天然の白虎湯を飲む
病院に行きますと、医者が診断をしてくれますが、この〝診断〟という言葉の意味は、病人を診察して病名を決定することです。
漢方の世界ではこれに類する行為を「証をとる」といっていますが、証と診断では全く言葉の意味が違います。
証は病名を決めるのではありません。
その人の身体の偏向を見て、それを調整する薬を選ぶこと、あくまでも薬を選ぶ立場で、どれが一番いいかということ決めることです。
だから、証の決定ということは、その人の条件つきの薬の処方を決めることなのです。
いまの医学では、病名までは診断できますが、さて、薬剤投与ということになると、はたと困っているのが現状です。
大病院ではコンピューターが導入され、ボタンを押せば薬剤が決められているシステムになっていますが、その人に最適な薬を決めるファクター、プログラムも細分化されていません。
しかも薬の方は、新薬は病名薬で分類されているのですから、何でもかんでも病名薬ということにされてしまうのです。
これではいかなる名医の診断でも、一番肝心な投薬というネジが抜けているのも同然です。
その点、漢方は身体のひずみを調整、中和する医学で、そのひずみの分類によって薬が決められるシステムになっているのです。
病人といっても百人百様です。
肥えている人、やせている人、汗をかく人、貧血症の人、多血症の人、冷えている人、熱のある人、便秘症か下痢症か、脉は浮いているか、沈んでいるかなど、その病態によって薬も違ってきます。
身体の温熱ということを考えてみますと、人間は平均体温を持っています。
体温以上に上がると発熱、下がれば冷えている、この二つに分類されるわけです。
漢方の古い医書に「寒なる者はこれを熱し、熱なる者はこれを寒する」<素問>という名言がありますが、熱が出たら氷まくらで冷やし、冷えていたら腰湯を使って温める、これは常識です。
それを逆にする人はいません。
出血しているのにお湯に入れたりすれば、ますます出血するのは当然です。
この寒熱の場合、熱のある人には冷たい薬で、冷えている人には温める薬で中和するという、二つの基本的条件で分類されているのです。
寒剤を代表する薬に『白虎湯』という薬があります。
白虎は石膏のこと、化学名でいうなら硫酸カルシウムです。漢方薬では辛寒、辛くて皮膚や粘膜の薬であり炎症があるとき冷やして熱をとります。
のどが渇く、皮膚がヒリヒリ痛む、皮膚から鼻から口から蒸気を発散するとき、熱がこもるといった状態を中和するための薬です。
糖尿病や日射病など口が渇く症状に効くのです。
白虎というのは中国流にいえば、東西南北の西の守り神のことです。
西は西陽が当たり、熱のこもる暑い方向なので、口が渇く、のどが渇くといった、熱や暑さの症状から白虎が守るという意味があるのです。
漢時代は家を建てるとき、都をつくるとき、城をつくるときに東西南北を守りましたが、この思想が漢方にも入っているのです。
白虎湯というのは、日射病のような高熱の病に効く薬として、明治までは漢方薬の常識でした。
明治になって東京市に水道が初めてできたとき、新聞は「東京市民は天然の白虎湯を飲む」と書いたそうです。
その意味は初めて水道の水を飲んで、のどの渇きをいやした感激で、水道を〝天然の白虎湯〟といったわけです。
白虎湯は漢方の世界では常識的な薬で、それほど効き目をもっているのです。
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四神=ししん。
中国の昔の神の名であり、青龍・白虎・玄武・朱雀の四神をいう。
この四神名を方剤に配し、
青龍湯とはその主薬の麻黄の青きを以て、
白虎湯はその主薬たる石膏の白きを以て、
玄武湯(真武湯)はその主薬たる附子の黒きを以て、
朱雀湯(大棗湯)はその主薬の大棗の赤きを以て名付けたものである。漢方用語大辞典
四神=青竜・白虎・朱鳥(朱雀)・玄武の総称。新東洋医学辞書
青竜=四神の一つで東方・木(酸・青)をつかさどる
白虎=四神の一つで西方・金(辛・白)をつかさどる
朱雀=四神の一つで南方・火(苦・赤)を主る
玄武=四神の一つで北方・水(鹹・塩っぱい・黒)を主る
土俵の東西南北も青・白・赤・黒のふさが垂れ下がっています。
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