ジョスリン・ド・モーブレイ/草野純訳 1991年 サラブレッド血統センター
不確定性のつづき。
というのは、たまたまであって、冗談。
本書の最初のほうに、
>どのレヴェルであるとを問わず、サラブレッド・ビジネスの面白いところは、このゲームが不確定要素に満ちていて、何をするにしても結果が予測できないことである。
とか、
>サラブレッド市場は不確実性のうえに成り立っている。(略)この不確実性は、サラブレッド世界の神話と儀式で覆い隠されている。
とかってあるだけのこと、物理学の話ではない。
この本は、競馬に関しての本で、1970年代から80年代にかけてサラブレッド市場(ヨーロッパとアメリカ)に起きたブームの原因と結果を検証するもの。
(1985年のキーンランド・セールで、シアトルスルーの下、のちのシアトルダンサーに1310万ドルの値がついたのが、一般的にはブームの頂点とみなされているってことでいいのかな。)
第一部で血統とか馬そのものについて、第二部で競走馬の取引とかに関する課税制度や競馬番組とかについて、第三部で生産牧場や種牡馬牧場とセリに関わる人々とかについて紹介している。
いまとなっては昔話となってしまったものもあるかもしれないし、あたりまえというか基本的な事項も多いかもしれないけれど、競馬産業の背景を整理して眺めるにはいい歴史の教科書かもしれない。
>このブーム期のバブル現象、膨大な資金の流入がどうして起きたかを知るには、個々のプレイヤーへの興味だとか、華々しい業績への関心だとかはひとまず脇において、サラブレッド・ビジネスを理論的に見てゆかねばならない。
って問題意識があるし。
そうやって見ていくと、サラブレッドブームを引き起こしたのには四つの要因があるんだそうで。
>税制に刺激されたアメリカのサラブレッド需要の急増、資本の国際間移動の自由化、サラブレッドに関する情報の普及、そして最後に、国際間の交通の簡便化で、馬、エージェント、オーナーが容易に世界中を飛びまわれるようになったことである。
ということらしい。
税制については、イギリスとアメリカで全然違ってる。
イギリスでは「調教や競馬にかかる費用は課税対象となる収益から控除できない」。その理由は、「競走馬を所有することは、たいていは赤字になる活動だとみなされるため」である。競馬はビジネスぢゃなくて趣味なんで税制上の優遇(いわゆる経費で落とすってやつ?)は無い。ただし、逆に馬の稼いだ賞金に税金がかかることもないし、馬の市場価値が現役中に上がってもその上昇分(キャピタルゲイン?)にも税金はかかんない。
アメリカは逆で、馬を生産することも走らせることも経済活動とみなされて、課税対象になる。「調教料その他競馬にかかる経費を収益から控除できること、現役競走馬および所有して三年以上たった馬の原価はすべて、通常の営業費として減価償却できること」になってる。
こういうの大事なことなんだけど、日本ぢゃふつうの人はあまり気にしてないようにみえる。競馬の経済学、誰か専門に研究してるひとっているのかな、けっこうおもしろいんだけどね。
で、サラブレッドブームの中心は、なんたって種牡馬に関することだと思うんだけど。
種牡馬株の価値を高くして、その取引きで儲けるってのが基本線なんだが、それも今の日本から見ると分かんないこともあるような気がする。
昔の基本は、種牡馬株=年間の種付け数は40くらいで、希少価値があるから産駒の値段が保てるって考えだったと思うんだが、今の日本は100とか200とかって数の産駒つくって、それ全部売れちゃうなんて種牡馬もいるから。
それはいいとして、本書では70年代から80年代にかけての種牡馬ビジネスの変化についても多くとりあげてる。
基本は、「種付け権の供給が全面的にオーナーの支配下にある」「種牡馬のオーナーが独占によって見返りを得るには、種付け権の需要を確実に非弾力的にしておく必要がある」「種牡馬のオーナーは、種付け料の値下げを公表するくらいなら、損をしたほうがいいと考える」ということで、種牡馬の価値を下落させないように、オーナー・株主たちは慎重に行動して、うかつに種付け権を売り買いしないようにしてたんだが。
「種牡馬の価値は、供用を開始して最初の五年間は不安定だが、この不安定さは市場に特有のもので、これがあるからこそ投資家は市場に引かれる」ってわけで、短期的利益を求めて、いろんな新規投資家が参入しては跳梁跋扈するようになる。
で、それが「軽率にも短期利益のために種牡馬を酷使するという行為を助長した」ということにもつながったらしい。
でも、いろいろあった挙句、「1985年以降、きわめて将来性の高い種牡馬は長期的視点に立って経営管理されている。種牡馬管理(マネジメント)の基本方針は、種付け権の売却で得られる収入を最大にすることから、種牡馬が一流の産駒を出す可能性を最大にすることにかわった」ってことなんで、まあそのほうが真っ当かなという気はする。
そんなこんなで、本書の結論としては、
>短期的には、サラブレッド・ブームはさまざまな矛盾を生み出し、そのために、馬が精神的にも肉体的にも損なわれ、サラブレッド・ビジネスの公的イメージが傷つく結果になった。しかし長期的には、ブームのプラス効果によってエンターテインメント・ビジネスとしての可能性が開拓されつつあるいま、馬、サラブレッドを取りまく世界、そして大衆が、その利益にあずかりはじめているといってよさそうである。
ってあたりになろうかと。
第一章 優れた競走馬をつくるものは何か
第二章 環境と管理
第三章 税制の影響
第四章 競馬のパターン
第五章 サラブレッド・ブーム
第六章 生産牧場
第七章 サラブレッドのオークション
第八章 種牡馬牧場
第九章 マーケティングとスポンサー
第十章 来たるべき事態
不確定性のつづき。
というのは、たまたまであって、冗談。
本書の最初のほうに、
>どのレヴェルであるとを問わず、サラブレッド・ビジネスの面白いところは、このゲームが不確定要素に満ちていて、何をするにしても結果が予測できないことである。
とか、
>サラブレッド市場は不確実性のうえに成り立っている。(略)この不確実性は、サラブレッド世界の神話と儀式で覆い隠されている。
とかってあるだけのこと、物理学の話ではない。
この本は、競馬に関しての本で、1970年代から80年代にかけてサラブレッド市場(ヨーロッパとアメリカ)に起きたブームの原因と結果を検証するもの。
(1985年のキーンランド・セールで、シアトルスルーの下、のちのシアトルダンサーに1310万ドルの値がついたのが、一般的にはブームの頂点とみなされているってことでいいのかな。)
第一部で血統とか馬そのものについて、第二部で競走馬の取引とかに関する課税制度や競馬番組とかについて、第三部で生産牧場や種牡馬牧場とセリに関わる人々とかについて紹介している。
いまとなっては昔話となってしまったものもあるかもしれないし、あたりまえというか基本的な事項も多いかもしれないけれど、競馬産業の背景を整理して眺めるにはいい歴史の教科書かもしれない。
>このブーム期のバブル現象、膨大な資金の流入がどうして起きたかを知るには、個々のプレイヤーへの興味だとか、華々しい業績への関心だとかはひとまず脇において、サラブレッド・ビジネスを理論的に見てゆかねばならない。
って問題意識があるし。
そうやって見ていくと、サラブレッドブームを引き起こしたのには四つの要因があるんだそうで。
>税制に刺激されたアメリカのサラブレッド需要の急増、資本の国際間移動の自由化、サラブレッドに関する情報の普及、そして最後に、国際間の交通の簡便化で、馬、エージェント、オーナーが容易に世界中を飛びまわれるようになったことである。
ということらしい。
税制については、イギリスとアメリカで全然違ってる。
イギリスでは「調教や競馬にかかる費用は課税対象となる収益から控除できない」。その理由は、「競走馬を所有することは、たいていは赤字になる活動だとみなされるため」である。競馬はビジネスぢゃなくて趣味なんで税制上の優遇(いわゆる経費で落とすってやつ?)は無い。ただし、逆に馬の稼いだ賞金に税金がかかることもないし、馬の市場価値が現役中に上がってもその上昇分(キャピタルゲイン?)にも税金はかかんない。
アメリカは逆で、馬を生産することも走らせることも経済活動とみなされて、課税対象になる。「調教料その他競馬にかかる経費を収益から控除できること、現役競走馬および所有して三年以上たった馬の原価はすべて、通常の営業費として減価償却できること」になってる。
こういうの大事なことなんだけど、日本ぢゃふつうの人はあまり気にしてないようにみえる。競馬の経済学、誰か専門に研究してるひとっているのかな、けっこうおもしろいんだけどね。
で、サラブレッドブームの中心は、なんたって種牡馬に関することだと思うんだけど。
種牡馬株の価値を高くして、その取引きで儲けるってのが基本線なんだが、それも今の日本から見ると分かんないこともあるような気がする。
昔の基本は、種牡馬株=年間の種付け数は40くらいで、希少価値があるから産駒の値段が保てるって考えだったと思うんだが、今の日本は100とか200とかって数の産駒つくって、それ全部売れちゃうなんて種牡馬もいるから。
それはいいとして、本書では70年代から80年代にかけての種牡馬ビジネスの変化についても多くとりあげてる。
基本は、「種付け権の供給が全面的にオーナーの支配下にある」「種牡馬のオーナーが独占によって見返りを得るには、種付け権の需要を確実に非弾力的にしておく必要がある」「種牡馬のオーナーは、種付け料の値下げを公表するくらいなら、損をしたほうがいいと考える」ということで、種牡馬の価値を下落させないように、オーナー・株主たちは慎重に行動して、うかつに種付け権を売り買いしないようにしてたんだが。
「種牡馬の価値は、供用を開始して最初の五年間は不安定だが、この不安定さは市場に特有のもので、これがあるからこそ投資家は市場に引かれる」ってわけで、短期的利益を求めて、いろんな新規投資家が参入しては跳梁跋扈するようになる。
で、それが「軽率にも短期利益のために種牡馬を酷使するという行為を助長した」ということにもつながったらしい。
でも、いろいろあった挙句、「1985年以降、きわめて将来性の高い種牡馬は長期的視点に立って経営管理されている。種牡馬管理(マネジメント)の基本方針は、種付け権の売却で得られる収入を最大にすることから、種牡馬が一流の産駒を出す可能性を最大にすることにかわった」ってことなんで、まあそのほうが真っ当かなという気はする。
そんなこんなで、本書の結論としては、
>短期的には、サラブレッド・ブームはさまざまな矛盾を生み出し、そのために、馬が精神的にも肉体的にも損なわれ、サラブレッド・ビジネスの公的イメージが傷つく結果になった。しかし長期的には、ブームのプラス効果によってエンターテインメント・ビジネスとしての可能性が開拓されつつあるいま、馬、サラブレッドを取りまく世界、そして大衆が、その利益にあずかりはじめているといってよさそうである。
ってあたりになろうかと。
第一章 優れた競走馬をつくるものは何か
第二章 環境と管理
第三章 税制の影響
第四章 競馬のパターン
第五章 サラブレッド・ブーム
第六章 生産牧場
第七章 サラブレッドのオークション
第八章 種牡馬牧場
第九章 マーケティングとスポンサー
第十章 来たるべき事態
