☆映画の旅の途中☆

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『野火』(2014)

2014年11月24日 | 邦画(1990年以降)
『野火』(2014)

【作品概要】
日本 / 2014 / 87分
監督:塚本晋也 (TSUKAMOTO Shinya)
製作:海獣シアター
出演:塚本晋也
リリー・フランキー
中村達也

大岡昇平の同名小説の映画化。第二次世界大戦末期、フィリピン戦線の日本兵たちの彷徨を一人の一等兵の視点から描き、戦争の恐怖を訴えかける。ヴェネチア映画祭コンペティションでワールド・プレミア上映され、その激烈な戦場の描写で世界を震撼させた傑作。 (フィルメックス公式サイトより)

【感想レビュー】@東京フィルメックス
今年もオープニング上映へ行って参りました
昨年に続き二度目です。独特の高揚感に胸が高まりました

そして、野火。
冒頭は、肺病を患う主人公の田村一等兵が所属する部隊の上官から邪険にされ野戦病院へ行って来いと言われるシーン。その上官の表情や台詞の言い回しは、まるで現代のシュールなコントのワンシーンのようだ。
野戦病院へ行ったら行ったで、もっと重篤な患者が居るのによくその程度で来られたなと追い返され、所属部隊のテントと野戦病院を行ったり来たりし、同じようなやり取りを繰り返す。
このまるでコントのような冒頭は、まるで現代に生きる私達とかつての南の島の戦場とが、あたかも一つの線で結ばれているような感覚に陥らせる。
そこから徐々にそちらの世界へトリップしていく仕掛けが沢山あり、やがてそこに居るかのようになっていく…。
それは、やたらと大きい効果音もその一つだったと思う。
動作、息遣いなどの音響は、ジャングルの静けさの中で怖いほど響き、観る者の不安感を煽っていく。

灼熱の熱帯ジャングル。飢餓の上、熱に浮かされながらフラフラと歩く田村一等兵。微分音でさらに響きの歪んだ音楽が、朦朧とする田村一等兵の意識を演出する。
田村一等兵の周りの人間は、飢餓から、そして敵から身を守るため、自分の事ばかり考えている人間達ばかりだ。唯一彼だけが非情になれない人間らしさを残している。
その彼が変容していく様子は壮絶だ。

兵隊達の肉片が飛び、血が迸る。それでも無情にミサイルは撃ち込まれる。肉片と化した人間を見るにつけ、戦場での命の軽さを思い知る…。
この描写がどこホラー映画の様相を呈しているのには、どこか皮肉を感じる。冒頭のシュールなコントのようなやり取りも然り。戦争の愚かさを物語っている。
ラスト、小津映画に出てくるような品の良い日本家屋で、かつての記憶から逃れられない主人公を観る時、戦争の恐ろしさと虚しさを感じずにはいられない。

最後までテンションが落ちないどころか、上がっていく作品だった。

上映後のQ&Aで、塚本監督が仰っていた(今の世相に対して)『でも絶望はしていない』に心底救われる思いがした。


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