「星がきれい...」
かのんの散歩から戻った家内が言う。
住宅街の中では家の明かりや街灯で
満足に星空は見えない。
それでも、その夜はよほど空が澄んでいるのか、
家内の言葉が気になって外に出てみることにした。
日付が変わるころ、なるべく光が少ない場所から
東の空を窺うと、暗い空にかすかに密集した星が見える。
「すばる」だ。
「すばる」...なんとも不思議な語感だがれっきとした日本語、いや「やまとことば」だ。
清少納言が枕草子で
星は、すばる。彦星。夕づつ。「星と言えばすばる。彦星(アルタイル:わし座のα星)、宵の明星(金星)もいい。」
と綴っていることは有名。
語源は「統ばる(すばる)」でまとまっていること、
すなわち小さな星が集団をなしていることから
そう名付けられたようだ。
また、「すばる」はカタカナ名では「プレアデス星団」といい、
ギリシア神話に由来する。
月の女神アルテミスに使えたプレアデス7人姉妹のことで
肉眼で見える主要な星には7人の名前がそれぞれ付けられている。
神話では7人の姉妹はオリオンに追いかけられる役回り。
それで、冬になると
「すばる」の後を追いかけてオリオン座も東の空に現れる。
さらにもうひとつ、「すばる」には名前がある。
名前というか「M45」という記号がそれだ。
18世紀のフランスの天文学者シャルル・メシエによるもので
メシエは星雲や星団、銀河を分類して(『メシエカタログ』という)
それぞれに自身の頭文字「M」で始まる記号をつけた。
その45番目が「すばる」というわけだ。
ちなみに「M1」は「すばる」同様、おうし座にある「カニ星雲」と呼ばれる天体だ。
天体といっても星ではない。
千年前に超新星爆発により生まれた星の残骸、それが星雲状に見える。
実はこの話は有名で、当時の中国や日本でもいくつかの文献に
突如、金星のように明るい星が現れたと記されてあるようだ。
残念ながら今ではその輝きを失い、肉眼で「M1」を探すことは難しい。
次いで...を続けると、
誰もが知っている銀河の代表格アンドロメダ星雲は「M31」。
さらに、ウルトラマンの生まれ故郷は「M78」星雲である。
話が怪しくなってきたが、「M78」は実在する。
ウルトラマンの話はともかくオリオン座の三ツ星の近くにあるのだ。
さて、ひさしぶりに(...というか何十年ぶりに)
「すばる」を間近に眺めた感動から
昔覚えたウンチクを思いつくままに書き連ねた。
けれども、その感動とは裏腹に自分が持つカメラ機材では
くだんの写真が限界とも思い知らされた。
いよいよ空が澄み渡り、役者揃いの冬の星座が天にかかる。
それを前にカメラ散財の悩ましさは募るばかりだ。