Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

ダリアの花、164

2017-05-06 11:45:09 | 日記

 「そう、それでは、君は向日葵の事が最初怖かったけれど、よく見て花だと分かり、先生に向日葵が君の事を好きだと言われて好きになり、

向日葵が皆に嫌われているから可哀そうになり、それで君は尚更向日葵の事が好きになり。今では一番好きな花何だね。」

光君の祖父が明快ににこやかにそう言うと、蛍さんは目を丸くして驚きました。

 何しろ、今まで全く見当はずれな事をグダグダ言っていた目の前のおじさんが、将にぴったりと彼女の心の動きを言い当てたのですから、

彼女にすると驚き以外の何物でもなかったのでした。

真顔で目を丸くしながら、うんうんと彼女は頷きました。そして彼の言葉に補足しました。

「それと、私の好きな黄色い花だからよ、大きいし。」

と付け足しました。自分より大きいから好きなのと。

 光君の祖父は考えるように沈黙していましたが、内心複雑な感情にとらわれていました。

光君はどう育っても蛍さんより背丈が高くなりそうに思えませんでした。『誰に似たのかしら。』そんなことを考えていました。

それに、光君は黄色い花も、実は向日葵も好きではなく、どちらかというとその反対の嗜好を持っていたのでした。

『やっぱりね。』と、祖父は彼女に対する自分の読みが正しかった事を感じるのでした。

だからこそ、蛍さんに最初に光君のこの世で1番嫌いな花の事を尋ねたのでした。嫌いだろうと聞かずに好きだろうと言って。

祖父には最初から、この2人の相性が酷く合わない事が、何となくではあっても感じられたのでした。

 『どうしましょう。』祖父は思案するのでした。孫の様子を見ていると、目の前の女の子に対して気持ちが引いていくという気配はありません。

この子はというと、全くその気はないどころか、多分孫の事は嫌いな部類の男性に当たるんだろうと感じます。

どうにかして孫がそう傷つかない内に引き離す事が出来ないか、この子にしても、

今でさえ孫の為に相当酷い目に遭っている、そう思うと、双方の為に何とかこの縁談を破談にしなければと考えるのでした。

 しかし、しかしなぜ、これほど相性の悪い2人が、あの世界では結婚してうまくやっているのだろうか?そんな事もぼんやりと頭に浮かんで来るのでした。

「世の中には明快に割り切れない物事もあるものだがなぁ。」

この2人もそんな関係なんだろうか。祖父は顔を曇らせて、ぼーっと沈黙して俯いてしまいました。

 「如何ですか?もうお話は済みましたか。」

快活な明るい声を響かせて、いかにも嬉しそうに蛍さんの父が本堂に入って来ました。

「今日はお日柄もよく、お天気も良く、将に縁談が整うにはぴったりの日でしたよ。今カレンダーで確認してきました。」

いかにも嬉しそうに笑いながら、揉み手をして蛍さんの父は言うのでした。

 


ダリアの花、163

2017-05-06 11:14:55 | 日記

 ここ迄の向日葵に纏わる蛍さんの話を聞いて、光君の祖父は言いました。

「それでは、君は向日葵が怖いんだね。」

何だか彼女の長話に飽き飽きしたという風情でしたが、蛍さんにそんな彼の感情を読み取る力などありません。

「違うわ、私向日葵は大好きよ。怖くないし。向日葵はお花だもの。」

と、蛍さんはびっくりして答えました。

 「お花が怖いなんて、お花は可愛いか綺麗な物よ。」

そう言う蛍さんの顔を笑って眺めながら、光君の祖父は蛍さんの本心を見透かしたようにこうも言うのでした。

「でもね、君は確かに向日葵を見て化け物だと思い、逃げようと思ったじゃないか。」

そう祖父に指摘されると、蛍さんは自分の心の中の闇を言い当てられたようでやや狼狽しました。

 「それは確かにそう言う時もあったけど、その後よく向日葵を見て、普通のお花だと分かったから、お花は動けないし、そこに咲いているだけだもの。」

どんなに大きくても怖くないわ。それより、向日葵ってあんな小さな種から、とても大きくて立派なお日様みたいな花を咲かせるんだなぁって、

そう思うととてもステキな花だって、ホーちゃんは今は思っているんだから。

そう蛍さんは、はっきりと強い口調で言うのでした。負けん気の強い彼女は弱虫や臆病者だと思われたくないのでした。

 「それに、先生が…」

そう言って蛍さんは言い淀みました。何だか自慢話のように聞こえそうで、彼女にすると言い出しにくかったのです。

それに?、光君の祖父はそこに彼女の秘密めいたものを感じて蛍さんの話を促しました。

「先生が如何したの?何かしたのかね?」

君の目の前で向日葵でも叩き折ったのかね、などと冗談を言うと、まさかと蛍さんは答えました。

 きちんと向日葵を見て、他の子みたいに逃げたりしないで、向日葵の事をよく分かってくれたから、

向日葵はきっとホーちゃんの事を好きよ、って言ってくれたの。

だから、ホーちゃんも向日葵の事を好きになってあげたの。

他の子達が皆嫌いだって言うから、向日葵が可愛そうになったの。

ホーちゃんだけでも向日葵の事を好きだと言って上げる事にしたの。

だって、私の好きな黄色い花だし、お日様みたいに輝いているから、私の事を好きでなくても、ホーちゃんは向日葵が好きなの。

 「確かに最初は怖かったけれど、今は全然そんな事無いし、とても好きになって、今は1番好きなお花なのよ。」

そう蛍さんは輝くような笑顔で光君の祖父に答えるのでした。