「そう、それでは、君は向日葵の事が最初怖かったけれど、よく見て花だと分かり、先生に向日葵が君の事を好きだと言われて好きになり、
向日葵が皆に嫌われているから可哀そうになり、それで君は尚更向日葵の事が好きになり。今では一番好きな花何だね。」
光君の祖父が明快ににこやかにそう言うと、蛍さんは目を丸くして驚きました。
何しろ、今まで全く見当はずれな事をグダグダ言っていた目の前のおじさんが、将にぴったりと彼女の心の動きを言い当てたのですから、
彼女にすると驚き以外の何物でもなかったのでした。
真顔で目を丸くしながら、うんうんと彼女は頷きました。そして彼の言葉に補足しました。
「それと、私の好きな黄色い花だからよ、大きいし。」
と付け足しました。自分より大きいから好きなのと。
光君の祖父は考えるように沈黙していましたが、内心複雑な感情にとらわれていました。
光君はどう育っても蛍さんより背丈が高くなりそうに思えませんでした。『誰に似たのかしら。』そんなことを考えていました。
それに、光君は黄色い花も、実は向日葵も好きではなく、どちらかというとその反対の嗜好を持っていたのでした。
『やっぱりね。』と、祖父は彼女に対する自分の読みが正しかった事を感じるのでした。
だからこそ、蛍さんに最初に光君のこの世で1番嫌いな花の事を尋ねたのでした。嫌いだろうと聞かずに好きだろうと言って。
祖父には最初から、この2人の相性が酷く合わない事が、何となくではあっても感じられたのでした。
『どうしましょう。』祖父は思案するのでした。孫の様子を見ていると、目の前の女の子に対して気持ちが引いていくという気配はありません。
この子はというと、全くその気はないどころか、多分孫の事は嫌いな部類の男性に当たるんだろうと感じます。
どうにかして孫がそう傷つかない内に引き離す事が出来ないか、この子にしても、
今でさえ孫の為に相当酷い目に遭っている、そう思うと、双方の為に何とかこの縁談を破談にしなければと考えるのでした。
しかし、しかしなぜ、これほど相性の悪い2人が、あの世界では結婚してうまくやっているのだろうか?そんな事もぼんやりと頭に浮かんで来るのでした。
「世の中には明快に割り切れない物事もあるものだがなぁ。」
この2人もそんな関係なんだろうか。祖父は顔を曇らせて、ぼーっと沈黙して俯いてしまいました。
「如何ですか?もうお話は済みましたか。」
快活な明るい声を響かせて、いかにも嬉しそうに蛍さんの父が本堂に入って来ました。
「今日はお日柄もよく、お天気も良く、将に縁談が整うにはぴったりの日でしたよ。今カレンダーで確認してきました。」
いかにも嬉しそうに笑いながら、揉み手をして蛍さんの父は言うのでした。