帰りの電車の中で、車窓から凪いだ波の静かな海原が見えます。日も強烈な光が和らいで夕刻を告げています。時計を見なくても夕方なのがわかります。
「日も衰えたね、夕方だね。」こんな夕宵が迫る前の気だるい午後の感じ、1日が古びていく雰囲気の中、車窓の光景は海と田園と違っていても、彼女と連れ立って帰る車内に私は慣れていました。
高校卒業から5ヶ月程、まだ この状態が懐かしいという感覚はありません。高校時代の延長のような気がしてしまいます。
私達2人は部が同じで下校時いつも一緒でしたから、この時間帯、電車での帰宅、駅で別れる迄の間ずーとぺちゃくちゃ会話するのは常の事でした。
楽しかったね、いい人達だったね、さっき海岸の駅まで送ってくれた2人の話です。
また何処かで会えるといいね、そう言うと、私は必ずもう一度会いたい
と彼女が言うので、えー!
と、びっくりしてしまいました。
顔を見ると、目の前に虹がかかっています。夢見る乙女の顔がそこにありました。
私にはそこまでの情熱が無いと思うと、彼女が羨ましく思えます。
海に目をやると自分の気持ちも凪いで行くようです。私はそこまで思えない、また何処かで会えたらそれでいいと思う程度よ、と友人の情熱に打たれたことを話します。
さっき迄一緒だった彼ら2人は、話してみると、私が写真サークルで紹介された同郷の人と偶然にも同じ高校出身でした。顔合わせ会で一度会った切りだけど、今度会ったらさっきの彼らのフルネームや住所、電話番号など、知っているかどうか話を聞いてみるわと彼女に約束します。
お願いね、嬉しそうに笑顔で笑う彼女は本当にこの上なく幸せそうでした。
彼女に限らず、私に取っても今日のこの日はこの上なく楽しい1日となりました。
朝、上々の好天に恵まれて家を出て、風も無く波も静か
、自由を満喫するだけのつもりがガールハントされて
、躊躇いながら話す内にとても良い人達だと分かり
、別れてから今日の幸福な余韻に浸っている2人なのでした。
学歴から言うと(地域名)高校から(地元名)大学、もう一人は一浪して(中部地区の都市名)大学とか、私達にとっては申し分のない良さでした。最後は互いに下の名前を言って握手して別れて来ましたが、電話番号だけは教えませんでした。彼女との最初からの約束でしたから。向こうもかなり電話番号を聞いてきましたが、最後はそれが礼儀という感じで聞いているのかなという程度のしつこさに変わりました。やはり2人共地域の顔ですね、最後まで紳士的でした。そんな点でも好印象でした。
本当にとても良い夏の日の1日の思い出となっています。