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兵庫県情報公開審査会 答申第62号 取調べ中における手錠・腰縄の施用例等部分公開の件

2007年09月19日 | 国/公共の安全等に関する情報
答申第62号

平成19年9月19日
兵庫県公安委員会 様

情報公開審査会
会長 錦織 成史

公文書の部分公開決定に係る審査請求に対する裁決について(答申)

平成18 年11 月16 日付け兵公委発第332 号で諮問のあった下記の公文書に係る標記の件について、別紙のとおり答申します。


1.「取調べ中における手錠・腰縄の施用例について(事務連絡、平成16 年3月5日付け、警察庁刑事局刑事企画課刑事指導室長、警察庁長官官房総務課留置管理官)」
2.「被疑者の取調べ時における留意事項(執務資料)(兵庫県警察本部刑事部刑事企画課)」

(別紙)
答 申


第1 審査会の結論
兵庫県警察本部長(以下「実施機関」という。)が、審査請求人に対して行った非公開決定処分に係る対象公文書(以下「本件対象公文書」という。)について、
(1)「取調べ中における手錠・腰縄の施用例について(事務連絡、平成16年3月5日付け、警察庁刑事局刑事企画課刑事指導室長、警察庁長官官房総務課留置管理官)」(以下「本件公文書1」という)に係る部分公開の決定は妥当である。
(2)「被疑者の取調べ時における留意事項(執務資料)(兵庫県警察本部刑事部刑事企画課)」(以下「本件公文書2」という)に係る部分公開決定において非公開とした部分のうち別表に掲げる「公開すべき部分」は公開すべきであるが、その余の部分に係る非公開は妥当である。また、本件公文書2のうち新聞記事に係る部分については、これを対象公文書としたうえで、改めて公開又は非公開の決定を行うべきである。

第2 審査請求人の主張要旨
1 審査請求の趣旨
本件審査請求の趣旨は、本件対象公文書の公開請求に対して、実施機関が平成18年6月9日付けで行った部分公開決定を取り消し、その全部を公開するよう求めるものである。

2 審査請求の理由
審査請求書において述べられた本件審査請求の理由は、次のとおり要約される。

(1) 本件公文書1について
写真の部分は全て黒くぬりつぶしており、全く意味不明であり、不透明である。
個人のプライバシーの妨害や侵害であるなら顔の部分を黒くぬりつぶすのは納得もいくが、どのように手錠・腰縄の施用がされているのかが全く不明であり、このような情報開示は不当である。

(2) 本件公文書2について
ア 捜査の手法等に関する情報が記録されている部分について
1ページと2ページの目次と7ページだけが開示されており、あとの11枚については、兵庫県警察本部刑事部刑事企画課の都合の悪い部分を黒くぬりつぶしており、文面や内容等についても一切わからない。

イ 新聞記事について
本来新聞は公共において一般の人が見ることができるものである。それを不特定多数の者に販売することを目的として発行されるものであることから「公文書」に該当しないとしているが、それならなぜ情報公開文書と記載しているのか。本来新聞は誰でも見られるものである。公開しない部分に載せている以上公文書として例をあげているのである。

ウ まとめ
警察の都合の悪い部分を、情報公開条例(以下「条例」という。)を理由に開示しないのは不服である。

第3 諮問庁の説明要旨
非公開理由説明書及び意見陳述において述べられた非公開理由は、次のとおり要約される。

1 本件公文書1について
(1) 条例第6条第3号の該当性について
本件公文書1は、警察庁から都道府県警察本部の刑事部指導担当課長、留置管理課長等に発出された文書であり、被留置者の逃走事故を防止する目的で他県警察での取調中における手錠・腰縄の施用例を具体的な図及び写真を用いて紹介したものである。当該公文書に掲載された図及び写真には、手錠や腰縄の結束状況や結束位置など逃走防止のための具体的な措置方法が詳細に示されていることから、これらが公になることにより、被留置者がこれらに対する対抗措置を講じるなど逃走を企てるおそれが生じるものと認められる。よって、これらの部分は、公にすることにより、公共の安全と秩序の維持に支障が生じるおそれのある非公開情報に該当する。

2 本件公文書2について
(1) 条例第6条第3号の該当性について
本件公文書2に記載された内容のうち、具体的な取調べの手法及び留意事項、被疑者逃走防止のための措置事項を公にすれば、警察官の具体的な取調べの在り方や具体的な逃走防止措置の方法を知ることができ、被疑者の取調べに支障が生じたり、逃走を企てられたりするおそれが生じることとなる。よって、これらの記載の部分は、公にすることにより、公共の安全と秩序の維持に支障が生じるおそれがある非公開情報に該当する。なお、この資料は、外部への公表を前提に作成されたものでなく、あくまで警察官のための資料としての利用を念頭において作成されたものであり、その取扱いに配慮する「取扱注意」と指定されている。

(2) 条例第1条第2項第2号の公文書非該当文書の該当性について
新聞は条例第1条第2項第2号に列記のうえ、公文書の対象外とする旨明記されている。公文書にスクラップとして添付された新聞記事は当該新聞に掲載された記事内容を加筆、加工していない以上、その母体となる新聞としての内容又はその性質が変わるものではない。したがって、添付された新聞スクラップは、条例第1条第2項第2号に規定する新聞ととらえるべきであり、条例上の公文書の対象外とすべきである。

第4 審査会の判断
1 本件対象公文書の概要
本件公文書1は警察庁刑事局刑事企画課刑事指導室長、警察庁長官官房総務課留置管理官から発出された平成16年3月5日付け、事務連絡「取調べ中における手錠・腰縄の施用例について」であり、本件公文書2は兵庫県警察本部刑事部刑事企画課が作成した執務資料「被疑者の取調べ時における留意事項」である。

2 非公開情報該当性について
(1)本件公文書1について
ア 条例第6条第3号の該当性について
条例第6条第3号は、公開請求に係る公文書に「公にすることにより、犯罪の予防、鎮圧又は捜査、公訴の維持、刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると実施機関が認めることにつき相当の理由がある情報」が記録されている場合には、これらの情報を除いて公開しなければならないことを定めたものである。これは公文書の公開による犯罪の誘発その他の社会的障害の発生を防止することを目的とした趣旨と解される。
本件の場合、取調べ中における手錠・腰縄の施用例が公開されれば、実施機関が述べたように全国の警察において実際に行われている施用例に係る具体的な図や写真を含む情報を公にすることになる。このことによって、事前に逃走を企てるものに有益な情報を与えることになり、取調べを受ける者の逃走を容易にするものと考えられることから、公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると実施機関が判断したことには、相当の理由があると認められる。
加えて、取調べを受ける者は、この施用例を標準的な施用方法と受け取ることから、取調官が個別の取調べに当たって、少しでも施用例とは違った取扱いをすることに心理的な負担、不安を覚える可能性が生じないとはいいきれない。このことから、本件施用例を公開すれば、取調官が取調べを受ける者に応じた適切な手錠、腰縄の施用に躊躇するなど、適正な取調べの遂行に支障を及ぼすおそれがあることから、公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると実施機関が判断したことには、相当の理由があると認められる。
以上のことから条例第6条第3号に該当する。

(2)本件公文書2について
ア 条例第6条第3号の該当性について
実施機関は、本件公文書2の記載内容のうち、具体的な取調べの手法及び留意事項、被疑者逃走防止のための措置事項については、「公にすることにより犯罪の予防、鎮圧又は捜査、公訴の維持、刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると実施機関が認めることにつき相当の理由がある情報」であり、条例第6条第3号に該当するとして非公開としているので、以下検討する。

a 取調場所(1(3)イのうち(ア)(イ))
実施機関は、やむを得ない理由により取調べ室以外で取調べを行う場合の配意事項が公になると、逃走防止の観点から支障があり、条例第6条第3号に該当すると主張するが、(ア)(イ)いずれも一般的に配意すべき事項にすぎず、これを公開することによって逃走を容易にするなどは考えられない。したがって、公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると実施機関が判断したことには、相当の理由があるとは認められない。

b 取調官の人数(1(4))
実施機関は、取調官の人数について、これを公開すると本来の捜査活動や公判の維持に支障を及ぼすおそれがあり、条例第6条第3号に該当すると主張するが、通常取調べを受けた取調官の数は、被疑者およびその弁護人にとっては関心の高い事項であることから、これを公開することによって、相手方に裁判長期化の口実などに利用されるものではなく、捜査活動や公判の維持に支障がでるとは考えにくい。したがって、公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると実施機関が判断したことには、相当の理由があると認められない。

c 取調べ時の留意事項(1(5)エ)
取調べ時の留意事項のうち、当該情報については、拘束被疑者の動静監視についての留意点が記載されており、この情報が公にされると、被疑者の逃走を容易にし、逃走防止の観点から支障が生じるものと考えられることから、公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると実施機関が判断したことには、相当の理由があると認められる。

d 取調室の保管管理(1(6)ウの一部)
実施機関は、取調室等での携帯電話の使用に係る情報について、これが公にされると、捜査活動や公判の維持に支障を及ぼすことから、条例第6条第3号に該当すると主張するが、ここでは、拘束被疑者に取調室等で携帯電話を使用させた場合の問題点が記載されているに過ぎない。したがって、公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると実施機関が判断したことには、相当の理由があると認められない。

e 前科者の特性(2(1)アの一部)
実施機関は、前科者の特性について記述している3点については、これらの情報が公にされると、取調べの手法が明らかになるなど、被疑者の取調べに支障が生じるおそれがあり、条例第6条第3号に該当すると主張するが、これらのうちの3点目については、一般的な留意事項についての記述に止まっており、適正な取調べの遂行に支障を及ぼすおそれがあるとは考えにくい。
したがって、公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると実施機関が判断したことには相当の理由があると認められない。
他方、1点目及び2点目は、それぞれ取調べの手法に繋がる情報であると同時に、被疑者に悪用されるおそれのある情報であることから、公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると実施機関が判断したことには、相当の理由があると認められる。

f 前科者の取調べに当たっての留意事項(2(1)イ)
ここに記載されている情報は、取調べの手法に関わる部分であり、これらが公にされると、取調べの具体的な方法が被疑者に知られることになり、適正な取調べの遂行に支障を及ぼすおそれがあることから、公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると実施機関が判断したことには、相当の理由があると認められる。

g 初犯者の取調べ(2(2)イ)
実施機関は、初犯者の特性に係る記載がされている(ア)から(ケ)までの9点について、初犯者の特性に基づく取調べに当たっての具体的な留意事項であって、これらを公にすることにより、真相を明らかにするための取調べに支障を及ぼすおそれがあり、条例第6条第3号に該当すると主張するが、(ク)(ケ)については、内容も一般的な留意事項であることから、適正な取調べの遂行に支障を及ぼすおそれがあるとは考えられず、公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると実施機関が判断したことには、相当の理由があると認められない。
また、(ア)から(キ)までの7点については、取調べの具体的な方法、手法に係る記載がされており、これらが公にされ、被疑者に知られると、適正な取調べの遂行に支障を及ぼすおそれがあることから、公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると実施機関が判断したことには、相当の理由があると認められる。

h 女性被疑者の取調べに当たっての留意事項のうち、女性被疑者の取調べ立会補助者の付与等(2(3)イ(イ))
女性被疑者の取調べに当たっての留意事項が具体的に記載されており、これらの情報が公にされると逃走や公判の維持に支障を及ぼすおそれがあることから、公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると実施機関が判断したことには、相当の理由があると認められる。

i 女性被疑者の取調べに当たっての留意事項のうち、言動等の配慮(2(3)イ(エ)のa,b)、毅然とした態度による取調べ、(2(3)イ(カ)の一部)その他(2(3)イ(キ)のa,b)
実施機関は、これらが公にされると、ありもしない事実を主張されるなど、捜査活動や公判の維持に支障を及ぼすおそれがあり、条例第6条第3号に該当すると主張するが、これらはいずれも女性を相手に取調べを行うに当たって留意すべき、一般的、常識的な事項が記載されているにすぎず、これらの情報が公にされても、捜査活動や公判の維持に支障があるとは考えられないことから、公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると実施機関が判断したことには、相当の理由があると認められない。

j 少年の特性(2(4)アの一部)
実施機関は、少年被疑者の特性について記載された部分であり、これが公にされると、取調官との信頼関係が揺らぎ、少年被疑者の真の改悛が得られなくなるおそれがあることなどから、条例第6条第3号に該当すると主張するが、少年に関する一般的な特性が記載されているにすぎず、これらの情報が公にされても、実施機関が主張するような支障があるとは考えられないことから、公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると実施機関が判断したことには、相当の理由があると認められない。

k 少年被疑者の取調べに当たっての留意事項(2(4)イ)
実施機関は、少年被疑者の取調べに当たっての留意事項に係る記載がされている(ア)から(サ)までの11点について、少年被疑者の特性について記載された部分であり、これが公にされると、取調官との信頼関係が揺らぎ、少年被疑者の真の改悛が得られなくなるおそれがあることから、条例第6条第3号に該当すると主張するが、(ア)から(ケ)、(コ)の前段については、取調べに当たっての一般的な留意事項が記載されているにすぎず、これらが公にされても実施機関が主張するような支障のおそれは考えられないことから、公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると実施機関が判断したことには、相当の理由があると認められない。
一方、(コ)の後段、(サ)については、少年被疑者の取調べ方法、手法が記載されており、これらが公にされると、少年被疑者の真の改悛が得られなくなるおそれがあり、取調べに支障が生じるおそれがあることから、公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると実施機関が判断したことには、相当の理由があると認められる。

イ 条例第1条第2項第2号の公文書非該当文書の該当性について
実施機関は、本件公文書2の別紙として編冊されている新聞について、条例第1条第2項第2号により、公文書の対象外としている。その理由として、公文書にスクラップとして添付された新聞記事は、当該新聞に掲載された記事内容を加筆、加工していない以上、その母体となる新聞としての内容又はその性質が変わるものではなく、したがって、添付された新聞スクラップは、条例第1条第2項第2号に規定する新聞ととらえるべきであり、条例上の公文書の対象外とすべきであると主張する。
しかし、本件各新聞記事は、他の公文書と不可分一体の形で編冊されていることから、新聞記事の部分も含め全体として情報公開請求の対象となる「公文書」とみるべきである。
したがって、本件各新聞記事を対象公文書としたうえで、改めて条例に基づき、公開又は非公開の決定を行うべきである。

3 以上のことから、「第1 審査会の結論」のとおり判断するものである。

別表
本件処分で非公開とされた部分公開すべき部分





「1 被疑者の取調べ時における事故防止」の「(3)取調場所」のイのうち、(ア)(イ)、「(4)取調官の人数」の一部、「(5)取調べ時の留意事項」の(エ)、「(6)取調室の保管管理」の(ウ)の一部
「2 被疑者の取調べ時における留意事項」の「(1)前科者の取調べ」のアの一部、イの(ア)から(ケ)まで、「(2)初犯者の取調べ」のイの(ア)から(ケ)まで、「(3)女性被疑者の取調べ」のイの(イ)のa からe まで、(エ)のa、b、(カ)の一部、(キ)a、b、「(4)少年被疑者の取調べ」のアの一部、イの(ア)から(サ)まで
「1 被疑者の取調べ時における事故防止」の「(3)取調場所」のイのうち、(ア)(イ)、「(4)取調官の人数」の一部、(6)取調室の保管管理」の(ウ)の一部
「2 被疑者の取調べ時における留意事項」の「(1)前科者の取調べ」のアの3 点目、「(2)初犯者の取調べ」のイの(ク)(ケ)、「(3)女性被疑者の取調べ」のイの(エ)のa、b、(カ)の一部、(キ)a、b、「(4)少年被疑者の取調べ」のアの一部、イの(ア)から(ケ)まで、(コ)の前段
新聞記事


(参考)
審査の経過
年 月 日経 過
18.11.16・諮問書の受領
18.12. 5・諮問庁の意見書の受領
19. 5.22
(第185回審査会)
・処分庁の職員から非公開理由の説明を聴取
19. 6.18
(第186回審査会)
・処分庁の職員から非公開理由の説明を聴取
19. 7.25
(第187回審査会)
・審議
19. 8.28
(第188回審査会)
・審議
19. 9.19・答申


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