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情報公開・個人情報保護審査会 平成19年度(行情)答申第424号 特定会社に係る個人情報漏えい等に…

2008年02月15日 | 国/公共の安全等に関する情報
諮問庁 : 経済産業大臣
諮問日 : 平成19年 4月24日 (平成19年(行情)諮問第184号)
答申日 : 平成20年 2月15日 (平成19年度(行情)答申第424号)
事件名 : 特定会社に係る個人情報漏えい等に関する報告等の一部開示決定に関する件

答 申 書


第1  審査会の結論
 特定会社に係る個人情報漏えい等に関する報告等に係る別紙に掲げる文書7件(以下「本件対象文書」という。)につき,その一部を不開示とした決定について,異議申立人が開示すべきとする部分のうち,諮問庁がなお不開示とすべきとしている部分については,別表の「開示すべき部分」欄に掲げる部分を開示すべきである。

第2  異議申立人の主張の要旨
1  異議申立ての趣旨
 本件異議申立ての趣旨は,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)3条の規定に基づく開示請求に対し,平成18年11月1日付け平成18・10・30公開経第1号により経済産業大臣(以下「処分庁」又は「諮問庁」という。)が行った本件対象文書の一部開示決定(以下「原処分」という。)について,その取消しを求めるというものである。

2  異議申立ての理由
 異議申立人の主張する異議申立ての主たる理由は,異議申立書及び意見書の記載によると,おおむね以下のとおりである。

(1)  異議申立書
 「漏えいした戸籍データに係る地方公共団体の名称」を公にすると,なりすまし等により脅迫,恐喝等の犯罪を誘発する等,犯罪の予防その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあるため,法5条4号に該当すると処分庁は理由を述べているが,仮に関係地方公共団体に脅迫,恐喝等が行われた場合,警察への通報など必要な手段を講じれば足りるものであり,これをもって法5条4号の適用に合理性があるとはいえず,裁量権を逸脱している。むしろ,どの地方公共団体の戸籍データが漏えいしたのかを明らかにしないことによって,データを漏えいされた市民は民事訴訟等による損害賠償請求ができなくなるなど,救済プロセスを阻害されることになる。
 したがって,処分庁が不開示とする理由はない。

(2)  意見書
ア  本事案に係る戸籍データの漏えいは,特定会社の協力会社の社員がデータを持ち出し転売したものであり,結果的に自治体名が一般に明らかにされていないだけである。
 個人情報の漏えい等の問題が発生した場合について,個人情報の保護に関する法律(以下「個人情報保護法」という。)7条1項の規定に基づく閣議決定「個人情報の保護に関する基本方針」の「6 個人情報取扱事業者が講ずべき個人情報の保護のための措置に関する基本的な事項」の(1)①で「事業者が行う措置の対外的明確化」について言及があり,そこで「事業者において,個人情報の漏えい等の事案が発生した場合は,二次被害の防止,類似事案の発生回避等の観点から,可能な限り事実関係等を公表することが重要である」とされている。
 事業者,諮問庁ともに自治体名を公開して二次被害の防止を図る必要が,本来的にあるはずであり,自治体名を公開しても,犯罪の予防その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると言うことはできず,明らかに合理性に欠ける裁量権を逸脱した不開示決定である。
イ  諮問庁の法5条2号イ該当性の主張については,地方公共団体を始め,国の行政機関においても,委託等の契約の相手方の事業者名については,通常,公開とされ,もはや企業秘密と位置付けられるものではない。
 本事案においては,実際に契約を行った自治体が契約の相手方である特定会社の名称を公開するという通常の筋道ではなく,事件が起こったことにより処分庁が取得した,特定会社との契約関係にある自治体名を公開するという異なる筋道であるが,このことをもってことさら,企業秘密と位置付け,法人の正当な利益を害するとして,法5条2号イを適用することは誤りである。
ウ  諮問庁の法5条6号の該当性の主張については,個人情報保護法は,主務大臣が法の施行に必要な範囲で任意に個人情報取扱事業者に報告を求めるのみならず,同法32条において個人情報取扱事業者からの報告の徴収についての主務大臣の権限が定められ,また,同法57条においては,同法32条の規定による報告をせず,または虚偽の報告をした者に対する罰則が定められているところである。
 したがって,本件事案のように戸籍データの漏えいという重大な事態においては,仮に事業者が任意の報告に応じなければ,これらから,主務大臣としての権限を行使して報告を徴収すれば足りるはずであり,主務大臣は適切な報告を実施させる権限を有しているのであって,事務の性質上,事務の適正な遂行に実質的な支障を及ぼすおそれはなく,法的保護に値する蓋然性もない。
 当該自治体は,特定会社に戸籍のデータベース化とその後の維持管理等について委託契約を行っているが,データベース化とその維持管理は本来的には自治体の事務であり,特定会社に契約を適切に遂行させデータを安全に管理し,市民の権利利益を守る義務は当該自治体にある。
 自治体名が明らかにされれば,通常多くの自治体が行っているのと同様に,甘受すべき負担として市民に対する真しな対応,対策・対応についての周知を行うべきものであり,事務の性質上,当該地方公共団体の事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれはなく,法的保護に値する蓋然性もない。
エ  諮問庁は,本件不開示部分について,「本件直後における特定会社の認識に基づき,本件被告人が当該地方公共団体の戸籍データを入手したと自ら申し述べたものとして記載されたものであり,本件に係る第一審において,本件において漏えいしたとされる戸籍データに係る地方公共団体として特定されたものでない。よって,当該地方公共団体の名称を開示することは,異議申立人の主張する,どの地方公共団体のデータが漏えいしたのかを明らかにすることに必ずしもつながるものでなく,本件不開示部分が開示されなければ救済プロセスが阻害されるとの主張は妥当しない」と述べている。
 諮問庁の「どの地方公共団体のデータが,漏えいしたのかを明らかにすることには,必ずしもつながるものではなく」という説明は,本件異議申立てで争われている行政文書に記載された自治体名と,第一審でデータが漏えいしたと特定された自治体名が異なるとも解することができる。相違があるのであれば,処分庁はその旨を書面にて明らかにし,審査会においては,異議申立人にそれを前提にした意見を述べる機会を与えるべきである。
 なお,諮問庁が,本件異議申立てで争われている行政文書に記載された自治体名が,捜査や裁判という手続を経て特定されたものではないことをもって,このような主張をしているのであれば,どのような経緯を経て記載された情報かが問題なのではなく,どの自治体かということが救済プロセスにおいては重要であることから,理由にならない。

第3  諮問庁の説明の要旨
1  本件対象文書の概要
 本件開示請求の対象文書として特定したのは,特定会社における戸籍データ漏えい事件(以下「本事件」という。)に関する別紙に掲げる文書である。
 本件対象文書のうち文書1及び文書5は,個人情報保護法20条に規定する個人データの安全管理措置の一環として,処分庁にて作成した参考様式により,個人情報取扱事業者である特定会社及びその親会社から任意で提出を受けたものであり,文書1は平成18年8月15日に特定会社の親会社から,文書5は同年9月12日に特定会社からそれぞれ提出されたものである。
 文書2は,同年8月15日に特定会社が処分庁を訪問し,処分庁の担当者が事情聴取を行った際の照会事項について,特定会社から提出された回答書である。
 文書3及び文書4は,処分庁の担当者から,「再発防止策として具体的にどういう対応をしているか」との照会を受け,特定会社の担当者が処分庁に来訪して状況を説明する際に手交したものである。
 文書6は,本事件を受けて,特定会社において行われたセキュリティ対策の立案状況及び実施状況に関する報告書で,同年9月29日に処分庁に提出されたものである。
 文書7は,特定会社がその顧客あてに配布した,戸籍システムセキュリティ強化策の内容とその効果に関する説明文書であり,文書6に続く経過報告として,特定会社から処分庁に対して,任意で提出されたものである。

2  原処分における処分庁の決定及び理由
(略)


3  異議申立人の主張についての検討
(1)  追加開示部分について
 本件異議申立て部分のうち,本事件に係る被告人の行為の具体的態様に関する記載の一部(上記2(1)イ及び(3)イの部分)(以下「追加開示部分」という。)については,当該行為に係る公訴事件の第一審が終結した現時点においては,原処分において当該部分を法5条4号の不開示情報に該当する根拠となった「現在公訴手続が係属中であり,これを公にすることにより,当該公訴手続の遂行に混乱を来す」おそれがなくなったため,開示することとする。

(2)  不開示情報該当性について
 異議申立人は,本件異議申立て部分について,「法5条4号の適用に合理性があるとはいえず,裁量権を逸脱している」と主張しているので,本件異議申立て部分から追加開示部分を除いた部分(すなわち,上記2(1)ア,(2)及び(3)アの漏えいした戸籍データに係る地方公共団体の名称。以下「本件不開示部分」という。)が同号その他の同条各号に該当するか否かについて,以下,具体的に検討する。

ア  法5条4号該当性について
 本件不開示部分は,本事件において漏えいされたとされる戸籍データに係る地方公共団体の名称が記載されたものであるが,既に公表されている,あるいは公開情報から一般に推測(特定)できるものでない。したがって,これを公にすることにより,当該地方公共団体における住民において無用な混乱・不安を生じさせ,これに乗じて当該地方公共団体のみならず当該地域住民等を相手とした脅迫,恐喝等の犯罪を誘発する等,犯罪の予防その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあるので,法5条4号の不開示情報に該当する。

イ  法5条2号イ該当性について
 本件不開示部分は,特定会社にとっては,戸籍の電子データ化及びデータベースの作成等の業務を委託した顧客に関する情報であるが,一般に,顧客情報は重要な企業秘密として扱われるものであり,特定会社においても,外部に漏れないよう,他の顧客に関する情報と同様に厳重に管理されているものである。このような情報が公になれば,特定会社の競合他社や取引先等に対し,その営業戦略が把握され,対抗的措置がとられる等,特定会社が一方的に不利な立場に置かれ,その権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある。このため,法5条2号イに該当する。

ウ  法第5条6号該当性について
 個人情報保護法の趣旨に沿って特定会社が主務大臣に報告した内容が広く開示されることとなると,今後,同様の立場に置かれた事業者においては,主務大臣への報告に際し,顧客への影響等を勘案し,報告内容を極力具体的でないものにしようとするインセンティブが働く可能性が高い。これは,個人情報取扱事業者による主務大臣への任意の報告を本来的に好ましいものとする個人情報保護法の趣旨を損なうものであり,報告内容に関する具体性の欠如により国の機関が行う事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるため,法5条6号に該当する。
 さらに,本件不開示部分を含む報告書等(文書1,文書3及び文書5)は,本事件直後における特定会社の認識に基づき作成されたものであり,本事件に係る第一審においても,漏えいしたとされる戸籍データに係る地方公共団体として本件不開示部分に示された地方公共団体が明示されたということはなく,当該地方公共団体において自ら公表した,あるいは一般の問い合わせに対して応答したといった事情もない。よって,これが公となれば,自己の戸籍情報が漏えいしたのではないかとの不安に駆られた住民から,当該地方公共団体の担当部署への問い合わせが殺到し,当該部署における通常業務の遂行に支障を来す等,当該地方公共団体の事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるため,法5条6号に該当する。

(3)  異議申立人のその他の主張について
 異議申立人は,本件不開示部分について,どの地方公共団体の戸籍データが漏えいしたのかを明らかにしないことによって,データを漏えいされた市民は民事訴訟等による損害賠償請求ができなくなるなど,救済プロセスを阻害されることになる旨主張する。
 しかしながら,本件不開示部分は,本事件直後における特定会社の認識に基づき,本件被告人が当該地方公共団体の戸籍データを入手したと自ら申し述べたものとして記載されたものであり,本事件に係る第一審において,本事件において漏えいしたとされる戸籍データに係る地方公共団体として特定されたものでもない。よって,当該地方公共団体の名称を開示することは,異議申立人の主張する,どの地方公共団体のデータが漏えいしたのかを明らかにすることに,必ずしもつながるものではなく,本件不開示部分が開示されなければ救済プロセスが阻害されるとの主張は妥当しない。

4  結論
 以上のとおり,本件異議申立てについては,現時点において不開示情報に該当しない部分については追加開示することとするが,それ以外の部分については,原処分の正当性を覆すものではない。

第4  調査審議の経過
 当審査会は,本件諮問事件について,次のとおり,調査審議を行った。

①  平成19年4月24日  諮問の受理
②  同日  諮問庁から理由説明書を収受
③  同年6月6日  異議申立人から意見書を収受
④  同年7月11日  本件対象文書の見分及び審議
⑤  同年9月7日  諮問庁の職員(経済産業省情報処理振興課長ほか)からの口頭説明の聴取
⑥  同年12月5日  審議
⑦  平成20年2月13日  審議

第5  審査会の判断の理由
1  本件対象文書について
 本件対象文書は,個人情報取扱事業者である特定会社及び当該会社の親会社が,戸籍データ漏えい事件(本事件)に関し,個人情報保護法20条に規定する個人データの安全管理措置の一環として,処分庁に対し任意で提出した個人情報漏えい等に関する報告等であり,具体的には別紙に記載した7件の文書である。
 異議申立人は,諮問庁が本件異議申立て部分のうち被告人の行為の具体的態様に関する記載の一部を追加開示するとしたことから,なおも諮問庁が不開示とする漏えいした戸籍データに係る地方公共団体の名称(本件不開示部分)について,法5条2号イ,4号及び6号に該当しないことを主張し,原処分の取消しを求めている。
 当審査会において,文書1,文書3及び文書5を見分したところ,文書1及び文書5については,「③事案の類型と概要」及び「⑥経緯」の中で,文書3については,「1.3事業の契約期間」及び「2.個人情報の管理体制」の中で,漏えいした戸籍データに係る複数の地方公共団体の名称が不開示とされていることが認められる。
 そこで,以下において,文書1,文書3及び文書5における本件不開示部分の不開示情報該当性について,検討する。

2  不開示情報該当性について
(1)  文書1及び文書5について
ア  法5条2号イ該当性について
 諮問庁は,口頭説明において,漏えいした戸籍データに係る地方公共団体の名称が公になると,当該団体に対する情報公開条例に基づく開示請求により,特定会社への委託内容を把握することが可能になり,当該委託内容と既に文書3で開示している地方公共団体ごとの特定会社との契約期間及び生産工程における作業人数と照合することにより,特定会社の戸籍総合システムの工程処理能力,工程処理方法,作業上の人的資源の配分等の営業上の秘密情報である営業戦略を推定することが可能になるとする。その上で,特定会社の営業戦略が推定されると,競合事業者から当該地方公共団体に対し,特定会社に比較して有利な条件での事業提供の提示等が行われることとなり,特定会社にとっては顧客を奪われる等の競争上の不利益を被ることが懸念されることから,当該情報は法5条2号イの不開示情報に該当すると説明する。
 しかしながら,文書1及び文書5については,下記(2)で検討する文書3の記載内容と異なり,事案の概要や経緯の記述の中で,漏えいしたとされる戸籍データに係る地方公共団体の名称が不開示とされているにとどまり,特定会社の営業上の秘密にかかわるような情報は記載されていない。また,下記(2)のとおり,文書3に記載された地方公共団体名は不開示が妥当と認められることから,その名称を開示しただけでは,特定会社の営業戦略が競合事業者に推定されるおそれは乏しいので,特定会社の正当な利益を害するおそれがあるとは認められない。
 したがって,当該情報は,法第5条2号イの不開示情報に該当しないと判断される。

イ  法5条4号該当性について
 諮問庁は,口頭説明において,漏えいした戸籍データに係る地方公共団体の名称について,①恐喝未遂事件の被告人から特定会社に対して,地方公共団体の名称について言及があったものの,言及の内容の真偽は不明である,②恐喝未遂事件の公判においても,地方公共団体の名称は明らかにされていない,③漏えいしたとされる戸籍情報を警察が押収しており,客観的に判断できる事実を得られないとする。その上で,公表されていない,あるいは公開情報から一般に特定できるものではない当該地方公共団体名を公にすることにより,当該地方公共団体の住民に無用の混乱・不安を生じさせ,これに乗じて当該地方公共団体のみならず当該地域住民等を相手とした脅迫,恐喝等の犯罪を誘発する等,犯罪の予防その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあることから,法5条4号の不開示情報に該当すると説明する。
 しかしながら,当該地方公共団体の名称を開示した場合,戸籍情報を悪用した犯罪発生の可能性が全くないとは言えないが,諮問庁によれば,本事件については,既に新聞(平成18年9月)により,都道府県名まで報道されている中で,かかる犯罪を誘発したとの事実は確認されておらず,また,本件戸籍データの二次漏えいも確認されていないとのことであるから,当該地方公共団体の名称を開示しても,直ちに脅迫,恐喝等の犯罪を誘発する等のおそれがあるとは言えない。
 したがって,当該情報は,公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由があるとは言えないから,法5条4号に規定する不開示情報に該当しないと判断される。

ウ  法5条6号該当性について
 諮問庁は,口頭説明において,文書1及び文書5に記載されている地方公共団体の名称は,実際に戸籍情報が漏えいしたと確認された団体名ではなく,戸籍情報が漏えいした可能性があるが真偽が確認できない団体名であり,開示することにより,当該地方公共団体の戸籍情報が漏えいしたかのように地域住民等に想起させて,当該地方公共団体の担当部署に問い合わせが殺到するようになるなど,当該団体の事務に無用の混乱を生じさせるおそれがあるとし,法5条6号の不開示情報に該当すると説明する。
 地方公共団体の名称を開示した場合,地域住民等が不安に感じて一時的に問い合わせ等が寄せられる可能性がないとは言えないが,住民からのこのような問い合わせに対応すること自体は,地方公共団体において通常行われるべき事務である上,本事件については,既に新聞等により,都道府県名まで報道されている中で,当該地方公共団体においてそのような問い合わせ等がなく,現在まで本件戸籍データの二次漏えいも確認されていないことからすると,問い合わせ等により殊更混乱が生じるとは考えられず,当該地方公共団体における事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるとまでは言えない。
 また,諮問庁は,個人情報保護法の趣旨に沿って特定会社が主務大臣に報告した内容が広く開示されることになると,今後,主務大臣への報告に際し,顧客への影響等を勘案し,報告内容を極力具体的でないものにしようとするインセンティブ(誘因)が働く可能性が高く,報告内容に関する具体性が欠如することにより国の機関が行う事務の適正な遂行に支障を及ぼす蓋然性があることから,法5条6号の不開示情報に該当すると説明する。
 しかしながら,上記アのとおり,当該地方公共団体の名称は,これを公にしても,特定会社の正当な利益を害するとは認められない情報であること,また,個人情報保護法32条において個人情報取扱事業者からの報告の徴収についての主務大臣の権限を定め,「個人情報の保護に関する基本指針」(平成16年4月2日閣議決定)において,事業者の責務として,個人情報の漏えい等の事案が発生した場合は,可能な限り事実関係等を公表するとされていることにかんがみると,個人情報取扱事業者からの報告の内容が不十分である場合には,主務大臣がより具体的な内容を報告させることが可能と考えられることから,処分庁の事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるとまでは言えない。
 したがって,当該情報は,法5条6号の不開示情報に該当しないと認められる。

エ  上記アないしウのとおり,文書1及び文書5の不開示部分は,法5条2号イ,4号及び6号のいずれにも該当しないと判断されるから,別表の「開示すべき部分」欄に掲げる部分は開示すべきである。

(2)  文書3について
 文書3については,文書1及び文書5と異なり,地方公共団体にそれぞれ対応する戸籍システム契約の契約期間及び個人情報の管理体制の詳細な内容が記載されており,本件開示請求に対しては,地方公共団体名を除くそれらの情報はすべて開示されている。
 このため,文書3のうち,3事業の契約期間及び個人情報の管理体制表における地方公共団体の名称については,これを開示すると,当該文書において既に公表されている,特定会社と各地方公共団体との契約期間や,特定会社が各地方公共団体の戸籍総合システム構築に投入している個人情報取扱者数と対比することにより,各地方公共団体のシステムにつき,特定会社の営業上の秘密情報である戸籍総合システムの工程処理能力,工程処理方法,作業上の人的資源の配分等が推定され,特定会社の競争上の地位その他正当な利益が害されるおそれがあると認められる。
 したがって,当該情報は,法第5条2号イの不開示情報に該当することから,不開示が妥当である。

3  本件決定の妥当性について
 以上のことから,本件対象文書につき,その一部を法5条1号,2号イ及び4号に該当するとして不開示とした決定について,異議申立人が開示すべきとする部分のうち,諮問庁が同条2号イ,4号及び6号に該当するとしてなお不開示とすべきとする部分については,別表の「開示すべき部分」欄に掲げる部分は,同条2号イ,4号及び6号のいずれにも該当せず,開示すべきであるが,その余の部分は同条2号イに該当すると認められるので,不開示とすることが妥当であると判断した。

(第1部会)
委員 大喜多啓光,委員 村上裕章,委員 吉岡睦子

別紙
(略)


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