情報公開制度について考える

情報公開審査会の答申などを集めて載せています。

愛知県情報公開審査会 答申第456号 重要事件(受理)簿

2009年03月27日 | 国/公共の安全等に関する情報
答申第456号
諮問第772号

件名:重要事件(受理)簿の一部開示決定に関する件
答 申


1 審査会の結論
愛知県警察本部長(以下「警察本部長」という。)が、「重要事件(受理)簿」(以下「本件行政文書」という。)の一部開示決定において不開示とした別表の「開示しないこととした部分」欄に掲げる部分(以下「本件情報」という。)のうち、犯行用具の詳細の部分については、開示すべきである。

2 審査請求の内容
(1) 審査請求の趣旨
本件審査請求の趣旨は、審査請求人が平成19年8月27日付けで愛知県
情報公開条例(平成12年愛知県条例第19号。以下「条例」という。)に基づき行った開示請求に対し、警察本部長が同年10月10日付けで行った一部開示決定の取消しを求めるというものである。

(2) 審査請求の理由
審査請求人の主張する審査請求の理由は、条例第7条第2号、第4号及び第6号に該当しないというものである。

3 実施機関の主張要旨
実施機関の主張は、次の理由により本件行政文書を一部開示としたというものである。

(1) 本件行政文書について
本件行政文書である「重要事件(受理)簿」は、捜査第一課及び警察署の刑事課に備え付けられているものであり、「捜査書類等の作成及び取扱要領」(平成12年刑総発甲第78号。以下「要領」という。)に基づき、県内で発生した重要事件及び県外で発生した重要事件のうち、愛知県警察で検挙し、事件処理したものについて作成することとされており、当該事件の発生年月日、発生場所、被害者、被害程度、被疑者・犯人像、事件概要、逮捕・検挙状況等が記載されている。

(2) 条例第7 条第2 号該当性について
ア 本件情報のうち、別表の番号1及び2に掲げる部分は、条例第7条第2号の個人に関する情報であって、特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)又は通常他人に知られたくないと望む個人の人格若しくは財産に密接にかかわるものであるため、特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるものに該当する。

イ 本件重要事件の被害者、被疑者等の氏名、発生日時、発生場所等の事件概要は、事件発生時に報道発表されているが、条例第7条第2号ただし書イの該当性については次のとおり判断した。
愛知県公安委員会及び愛知県警察では、「公安委員会及び警察本部長が管理する行政文書の開示請求に対する開示決定等に係る審査基準」(平成17年12月愛知県公安委員会・愛知県警察本部。以下「審査基準」という。)を定め、インターネットの県警ホームページで公表しているが、審査基準の中で、「被疑者(被告人)の個人に関する情報が検挙時に広報されていても、開示決定の時点において氏名、住所等個人を特定する情報が慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている場合を除き、氏名等を部分的に不開示とし、個人が特定できない形で開示する。」「被害者の個人に関する情報については、広報・報道されている場合であっても、原則として不開示とする。」と規定している。これは、被害者又は被疑者の氏名等は、報道発表された時点においては、本号ただし書イの「慣行として公にされている情報」に該当するものと認められるが、報道発表以降は時間の経過を考慮し、事件関係者が誰であったかという事実については、個人の権利利益として保護する必要性が生じ、もはや「慣行として公にされている情報」には該当しないものと認められるとの考えからである。
この審査基準に基づき、本件行政文書の本号ただし書イの該当性について判断すると、被害者の氏名等については、同号ただし書イには該当せず、条例第7条第2号の特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)又は特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるものに該当する。また、被疑者の氏名等については、本件重要事件の発覚が最新のもので平成19年3月23日であり、報道発表を行ったのが翌3月24日であるため、一部開示決定を行った平成19年10月10日においては、すでに6か月以上経過し、マスコミにおいて頻繁に報道されているような状況にはないことから、同号ただし書イには該当せず、条例第7条第2号の特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)又は特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるものに該当する。
なお、これらの情報は、条例第7 条第2 号ただし書ロ、ハ及びニにも該当しない。

ウ 警部補及び同相当職以下の警察職員の氏名がわかる部分は、条例第7条第2号ただし書ハの例外と規定されており、同号ただし書イ、ロ及びニにも該当しないため、条例第7条第2号に該当する。

(3) 条例第7条第4号該当性について
本件行政文書には、公判中の事件に関するものが2 件含まれているが、これらの文書に記載された事件概要の一部、被疑者の聴取結果、犯行時の状態、捜査の方針・体制等を公にすることにより、本件事件に係る公訴の維持及び刑の執行に支障を及ぼすおそれがあるため、条例第7条第4号に該当する。

(4) 条例第7条第6号該当性について
捜査の検証結果がわかる部分は、個別の事件捜査の検証を目的として、各検証項目に従ってその結果が記載されているものであり、当該情報を公にすることにより、当該検証事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認められるため、条例第7条第6号に該当する。

(5) 条例第29条第1号該当性について
本件行政文書には、被疑者の犯罪経歴の有無を記載した捜査書類の写しが添付されており、当該文書は、刑事訴訟法(昭和23年法律第131号)第53条の2に規定する「訴訟に関する書類」に該当するため、条例の規定は適用されない。

4 審査会の判断
(1) 判断に当たっての基本的考え方
条例は、第1条に規定されているとおり、行政文書の開示を請求する権利を保障し、実施機関の管理する情報の一層の公開を図り、もって県の有するその諸活動を県民に説明する責務が全うされ、公正で民主的な県政の推進に資することを目的として制定されたものであり、原則開示の理念のもとに解釈・運用されなければならない。
当審査会は、行政文書の開示を請求する権利が不当に侵害されることのないよう、原則開示の理念に立って、条例を解釈し、以下判断するものである。

(2) 本件行政文書について
愛知県警察においては、要領に基づき、県内で発生した重要事件及び県外で発生し本県で検挙し事件処理した重要事件については、重要事件(受理)簿を作成し、捜査第一課及び警察署の刑事課に備え付けることとしている。
重要事件(受理)簿には、事件名、事件の認知日時、発生年月日、発生場所、被害者、被害程度、被疑者・犯人像、事件概要、捜査の検証結果、逮捕・検挙状況、犯行用具などの見分結果、捜査方針・体制等が記載され、発生場所周辺地図などが添付されている。
本件行政文書は、平成18年4月1日から平成19年8月26日までの間に発生した重要事件のうち5 件の事件に係る重要事件(受理)簿であり、実施機関が不開示とした部分は、別表のとおりである。

(3) 条例第7条第2号該当性について
本号は、基本的人権を尊重する立場から、個人に関する情報であって、特定の個人を識別することができる情報(他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)が記録されている行政文書は、不開示とすることを定めるとともに、特定の個人を識別することはできないが、なお個人の権利利益を害するおそれのある情報が記録された行政文書についても、同様に不開示とすることを定めたものである。
また、その一方で、ただし書イからニまでのいずれかに規定された情報が記録されている行政文書については、条例の目的に照らし、原則開示と個人の権利利益の最大限の尊重との調整を図ることにより、開示することとしたものである。
この考え方に基づき、本件情報のうち別表の番号1及び番号2に掲げる部分が条例第7条第2号に該当するか否かを、以下検討する。

ア 本件情報のうち別表の番号1に掲げる部分には、被疑者又は被害者の属性に関する情報、犯行及び捜査に関する情報、被害者の被害及び治療に関する情報、関係者等に関する情報等が記載されている。
これらの情報は、個人に関する情報であって、特定の個人を識別することができるもの又は特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるものに該当すると認められるため、条例第7条第2号本文に該当する。
なお、本件行政文書に係る事件は公表され、新聞報道されており、これらの情報のうち被害者、被疑者等の氏名、発生場所など一部の情報については、その際に公にされている。しかし、本件行政文書に係る事件はいずれも、親族間の殺人事件という特殊なものであり、当該事件が過去に一時報道された事実をもって、直ちに当該被害者等の保護されるべき個人の権利利益が喪失すると解するのは相当ではない。また、公表及び報道から一部開示決定の時点までに少なくとも6か月が経過し、被害者又は被疑者が特定できる報道が繰り返しなされたなどの事実もないことからしても、公にされた部分については、慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報であるとは認められない。よって、当該部分は本号ただし書イには該当せず、同号ただし書ロ、ハ及びニのいずれにも該当しないことは明らかである。
したがって、当該部分は条例第7条第2号に該当する。

イ 本件情報のうち別表の番号2に掲げる警部補及び同相当職以下の警察職員の氏名がわかる部分は、個人に関する情報であって、特定の個人を識別することができるものに該当すると認められるため、条例第7条第2号本文に該当する。
ところで、本号ただし書ハは、個人が公務員等である場合において、当該個人に係る情報がその職務の遂行に係る情報であるときは、当該情報のうち、当該公務員等の職及び氏名並びに当該職務遂行の内容に係る部分は開示することとしているが、この例外として、当該公務員等が規則で定める職にある警察職員である場合にあっては、当該公務員等の氏名に係る部分は除くこととしている。この氏名を不開示扱いとする警察職員の範囲は、知事が管理する行政文書の開示等に関する規則(平成12年愛知県規則第29号)第3条の2により、警部補以下の階級にある警察官をもって充てる職及びこれに相当する職にある警察職員と規定されている。よって、当該部分は同号ただし書ハに該当しない。
また、当該部分は、慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報ではないため、本号ただし書イには該当せず、同号ただし書ロ及びニのいずれにも該当しないことは明らかである。
したがって、当該部分は条例第7条第2号に該当する。

(4) 条例第7条第4号該当性について
本号は、公共の安全と秩序の維持を確保するため、公にすることにより、犯罪の予防、鎮圧又は捜査、公訴の維持、刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると実施機関が認めるにつき相当の理由がある情報が記録されている行政文書は、不開示とすることを定めたものである。
この考え方に基づき、本件情報のうち別表の番号3 に掲げる犯行用具の詳細及び捜査方針・体制その他が条例第7条第4号に該当するか否かを、以下検討する。

ア 犯行用具の詳細の部分には、被疑者が犯行に使用した凶器がどのようなものであったかについての詳細な記述がある。実施機関は、公判中の事件に係る本件行政文書の当該部分について、公判中であり公訴の維持に支障を及ぼすおそれがあるため不開示としたと説明しているが、公判中に当該部分が明らかになれば、事件関係者が当該公判における立証に対する対抗措置をとることを容易にさせるなどのおそれがあったと認められることから、当該部分を公にすると公訴の維持に支障を及ぼすおそれがあるとの当時の実施機関の判断は、正当なものであったと認められる。
しかしながら、現時点では当該公判は終了し、既に判決が確定していることから、犯行用具の詳細の部分は、公にすることにより、公訴の維持に支障を及ぼすおそれがあると実施機関が認めることにつき相当の理由があるとは認められず、条例第7条第4号に該当しない。

イ 捜査方針・体制その他の部分には、捜査に関する手法、方針、体制等の捜査の内容に関する情報が記載されており、これを公にすると、捜査の手の内が明らかとなり、今後の捜査活動に対し、被疑者等による捜査妨害や逃走を容易にし、証拠隠滅等の隠蔽工作が図られる等の対抗措置が取られることが予想される。
したがって、捜査方針・体制その他の部分は、公にすることにより、犯罪の予防又は捜査に支障を及ぼすおそれがあると実施機関が認めることにつき相当の理由があると認められ、条例第7条第4号に該当する。

(5) 条例第7条第6号該当性について
本号は、県の機関又は国、独立行政法人等、他の地方公共団体若しくは地方独立行政法人が行う事務事業は、公益に適合するよう適正に遂行されるものであるが、これらの事務事業に関する情報の中には、公にすることにより、当該事務事業の性質上、その適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるものが含まれるため、これらの情報が記録された行政文書は不開示とすることを定めたものである。
この考え方に基づき、本件情報のうち別表の番号4に掲げる捜査の検証結果が条例第7条第6号に該当するか否かを、以下検討する。
捜査の検証結果の部分は、事件ごとの捜査実績に対する検証項目及び評価点が記載されている。こうした情報を公にすると、開示されることを意識して、適正な評価がなされなくなるおそれがあり、公正で円滑な評価事務の遂行に支障が生じると認められる。
したがって、捜査の検証結果は、条例第7条第6号に該当する。

(6) 条例第29条第1号該当性について
条例第29条第1号では、条例の規定は、刑事訴訟法第53条の2に規定する訴訟に関する書類及び押収物については適用しないとされている。これらの行政文書については、刑事訴訟法及び刑事確定訴訟記録法(昭和62年法律第64号)により、開示を受けるための要件及び手続が完結的に整備されていること、事件関係者のプライバシーにかかわる情報が記録されている場合が多いことから、開示・不開示の適正な判断は、刑事訴訟法等による開示を所管する機関が行うべきであること等の理由により、適用除外としたものである。
本件情報のうち別表の番号5に掲げる訴訟に関する書類の写しは、被疑者の犯罪経歴を警察署が照会し、それに対し警察本部が回答した文書であるが、当該文書は刑事事件における証拠書類として公判に提出されていることから、条例第29条第1号の訴訟に関する書類に該当するものと認められる。

(7) まとめ
以上により、その余は判断するまでもなく、「1 審査会の結論」のとおり判断する。

別表
番号開示しないこととした部分
詳細な発生場所、住居、職業、氏名、生年月日、年齢、搬送先病院名、被害者の見分内容、続柄、被害程度、病院収容時間、手術開始時間、治療を受けた病院名、犯行状況、検視結果、解剖予定場所、119番架電者、被害者等の状況、被疑者と通報者の関係、解剖を行った場所、医師の氏名、犯行地の環境、被疑者の捜査情報、傷病に関する部分、家族構成、関係者の動向、発生場所周辺地図、本籍、被疑者の心情、事件概要(被害者の死亡事実、犯行に使用した凶器及び被疑者逮捕時間を除く。)、被疑者の聴取結果、犯行時の状態、傷病に関する部分及び被疑者の犯意
警部補及び同相当職以下の警察職員の氏名がわかる部分
犯行用具の詳細及び捜査方針・体制その他
捜査の検証結果
訴訟に関する書類の写し


(審査会の処理経過)
年月日内 容
19. 11. 12諮問
19. 12. 28実施機関から不開示理由説明書を受理
20. 1. 31審査請求人に実施機関からの不開示理由説明書を送付
20. 12. 2
(第245 回審査会)
実施機関職員から不開示理由等を聴取
20. 12. 16
(第247 回審査会)
審議
21. 2. 9
(第252 回審査会)
審議


コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。