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川崎市情報公開・個人情報保護審査会 諮問第227号 川崎市環境局と神奈川県財産管理課の川崎南高校に…

2009年10月13日 | 行政文書該当性/文書の特定/理由付記
21川情個第50号
平成21年10月13日

川崎市長 阿 部 孝 夫 様

川崎市情報公開・個人情報保護審査会
会 長 安 冨 潔

公文書開示請求に対する開示請求拒否処分に係る異議申立てについて(答申)

平成20年11月25日付け20川環対第985号をもって川崎市長から諮問のありました公文書開示請求に対する開示請求拒否処分に係る異議申立てについて、次のとおり答申します。


【諮問第227号答申】
1 審査会の結論
異議申立人の開示請求に係る本件対象文書について、実施機関が文書不存在を理由に拒否処分としたことは妥当でなく、実施機関は、本件対象文書を公文書としたうえで、公務員の氏名以外の個人名の部分を除いて、すべて開示すべきである。

2 異議申立ての趣旨及び経緯
(1) 平成20年10月21日、異議申立人は川崎市情報公開条例(平成13年川崎市条例第1号。以下「条例」という。)第7条第1項の規定に基づき、実施機関川崎市長(以下「実施機関」という。)に対して、以下の内容の公文書の開示請求を行った。
2008年10月15日、川崎市環境局と神奈川県財産管理課の川崎南高校に関する打合せの議事録又は報告書

(2) 実施機関は、開示対象に関連するメモは存在したものの、公文書には当たらないと判断し、同年10月29日付けで、請求対象文書については、「文書不存在」との理由により開示請求拒否処分(以下「本件処分」という。)を行った。

(3) 異議申立人は、同年11月11日付けで、本件処分に対し、「異議申立てに係る処分の取消しと文書の公開を求めます。」とする異議申立てを行った(当審査会諮問第227号)。なお、異議申立人から請求対象文書の存在を示すものとして写真が併せて提出された。

3 異議申立人の主張要旨
平成20年11月11日付け異議申立書、平成21年2月9日付け意見書及び同年5月12日実施の口頭意見陳述によれば、異議申立人の主張要旨は、次のとおりである。

(1) 開示請求の拒否理由は「文書不存在」であるが、請求対象文書の存在を示す写真を添付する。写真は議事録の一部であるが、すべての議事録及び報告書の開示を求める。

(2) 文書には神奈川県財産管理課職員の名刺が添付してあり、当該案件について神奈川県側に問い合わせ等、連絡をする際に必ず必要な資料であり、単に「個人的に備忘の目的で作成・管理しているもの」という性格を超えた共有されるべき文書である。
また、文書の内容は担当就任の挨拶に関しては一切触れておらず、むしろ立入りの日程やアスベスト解体の届出の提出日程など実務的な内容のみが記載されており、十分に記録として残しておくべき内容である。文書不存在の理由として「記録として残す必要がないものと判断したもの」というのは、記録として残したくない打合せを行ったか、ただの職務怠慢かのどちらかである。

(3) 条例第2条第1号によれば、「公文書」は「実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図画及び電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られた記録をいう。)であって、当該実施機関が管理しているもの」と定義されており、職務上の行為であることから請求対象文書が公文書から外れることはない。さらに作成者が個人的に備忘の目的で作成・管理しているものとしているが、他の自治体とは異なり川崎市の条例では、組織共用性の要件がないため、その如何にかかわらず職務上作成されたのであれば公文書となる。

4 実施機関の主張要旨
平成20年12月24日付け処分理由説明書、平成21年3月10日実施の処分理由説明聴取によれば、実施機関の主張要旨は、次のとおりである。

異議申立書に添付された写真の文書は、作成者が個人的に備忘の目的で作成・管理しているもので、現在も個人的に所持している。職場内の正式な書類としての位置付けではなく、回議もしていないため、その存在が職場内で共有されたものではなかった。このため、当該メモは、開示請求の対象になる公文書ではないと判断した。また、10月15日は就任の挨拶が趣旨であったため、記録として残す必要がないものと判断したものであり、他に当該内容を記録した文書も存在しない。

5 審査会の判断
(1) 本件対象文書について
本件において異議申立人が開示を請求した文書は、「2008年10月15日、川崎市環境局と神奈川県財産管理課の川崎南高校に関する打合せの議事録又は報告書」である。実施機関の説明によれば、川崎市環境局環境対策課は、大気汚染防止法に基づく特定粉じん除去工事の届出業務を所管しているところ、元県立川崎南高校の建物除却にともなうアスベスト除去処理工事の届出に関し、同校建物管理者である神奈川県総務部財産管理課の担当職員が、2008(平成20)年10月15日に本市環境対策課を訪問した際に、その内容を記録するために作成された文書が存在する。そこで、実施機関が挙げる当該文書が本件請求に係る対象文書に相当するものと認められる(なお、異議申立書には、その記録の一部と見られるやや不鮮明な写真が添付されている。)。
ただし、これに対して実施機関は、当該文書は、職員の一人が個人的に備忘の目的で作成・管理しているメモ(以下「個人メモ」という。)であり、現在も個人的に所持しているものであって、正式な書類としての位置づけはなく、回議もしておらず、その存在が職場内で共有されたものではないから、開示請求の対象となる「公文書」には当たらないと主張している。そこで、以下、当該文書の「公文書」性について検討する。

(2) 「公文書」の定義について
条例第2条第1号は、開示請求の対象となる「公文書」の意義について、「実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書……であって、当該実施機関が管理しているものをいう。」と定めている。このうち、「職務上作成し、又は取得した」とは、実施機関の職員が職務の遂行者としての公的立場において作成し、又は取得したという趣旨であり、「実施機関が管理しているもの」とは、実施機関が正式に決裁・供覧手続を済ませたものに限らず、実施機関として組織的に保存又は保管しているものを広く指すと考えられる。したがって一般的にいえば、行政内部の審議、検討又は協議に付された素案・試案などは含まれるが、職員の個人メモや下書きは対象にならないものと解される。
なお、行政機関の保有する情報の公開に関する法律(平成11年5月14日法律第42号)第2条第2項は、開示請求の対象となる「行政文書」を、「行政機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書……であって、当該行政機関の職員が組織的に用いるものとして、当該行政機関が保有しているもの」と定義し、いわゆる「組織共用文書」という捉え方をしている。本市の条例は、「公文書」の定義に関してこれと同一の文言を採用しているわけではないが、対象公文書の範囲については、同法にいう「組織共用文書」と実質的に相違ないものとして解釈・運用されていることが認められる(川崎市公文書公開運営審議会「公文書公開制度の充実について―答申―」(平成12年12月)11頁参照)。

(3) 公文書と個人メモの区別に関する具体的基準について
次に、市の機関が保有する公文書と職員の個人メモとを区別する具体的基準が問題となるが、当審査会がこの点に関して過去に判断した答申によれば、「物的体裁上」、「一定の報告文書の形態を備えて」おり、「作成者職員の個人的支配の域をこえて、課としての書棚に収納され保存されていた」場合について、公文書性が認められている(市教委事情聴取記録・校長経過報告につき、平成5年12月24日川崎市個人情報保護審査会諮問第50・61号答申(5川個審第10号))。他方、これに対して、ノートの体裁や記録内容等から職員個人の参考資料にとどまるとした例(防塵フィルター効果に関する住民説明に際して職員が「二人で見入った文書」につき、平成10年4月21日川崎市公文書公開審査会諮問第47号答申(10川公審第2号))も存在する。
また、いわゆる「組織共用文書」の意義に関しては、文書の利用と保管の実態を総合的に考慮して判断すべきものと考えられる。例えば、当該文書がファイル等に綴られて課の共通棚・ロッカー等に長期間収納され、職員が検索利用できる状態にあり、又は他の職員に引き継がれている場合などは、原則として組織共用性があるものと認められる。これに対して、当該文書が作成又は取得した職員個人の手許でのみ利用され、かつ当該職員個人の手許でのみ保管されている場合は、組織共用性はなく、個人メモにとどまることになる。

(4) 本件対象文書の公文書性
本件対象文書が条例にいう「公文書」に該当するか否かを判断するにあたっては、上述した当審査会の答申例及び「組織共用文書」の意義をふまえて、文書の体裁・形態、記録内容等のほか、保管と利用の実態についても十分に斟酌する必要があると考えられる。そこで、以下、順次検討していくこととする。
本件対象文書は、作成日時及び題名が記載され、A4判1 枚にワープロ書きされたものであり、県職員来訪の日時、来訪者氏名(名刺が貼付されている)、応対職員名、双方の質疑応答の要旨が記録されている。したがって、文書の体裁や記録内容の面からは、一定の議事録又は報告書の形態を備えていると判断される。
また、本件対象文書の保管に関しては、これを作成した職員が所持しているファイルに収められ、同人の執務用の机後方の棚に保管されている(同ファイルには「県立南高校アスベスト」との題が付されているが、氏名は記されていない。)。なお、同ファイルに収められた書類は、当該職員の今後の異動時には、内容選別のうえ後任者へ引継ぎがなされる可能性がある。
さらに、本件対象文書の利用に関しては、記録内容の確認のため、作成時に同課の他の職員一人に閲覧させており、また同職員の求めに応じて、当該文書の写しがその職員にも渡されている。なお、異議申立書に添付されていた写真について、異議申立人は、2008(平成20)年10月21日に実施機関が現地立入調査を行った際、同課職員が当該文書を持参し、見入っていたところを撮影(接写)した住民から入手したものと説明しているが、これに対して実施機関は、当日は当該文書を持参しなかったと主張しており、この点に関する事実関係は明らかでない。
以上の諸点を総合的に考慮すると、当該文書は、当初は個人的な備忘を目的として作成された記録であったとしても、その体裁・内容は一定の議事録又は報告書の形態を備えており、また、その保管・利用に関しては、もっぱら作成した職員個人の手許でのみ保管・利用されているとはいえず、部分的にではあるが作成者職員の個人的支配の域を超えて保管され、利用されている実態があり、その記録の内容に照らして、後任者への引継ぎがなされる可能性も否定することはできないと見るべきである。したがって、本件対象文書は、純粋に個人的なメモとはいえず、条例上の「公文書」に該当するものと判断される。

(5) 本件対象文書の開示の可否について
本件対象文書は、法律に基づく工事届出業務を所管する実施機関の職員が、工事届出に関する県職員の本市訪問の内容を記録するために作成されたものであり、作成日時及び題名のほか、県職員来訪の日時、来訪者氏名、応対職員名、双方の質疑応答の要旨が記録されている。本件文書の作成の経緯・趣旨に照らして、記載内容が、条例に定める不開示事由のうち、いわゆる意思形成過程情報(条例第8条第3号)又はいわゆる事務事業執行情報(同条第4号)に該当する可能性が一応考えられないではない。しかしながら、実施機関はこの点についての主張を一切しておらず、また、公文書に当たらないとして「文書不存在」とされた文書を当審査会が実際に検分して行った判断としても、上述の不開示事由に当たる内容は認められない。ただし、記載内容のうち公務員の氏名以外の個人名については、いわゆる個人情報(同条第1号)として不開示が相当と認められる。したがって、本件対象文書のうち公務員の氏名以外の個人名の部分を除いて、すべて開示すべきである。

以上の理由により、前記1 に記載の審査会の結論のとおり答申する。

川崎市情報公開・個人情報保護審査会(五十音順)

委 員 青 柳 幸 一
委 員 安 達 和 志
委 員 小 圷 淳 子
委 員 杉 原 麗

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