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神奈川県情報公開審査会 答申第530号 特定の県立高等学校に係る打合記録等不存在の件

2009年11月11日 | 行政文書該当性/文書の特定/理由付記
答申第530号
平成21年11月11日

神奈川県教育委員会
委員長 平 出 彦 仁 殿

神奈川県情報公開審査会
会 長 堀 部 政 男

行政文書公開請求拒否処分に関する不服申立てについて(答申)


平成21年5月11日付けで諮問された特定の県立高等学校に係る打合記録等不存在の件(諮問第585号)について、次のとおり答申します。

1 審査会の結論
実施機関が、特定の県立高等学校の管理職が教育委員会とやり取りした内容を自らのノートに記した記録は行政文書に該当しないとして、公開を拒んだことは、妥当である。

2 不服申立てに至る経緯
(1)不服申立人は、神奈川県情報公開条例(以下「条例」という。)第9条の規定に基づき、平成20年12月9日付けで、神奈川県教育委員会(以下「教育委員会」という。)に対して、特定の県立高等学校(以下「本件高校」という。)において特定の月に職員の夜間給食申込みを受け付けたことを示す注文書(以下「本件注文書」という。)、教育委員会から本件高校の夜間給食注文に対して指示のあった全文書(指示を記すメモを含む。)及び夜間給食に関して本件高校の管理職(以下「本件管理職」という。)が教育委員会とやり取りした内容を記す全文書(教頭メモ等を含む。)(以下「本件記録文書」と総称する。)並びに特定の業者に対して夕食の販売に関して行った指示等を記した全文書(以下「本件指示文書」という。)について、行政文書の公開請求(以下「本件請求」という)を行った。

(2)これに対し、教育委員会は、平成20年12月22日付けで、本件注文書及び本件記録文書を公開する決定並びに本件指示文書は取得又は作成しておらず存在しないとして、公開を拒む決定(以下「本件処分」と総称する。)を行い、さらに、平成21年1月20日付けで本件記録文書について特定の行政文書を追加して公開し、同記録文書のうち指示を記すメモ及び教頭メモ並びに本件指示文書のうち教頭メモ(以下「本件教頭メモ」と総称する。)は、条例第3条第1項に規定する行政文書に該当しないとして変更決定(以下「本件変更決定」と総称する。)を行った。

(3)不服申立人は、平成21年2月3日付けで教育委員会に対して、行政不服審査法第4条の規定に基づき、本件処分(本件変更決定を含む。以下、同じ。)の取消しを求めるという趣旨の不服申立て(以下「本件不服申立て」という。)を行った。

3 不服申立人の主張要旨
不服申立人の主張を総合すると、次のとおりである。

(1)本件教頭メモについて、条例第3条第1項に規定する行政文書に該当しないとしているが、これらの語義、定義、言葉使いが不明で、このような意義不詳の言葉を使って公開を拒むことは承服できない。

(2)不服申立人は、本件管理職に対して学校給食について何度か説明を求めたが、説明の都度内容が異なっている。本件教頭メモは、本件管理職が執務時間中に職務に関する事項について、不服申立人の要請に応じて教育委員会と緊急に電話でやり取りしたもので、その内容は本件高校の校長に報告し、不服申立人に伝えており、複数人に共有されている業務メモである。メモにはいろいろな内容のものがあるが、複数職員に共有されている業務メモ、管理職共有秘密メモは公開請求の対象となる行政文書であるし、このような情報は、行政文書に当たらなくても、条例第24条の情報提供の趣旨に則り前向きに対処すべきである。

(3)実施機関は、本件請求に対してずさんな手続を繰り返しており、このような実施機関の行う本件処分には承服できない。また、実施機関は、条例を自己の都合に合わせて解釈しており、これに飛びついた教育委員会も同じ過ちを犯している。

(4)不服申立人は、本件管理職から教育委員会に直接問い合わせることを禁じられていたことから、本件管理職は不服申立人の代わりに問い合わせたものであり、不服申立人には情報を共有される必要があるし、本件高校において生じた給食に係る問題の責任の所在を明らかにするためにも公開が必要である。

4 実施機関(県立高等学校)の説明要旨
実施機関の説明を総合すると、次のとおりである。

(1)本件不服申立ての対象について
本件不服申立ての対象は、異議申立書の記載内容から、実施機関において、本件処分において拒否した情報のうち、学校給食に関して、本件管理職が教育委員会とやり取りした内容を自らのノートに書き取った記録(以下「本件メモ」という。)と特定した。

(2)本件メモについて
本件メモは、本件管理職が学校給食に関し、教育委員会職員と電話連絡した際のやり取りを自身のノートに書き取ったメモであり、職務上作成したものである。しかし、本件メモを含む当該ノートは、写しを学校内部で回覧する、あるいは前任者から後任者へ引き継ぐといった組織的な管理下に置かれていたものではなく、本件管理職が個人的に管理し、専ら自己の職務を遂行するうえでの備忘のためのメモ帳として個人的に使用、管理していたものである。当該ノートの大半は断片的に書き留めたもので文章になっていない。

(3)本件メモの存否について
本件メモは、本件管理職がその分掌する事務に関し職務上作成したものであるが、実施機関により公的に支配されていたものではなく、また、職員が組織的に利用できる状態に置かれていたものではない。また、行政文書の作成については、神奈川県教育委員会行政文書管理規則(以下「本件規則」という。)第6条で規定されており、軽易な内容のものについての作成は免除されている。学校における業務が多岐にわたる中で、本件メモの内容は比較的軽易なものであり、また、その内容は本件管理職から何度も不服申立人に説明しており、必ずしも行政文書として作成しなければならなかったものとまではいえない。したがって、本件メモは、条例第3条第1項に規定する行政文書には該当せず、本件メモを行政文書としては請求者に交付しなかったものである。しかしながら、本件メモは、条例第24条が規定する情報提供の責務にかんがみ、本件管理職から不服申立人に対して、異議申立書提出時に閲覧させる旨申し出たが、拒否されている。

5 審査会の判断理由
(1)審査会における審査方法
当審査会は、本諮問案件を審査するに当たり、神奈川県情報公開審査会審議要領第8条の規定に基づき委員を指名し、指名委員は不服申立人から口頭による意見を、また、実施機関の職員から口頭による説明を聴取した。
それらの結果も踏まえて次のとおり判断する。

(2)本件不服申立ての対象について
本件不服申立ての対象は、異議申立書等の主張を踏まえて、当審査会において不服申立人に確認した結果、本件処分において拒否した情報のうち、本件メモと認められることから、以下、本件メモについて検討する。

(3)本件メモの存否について
ア 公開請求の対象となる行政文書とは、条例第3条第1項において、「実施機関の職員がその分掌する事務に関して職務上作成し、又は取得した文書、図画及び電磁的記録であって、当該実施機関において管理しているものをいう」と規定されており、この場合「実施機関において管理しているもの」とは、本件規則等の定めるところにより公的に支配され、職員が組織的に利用可能な状態に置かれているものをいうと解される。
当審査会において本件メモを確認したところ、本件管理職が教育委員会に対して学校給食の件で確認した内容を自己のノートに書き取ったものであり、日付、応対した教育委員会職員名、学校給食に関する書式の取扱い、給食の金額の内訳等が断片的に記載されており、本件規則等の定めるところにより公的に支配され、職員が組織的に利用可能な状態に置かれているものとはいえないと判断する。

イ 実施機関は、行政文書の作成について、本件規則第6条において、「本庁及び所の事務処理に当たっては、軽易なものを除き、処理内容等(意思決定の経過、行政文書を管理するために必要な事項を含む。)を記録した行政文書を作成しなければならない」と規定されており、本件メモについては、学校における業務が多岐にわたる中で、その内容は比較的軽易なものであり、また、その内容は本件管理職から何度も不服申立人に説明しており、必ずしも行政文書として作成しなければならなかったものとまではいえないと説明している。
本件メモの内容は、前記ア後段に記載したとおりの情報であり、その内容は本件管理職から不服申立人に対して何度も説明していることから、口頭で説明可能な軽易な内容として取り扱い、行政文書を作成しなかったとする実施機関の説明に不合理な点は認められない。

ウ 以上のことから、本件メモは、条例第3条第1項に規定する行政文書には該当しないとの実施機関の説明は納得できる。

(4)その他
ア 不服申立人は、行政文書に当たらなくても、条例第24条の情報提供の規定の趣旨に則り前向きに対処すべきであると主張しているが、実施機関は、同条に規定する情報提供の責務を考慮して、不服申立人に対して、異議申立書提出時に本件メモを閲覧させる旨申し出ているが拒否されたと説明しており、情報提供の観点に照らして考えても、その取扱に責めに帰すべき事情は見受けられない。

イ 条例の定める情報公開制度は、何人に対しても、請求の目的のいかんを問わず公開請求を認める制度であり、諾否の判断に当たっては、公開請求者の目的は考慮されないものであるため、前記3(4)の不服申立人の主張は採ることができない。

6 付言
実施機関が、本件不服申立てを受けて当審査会に諮問したのは申立後3か月余が経過してからであるが、条例第16条では、不服申立てがあったときは、遅滞なく、審査会に諮問することと規定している。本件不服申立ての対象が、本件メモが行政文書に該当するかどうかに限られることから、諮問までにこのような期間を要するものとは考えられず、今後は、条例の規定に基づき、迅速に手続を行うことが望まれる。

7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙のとおりである。

別紙
審査会の処理経過
年 月 日処 理 内 容
平成21年5月11日○ 諮問
5月12日○ 実施機関に非公開等理由説明書の提出を要求
5月21日○ 実施機関から非公開等理由説明書を受理
5月25日○ 不服申立人に非公開等理由説明書を送付
5月26日
(第84回部会)
○ 審議
6月23日
(第85回部会)
○ 審議
7月13日○ 指名委員により不服申立人から意見を聴取
○ 指名委員により実施機関の職員から非公開等理由説明を聴取
7月28日
(第86回部会)
○ 審議
8月27日
(第87回部会)
○ 審議
9月15日
(第88回部会)
○ 審議


神奈川県情報公開審査会委員名簿
氏 名現 職備 考
交 告 尚 史東京大学大学院教授
沢 藤 達 夫弁護士(横浜弁護士会)
鈴 木 敏 子横浜国立大学教授部 会 員
玉 巻 弘 光東海大学教授会長職務代理者
部 会 員
辻 山 栄 子早稲田大学教授
東 玲 子弁護士(横浜弁護士会)部 会 員
堀 部 政 男一橋大学名誉教授会 長
(部会長を兼ねる)

(平成21年11月11日現在)(五十音順)


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