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愛知県情報公開審査会 答申第502号 職員団体との交渉の記録(会議録)

2009年12月15日 | 行政文書該当性/文書の特定/理由付記
答申第502号
諮問第854号

件名:職員団体との交渉の記録(会議録)の不開示(不存在)決定に関する件

答 申


1 審査会の結論
愛知県知事(以下「知事」という。)が「2008年度の職員団体との交渉(地域手当及び給与抑制交渉)の記録(会議録)」(以下「本件請求対象文書」という。)について、不存在を理由として不開示としたことは妥当である。

2 異議申立ての内容
(1) 異議申立ての趣旨
本件異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成21年3月12日付けで愛知県情報公開条例(平成12年愛知県条例第19号。以下「条例」という。)に基づき行った開示請求に対し、知事が同月26日付けで行った不開示決定について、請求した行政文書は存在すると考えられるので、すべて開示するよう求めるというものである。

(2) 異議申立ての理由
異議申立人の主張する異議申立ての理由は、概ね次のとおりである。

ア 当該交渉は、地方公務員法(昭和25年法律第261号)に基づくものであり、交渉結果は職員の労働条件の決定に重要な意味を持つものである。場合によっては、県条例の制定にも直結する重要なものである。

イ 当該交渉の場は、指摘するまでもなく公的な場であり、交渉結果は少なからず県民に影響をもたらすものであるから、県民に対する説明責任の観点からも、各交渉における職員団体と当局のやり取りの概要及びその結果は、記録され、文書化されなければならないし、当然そのように処理されているものと考える。

ウ 職員団体は、交渉の内容等について所属組合員に情宣をし、それは同時に交渉記録の側面を有する。それに対して、当局側として一切記録を残さないということは、常識的に考えられない。また、行政の継続性という観点からも考えられない。

エ 知事は、不開示理由説明書において、「交渉担当者は全員交渉に出席しており、交渉過程や職員団体の要望について共通認識を有しているので、交渉の場においての発言内容それ自体を文書で記録する必要が無い」と記す。簡単に言えば、担当者らが仲間内で知っているからよいのだ、と言っているに過ぎない。これは、県民の存在をまったく無視したもので、民主主義社会の行政なのかと疑問を持たざるを得ない。

オ 担当者が疾病等で交渉に参加できなくなったならばどうするのか。事故等で交代することになったならばどうなるのか。つまり、行政の継続性という観点に立てば、交渉経過や結果を記録することは当然である。

カ 不開示理由説明書において、「提示文と当局の交渉シナリオをもって、交渉記録としての役割を果たしている」旨述べる。しかし、交渉シナリオ等と交渉記録はまったく異なるものであり、この主張は容認できない。そもそも「交渉シナリオ」の作成は、交渉記録の存在が前提になるものであるから、交渉記録は当然に存在する。この場合、担当職員が取った記録を、あくまでも個人的メモとして「公文書ではない」とみなしているとも考えられるが、間違いなく当該公務に従事し作成した公文書である。

キ よって、異議申立人が開示請求した「交渉記録」は存在すると考えられるので、開示するよう求める。

3 実施機関の主張要旨
実施機関の主張によると、次の理由により本件請求対象文書を作成又は取得しておらず不存在であるので、不開示の決定をしたというものである。

(1) 本件請求対象文書について
2008年度における地域手当及び給与抑制に関する職員団体との交渉(以下「給与抑制等交渉」という。)は、知事部局に属する職員で組織されている愛知県職員組合(以下「職員組合」という。)を相手方として行われた。地域手当に関する交渉は、平成20年11月11日から同年12月18日までの間に計5回、給与抑制に関する交渉は、平成21年1月16日から同月27日までの間に計6回行われた。
本件請求対象文書は、給与抑制等交渉の場においての職員組合の委員長等の発言内容を行政文書として記録したものと解した。

(2) 本件請求対象文書の存否について
給与抑制等交渉を行う前には、当局として、交渉のシナリオや職員組合への提示文を検討して作成している。また、給与抑制等交渉は人事課職員の司会・進行により進められ、当局は主に人事担当局長が、職員組合は主に委員長を始めとする三役が発言するが、人事課職員が詳細について説明したり、職員組合の中央執行委員から意見が出たりして、自由な議論が行われる。
そして、当局においては、労使合意にむけて、交渉後には速やかに交渉内容を踏まえた次回の提示内容の検討を行うが、交渉担当者は全員交渉に出席しており、交渉過程や職員組合の要望について共通認識を有しているので、交渉の場においての職員組合の委員長等の発言内容それ自体を文書で記録する必要がない。
また、知事や副知事へは、交渉の結論を速やかに伝えており、交渉記録を作成して報告する時間的余裕もなく、結果的に本件請求対象文書を作成しても使用する予定がないため、作成していない。さらに、交渉経過や結果を記録したものもない。
ところで、交渉の主な内容は提示文として職員組合に示しており、当該文書と当局の交渉シナリオをもって、交渉記録としての役割を果たしていると考えている。
さらに、職員組合が交渉の都度発行する「県職ニュース」に交渉における発言内容が掲載されており、その内容に誤りがあれば当局として訂正を申し入れるため、「県職ニュース」が労使間の共通認識書類として活用でき、労使双方における疑義も起こっていない。
ところで、給与抑制等交渉に参加した担当職員の中には、職員組合の委員長等の発言内容の一部を個人持ちのノートなどにメモして書き留めている者もある。しかし、当該メモは、担当職員が交渉後に行うシナリオ等の検討に向けて、あくまでも備忘目的のため、個人的に書き留めているものであり、他の職員にコピーを配布したり、職員同士で内容を確認したりするものではない。また、個人的メモであるという性質から、当該職員が不要と判断すれば廃棄されても構わないものである。つまり、異議申立人が請求しているような職員団体と当局の発言内容を行政文書として記録したものではない。
よって、本件請求対象文書は作成しておらず、条例第11条第2項に基づき、不開示とした。
なお、提示文及び交渉シナリオについては、別の行政文書開示請求に対して開示したところである。

4 審査会の判断
(1) 判断に当たっての基本的考え方
条例第5条に規定されているとおり、何人も行政文書の開示を請求する権利が保障されているけれども、開示請求権が認められるためには、実施機関が行政文書を管理し、当該文書が存在することが前提となる。
当審査会は、行政文書の開示を請求する権利が不当に侵害されることのないよう、実施機関及び異議申立人のそれぞれの主張から、本件請求対象文書の存否について、以下判断するものである。

(2) 本件請求対象文書について
実施機関の説明によると、平成20年度における給与抑制等交渉は、地域手当に関する交渉が平成20年11月11日から同年12月18日までの間に計5回、給与抑制に関する交渉が平成21年1月16日から同月27日までの間に計6回行われたとのことである。本件請求対象文書は、これらの計11回の給与抑制等交渉における交渉記録であると解される。

(3) 本件請求対象文書の存否について
ア 実施機関は、労使合意に向けて、各回の交渉後に行う次回の提示内容の検討においては、全員が交渉に出席しており、交渉過程や職員組合の要望について共通認識を有しているので、交渉の場においての発言内容それ自体を文書で記録する必要がない旨主張する。
確かに、次回の提示内容の検討を行う職員が全員前回の交渉に出席していたのであれば、必ずしも交渉内容を職員同士で文書で確認しあう必要は認められない。また、次回の交渉において提示される職員組合への提示文と当局のシナリオには、前回の交渉で持ち越された課題が盛り込まれており、当局において必ずしも交渉記録を残しておかなければ後の事務に重大な支障が生ずるとも認められない。また、知事や副知事への伝達や相談は、必ずしも交渉記録がなければ行えないものであるとも認められない。
また、実施機関の主張のとおり、職員組合が発行する「県職ニュース」に掲載された交渉における発言内容に当局として異議があれば、内容の訂正を申し入れることも可能であり、交渉記録がないことにより、必ずしも労使の関係が悪化したり、交渉が円滑に進まなかったりするとも認められない。その他、実施機関において交渉記録がなければ明らかに事務に支障が生じるような事情は認められない。
さらに、当審査会が事務局職員をして人事課における本件請求対象文書の存否等について確認させた結果の報告によれば、給与抑制等交渉に係る一連の行政文書は「H20年度給与抑制交渉関係綴り」及び「H20年度地域手当交渉関係綴」という名称のファイルに綴られていたが、既に別の行政文書開示請求において開示された提示文及び交渉シナリオ以外に本件請求対象文書に関するものは管理されていなかった。

イ ところで、実施機関の説明によれば、給与抑制等交渉に参加した担当職員の中には、職員組合の委員長等の発言内容の一部を個人持ちのノートなどにメモして書き留めている者もあるとのことである。
条例における行政文書は、当該実施機関の職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関が管理しているものであり、作成又は取得に関与した職員個人の段階のものではなく、組織としての共用の実質を備えた状態、すなわち、当該実施機関の組織において事務上必要なものとして利用・保存されている状態のものをいう。そして、作成又は取得された文書が、どのような状態にあれば組織的に用いるものと言えるかについては、文書の作成又は取得の状況、当該文書の利用の状況、保存又は廃棄の状況などを総合的に考慮して実質的な判断を行う必要がある。
そこで、当審査会が事務局職員をして給与抑制等交渉においてメモをとっており、現在もそのメモを残していると述べる人事課の担当職員の当該メモを確認したところ、当該メモは、鉛筆で発言内容の一部を走り書きした程度のものであり、その筆跡や内容から、組織的に用いるものでも実施機関が管理しているものでもなく、他に見せたり提出したりすることも想定していないものであり、専ら当該職員が自ら使用するために作成したものであると認められた。
よって、当該メモは条例第2条第2項で規定する行政文書には該当しないと認められる。

ウ 以上のことを踏まえると、本件請求対象文書については作成しておらず不存在であるとする実施機関の説明について、特段不自然、不合理な点があるとは認められず、本件請求対象文書が存在すると認める理由はない。
ところで、給与抑制等交渉のやりとりを逐一記録に留めることは、交渉における一言一句に拘泥したり、後になってあげ足とりにつながるおそれもないとは言えない。また、交渉はその過程において、あらゆる角度から自由に議論が行われて結論に至ることが望ましく、むしろ、交渉の意義は合意に達した事項を信義誠実の原則に則って当事者が措置することにあると考えると、交渉記録を作成することに利点のみが存在すると一概に認めることはできない。
しかし、愛知県職員の給与額の決定については、最終的には愛知県議会の議決により愛知県の条例で決められることではあるとしても、実施機関における経緯も含めた意思決定に至る過程並びに当該行政機関の事務又は事業の実績を合理的に跡付け、又は検証することができるよう、交渉記録を作成しておくべきである。

(4) まとめ
以上により、「1 審査会の結論」のとおり判断する。

(審査会の処理経過)
年月日内 容
21. 4.13諮問
21. 5.15実施機関から不開示理由説明書を受理
21. 5.18異議申立人に実施機関からの不開示理由説明書を送付
21. 9.30
(第273回審査会)
実施機関職員から不開示理由等を聴取
21.10.19
(第274回審査会)
審議
21.11.11
(第276回審査会)
審議



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