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情報公開審査会の答申などを集めて載せています。

情報公開審査会 平成16年(行情)答申第21号 東京税関の回答の根拠になった文書等…

2004年04月30日 | 存否応答拒否
諮問庁 : 財務大臣
諮問日 : 平成15年10月16日 (平成15年(行情)諮問第797号)
答申日 : 平成16年 4月30日 (平成16年度(行情)答申第21号)
事件名 : 特定会社の問い合わせに対する東京税関の回答の根拠になった文書等の不開示決定(存否応答拒否)に関する件

答 申 書


第1  審査会の結論
 審査請求人たる特定会社Aが特定会社Bを代理人として東京税関に対し,特定会社Aが行う輸入に関して文書提出を含む問い合わせをしていたところ,特定の時期において,特定会社Bに対して口頭による回答があったが,その回答の根拠になった文書ないしは同回答の応接記録等(以下「本件対象文書」という。)につき,その存否を明らかにしないで開示請求を拒否した決定は,取り消すべきである。

第2  審査請求人の主張の要旨
1  審査請求の趣旨
 本件審査請求の趣旨は,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)3条の規定に基づく本件対象文書の開示請求に対し,平成15年6月9日付け東関第382号により東京税関長(以下「処分庁」という。)が行った本件不開示決定について,その取消しを求めるというものである。

2  審査請求の理由
 審査請求人の主張する審査請求の主たる理由は,審査請求書及び意見書の記載によると,おおむね以下のとおりである。

(1)  情報開示請求の基礎事実について
 審査請求人は,特定会社Bを代理人とし,東京税関に対して関税法7条3項に基づく課税標準等の事前教示を得るための相談(以下「関税評価相談」という。)を行い,相談した輸入方式を了解するとの口頭での回答を得,了解された方式で輸入を行った。その後,東京税関は審査請求人に対して事後調査を行い,各税関長は輸入申告したもののうち78件の輸入申告額を更正した。

(2)  法5条2号イについて
 特定会社Bが税関に提出した説明文書には,英文で「PRIVATE AND CONFIDENTIAL」としてあるが,税関と相談中の案件である限りは営業上の秘密であるものの,税関との相談が終わった段階では,相談した方式で輸入を始めており,通関業者はもちろん同業他社も当該輸入を開始したことを知る立場にあり,もはや営業上の秘密とはなり得ず,審査請求人の正当な利益を害するおそれはなくなっている。にもかかわらず,処分庁は法5条2号イに該当するとし,同号の解釈を誤った違法がある。

(3)  法5条6号について
 相談の内容が上記(2)のとおりであることから,これを公開しても何ら税関事務の適正な遂行に支障があるとは考えられない。
 東京税関は特定会社Bに対する口頭での肯定的回答の事実を否定し,当該事案は海外における取引であり,輸入取引とは認められない旨通知したが,結論の合意に至らなかったため,同税関の事後調査部門に実態の把握を委ねたとする。
 このような事実に反する対応こそが税関の事務の適正な遂行に支障を来すもので,税関にとって不都合な情報を隠蔽したと疑われるような不開示決定は法5条6号に違反する。

(4)  法5条2号本文ただし書該当性について
 上記(1)の更正処分により,審査請求人は,追徴関税等の金銭的支出を余儀なくされ財産上の損害が発生し,更に許可前引き取りのため多額の保証金を供託していることから,法5条2号ただし書に定める「財産上の保護」に当たると思料するので,本件情報は開示義務がある。

(5)  法人の自己情報の一般への公開承諾について
 審査請求人は,関税評価相談の回答の開示を求めているにすぎず,また,自己情報を本人である審査請求人にのみ公開すべきであると請求しているのではなく,本件関税評価相談の回答をすべての開示請求者に対して公開することを承諾しているものである。
 また,特定会社Bも,本件開示請求書の文書により,当該会社の権利,競争上の地位その他正当な利益が害されることはなく,何人に対しても公開することを承諾している。

(6)  その他の主張
 仮に,東京税関に統括調査官の応接記録ないしメモがあるとすれば,本件相談を担当した公務員の業務としての文書であり,個人のプライバシーを侵害するものではない。その他,不開示情報には該当しない。

第3  諮問庁の説明の要旨
1  関税評価相談の概要について
 関税評価とは,輸入貨物に係る関税の課税価格を関税定率法及びその関連法令等の規定によって決定することであり,これにより算出された課税価格に基づいて輸入申告がされるものである。輸入貨物のインボイス価格に輸入港に到着するまでの運賃や保険料,買手が負担した仲介手数料などの加算要素がある場合などには,輸入申告時に輸入申告書と併せて評価申告書を提出することとなっている。
 輸入申告者は,新たな形態の輸入取引を行う場合など輸入申告者自身では関税評価について判断がつきかねるときに,関税評価相談を行うことがある。関税評価相談があった場合には,税関は申告納税の原則にかんがみ,輸入申告者自らが適正な申告ができるよう教示を与えることによりサポートを行っている。
 関税評価相談は,税関手続や適用税率等についての一般的な電話相談とは異なり,輸入申告者が税関当局に出向き,法人名等を明らかにした上で,新規事業等に係る契約内容や取引内容等について具体的な説明を行うものであり,その相談内容は当該法人の新規事業に係る秘匿すべき情報であることが多い。

2  不開示情報該当性について
(1)  法5条2号イ該当性について
ア  本件のように特定の法人による特定の代理人を通ずる関税評価相談に係る開示請求があったか否かについて,その存否を明らかにした場合には,次の事実が判明することとなる。

(ア)  特定の法人を輸入者とする輸入取引が予定されているという事実
(イ)  特定の代理人が特定の法人の輸入取引の関税評価相談にかかわっていたという事実

イ  関税評価相談を行ったという事実は,上記ア(ア)で記載したとおり,当該者が近い将来輸入取引を行う予定であること,あるいは,現在とは異なる新たな形態の輸入取引を開始することを示唆する情報となり得るものである。例えば,法人が輸入取引を開始することを極秘に進めているような状況で,関税評価相談を行ったという事実が同業他社の知るところとなれば,当該同業他社に対策を講じられ,期待した利益や競争力が確保できなくなる可能性がある。
 また,関税評価相談に係る行政文書には,当該相談に係る輸入取引に関する取引契約書の案文や当該取引に係る当事者間の特別条項,それらの具体的説明資料等が含まれている。
 これらの情報は,相談中は営業上の秘密であることはもちろん,相談が終了し,輸入を開始した後においてもその詳細を当事者以外が知り得る状況にはなく,当事者間における営業上の秘密であり続けるもので,秘匿しておくべき必要がある。
 新規事業(輸入取引)は,当該法人にとって,先行独占利益を確保できるものであるが,同業他社の早期参入によりこの期間が圧縮されると予期せぬ損失をもたらすことにもなり得ることから,輸入取引が開始された後においても,新規事業に関するあらゆる情報について極力秘匿しておく必要がある。関税評価相談を行った事実を知り得ることは,同業他社にとって新規事業把握の大きな手掛かりとなり,同業他社の新規事業への追加参入が早まることになれば,当該法人の利益を大きく害するおそれがある。
 したがって,当該法人の関税評価相談についてその相談の事実及び内容を公開することとなれば,当該法人の正当な利益を害するおそれがあり,法5条2号イに規定する不開示情報に該当する。また,文書の存否を明らかにすることは,当該法人に係る関税評価相談の事実について公にすることとなり,法8条の規定により不開示(存否応答拒否)とする必要がある。
 なお,審査請求人は反論書において,更正処分により財産上の損害が発生し,法5条2号ただし書の「財産の保護」に当たり,開示義務があると主張するが,そもそも,更正処分等による「財産上の損害」は,事後調査の結果に基づく法律の適正な執行によるものであり,また,許可前引き取りの承認を求めたことによる当然の負担にすぎないもので,これらについては法5条2号イに該当する不開示情報を開示してまで保護すべきものには当たらない。

ウ  上記ア(イ)で記載したとおり,特定の代理人が関税評価相談に関わっていたという事実について,その存否を明らかにした場合の不利益については,以下の事例が考えられる。

(ア)  新規の輸入取引又は従来と違う形での輸入取引を考えている法人は,効率的な輸入取引について国際会計事務所,コンサルティング会社等(以下「国際会計事務所等」という。)に有償で相談を行い,その結果,国際会計事務所等から輸入取引スキームを購入することがある。国際会計事務所等にとって,輸入取引スキームの販売も重要な収入源であり,自社が開発した輸入取引スキームの情報が漏れることを警戒している。したがって,当該法人の輸入取引に国際会計事務所等が関わっていることが公にされた場合,他の国際会計事務所等がこれを基に,公にされた当該法人に個別に接触し,当該輸入スキームを入手し,輸入取引スキームを提供する市場に容易に参入することが可能となる。この場合,当該スキームを開発したことによって本来得られる利益が減少するなど,当該国際会計事務所等の正当な利益を害するおそれがある。

(イ)  輸入取引に当たって,当該法人の名称を秘匿する必要があるため,関係する他の会社を輸入申告者として輸入取引を行うことについて,関税評価相談を行った場合,当該関税評価相談の存否を明らかにすることだけで,複数の会社に上記輸入取引の実態が知られてしまうことになる。これにより,取引の打切り又は減少という事態が発生し,関税評価相談を行った当該法人の利益を害するおそれがある。

エ  本件開示請求に係る行政文書は,請求者本人に関する文書であることから,審査請求人は「開示請求文書に関連して提出した審査請求人の情報の公開を承諾する」とするが,法においては,開示請求者がだれであるかは考慮されないものであり,自己情報であることを理由にこれを開示すべきものとはできないとされている。

(2)  法5条6号該当性について
 関税評価に関する相談は,その秘匿性が確保されて初めて,真実の情報を踏まえた正確で自由な相談が確保できるものであり,相談者の氏名・名称等が公表されることとなれば相談に行くことに消極的となるなどの弊害が生じ,税関と相談者との間の信頼関係が損なわれ,相談者は課税価格の決定方法等に疑問がある場合でも関税評価相談を行わないという事態を生じ,関税評価相談事務の適正な遂行に支障をきたすこととなる。
 税関行政において,適正な納税申告の確保は大きな政策目標の一つであり,課税価格の決定方法等に疑問がある場合でも輸入申告者が関税評価相談を行わない事態が生ずれば,結果として正確な納税申告が減少することとなり,適正な納税申告の確保という政策目標の実現に悪影響を与えることとなる。
 また,不正確な納税申告が増加すれば,通関時の審査やその後の事後調査に係る事務量が増加することとなり,結果的に輸入申告者及び税関の双方に不要なコスト増を強い,円滑な税関行政の執行に支障を来すことが予想される。加えて,事後調査で是正する前に除斥期間を徒過したものについては適正な課税の確保ができないことになる。
 したがって,特定の会社が関税評価相談を行った事実を推測させるおそれがある一切の情報は,法5条6号に規定する不開示情報に該当する。加えて,関税評価に関する相談の秘匿性が確保されないことで,適正な納税申告の確保という政策目標の実現に悪影響を与えることとなることから,相談の事実自体を明らかにすることはできず,法8条の規定により存否応答拒否とすべきものである。
 なお,審査請求人は,「本件では,税関と相談者との間の信頼関係が破壊されているからこそ,開示請求している」と主張しているが,この主張における「信頼関係の破壊」とは,事後調査の結果,関税等の納税について自らの申告どおりの内容が認められなかったことに対する審査請求人の不服を意味するものと考えられ,他方,弁明書で言うところの「信頼関係」は「関税評価相談を行った事実及び内容が開示され」ないことに対する納税者一般の信頼関係を意味するものであって,両者は次元を異にするものである。

(3)  存否応答拒否による不開示決定と公開の承認について
 本件開示請求は,特定会社Aを名指しした探索的開示請求であり,文書の有無を答えるだけで,関税評価相談に関わったという不開示情報を開示したことと同様の結果となるとして,存否応答拒否による不開示決定をしたものである。
 審査請求人は公開の承認を行っている旨主張するが,存否応答拒否の場合,自己情報の公開の承認があるか否かは問題ではなく,開示請求書に記載された開示請求内容及び当該行政文書を作成した事務の性格からその妥当性の判断を行うこととなる。
 特定の法人を指定して開示請求が行われた場合,上記(1)のように,その存否を明らかにすると当該法人の正当な利益を害することがある場合が存在する。本件事案において法人が公開を承諾すると述べていることのみをもって,法5条2号イに該当しないとして存否を明らかにすると,今後も行われるであろう特定の法人を指定した関税評価相談の開示請求との関係から,存否応答拒否が必要な法人について実質的に存否応答拒否の取扱いができないことになることがあり得るため,特定の法人を指定した開示請求に対しては,常に存否を明らかにしないで拒否することが必要と考える。

第4  調査審議の経過
 当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。

①  平成15年10月16日  諮問の受理
②  同日  諮問庁から理由説明書を収受
③  同年11月18日  審査請求人より意見書を収受
④  同年12月17日  審議
⑤  平成16年2月24日  審議
⑥  同年3月12日  諮問庁より意見書を収受
⑦  同月31日  審査請求人より意見書を収受
⑧  同年4月27日  委員の交代に伴う所要の手続の実施及び審議

第5  審査会の判断の理由
1  関税評価相談について
 関税法7条1項により貨物を輸入しようとする者(原則として納税義務者である。)は,税関長に対して,当該貨物に係る関税の納付に関する申告をしなければならないとされている。しかし,新たな形態の輸入取引を行う場合など納税義務者が輸入貨物の関税の課税評価額を容易に算定し難い場合がある。このような場合に備え,関税法7条3項に基づいて税関は納税義務者その他の関係者からの求めに応じ関税評価相談を行っており,相談内容を踏まえて,関税の納付に関する申告について,必要な輸入貨物に係る関税定率法別表(関税率表)の適用上の所属,税率,課税標準等の教示をしている。
 なお,基本通達7-17により,教示の方法は,文書による照会がされれば文書により回答するものとされている。このような文書による照会・回答は,毎年4,000件を超えている。

2  本件対象文書の存否応答拒否について
 本件開示請求は,審査請求人の主張によれば,審査請求人の代理人であった特定会社Bの関税評価相談の回答の根拠になった文書ないしは同回答の応接記録等の開示を求めるというものであると認められる。この請求に対し,処分庁は本件対象文書が存在しているか否かを答えるだけで,法5条2号イ及び6号の不開示情報に該当するとして,法8条の規定により存否応答拒否による不開示決定を行い,諮問庁も当該不開示決定を維持すべきとしている。
 本件対象文書の存否を答えることは,特定会社Aが特定会社Bを代理人として,特定の時期に東京税関に対して関税評価相談を行ったという事実の有無を明らかにする結果を生じさせるものと認められる。以下,当該事実の有無の不開示情報該当性について検討する。

3  不開示情報該当性
(1)  法5条2号イ該当性について
 諮問庁は,本件対象文書の存否を答えるだけで,当該法人が近い将来輸入取引を行う予定であること,あるいは,新たな形態の輸入取引を開始することを示唆することとなる情報となり,相談を行ったという事実が知られれば,同業他社に対策を講じられ,期待した利益や競争力が確保できなくなる可能性があり,法5条2号イの不開示情報を開示されることになると説明する。
 そこで,本件について検討すると,審査請求人によれば税関との相談が終わった段階で,相談した方式で輸入を始めており,通関業者はもちろん同業他社も当該輸入を開始したことを知り得る立場にあり,もはや営業上の秘密とはなり得ないものであるので,審査請求人は,本件相談の対象となった輸入についての関税評価相談の存否について,すべての開示請求者に情報公開することを承諾するとしている。
 また,本件の場合,特定会社Bが特定会社Aの代理人として関税評価相談を行ったものであり,その存否を明らかにした場合,特定会社Bが特定会社Aと代理契約を行っていたこと,代理人として関税評価相談を行ったという事実を明らかにすることとなるが,当該特定会社B自ら,本件開示請求書の文書により,当該会社の権利,競争上の地位その他正当な利益が害されることはなく,何人に対しても公開することを承諾するとしていることから,いずれも公になったとしても,特定会社Bの権利,競争上の地位その他正当な利益を害するものとは認められない。
 以上のことから,本件対象文書の存否を明らかにしても,特定会社A及びBの権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがないものと認められ,法5条2号イの不開示情報には該当しない。

(2)  法5条6号該当性について
 諮問庁は,特定の会社が関税評価相談を行った事実を推測させるおそれがある一切の情報は,公にすることにより相談の秘匿性が確保されないことで,課税価格の決定方法等に疑問がある場合でも輸入申告者が関税評価相談を行わない事態が生じ,正確な納税申告が減少し,関税評価相談事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると説明する。
 しかし,本件対象文書の存否を答えることにより明らかになるのは関税評価相談の内容ではなく,相談を行ったという事実の有無にとどまるものであり,かつ,上記のとおり特定会社A及びBも当該情報の開示について承諾しているものである。
 したがって,本件対象文書の存否を明らかにしても,関税評価相談の事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるものとは認められず,法5条6号には該当しない。

4  本件不開示決定の妥当性
 以上のことから,諮問庁が本件対象文書の存否を答えるだけで,法5条2号イ及び6号の不開示情報を開示することとなるとして,法8条の規定に基づき開示請求を拒否した本件不開示決定については,法5条2号イ及び6号のいずれにも該当しないことから,取り消すべきであると判断した。

第6  答申に関与した委員
 大熊まさよ,秋山幹男,松井茂記


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