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情報公開・個人情報保護審査会 平成20年度(行情)答申第370号 知的障害を持つ職員に対する…

2008年12月11日 | 存否応答拒否
諮問庁 : 厚生労働大臣
諮問日 : 平成18年10月13日(平成18年(行情)諮問第362号)
答申日 : 平成20年12月11日(平成20年度(行情)答申第370号)
事件名 : 知的障害を持つ職員に対する健康管理支援ファイルの不開示決定(存否応答拒否)に関する件

答 申 書


第1  審査会の結論
 「知的障害を持つ職員に対する健康管理支援ファイル(個別支援台帳平成17年度)」(以下「本件対象文書」という。)につき,その存否を明らかにしないで開示請求を拒否した決定は,取り消すべきである。

第2  異議申立人の主張の要旨
1  異議申立書
(1)  異議申立ての趣旨
 行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)3条の規定に基づく開示請求に対し,平成18年7月12日付け厚生労働省発会第0712003号により厚生労働大臣(以下「処分庁」又は「諮問庁」という。)が行った本件対象文書の不開示決定(以下「原処分」という。)について,その取消しを求める。

(2)  異議申立ての理由
 法5条1号の不開示情報を開示することとはならない。知的障害者を雇用しているという事実を公表することは,東京労働局では,法5条1号に該当する非開示情報ではないとして,知的障害者を雇用している事実を公表している。その一方,厚生労働省会計課は,知的障害者を雇用しているかどうかを明らかにする情報は非開示情報を開示することになると考えている。知的障害者を雇用している事実あるいは,していない事実を公表することは,多くの自治体が既に実施していることである。多くの自治体が公表し,かつ,厚生労働省東京労働局が公表している知的障害者雇用に係る情報は,厚生労働省会計課においても,公表できると考える。
 会計課職員は,厚生労働省は知的障害者の雇用の推進に関する施策の作成,推進に関して責任のある立場にあることを認識すべきである。このことは,厚生労働省内部で,情報公開制度上の非公開情報の解釈・運用の判断が異なるということである。厚生労働省職員人事管理の問題,職員の人間関係等に何らかの問題があり,知的障害者の雇用に係る情報を公開できないとするならば,そのことを理由説明書の中で,説明すべきである。

2  意見書
 都道府県,市町村は,障害者を雇用する場合は,その旨の広報をしている。異議申立人が確認している障害のある人の採用条件は,身体障害者であって,自力で通勤できる人である。
 厚生労働省が知的障害者を採用しているとするならば,知的障害者を採用するという広報をし,採用試験を実施していると考える。採用の機会は,知的障害者に公平に与えられるべきであるから,知的障害者を厚生労働省が採用している事実は,誰でも知り得る状態になっていなければならない。
 東京労働局は,知的障害者を雇用している事実を公表している。さらに,採用予定のあるハローワーク名を含む採用計画までも公表している。このことは,新たに採用される知的障害者は,働いている事実が公表されることを承知して採用試験を受けることとなる。つまり,障害者任免状況通報書に知的障害者の数が記載されることが知的障害者の権利利益の侵害に当たると考える知的障害者は,採用試験を受ける資格がないということである。知的障害者であることを明らかにしたくないと考えている者を雇用しないと東京労働局は主張している。したがって,厚生労働省も,知的障害者を雇用している事実,そして,今後の知的障害者(自閉症を含む)採用計画を具体的に公表することはできると考える。厚生労働省は,障害者本人の意に反して本人を障害の有無が公になることがあってはならないと主張しているが,障害者任免状況通報書における数字のみであれば,障害の有無を明らかにしているとは言えないと,東京労働局は主張していると思われる。厚生労働省は,知的障害者の雇用計画を明らかにして,障害者雇用を推進していただきたい。
 「知的障害」の定義に該当する職員がいれば,同僚は,当然のこととして,職場環境整備をしていることは求められるので,誰が障害を持っているかについては了解している。「プライバシーに配慮した障害者の把握・確認のガイドラインの概要」を厚生労働省は作成している。このガイドラインは,障害に対する理解や障害者に対する支援策についての理解の普及を目的として作成されている。その中で,「精神障害者をはじめとする障害者に対する社会の理解を進めていくとともに,職場においても障害についての理解が進み,障害者であることを明らかにして,周囲のサポートを受けながら働くことができるような職場環境を整備することが必要です」と説明している。厚生労働省では,同僚等が,障害のある職員を知らないとすれば,障害のある職員は,現在,「サポート」を受けていないことになる。職場環境の整備や同僚のサポートを必要としない人は,障害を持っているとは言えない。障害者任免状況通知書に登録される人は,同僚のサポートを必要としている人である。
 知的障害のある職員が,同僚の支援を受けずに職務を遂行することができるとする仮説は,知的障害の定義に反する理解であると考える。日常生活又は社会生活に制限を受けている知的障害者が,同僚等に支援を受けることなく,職務を遂行することは困難である。
 東京労働局職員は,知的障害者が働きやすい職場環境整備をしている。仮に,厚生労働省が知的障害者を雇用しているとすると,東京労働局と同様に,知的障害のある職員の環境整備を実施していると考える。環境整備をしていないということは,知的障害者を雇用していないということである。
 現在,知的障害のある職員に対する探索等が同僚等によって行われていないことが事実であるならば,知的障害のあるものが採用されている事実が公表されたとしても,それを契機として,同僚等が,探索や,推認を行う契機となるおそれがあるという主張には,説得力はない。同僚であれば既に明らかになっている事実が公表されるだけであるから,公表を契機として,何らかの不利益を知的障害のある職員が受けるおそれはない。
 「職場内の同僚等が,障害を有する者を探索する・・・」という行動そのものが,国家公務員の信用失墜行為に該当すると考える。そのことが,例えば,障害福祉課の職員によって知的障害のある者に対する探索・推測がされるとすると,障害者団体の障害福祉課職員に対する信用は失墜する。その結果,障害者施策の実現に支障を及ぼすおそれが出てくると考える。
 「職場内の同僚」は,「障害福祉課の同僚」又は「厚生労働省の職場」と読むこともできる。そうすると,「障害福祉課の職員」が,「障害を有するものを探索する等・・・」という文章を作成することができる。これでは,厚生労働省の障害者の心情理解及び障害理解,行動特徴は極めて低いと誤解されるおそれがある。この文章を知的障害者団体,自閉症者団体に配布して,意見を聴取すると,この文章の感性のなさが指摘されると考える。
 いかなる条件下においても,探索行動は,厚生労働省職員による障害のある職員に対する人権侵害行動であると考える。起こり得ないことを前提とした主張は,空論であり,無効である。しかし,ほとんどの行政機関では起こらないが,障害者の福祉を担当する国の機関の代表である厚生労働省においては探索行動が起こり得るとする立場を維持される場合は,障害者を講師とする障害者の人権に関する職員研修を実施して,国家公務員としての自覚を促すことが大切である。
 以上のとおり,存否を明らかにしない処分は不当である。その(存)否を明らかにして,処分をすべきである。

第3  諮問庁の説明の要旨
1  本件異議申立ての経緯
 本件異議申立ては,異議申立人である開示請求者より平成18年6月12日付けでされた「知的障害を持つ職員に対する健康管理支援ファイル(個別支援台帳 平成17年度)」(健康診断及び健康相談における記録の中で知的障害を持つと思われる職員に対する健康管理面でのフォローを記録したもの。)の開示請求に対し,厚生労働大臣が平成18年7月12日付けで行った原処分を不服として,同月18日付けで提起されたものである。

2  諮問庁としての考え方
 本件異議申立てに係る開示請求に対して,当該請求に係る行政文書の存否を答えることにより,知的障害のある職員の有無という法5条1号の不開示情報を開示することとなるため,法8条の規定に基づき不開示とした原処分については妥当であることから,異議申立人の主張には理由がなく,本件異議申立ては棄却すべきものと考える。

3  不開示情報該当性について
 法8条は,「開示請求に対し,当該開示請求に係る行政文書が存在しているか否かを答えるだけで,不開示情報を開示することとなるときは,行政機関の長は当該行政文書の存否を明らかにしないで,当該開示請求を拒否することができる。」こととしている。
 本件異議申立てに係る行政文書の存否を答えることは,知的障害のある職員の有無という情報を明らかにすることであり,当該情報は,障害者任免状況通報書における障害種別の各区分における人数欄同様,職場内の同僚等が障害を有する者を探索することや,推認することが可能となるものであり,また,そのような探索や推認を行う端緒や契機になり得るものである。したがって,当該請求に係る行政文書の存否自体は,特定の個人を識別することができる情報又は特定の個人を識別することはできないが,公にすることにより,なお個人の権利利益を害する恐れがある情報であり,法5条1号に該当し,かつ,同号ただし書イからハまでのいずれにも該当しないため,法8条の規定に基づき,不開示としたところである。

4  異議申立人の主張について
 原処分に対し異議申立人は,東京労働局や多くの自治体が知的障害者を雇用しているという事実を公表していることから法5条1号の不開示情報に当たらないと主張し,不開示とした原処分を取り消すべき旨主張している。
 しかしながら,東京労働局の記者発表は本人の了解を得た上で行われたものであり,本件については,障害者本人の意に反して本人の障害の有無等が公になることはあってはならないことから,障害者である者の探索や推認を行う端緒や契機になり得る当該請求に係る行政文書の存否について,「障害者任免状況通報書」に対する処分と同様の立場から原処分を行ったものであり,異議申立人の主張は理由がない。

第4  調査審議の経過
 当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。

①  平成18年10月13日  諮問の受理
②  同日  諮問庁から理由説明書を収受
③  同年11月28日  異議申立人から意見書を収受
④  平成19年7月3日  審議
⑤  同年12月6日  諮問庁の職員(厚生労働省大臣官房会計課福利厚生室長ほか)からの口頭説明の聴取
⑥  同月18日  審議
⑦  平成20年6月10日  審議
⑧  同年12月9日  審議

第5  審査会の判断の理由
1  本件対象文書について
 本件開示請求は,開示請求書の記載によると,「知的障害を持つ職員に対する健康管理支援ファイル(個別支援台帳 平成17年度)」の開示を求めるものである。
 処分庁は,本件対象文書について,異議申立人にその請求文書の具体的内容を確認したところ,健康診断及び健康相談における記録の中で知的障害を持つと思われる職員に対する健康管理面でのフォローを記録したものであるとのことであった。諮問庁は,「健康管理面でのフォローを記録したもの」について,特段知的障害者を雇用している事業主等に対し,健康管理面での支援の記録等を作成することは求められておらず,個々人に対する支援の状況を記録したものは作成していないが,これを広く解釈した場合,「人事院規則10-4(職員の保健及び安全保持)第25条に基づく健康管理の記録」及び「職員である保健師が保健指導の一環としての健康相談を行った際,相談者から知的障害がある旨申告があった場合に作成したメモ」が該当すると考えていると説明している。
 処分庁は,本件対象文書の存否を答えることは,法5条1号の不開示情報を開示することとなるとして,その存否を明らかにしないで開示請求を拒否する原処分を行い,諮問庁は,これを妥当であるとしている。
 これに対し,異議申立人は,本件対象文書の存否に係る情報は,同号の不開示情報に該当しないとして,原処分の取消しを主張するため,以下,本件対象文書の存否応答拒否の妥当性について検討する。

2  本件対象文書の存否応答拒否について
 諮問庁は,本件対象文書が存在しているか否かを答えることは,厚生労働省において知的障害のある職員が在職している事実の有無という情報を明らかにすることであり,当該情報は,特定の個人を識別することができる情報又は特定の個人を識別することはできないが,公にすることにより,なお個人の権利利益を害するおそれがある情報であるとする。すなわち,当該情報は,「障害者任免状況通報書」における障害種別の各区分における人数欄同様,職場内の同僚等が障害を有する者を探索,推認することが可能となるものであり,また,そのような探索や推認を行う端緒や契機になり得るものであることから,法5条1号に該当し,かつ,同号ただし書イないしハのいずれにも該当しないため,法8条に基づき開示請求を拒否したと説明する。
 諮問庁は,異議申立人に確認した請求文書の具体的内容を踏まえ,更に存否応答拒否とすべき具体的理由等を説明するので,以下,それぞれの文書について,個別に検討する。

(1)  知的障害を持つと思われる職員に対する当該障害に係る健康管理面での支援の記録

ア  諮問庁は,「知的障害を持つと思われる職員に対する健康管理面でのフォローを記録したもの」について,これを広く解釈した場合,人事院規則10-4(職員の保健及び安全保持)第25条に基づく「健康管理の記録」が該当すると考えており,これは,具体的には,健康診断の結果(健康診断書)を保管しているものであると説明する。
 当審査会において,上記人事院規則を確認したところ,同規則25条において,「各省各庁の長は,健康診断又は面接指導の結果,指導区分,事後措置の内容その他健康管理上必要と認められる事項について,人事院の定めるところにより,職員ごとに記録を作成し,これを職員の健康管理に関する指導のために活用しなければならない。」と規定されていることが認められる。また,厚生労働省においては,外部の機関に委託することにより,人事院規則に基づく健康診断を実施しているが,当審査会において,職員の健康診断の検査項目等について定めた人事院規則10-4(職員の保健及び安全保持)及び「人事院規則10-4(職員の保健及び安全保持)の運用について(通知)」(昭和62年12月25日付け職福-691人事院事務総長通知)を確認したところ,これらの人事院規則及び通知には,健康診断の検査項目として知的障害に関する検査は記載されていないことが認められる。

イ  また,異議申立人が,本件対象文書として,健康診断における問診時に本人から知的障害のある旨の申告等をメモしたものが含まれるとしている点について,諮問庁は,「健康診断問診時のメモ」については,問診票のその他欄等に記載される可能性があるが,これは,健康診断実施機関が診断を行うために作成したものであり,厚生労働省への提出も求めていないことから,行政文書には当たらない旨説明する。
 当審査会において,諮問庁より一般定期健康診断等の請負に係る契約書の提示を受けて確認したところ,当該契約書に規定されている仕様書において,健康診断の成果物である「健康診断個別結果報告書」の提出が求められており,その記録媒体については,健康診断実施機関において管理・保存(5年間保存)するものとされていることが認められる。また,健康診断個別結果報告書作成に係る関連資料等の範囲,同結果報告書等の帰属先及び著作権に関しては,特段の規定が設けられていることは認められない。さらに,同結果報告書受領後における問診票の提示等の取扱いについて,事務局職員をして諮問庁に確認させたところ,諮問庁は,厚生労働省としては,健康診断の結果及び判定が必要であり,委託先機関がこれらを導くための手段としている問診票そのものは必要ないこと,また,委託契約上も特に提出を求めておらず,その実績もないとのことであった。なお,諮問庁は,委託先機関によると,仮に問診票の提出要求があれば,廃棄していない限り提出は可能とのことであるが,同省としては,その可能性は現実的にはないと思料するとのことであった。

ウ  そうすると,当該問診票は,契約上,明らかに発注者たる厚生労働省に帰属すると解することはできず,また,その取扱いについて,同省では,これまで問診票の提示等を求めた実績はなく,その保存,廃棄等にも関与していないという事情がうかがわれることにかんがみると,問診票について,同省は事実上の支配をしていると解することもできず,これを保有しているとは認められない。このため,異議申立人が主張する健康診断問診時に係る問診票については,法の適用対象たる行政文書には該当しないと認められる。

エ  以上のことを踏まえると,上記の人事院規則に基づく健康管理の記録は,厚生労働省職員全般を対象として作成されるものであり,特に,知的障害のある職員を対象としたものではないこと,また,健康管理の記録が,具体的には健康診断結果を保管しているものであることにかんがみると,健康診断においては,そもそも知的障害の診断を行っていないため,知的障害のある職員の在職の有無にかかわらず,開示請求のあった知的障害を持つと思われる職員に対する当該障害に係る健康管理面での支援の記録(以下「本件記録」という。)は制度的に存在し得ないものであって現に作成されておらず,同文書がないというのであるから,そのことを公にしても法8条の「不開示情報を開示すること」にはならないと認められる。よって,本件記録については,これを作成することとされておらず,現に作成されていないと答えるべきことが明らかな事案であると考えられる。

オ  したがって,本件記録については,原処分を取り消した上で,その存否を明らかにして改めて開示決定等をすべきである。

(2)  知的障害を持つと思われる職員に対する健康相談書 

ア  諮問庁は,厚生労働省においては,人事院事務総局勤務条件局長通知(平成16年3月30日付け勤職-75号「職員の心の健康づくりのための指針」)に基づく健康相談事業を行っているが,外部の精神科医等による健康相談においては,診断そのものは行っておらず,あくまでも相談を行うことのみを外部医師に依頼しており,また,秘密厳守及びプライバシー尊重の観点から記録の作成や報告書等の提出を求めていないため,健康相談書は存在しない旨説明する。なお,人事院からは,外部専門医から相談記録の報告を求めるべきとする趣旨の指導等は受けていない旨併せて説明する。
 当審査会において,上記指針を確認したところ,健康相談に関しては,指針の「4 心の不健康な状態への早期対応」の(1)①において,「各省各庁の長は,職員の心が不健康な状態にあり専門家による対応が必要である可能性があると感じたとき,職員本人などが専門家に相談できるよう相談窓口等を定め,周知する。」旨記載されているものの,個別の相談記録について,特に外部専門医から報告を求めることとする趣旨の記載は認められず,また,念のため事務局職員をして人事院に確認させたところ,人事院では,各府省に対し,特段そのような趣旨の通知は行っていないとのことであった。さらに,諮問庁は,仮に任意で相談記録の作成等が行われていた場合であっても,相談者のプライバシーにかかわる機微な内容が記載されることとなるため,これを同省を含めた他の第三者が入手することは,相談者と専門医との信頼関係を損なわせるものであって,相談者の心情を著しく害することとなるため,到底できるものではないとも説明する。
 このような諮問庁の説明に特に不自然・不合理な点はなく,厚生労働省において,そもそも外部の専門医による健康相談の記録を保有しているとは認められない。

イ  一方,諮問庁は,保健指導の一環として,職員である保健師が健康相談を随時行っているが,保健師が健康相談時に作成するメモ(大学ノート等に相談内容を記載)に関し,仮に相談者から知的障害がある旨の申告があった場合にその旨記載される可能性は否定できず,その存否を答えることは,知的障害のある職員の有無という情報を明らかにすることであり,当該情報は「障害者任免状況通報書」における人数欄同様,職場内の同僚等の探索や推認を行う端緒や契機になり得るものである旨説明する。また,仮に「知的障害」と記載された文書が現時点では不存在であっても,将来,そのような記載のある文書が存在することとなった場合,存在を認めて不開示とせざるを得ない状況となり,結果としてそのような職員がいるということを明らかにしてしまうこととなるために存否応答拒否が妥当であるとも説明する。
 この点について検討すると,保健師が業務の一環として行っている健康相談は,厚生労働省職員全般を対象としたものであり,特に,知的障害のある職員を対象としたものではなく,かつ,知的障害のある職員が在職すれば,相談の有無にかかわらず,当該職員のみを対象とした相談記録用の文書が作成されることとなるわけでもない。これらのことを踏まえると,保健師が健康相談時に作成するメモであって相談者から知的障害がある旨の申告があった旨の記載があるものの存否を答えることは,厚生労働省において知的障害のある職員が在職している事実の有無は明らかになるものの,仮に当該文書が存在していたとしても,当該職員の特定につながる情報を不開示とするならば,相談を行った職員が直ちに明らかになるわけではない。さらに,当審査会の事務局職員をして確認させた厚生労働省の規模を踏まえると,当該文書が存在するという事実のみでは,知的障害を有する職員の探索や推認を行う端緒や契機になり得るとは認められず,相談を行った職員が特定されるおそれはないことから,法5条1号に該当する事実は認められない。

ウ  したがって,保健師が健康相談時に作成するメモであって相談者から知的障害がある旨の申告があった旨の記載があるものの存否を答えるだけでは,法5条1号の不開示情報を開示することとはならないと認められる。

3  本件不開示決定の妥当性
 以上のことから,本件対象文書につき,その存否を答えるだけで開示することとなる情報は法5条1号に該当するとして,その存否を明らかにしないで開示請求を拒否した決定については,知的障害を持つと思われる職員に対する当該障害に係る健康管理面での支援の記録については,厚生労働省においてこれを保有していないことが明らかであり,知的障害を持つと思われる職員に対する健康相談書については,当該情報は同号に該当せず,本件対象文書の存否を明らかにして改めて開示決定等をすべきであることから,取り消すべきであると判断した。

(第3部会)
 委員 名取はにわ,委員 北沢義博,委員 高橋 滋


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