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広島県情報公開・個人情報保護審査会 諮問(情)第146号 特定年月日に消費生活室に…

2007年07月10日 | 存否応答拒否
広島県情報公開・個人情報保護審査会 諮問(情)第146号

第1 審査会の結論
広島県知事(以下「実施機関」という。)が,本件異議申立ての対象となった行政文書について,その存否を明らかにしないで開示請求を拒否した決定は,取り消すべきである。

第2 異議申立てに至る経過
1 開示の請求
異議申立人は,平成16年6月21日,広島県情報公開条例(平成13年広島県条例第5号。以下「条例」という。)第6条の規定により,実施機関に対し,「特定の年月日(以下「特定日」という。)に,広島県環境生活部管理総室消費生活室(以下「消費生活室」という。)に寄せられた,異議申立人の販売する商品の情報検索システム(以下「特定システム」という。)についての相談に関する受付文書,報告文書,事後対応に関する文書あるいはそれに類する文書で,相談者の氏名,住所,連絡先,法人の役員・社員ないし関係者であればその法人の名称,所属,地位等が記載されたものを含む一件書類すべて」(以下「本件対象文書」という。)の開示を請求(以下「本件請求」という。)した。

2 請求に対する決定
実施機関は,本件請求に対し,本件対象文書の存否を答えるだけで保護されるべき利益が損なわれることになることを理由として,平成16年7月1日,本件対象文書の存否応答を拒否する決定(以下「本件処分」という。)を行い,異議申立人に通知した。

3 異議申立て
異議申立人は,平成16年7月30日,本件処分を不服として,行政不服審査法(昭和37年法律第160号)第6条の規定により,実施機関に対し異議申立てを行った。

第3 異議申立人の主張要旨
1 異議申立ての趣旨
本件処分の取り消しを求めるというものである。

2 異議申立ての理由
異議申立人が,異議申立書及び意見書で主張している異議申立ての理由は,おおむね次のとおりである。

(1) 特定日に特定システムについて消費生活室に寄せられた相談(以下「本件相談」という。)について,本件相談の相談者(以下「本件相談者」という。)は,本件相談の事実等を文書にして業界関係者に渡し,同文書のコピーが業界内に流通している。そこで,本件対象文書の開示によりその内容を正確かつ詳細に明らかにしない限り,異議申立人の害された社会的信用を回復することは困難である。

(2) 本件相談の内容等を業界紙に記載して業界関係者に頒布し,その中で,異議申立人が「訴えられた」などと虚偽かつ悪質な中傷をして,あたかも特定システムに裁判沙汰になるような欠陥があるかのような印象を業界関係者に抱かせた件について,その経緯等を明らかにするためにも,異議申立人には情報の公開によって害される社会的信用以上に保護されるべき利益がある。

(3) 実施機関は本件処分において,「本件請求のように,事業者名や相談内容を特定した情報開示請求があった場合,仮に対象文書が存在するのであれば,開示することはもちろん,不開示の決定を行ったとしても,そのような内容の相談があったことが推察され,異議申立人の社会的信用を損なうおそれがある。」としている。
しかし,異議申立人は自らの情報の公開を求めているのであるから,仮に,それによって自己の社会的信用が損なわれることがあったとしても,「保護されるべき利益」は存在しない。存在しない利益を保護することを理由として,情報の公開を拒否することは不当である。

(4) 条例第10条の開示義務の例外規定には,「ただし,人の生命,身体,健康,生活又は財産を保護するため,公にすることが必要であると認められる情報を除く」として,これらの情報は,開示義務の例外の例外とされている(同条第3号及び第7号)。
この「人」は,自然人(個人)のほか,法人も当然に含まれ,本件相談者及びその同調者が誤った内容等を業界に流布したことにより害された異議申立人の社会的信用と財産的侵害を回復するためには,本件請求に係る情報の開示が必要なのであって,「人の…財産を保護するため,公にすることが必要であると認められる情報」であることは明らかであり,開示義務の例外の例外として,実施機関は開示義務を負うものと解される。

(5) 以上のように,本件対象文書の開示により異議申立人に利益が損なわれることはないこと,むしろ異議申立人の被害回復のためには本件対象文書の開示が不可欠であること,条例の規定からも,実施機関は開示義務があると解されること等の理由から,速やかに本件対象文書の開示がなされるべきである。

第4 実施機関の説明要旨
実施機関が理由説明書及び口頭による意見陳述で説明している内容を総合すると,本件対象文書について存否応答拒否とした理由などについては,おおむね次のとおりである。

1 不当表示に係る相談について
商品の表示に関して,顧客を不当に誘引することの防止及び適正な表示の確保を図り,一般消費者の利益を保護することを目的として,不当景品類及び不当表示防止法(昭和37年法律第134号。以下「景品表示法」という。)が規定されている。
景品表示法に係る不当表示の相談は,年間10件程度であり,内容はいわゆる苦情である。
消費生活室が不当表示の相談を受けたときには,事実関係を確認の上,不当表示に当たる部分又はそのおそれのある部分については,当該相談の対象となった事業者(以下「対象事業者」という。)に改善を行うよう指導を行っている。
景品表示法では,法律に違反した対象事業者に指示を行うことができると規定されており,同法を所掌している公正取引委員会からはこの指示を行った対象事業者の名称を公表することは妨げないとの指導を受けているが,指導で終わっているため,対象事業者に指示を行ったことはなく,名称を公表したこともない。

2 存否応答拒否としたことについて
本件請求のように,事業者名や相談内容を特定した情報開示請求があった場合,仮に対象文書が存在するのであれば,開示することはもちろん,不開示の決定を行ったとしても,そのような内容の相談があったことが推察され,本件請求の対象となった特定システムは異議申立人の商品の安全をPRしているものであることから,風評被害によって,異議申立人の社会的信用が実質的に損なわれるおそれがある。
また,対象行政文書が不存在であった場合のみ不存在の決定を行うのであれば,不存在以外の決定が行われた場合には,当該文書が存在すること,すなわち相談があったことが推察され,不開示の決定を行った場合と同様に異議申立人の社会的信用を損なうおそれがある。
本件請求は,対象事業者である異議申立人自身によってなされているため,本件対象文書の存否を明らかにし,仮に本件対象文書が存在するのであれば,開示しても異議申立人の社会的信用を損なうおそれはないという主張もあり得ないではない。
しかし,条例では,何人に対しても同様の決定を行うことを前提としているため,仮に異議申立人に本件対象文書を開示するのであれば,第三者が同じ文書の開示請求を行った場合にも同様に開示せざるを得ない。
本件では,本件対象文書が存在しているか否かを答えるだけで相談がなされたことが明らかになるため,第三者に対して本件対象文書の存否を明らかにした場合,異議申立人の社会的信用を損なうおそれがある。

第5 審査会の判断
1 本件対象文書について
本件対象文書は,本件相談に関する受付文書,報告文書,事後対応に関する文書あるいはそれに類する文書で,相談者の氏名,住所,連絡先,法人の役員・社員ないし関係者であればその法人の名称,所属,地位等が記載されたものを含む一件書類すべてである。
実施機関は,仮に本件対象文書が存在した場合,その存在を明らかにするだけで,特定システムに対する苦情の存在が明らかとなり,異議申立人の社会的信用が損なわれるおそれがあるとして,条例第7条第2項及び第13条の規定に基づき行政文書存否応答拒否の決定を行った。

2 本件処分の妥当性について
(1) 行政文書存否応答拒否制度について
条例第13条は,「開示請求に対し,当該開示請求に係る行政文書が存在しているか否かを答えるだけで,保護されるべき利益を損なうこととなるときは,実施機関は,当該行政文書の存否を明らかにしないで,当該開示請求を拒否することができる。」と規定している。
開示請求に対しては,当該開示請求に係る行政文書の存否を明らかにした上で,存在している場合は開示又は不開示を回答し,存在しない場合は存在しない旨を回答することが原則である。
しかし,行政文書の内容によっては,存在しているか否かを答えるだけで,不開示情報を開示した場合と同様に,個人や法人等の権利利益を侵害したり,県の機関又は国等の機関が行う事務事業に支障を及ぼしたりすることがあり得る。このため,条例第13条は,対象となる行政文書の存否を明らかにしないで,公開請求を拒否することができる場合を例外的に規定しているものである。

(2) 本件対象文書の存否応答拒否の当否について
本件対象文書は,消費生活室に寄せられた特定システムについての苦情に係る文書である。
実施機関は,仮に本件対象文書が存在した場合,その存否を回答すると,特定システムに対する苦情があったことが明らかとなり,異議申立人の保護されるべき利益である社会的信用を損ない,条例第10条第3号に規定する「法人その他の団体に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって,公にすることにより,当該法人等又は当該個人の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの」に該当するため存否応答拒否としたと主張している。
そもそも行政文書の開示が請求された場合,開示が原則であり,その例外として条例第13条に規定する存否応答拒否は,前述のとおり,行政文書が存在しているか否かを答えるだけで個人や法人等の権利利益を侵害するおそれがあるときには,対象となる文書の存在自体を回答しないことができるとするものである。このため,存否応答拒否処分を行うに当たっては,「保護されるべき利益」が実質的に損なわれるかどうかを検討し,判断することが必要である。
このことを踏まえて,実施機関の主張を検討する。
一般に企業が事業活動を行えば,その内容の真偽は別として,なんらかの苦情はあり得るものである。景品表示法の対象は,様々な商品等の表示に係るものであることから,不特定多数の者から多様な苦情が寄せられることは容易に想定されるところであり,また,消費生活室に苦情が寄せられたことだけで,直ちに当該事業者が景品表示法に違反したものとみなされるものでないことも明らかである。
したがって,実施機関に景品表示法上の不当表示に係る苦情が申し立てられたことに係る文書が仮に存在するとして,その文書の開示等によってその事実が明らかになったとしても,そのことで直ちに,異議申立人の社会的信用が損なわれ,事業活動に支障が生じるなど条例第13条にいう「保護されるべき利益を損なうこととなる」とまでは認められない。

3 結論
よって,当審査会は,「第1 審査会の結論」のとおり判断する。

別 記
審 査 会 の 処 理 経 過
年 月 日処 理 内 容
16. 8. 4・諮問を受けた。
16. 8. 5・実施機関に理由説明書の提出を要求した。
16. 9. 3・実施機関から理由説明書を収受した。
16. 9. 7・異議申立人に理由説明書の写しを送付した。
・異議申立人に意見書の提出を要求した。
16.10.13・異議申立人から意見書を収受した。
・実施機関に意見書の写しを送付した。
19. 2.27
(平成18年度第10回第1部会)
・諮問の審議を行った。
19. 3.20
(平成18年度第11回第1部会)
・実施機関の職員から本件処分に対する意見を聴取した。
・諮問の審議を行った。
19. 4.23
(平成19年度第1回第1部会)
・諮問の審議を行った。
19. 5.25
(平成19年度第2回第1部会)
・諮問の審議を行った。


参 考
答申に関与した委員(五十音順)
今 井 光弁護士
真 田 文 人弁護士
鈴 木 玉 緒広島大学大学院社会科学研究科准教授
西 村 裕 三
( 部 会 長 )
広島大学大学院社会科学研究科教授


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