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情報公開・個人情報保護審査会 平成19年度(独情)答申第85号 特定教授にかかわる研究疑惑に関して…

2007年10月22日 | 存否応答拒否
諮問庁 : 独立行政法人科学技術振興機構
諮問日 : 平成18年10月16日 (平成18年(独情)諮問第77号)
答申日 : 平成19年10月22日 (平成19年度(独情)答申第85号)
事件名 : 特定教授にかかわる研究疑惑に関して作成又は取得された文書の不開示決定(存否応答拒否)に関する件

答 申 書


第1  審査会の結論
 特定教授にかかわる研究疑惑に関して作成又は取得された文書(以下「本件対象文書」という。)につき,その存否を明らかにしないで開示請求を拒否した決定は妥当であるが,現時点においては,本件対象文書の存否を明らかにして改めて開示決定等をすることが相当である。

第2  異議申立人の主張の要旨

1  異議申立ての趣旨
 独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)3条の規定に基づく本件対象文書の開示請求に対し,平成18年9月8日付け「法人文書不開示決定通知書」(H18総務第160-2号)により独立行政法人科学技術振興機構(以下「処分庁」,「諮問庁」又は「機構」という。)が行った不開示決定(以下「本件決定」という。)について,これを取り消し,本件対象文書の開示を求める。

2  異議申立ての理由
 異議申立人の主張する異議申立ての理由は,異議申立書及び意見書の記載によると,おおむね以下のとおりである。

(1)  異議申立書
 周知のように,特定大学の特定教授にかかわる研究疑惑(不正経理及び不正データ扱い等)は,平成13年頃より指摘され,平成18年になり,由々しい社会問題となり,NHK全国ニュース及び全国紙等で複数回にわたり大きく報道された。文部科学省の公式ウェブページでは当人の氏名を挙げ,違法事実と処分を公表している。また,特定大学では違法事実を公式ウェブページで公表し,当人より辞表が出されたが,懲戒処分を検討する旨公表している。これらを考慮すれば,本件開示請求対象文書は,法5条1号イ「法令の規定により又は慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている情報」に当たり,開示相当と思慮される。また法5条3号の適用も,「不当に損なわれる」「不当に国民の間に混乱を生じさせる」「不当に利益を与え若しくは不利益を及ぼす」等いずれも「不当に」との要件が課されているが,本件では大きく報道され実際に判明分について公的に処分が決定し公表されている点を考慮すれば,「不当に」には当たらず,むしろ当然に開示相当と思慮される。
 また,法5条4号ハ「監査,検査,取締り,試験又は租税の賦課若しくは徴収に係る事務に関し,正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし,若しくはその発見を困難にするおそれ」については,むしろ開示しない場合にこそ,関係者が事実を隠ぺいし違法若しくは不当な行為を容易にし,若しくはその発見を困難にするおそれがあり,該当しない。
 このように,本件法人文書不開示決定通知書の決定内容及び決定理由は,いずれも根拠がなく,法の趣旨や条文に違反していることは明白である。関連条項・法規からも開示相当となる。

(2)  意見書

ア  本件開示請求の対象になったこの「特定教授にかかわる研究疑惑」は,大学と研究支援機関を舞台にした極めて特異な事案であり,また,長期間にわたり大きく報道された社会問題である。しかも開示請求時点で行政的にも社会的にも周知された事案である。したがって,本件対象文書は法5条1号イの「法令の規定により又は慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている情報」に当たるので請求文書は開示相当になる。また法5条1号,3号及び4号ハを適用するに当たっては,本件事案の特異性や行政的・社会的意義を適正に把握した上で適法に判断を行わなくてはならない。然るに諮問庁は当該事案の特性を考慮することなく,機械的に条文を引用しているだけであり,適用根拠も明示されていない。これらは明らかに不当な決定であり,容認しかねる。

イ  周知の如く,特定大学の特定教授にかかわる研究疑惑は由々しい社会問題となり,NHK全国ニュース及び全国紙等で複数回にわたり大きく報道された。本件文書開示を平成18年8月9日付けで請求した時点で既に文部科学省及び特定大学から,相応の調査と事実に基づいた公的な措置が公表されている。特に留意すべきは,諮問庁(JST)所管の研究費にかかわり,違法事実ないし疑惑事案としてしばしば報道され指摘された点である。一連の公表資料や報道事実から判断して,「特定教授の研究疑惑」及びJSTの対応状況は「慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている情報」であることは明白である。

ウ  諮問庁は,法5条3号,4号ハにも該当や適用を主張しているが,これらはいずれも不当である。本事案は特定大学の事実隠ぺい傾向や特定教授擁護傾向が根強く,国民や行政庁に対する説明責任が果たされず,事案の真相解明の遅れが大きな問題であった。本件では,関係者(JSTを含む。)が真相を公にしないために,「国民の間に混乱を生じさせ」あるいは「特定の者に不当に利益を与える」と報道されている。しかも文部科学省の見解もこの報道に沿うものである。したがって,諮問庁のこの部分の主張は全く的外れで不当である。もし諮問庁が法5条3号を主張するならば,それは行政庁や国民に対する説明責任回避にほかならない。しかも法5条3号の適用には「不当に損なわれる」等いずれも「不当に」との要件が課されている。安易に5条3号が適用されれば,法の趣旨は甚だ損なわれてしまうのでこのような条件を付していると理解される。以上より,法5条3号の適用は退けられる。

エ  法5条4号ハについても同様にその適用は退けられる。つまり報道資料によれば,特定大学の数か月の調査にも関わらず,「8000万円以上の研究費が適切な使用だったか否か判断できない」とある。正確な事実の把握を困難にしているのは,特定教授やその関係者ないし関係機関の責任回避行為が原因であり,これを許容したのは情報を適切に開示して世論を喚起し,参考人や証拠情報を収集しなかったためと思慮される。つまり開示すべき情報を隠ぺいし,不透明部分を助長したのが一因である。諮問庁(JST)は法5条4号ハを主張しているが,意図的に事実関係の解明を忌避し責任逃れをするためではないか。
 ここに速やかかつ適切な法人文書開示を求める。

第3  諮問庁の説明の要旨

1  本件対象文書について
 諮問庁が本件決定において存否応答拒否とした対象文書は,特定個人の研究疑惑に係る調査等に関して処分庁が作成又は取得した文書である。

2  存否応答拒否とした理由について
 本件請求は,特定個人の研究疑惑に係る調査等に関して処分庁が作成又は取得した文書(調査の連絡指示,旅行命令,内部審議の連絡,報道規制や広報等にかかわるもの。)の開示を求めるものであるが,当該対象文書の存否を答えることは,すなわち処分庁が特定の個人の研究疑惑に関して調査等をしているという事実の有無を明らかにすることにつながる。
 特定個人の研究疑惑に関する調査等の有無に関する情報は,個人に関する情報であって,慣行として公にされている,又は公にすることが予定されている情報とは言えず,現に当機構は当該調査等の事実の有無を公表したことはなく,法5条1号の不開示情報に該当する。
 また,特定個人の研究疑惑に関する調査等の有無に関する情報は,国の機関,独立行政法人の内部又は相互間における検討又は協議に関する情報であって,公にすることにより,あたかも当該研究において特定の個人が不正な行為を行っていたとの印象を与え,特定の者に不当な不利益を及ぼすおそれがあるものと認められ,法5条3号の不開示情報に該当する。
 さらに,特定個人の研究疑惑に関する調査等の有無に関する情報は,独立行政法人が行う事務又は事業に関する情報であって,公にすることにより,事実の隠ぺい等が行われる可能性があり,事務・事業の適正な執行に支障を及ぼすおそれ,又は監査,検査等に係る事務に関し正確な事実の把握を困難にするおそれ若しくはその発見を困難にするおそれのあるものと認められ,法5条4号ハの不開示情報に該当する。
 したがって,本件請求対象文書の存否を答えるだけで,法5条1号,3号及び4号ハの不開示情報を開示することになるため,法8条の規定により法人文書の存否を明らかにしないで拒否することとしたものである。

第4  調査審議の経過
 当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。

①  平成18年10月16日  諮問の受理
②  同日  諮問庁から理由説明書を収受
③  同年11月14日  異議申立人から意見書を収受
④  平成19年4月19日  審議
⑤  同年9月26日  諮問庁の職員(独立行政法人科学技術振興機構総務部情報公開・個人情報保護室長ほか)からの口頭説明の聴取
⑥  同年10月18日  審議

第5  審査会の判断の理由

1  本件対象文書の性格について
 本件対象文書は,特定教授にかかわる研究疑惑に関して作成又は取得された文書であり,その存否を答えることは,機構が特定教授の研究疑惑に関して調査等を行っているという事実の有無(以下「本件存否情報」という。)を明らかにする結果を生じさせるものと認められる。
 以下,本件存否情報の不開示情報該当性につき検討する。

2  本件存否情報の不開示情報該当性について

(1)  法5条1号該当性について

ア  諮問庁は,本件存否情報は,個人に関する情報であって,慣行として公にされている,又は公にすることが予定されている情報とは言えず,現に機構は当該調査等の事実の有無を公表したことはないことから,法5条1号の不開示情報に該当すると説明する。
 公的研究費に係る不正使用問題(以下「本件不正使用問題」という。)に関する本件存否情報は,個人に関する情報であって,当然に当該個人を識別することができるものと認められる。また,当該情報は,一私人の研究疑惑に係る調査等の有無に関するものであり,公務員の職務の遂行に関する情報でもないことから,法5条1号ただし書ハに該当する事情も認められない。さらに,当該情報は,人の生命,健康,生活又は財産を保護するため,公にすることが必要である情報とは言えないことから,法5条1号ただし書ロに該当する事情も認められない。

イ  次に,法5条1号ただし書イ該当性について検討する。
 諮問庁は,本件決定を行った時点及び審査会に諮問した時点においては,特定教授の研究疑惑の真偽については定かではなく,当該疑惑に関して調査等を行っている事実について公表していなかった旨説明する。
 確かに,本件存否情報は,これを広く一般に公にする制度ないし実態があるものとは言えず,慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている情報とは認められないことから,法5条1号ただし書イに該当するとは言えない。
 したがって,本件存否情報は,本件決定時点においては,法5条1号の不開示情報に該当すると言うべきである。

ウ  他方,本件不正使用問題については,文部科学省のホームページにおいて平成18年12月22日付けで公表されており,当該公表資料において,機構が特定教授にかかわる公的研究費について詳細調査を行っている旨が明らかにされている。さらに,機構自らが,そのホームページ等において,平成19年3月29日付けで,本件不正使用問題に係る調査結果等について特定教授の実名入りで公表を行っている。
 これらの公表事実を踏まえると,本件不正使用問題に関して,機構が特定教授にかかわる公的研究費について調査を行っていることは,既に公になっている情報と認められ,現時点においては,本件存否情報は,法5条1号ただし書イの「慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている情報」に該当することから,同号の不開示情報には該当しないと言うべきである。

(2)  法5条3号該当性について
 諮問庁は,本件存否情報は,国の機関,独立行政法人の内部又は相互間における検討又は協議に関する情報であって,公にすることにより,あたかも当該研究において特定の個人が不正な行為を行っていたとの印象を与え,特定の者に不当な不利益を及ぼすおそれがあるものと認められ,法5条3号の不開示情報に該当する旨説明する。
 しかしながら,このような単なる調査等の有無に関する情報自体は,国の機関,独立行政法人の内部又は相互間における検討又は協議に関する情報に当たるとまでは言えず,法5条3号の不開示情報に該当するとは言えない。

(3)  法5条4号ハ該当性について
 諮問庁は,本件存否情報は,独立行政法人が行う事務又は事業に関する情報であって,公にすることにより,事実の隠ぺい等が行われる可能性があり,事務・事業の適正な執行に支障を及ぼすおそれ,又は監査,検査等に係る事務に関し正確な事実の把握を困難にするおそれ若しくはその発見を困難にするおそれのあるものと認められ,法5条4号ハの不開示情報に該当する旨説明する。
 この点については,諮問庁が説明するように,本件決定を行った時点においては,特定教授の研究疑惑に関して調査等を行っている事実について公表しておらず,これを調査が継続している途上において逐一公にすることは,当時としては,機構が行う本件不正使用問題に関する調査の適正な執行に支障を及ぼすおそれがあるため,法5条4号ハの不開示情報に該当すると言うべきである。
 しかしながら,機構自らが,そのホームページ等において,当該調査結果等について公表を行っている事実が認められる現時点においては,本件存否情報は,法5条4号ハの不開示情報には該当しないと言うべきである。

3  異議申立人のその他の主張について
 異議申立人は,その他種々主張するが,当審査会の上記判断を左右するものではない。

4  本件決定の妥当性について
 以上のことから,本件対象文書につき,その存否を答えるだけで開示することとなる情報は,法5条1号,3号及び4号ハに該当するとして,その存否を明らかにしないで開示請求を拒否した決定については,当該情報は同条1号及び4号ハに該当し,妥当であると認められるが,現時点においては,同条1号及び4号ハのいずれにも該当せず,本件対象文書の存否を明らかにして改めて開示決定等をすることが相当であると判断した。

 (第4部会)

委員 鬼頭季郎,委員 園 マリ,委員 藤原静雄


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