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情報公開審査会の答申などを集めて載せています。

千葉県情報公開審査会 答申第159号 平成3年度から平成6年度分の会議費の支出・振替(更正)回議書

2004年06月04日 | 行政文書該当性/文書の特定/理由付記
諮問第54号
答申第159号

第1 審査会の結論
千葉県企業庁長(以下「実施機関」という。)は、本件異議申立ての対象となった公文書部分公開決定について、理由付記に不備があるので取り消すべきであり、また、非公開とした情報のうち、別紙「非公開情報一覧」の審査会の判断欄に表記した情報以外の情報を公開すべきである。

第2 異議申立人の主張要旨
1 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、実施機関が、平成7年9月5日付け企ニ管第157号で行った公文書部分公開決定及び平成7年10月25日付け企ニ管第187号で行った公文書部分公開決定(以下「合わせて「本件決定」という。)の取消しを求めるというものである。

2 異議申立ての理由
異議申立ての理由を要約すると次のとおりである。

(1) 本件決定の違法性
旧条例第8条第4項によれば、実施機関が公文書の公開をしない旨の決定をした場合には、「その理由を第2項の書面に記載しなければならない。」とされている。
処分庁の決定通知書に記載された「公文書の一部を公開しない理由」は、旧条例の条文を引用したにすぎず、旧条例の定める理由付記の要件を欠き違法である。
このことは、最高裁判所判例で明言されている。

(2) 旧条例第11条第2号該当性について
ア 本件決定の対象文書である支出証拠書類(以下「本件文書」という。)の事由欄の記載からも明らかなように、各懇談会は、各会議、検討会後に行われたものであり、「協議、連絡調整の場」として行われたものである。すなわち、この懇談会自体も先立つ会議、検討会と関連する公務としての性格を有するものであり、会議費が公費で賄われ、その支出行為も公務であるのだから、このような行為が「極めて私的なプライバシーに属する情報」であろうはずがない。したがって、プライバシーを保護法益とする本号の適用がないことは明らかである。
イ 本件文書の事由欄に記載されているのは、特定の個人名ではなく組織名である。実施機関は、組織の名簿、事務分掌から出席者個人が容易に特定し得るから、これを公開することは特定の個人名を公開することと同様であると説明するが、根拠のない漠然かつ抽象的な理由であって、非公開の理由とはならない。
本件と同種の事案である大阪府の懇談会経費に係る最高裁判所の判決では、相手方等が了知される可能性があることについて、その判断を可能とする程度に具体的な事実を主張、立証しないかぎり非公開事由に該当するとはいえないとされている。
本件処分における実施機関の説明は具体的な主張・立証とはなっていない。

(3) 旧条例第11条第3号該当性について
本件文書が公開されたからといって、実施機関が説明するような売上高、顧客層、顧客数等の経営状態などが判明するとは考えられない。
本件文書から判断すると、懇談会は2日ないし3日に1回の割合で開催されているに過ぎず、しかも全て同じ飲食店で開催されているわけではない。したがって、債権者の情報を公開したからといって、売上高や顧客層、顧客数が明らかになるとは考えられず、その具体的な説明がなく漠然、抽象的な説明では非公開の理由とならないことは明らかである。

(4) 旧条例第11条第8号該当性について
実施機関の説明は、懇談の相手方によりその内容に差を設けているので、これが公表されると差別された相手方が不快感を覚え交渉に支障を来たすという趣旨のようであるが、料理の値段や懇談会の回数により相手方が不快感を覚え交渉事に支障を来たすことが全くないとは言えないとしても、そのようなことはむしろ稀なことであり、抽象的な域を出ないものである。
また、実施機関は、開催される関係機関との会議、懇談の多くが、計画の企画調整や用地等の交渉事務に絡むものであり、内密性が求められているから、これらの情報を公表すれば近隣住民に誤解や混乱を与えるおそれがある等を理由として説明する。
しかし、本件公開請求は「計画の企画調整や用地等の交渉事務に係わる情報」ではなく、単に懇談会の出席者(しかも特定の個人ではない。)の公開を求めているのであるから、このような説明が不合理・不当であることは明白である。
 
第3 実施機関の説明要旨
(略)


第4 審査会の判断
当審査会は、異議申立人の主張及び実施機関の説明並びに本件文書をもとに審査した結果、以下のように判断する。

1 本件文書について
本件文書は、企業庁ニュータウン整備部管理課において会議費を執行した際の支出証拠書類(平成5年度及び平成6年度分176件並びに平成3年度及び平成4年度分181件)であり、支出・振替(更正)回議書、請求書、調達回議書及び見積書で構成されている。
これらに記載された情報のうち、実施機関が非公開とした情報は別紙「非公開情報一覧」のとおりである。

2 本件決定における理由付記について
異議申立人は、実施機関が決定通知書に記載した理由は、単に旧条例の条文を引用したにすぎず、旧条例の定める理由付記の要件を欠き違法である旨主張するので、まず検討する。
旧条例第8条第4項では、公開しない旨の決定をした場合には、その理由を付記しなければならないこととされている。
この理由付記の程度は、異議申立人が指摘するとおり、平成4年12月10日付けの最高裁判所判例において、当該公文書の種類、性質等とあいまって公開請求をした者がその理由を当然知り得るような場合は別として、単に非公開の根拠規定を示すだけでは足りず、旧条例第11条所定の非公開事由のどれに該当するのかをその根拠とともに了知し得るものでなければならないとされている。
本件決定において、実施機関は決定通知書に「千葉県公文書公開条例第11条第2号、第3号及び第8号該当」と記載し、その理由について「(理由)別紙2のとおり」として、各号の条文の文言を引用して記載しているのみであり、非公開とした情報が、それぞれいずれの非公開事由に該当するのか示していない。
したがって、この理由付記の程度は旧条例の定める理由付記の要件を欠いたものと言わざるを得ない。
また、実施機関が異議申立て後の理由説明書で具体的な理由を説明したとしても、これらの違法性は治癒されるものではない。
よって、本件決定は取消しを免れないものと認められる。

3 公開・非公開の妥当性
本件決定は、上記2のとおり理由付記に不備があり、取り消すべきであるが、異議申立人は、本件決定の非公開部分について、旧条例第11条の非公開事由に該当しないとして、具体的な主張をしているので、これらの点についても以下に検討する。

(1) 旧条例第11条第2号該当性について
実施機関は、会議の目的及び出席者の記載が特定個人が識別される情報にあたり、本号の非公開事由に該当すると説明するので以下検討する。
本件文書の使用目的、事由欄に記載されたこれらの内容は、会議の極めて概括的な目的と、出席者の個人の属性や所属する組織等が記載されているのみで、その職名等の記載もない。これだけの記載から、直接、特定個人が識別できるものとは認められない。
そこで、出席者について、表示された内容ごとに、特定個人の識別可能性及び本号該当性について、以下に判断するものとする。
実施機関は、個人の氏名が表示されていないものであっても、会議名等が公開されていることから、協議、懇談内容の推定が容易であり、外部に公表されているその組織の名簿、事務分掌等から出席者個人の特定が可能となる旨説明する。
確かに、旧条例第11条第2号の「特定個人が識別され、又は識別され得る」とは、当該情報のみによって特定個人を識別できる場合のみならず、他の情報と結び付けることにより特定個人を識別し得る場合も該当すると解される。
しかしながら、この場合の「他の情報」は、公知の情報や一般人が通常入手し得る情報であり、特別の調査をすれば入手し得るかも知れないような情報は該当しないと解すべきものである。
これらの識別可能性は、上記の解釈を踏まえ、表示された情報の程度に応じて判断する必要がある。

ア 個人の属性に関する情報について
本件文書には、地元地権者や委員等の個人の属性が記録されたものがあるが、まず、地権者等の表示からは、どの範囲の者がその範疇に該当しているのかは知り得ず、また、照合すべき他の情報として、公知の情報や、一般人が通常入手できるような名簿等の情報の存在を認めることもできない。
仮に、懇談会等の目的の記載から、その範囲が相当程度狭められることがあったとしても、それが特定の個人が識別される程度となるものとは認められない。
したがって、地権者等の表示は、本号の非公開情報には当たらないものと認められる。
次に、委員等であるものの表示については、県から委嘱された者であり、これらの者は、特別職の公務員にあたるものであることから、次のイ(イ)に判断するとおり、本号の非公開情報にはあたらないものと認められる。

イ 所属組織名に関する情報について
本件文書には、県の部課のほか、市町村、公団、民間団体等の所属組織名が記録されているものがあるが、これらの本号該当性についての判断は、公務員及び公団職員(以下「公務員等」という。)とその他の者に分けて考える必要がある。

(ア) 公務員等であるものに関する情報について
公務員等である出席者の場合は、職員名簿が公にされ、また、事務分掌も一般人の了知可能なものとなっている場合が想定され、特定の個人が推知される可能性がないとは言えないものと認められる。
しかし、旧条例が、県の県政に関する情報を広く県民に公開することを目的として定められていること、また国や他の地方公共団体も保有する情報を広く公開することについて責務を負っていることと考えられることから、公務員の職務に関する情報が、当該公務員個人の社会的活動としての側面を有することを理由に、これらをすべて非公開とすることができるとは解しがたい。
また、上記と同様の趣旨から、各種公団の職員に関しても、公務員と同一に解すべきである。
したがって、公務員等については、当該公務員等の私事に関する情報以外の情報は本号の非公開事由に当たらないというべきであり、懇談会に特定の公務員等が職務として参加したという事実が明らかになりうる場合であっても、これらの情報を非公開とすることはできないものと認められる。

(イ) 公務員等以外のものに関する情報について
公務員等の場合と違い、それ以外のものに関する組織名等については、他の情報と結びつけることにより、特定の個人が識別される場合には、非公開とすることができるものである。
しかしながら、協同組合等の公共的団体、財団法人等である公社及びその他の民間団体については、職員名簿が公にされ、事務分掌も一般人が了知可能となっているという、実施機関が説明するような状況は想定しがたく、これらの組織名等の記載は、本号の非公開事由に該当しないものと認められる。 
以上のとおり、実施機関が本号に該当するとして、非公開にした情報は、いずれも本号に該当しないものと認められる。

(2) 旧条例第11条第3号該当性について
ア 法人等(債権者)の名称、住所、法人代表者名等(イ及びウの情報を除く。)の情報
実施機関は、本件決定で非公開とした債権者の中には、売上げに占める割合が、実施機関を含めた特定の相手方のものが大きいところもあると思われるので、債権者名等を公開することにより、経営状態(売上高、顧客層及び顧客数)が明らかになることになり、競争上若しくは事業運営上の地位に不利益を与え、又は社会的信用を損なうと説明するので検討する。
本件文書に係る懇談会等が行われた場所は、いずれも一般的な飲食店等であり、常設の店舗により、不特定多数が顧客となり得る状態で営業されているものと認められる。
そうすると、法人等の名称などは、飲食店を営業する上で秘匿されている情報とは認められず、また、実施機関が利用した場合の売上げ等の情報が明らかになったとしても、それは、個別的・限定的な営業実体にすぎず、営業全体を通じた売上高、顧客層、顧客数などの営業上秘匿すべき情報が明らかになるとは認められない。
また、実施機関が懇談会の場として使用していることにより、その飲食店経営者が特定の事業の協力者とみなされることも、およそ考えられることではない。
したがって、これらの情報は、いずれも本号本文に該当しない。

イ 法人等(債権者)の印影
本件文書の一部である請求書及び見積書には、債権者である法人の代表者や個人事業者の印影が記録されている。
これらの印影の公開・非公開の判断は、使用されている状況や印影の形態等から個別に判断する必要がある。
請求書や見積書に対する押印は、各法人等が真意に基づいて作成した、真正なものであることの認証的な意味があるものと認められるが、飲食店等の一般的な営業形態をみれば、請求書や見積書を介して不特定多数の顧客やさらに広い範囲の者に知られ得る状態に置かれる可能性があるものと考えられる。
また、本件文書を見分すると、大半の印影が特別な管理がされている印鑑ではなく、いわゆる認印等を使用しているものと認められる。
これら認印等の印影については、これを公開しても当該法人等の競争上若しくは事業運営上の地位に不利益を与えるとは認められない。
一方、本件文書に記録された印影の中には、法人代表者の印影として認証的機能を有するにふさわしい形状を有し、当該法人等の契約書類等の重要書類にも使用するものとして、特別な管理をしているものと推認されるものがある。
認印等の場合と異なり、このような印影を、見積書や請求書に使用されていることを理由に、一律に公開してしまえば、当該法人等の競争上若しくは事業運営上の地位に不利益を与えるものと認められる。
したがって、特別な管理をしているものと推認さられる印影(別紙「非公開情報一覧表」で審査会の判断欄に表記したもの。)については、本号本文に該当するが、その他の印影は本号本文に該当しない。
また、本号本文に該当するとした法人等の代表者の印影は、本号ただし書のいずれにも該当しないので、これらの印影は公開しないことができる情報である。

ウ 銀行名、支店名、口座名義人、預金種目、口座番号(以下合わせて「口座番号等」という。)
本件文書に記録された口座番号等は、請求書や見積書に記載されたものだけでなく、支出・振替(更正)決議書に印字されたものがあるが、この口座情報欄に記録された情報は、請求書や見積書に記載されたものを、あらかじめ、実施機関の財務システムに登録し、起票の都度印字しているものである。
懇談会に使用された飲食店等の営業形態は、上記イに記載したとおりであり、口座番号等も請求書や見積書に記載され、不特定多数の者に広く知られ得る状態に置かれているものと認められる。
これは、法人等が口座番号等を内部限りにおいて管理することよりも、決済の便宜に資することを優先させているものと考えられる。
また、県は、一般の顧客と同様の地位によって、当該飲食店等を利用したものであり、口座番号等は相手が県であることを理由に、特別に教えられたものであるとは認められない。
したがって、これらの情報を公開したとしても、当該法人等の競争上若しくは事業運営上の地位に不利益を与えるものとは認められず、口座番号等の情報は、本号本文に該当しない。

(3) 旧条例第11条第8号該当性について
実施機関は本件文書を公開すれば、出席者数、協議の時間、会議案件、さらには実施機関の認識(重要度)によって、茶菓、弁当、懇親等さまざまな会議費の執行内容の態様があることから、その差によって、関係者に不満・不快の念を抱かせることになり、信頼関係が損なわれるおそれがあると説明する。
確かに、出席者等が明らかになれば、相手方において、自分に対する対応との差によって、不満・不快の念を抱かせる場合がないとは言えない。
しかしながら、本件文書の事由欄の記載は極めて概括的であり、このような記載から、具体的にどのような事実が了知され得て、そのようなおそれが発生するのかについては、本件文書を見分したところでは、想定しがたく、実施機関の説明に合理性を認めることはできない。
また、実施機関が近隣住民等に誤解や混乱を与えるおそれがあるとする点についても、上記と同様に、本件文書の極めて概括的な記載から、その協議内容そのものが明らかになることはないものと認められるので、実施機関の説明には理由がない。
したがって、実施機関が非公開とした情報は、本号には該当しないと認められる。

4 結論
以上のとおり、本件決定は、理由付記に不備がある違法なもので取り消されるべきであり、また実施機関が非公開とした情報のうち、別紙「非公開情報一覧」の審査会の判断欄に表記した情報以外の情報は、非公開事由に該当しないので公開すべきであると判断する。

第5 審査会の処理経過
 当審査会の処理経過は、別紙のとおりである。

別表
(略)


別紙
審 査 会 の 処 理 経 過
年  月  日処  理  内  容
7.12.19諮問書の受理
8. 2.29実施機関の理由説明書の受理
8. 4. 1実施機関の理由説明書の受理
8.12.16審議
9. 1.22審議
異議申立人からの意見聴取
9. 2.21審議
実施機関から非公開理由の聴取
9. 9.26審議
16. 4.23審議


(参考)
千葉県情報公開審査会第2部会委員
氏   名職 業 等備  考
岩 間 昭 道千葉大学教授
大 田 洋 介首都圏新都市鉄道(株)常務取締役
城西国際大学非常勤講師
部会長
佐 野 善 房弁護士
福 武 公 子弁護士


(五十音順:平成16年4月23日現在)


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