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情報公開・個人情報保護審査会 平成21年度(行情)答申第563号 特定参議院議員が自衛隊施設を使用…

2010年03月09日 | 個人に関する情報
諮問庁 : 防衛大臣
諮問日 : 平成21年 3月10日(平成21年(行情)諮問第129号)
答申日 : 平成22年 3月 9日(平成21年度(行情)答申第563号)
事件名 : 特定参議院議員が自衛隊施設を使用した実績が分かる文書の不開示決定に関する件

答 申 書


第1  審査会の結論
 自衛官在職期間を除く「特定参議院議員が自衛隊施設を使用した実績が分かる文書(あいさつ,講演,講話,昼食会,懇親会等)ただし該当部分で可。(海上自衛隊)(平成18年度)」に係る行政文書(以下「本件対象文書」という。)につき,その全部を不開示とした決定については,その全部を開示すべきである。

第2  異議申立人の主張の要旨
1  異議申立ての趣旨
 行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)3条の規定に基づく本件対象文書の開示請求に対し,平成20年12月22日付け防官文第15102号により防衛大臣が行った不開示決定(以下「原処分」という。)について,その取消しを求める。

2  異議申立ての理由
(1)  異議申立書
 本件処分は,次の理由により違法である。
 異議申立人が請求している文書は,陸自元幹部で参議院比例区に特定政党から出馬し,初当選した特定参議院議員に関するものである。特定参議院議員は,自衛隊を退職した数日後に参議院議員選挙への立候補を表明した。その後,特定政治資金管理団体の設立届けを総務省に提出し,特定政党特定選挙区の支部長に就任している。じ後,各種団体へのあいさつや政治資金パーティーの開催など本格的に活動を開始した。この時期に自衛隊での講話も積極的に行っている。特定参議院議員のホームページや新聞報道,国会質疑によれば,全国の部隊約200か所以上で行ったとされる。
 自衛隊退職直後から選挙に当選するまでの約半年間にわたる特定参議院議員の活動は,個人的なものではなく,立候補予定者,あるいは政党支部の代表者としての政治活動であることは明白である。講話・講演はもちろん,会食,パーティーに至るまで選挙活動の一環とみなすべきであり,個人に関する情報には当たらない。
 また,特定参議院議員の選挙活動に対して施設提供等の協力をした自衛隊側の対応については,特定日の衆議院決算行政監視委員会で,防衛大臣は,次のように答弁をし,特定参議院議員が講話を行った事実を断片的ながら認めている。
 「防衛省としては,現時点で特定参議院議員の講話等の実績についてすべてを把握しているわけではございませんが,例えば2007年5月15日,陸上自衛隊八戸駐屯地,2007年7月4日,航空自衛隊芦屋基地等において特定参議院議員に講話をいただいているものと承知をしているところであります。」
 退職してから参議院に選挙するまでの間,特定参議院議員が自衛隊施設を使用したことは,国会でも特定参議院議員本人のブログでも明らかにされているとおり,すでに周知の事実である。これを公にすることが個人の利益を侵害することには当たらない。
 むしろ,上記憲法で定められた公務員の中立性や政治的行為を制限した自衛隊法違反,国政選挙の公正さを脅かす危険性が指摘されている。法5条1号ただし書ロでは,不開示を免れる条項として,人の生命,健康,生活,又は財産を保護するため,公にすることが必要であると認められる情報を定めている。公益性の観点からも,本件は広く国民の前に開示して検証を仰ぐべき事案で,この条項を適用すべきである。

(2)  意見書
 異議申立人は,日本国籍を持ち,納税義務も果たしている国民である。特定参議院議員と防衛省に関連した文書の情報公開請求を行ったが,その動機は憲法に定めた日本の民主主義の根幹である国民主権の理念に基づくものである。法1条でうたうように,政府の有するその諸活動を国民に説明する責務が全うされるために,また,国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な行政の推進が行われるようにするために,知る権利としての情報公開請求権を行使した。
 特定参議院議員の選挙と防衛省のかかわりをめぐっては,選挙の公正さ,あるいは公務員としての職務の公正さに疑問を抱かせる事実が多数ある。疑義を持っているのは異議申立人だけではなく,国会でも度々問題になっている。
 自衛隊法61条では,政治的行為を制限し,その制限行為の一つに政治的目的を有する文書又は図画を国の庁舎,施設等に掲示し,又は掲示させ,その他政治的目的のために国の庁舎,施設,資材又は資金を利用し,又は利用させること(自衛隊法施行令87条12項)がある。この点について特定日における衆議院決算行政監視委員会では,次のように述べている。
 「…参議院選挙に関連して、自民党の全国比例区で出馬された特定参議院議員がですね,自衛隊を退職された後,自衛隊のですね,部隊長が自衛隊の施設に特定参議院議員を呼んでですね,自分の部下たちに特定参議院議員の講話を聞かせたと。で,防衛省で調べていただいただけでも実に65回もですね,そういう部外講師として話をしている,ということがあるわけですね。私は,このような事態というのは,やはりかなり問題がある事態じゃないかというふうに思っている(以下略)」
 防衛省人事教育局長は,参院選投開票の三か月余り前に当たる2007年4月4日付けで,陸海空幕僚長を含む各部署に「選挙における職員の服務規律の確保について」と題する通知を出し,選挙をめぐる隊員の対応が中立・公正であるべきだと指示している。通知には,「容認されない行為等」として次の参考事例を挙げている。
 1.常時
  選挙区内の立候補予定者から,賞品・記念品・優勝旗・カップ等の寄付を受けること。又は寄付を勧誘,要求すること。
 2.公示前
  立候補予定者の表敬を受けた後,部下等を集めて政治的内容を含む懇談をさせること。
  立候補予定者に政治的内容を含む部外講話をさせること。
  立候補予定者が記念行事において政治的な内容を含む祝辞等を述べることを承知で祝辞を依頼すること
 (人計3613号。19年4月4日より)
 特定参議院議員が自衛隊施設を訪問した際,上記の違反がなかったかどうかを国民が判断するためにも,訪問の実績が分かる文書の開示は不可欠である。
 特定参議院議員は,全国比例区から出馬することを,自衛隊を退職した2007年7月1日の段階で表明した。全国に居る現職隊員で選挙権を持つはすべて特定参議院議員にとって選挙区内の有権者に当たる。出馬表明等は新聞などでも報道されたことから,自衛隊員らの間では,特定参議院議員が立候補予定者であることは周知の事実だったと思われる。特定参議院議員と隊員が接触した際,政治的内容を含む発言や行為がなかったどうかの判断は微妙で,明るい場所で多数の目によって慎重にされるべきだ。
 参議院選挙を始めとする国政選挙が公正に行われることは,日本の民主主義にとって欠かせない。
 特定参議院議員と防衛省をめぐる疑義は,この国の民主主義を維持するための手続に関する疑義であり,防衛省はその疑義を晴らすために必要な情報を国民の前に明らかにして説明する法的・道義的責任がある。当該情報を開示することには高い公益性がある。
 諮問庁は,本件開示請求が個人に関する情報に関するもので,法5条1号の特定の個人の権利利益を害するおそれがあるなどと不開示を行った理由を述べる。これに対し,以下反論する。
 宇賀克也著「新・情報公開法の逐条解説(第4版)」は,法で不開示にすべき「個人に関する情報」についての解釈を,こう述べている。
 個人に関する情報を保護する目的,個人の正当な権利利益の保護であり,その中核部分は,プライバシーである。そのため,個人に関する情報についての不開示の範囲をプライバシーという概念で画することが考えられる。
 つまり,自衛隊を退職して議員に当選するまでの間,特定参議院議員が自衛隊を訪問した内容が分かる情報を明かすことがプライバシー侵害に当たるかどうかが判断材料となってくる。
 特定参議院議員は元陸自1佐という高級幹部で,イラク派遣部隊の隊長になり,マスコミにも度々登場しているほか,著書もある著名人である。1佐が退職後に民間企業に再就職する場合は再就職先の企業名・役職名が公表される。防衛省もホームページで,再就職の状況についての透明性を確保するため,関係省庁間の申合せにより,本府長の課長・企画官相当職以上の者及び地方支分部局の本府長の課長・企画官相当職以上の者についてその再就職状況が公表されますと記述している。
 したがって,特定参議院議員の姓名はプライバシーの侵害には当たらない。次に上記期間中に自衛隊をしばしば訪問していたことは,特定参議院議員自身がブログで逐次公表しており,すべてかどうかは確かなところではないが,不特定多数に対し自身の手によっていったんは公表されている。少なくとも,いったん公表が行われた部分については,今回明らかにしても新たな利益の侵害があるとは考えにくい。さらに,先述した国会質問の中で,防衛省から調べていただいただけでも実に65回も,部外講師として話をしていると発言している。65回の部外講話を特定参議院議員が行ったことを防衛省自身が報告している。少なくともこの65回の部外講話については,プライバシー侵害とは無縁のものであって法5条1号の不開示情報ではない。
 講話以外の自衛隊訪問状況に関しても,懇談や会食,あいさつなどは,プライバシー情報とは言い難い。つまり,特定参議院議員は出馬表明とほぼ同時に,自身が代表となっている政治資金管理団体を設立し,自民党支部の支部長にも就任している。公務員ではないが,それに準じる公的な立場にあった。政治活動の公正さを担保する上で義務付けられている政治資金収支報告書には自身の住所も記載されている。今回の請求文書が,この報告書の内容を上回るプライバシー情報を有しているとは考えにくい。
 先述した人事教育局長と照らし合わせ,果たして立候補予定者との接触に問題がなかったかを検証するめにも訪問情報は必要な情報である。すべての訪問情報はプライバシーとは言えない。開示することによって新たな権利侵害も発生しない。したがって法5条1号には当たらない。
 仮に訪問情報の中に法5条1号に該当する部分があったとしても,これまで述べてきたとおり,選挙と公務員の職務の公正さを国民がチェックし,民主主義に寄与するという点で,それを上回るはるかに多大な公益性を有する。法7条の規定を適用して開示すべきだと考える。
 「誤解を,いろんな形でうけるような・・・ということで」(特定日,衆議院決算行政監視委員会)と浜田靖一防衛大臣も発言しているとおり,本件異議申立てに関連する特定参議院議員の選挙と防衛省の対応が国民に誤解を招く出来事であることは確かである。
 防衛省は情報を明らかにし,説明責任を果たす義務がある。

第3  諮問庁の説明の要旨
1  経緯
 本件開示請求は,「特定参議院議員が自衛隊施設を使用した実績が分かる文書(あいさつ,講演,講話,昼食会,懇親会等)ただし該当部分で可。(海上自衛隊)(平成18年度)」の開示を求めるものであり,これに該当する行政文書として,本体対象文書を特定し,平成20年12月22日付け防官文第15102号により,本件対象文書の全部が法5条1号に該当することから不開示決定とする原処分を行ったものである。
 本件異議申立ては,原処分に対し提起されたものである。

2  不開示とした理由
 本件開示請求は,特定の個人に係る情報に関する書類の開示を求めるものであり,本件対象文書については,特定の個人の具体的な行動に関する内容が記載されており,これを公にすることにより,特定の個人の権利利益を害するおそれがあるため,法5条1号に該当すると判断したことから,本件対象文書の全部を不開示とした。

3  異議申立人の主張について
 異議申立人は,自衛隊退職直後から選挙に当選するまでの約半年間にわたる特定個人の活動は,個人的なものではなく,立候補予定者,あるいは政党支部の代表者としての政治活動であることは明白である。講話・講演はもちろん,会食,パーティーに至るまで選挙活動の一環としてみなすべきであり,個人に関する情報には当たらないなどとして,不開示決定の取消しを主張するが,上記2で述べたとおり,不開示情報該当性について十分に検討した上で,法5条1号に該当することから原処分を行ったものであり,異議申立人の主張は当たらない。

第4  調査審議の経過
 当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。

①  平成21年3月10日  諮問の受理
②  同日  諮問庁から理由説明書を収受
③  同年4月14日  異議申立人から意見書を収受
④  同年12月11日  本件対象文書の見分及び審議
⑤  平成22年3月5日  審議

第5  審査会の判断の理由
1  本件対象文書について
 本件対象文書は,特定参議院議員が平成19年1月に自衛隊を退職した後,同年3月末までに海上自衛隊の施設をあいさつ,講演,講話,昼食会,懇親会等で使用した実績が分かる文書である。
 諮問庁は,本件対象文書の全部が法5条1号に該当するとの原処分は妥当としていることから,以下,当審査会において本件対象文書を見分した結果に基づき,不開示情報該当性について検討する。

2  不開示情報該当性について
 本件対象文書は,部外講話の実施に係る文書であり,講師として特定参議院議員の氏名が記載されているほか,講話の日時,場所等が記載されている。
 当審査会の事務局職員をして諮問庁に確認させたところ,特定参議院議員は,自衛隊退職後,参議院議員選挙に当選するまでに全国各地の駐屯地及び基地で自衛隊員に対して講話等を行った旨防衛大臣が国会で答弁していることから,本件開示請求に対し,海上自衛隊で講話等を行ったことは明らかにするが,それがいつ,どこで,何を,何回したか等が分かる本件対象文書の記載内容については,個人の具体的な行動に関する内容であることから法5条1号に該当し,不開示としたと説明する。
 しかし,その後諮問庁は,特定政党の資料要求の求めに応じ,特定参議院議員が防衛省・自衛隊内で講話及び講演をした実績についての一覧を提出しており,その一部である自衛隊退職後から参議院議員選挙当選までの実績については,国会で配布され,議論されている。
 当審査会において諮問庁から当該資料の提示を受け確認したところ,本件対象文書に係る講話の実績もその中に含まれていることが認められる。
 以上の状況を踏まえれば,本件対象文書に記載されている内容は,そのすべてが氏名その他の記述によって特定の個人を識別することができるものに該当するが,法令の規定により又は慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている情報であると認められる。
 したがって,本件対象文書は,法5条1号ただし書イに該当し,開示すべきである。

3  本件不開示決定の妥当性について
 以上のことから,本件対象文書につき,その全部を法5条1号に該当するとして不開示とした決定については,同号に該当せず,開示すべきであると判断した。

(第2部会)
 委員 寳金敏明,委員 秋田瑞枝,委員 橋本博之


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