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さいたま市情報公開・個人情報保護審査会 さ情審査答申第59号 共同住宅建築計画について、埼玉県生活…

2008年08月19日 | 個人に関する情報
さ情審査答申第59号
平成20年8月19日

さいたま市長相川宗一様
さいたま市情報公開・個人情報保護審査会
会長 小池保夫

答申書


平成20年2月19日付けで貴職から受けた、特定地番の共同住宅建築計画について、埼玉県生活環境保全条例第80条第1項の規定による報告書(以下「本件対象行政情報」という。)の一部公開決定のうち、報告者の住所、氏名、電話番号及び印影並びに調査実施機関の担当者の氏名及び登記簿による所有者調査結果の個人所有者氏名を公開しないとした部分(以下「本件処分」という。)に対する異議申立てに係る諮問について、次のとおり答申します。

第1 審査会の結論
さいたま市長が、さいたま市情報公開条例(平成13年さいたま市条例第17号。以下「条例」という。)第11条第1項の規定により、行政情報の一部を公開することとした決定のうち、本件処分における報告者の電話番号及び印影並びに調査実施機関の担当者の氏名に係る部分は、いずれも妥当である。また、本件処分における報告者の住所及び氏名並びに登記簿による所有者調査結果の個人所有者氏名に係る部分は、いずれも取り消されるべきである。

第2 異議申立人の主張の要旨
1 異議申立ての趣旨
本件異議申立ての趣旨は、条例第6条第1項に基づく本件対象行政情報の公開請求に対し、平成19年12月7日付け環環対第3481号により、さいたま市長(以下「実施機関」という。)が行った本件処分について取り消しを求めるというものである。

2 異議申立ての理由
異議申立人が主張する異議申立ての主たる理由は、おおむね以下のとおりである。

(1)条例では、特定の個人を識別できる情報は原則として非公開とする方式(個人識別型)を採用しているが、本来保護する必要性のない情報も非公開となることから、「事業を営む個人の当該事業に関する情報」や「法令等の規定又は慣行により公にされ、又は公にすることが予定されている情報」を非公開情報から除いている。本件処分において、実施機関は、個人識別情報に該当するとの理由だけで、非公開とする判断をしている。その結果、条例で非公開情報から除くと規定されている情報が公開されない状況が発生した。何がプライバシーとして保護されるべきかを考えた上で、公開、非公開の判断をすべきであり、個人識別情報をすべて非公開とするのは決してプライバシー保護とはいえないものである。また、本件処分の決定通知書では、具体的にどの個人識別情報を非公開としたかが明示されていない。

(2) 最高裁判所平成10年(行ヒ)第54号「公文書非公開決定処分取消請求事件」平成15年11月11日判決では、法人その他の団体(国及び地方公共団体を除く。)の代表者に準ずる地位にある者以外の従業員の職務の遂行に関する情報は、その者の権限に基づく当該法人等のための契約の締結等に関する情報を除き、「個人に関する情報」に当たると判示をしている。また、法人その他の団体(国及び地方公共団体を除く。)の代表者若しくはこれに準ずる地位にある者が当該法人等の職務として行う行為に関する情報又はその他の者が権限に基づいて当該法人等のために行う契約の締結等に関する情報その他の法人等の行為そのものと評価される行為に関する情報は、「個人に関する情報」に当たらないと判示をしている。本件報告書に記載された報告者の氏名は、権限に基づいて法人等(事業を営む個人を含む。)のために行う契約の締結等に関する情報その他の法人の行為そのものと評価される行為に関する情報に該当するのではないか。

(3) 土地の所有権の移転の情報は、不動産登記簿に記載されており、公にされている。最高裁判所平成15年(行ヒ)第295号「公文書非公開決定処分取消等請求事件」平成17年10月11日判決や情報公開・個人情報保護審査会「平成18年度答申(独情)第3号」でも、土地の所有権の移転情報は非公開情報に該当しないとの判断がされている。上記の情報公開・個人情報保護審査会の事例では、諮問庁は所有者が不動産登記簿と一致しているかどうかは不明であると弁明したが、認められていない。
また、埼玉県知事に対して、埼玉県生活環境保全条例(平成13年埼玉県条例第57号。以下「保全条例」という。)に基づく同様の文書を開示請求したが、土地の所有者氏名は公開されている。

第3 実施機関の説明の要旨
実施機関は、おおむね以下のとおり説明している。

1 土壌汚染状況調査結果報告書の報告者が個人のため、報告者の氏名、住所、電話番号及び印影は条例第7条第2号に該当する。報告者となる「土地改変者」は事業を営む株式会社であったが、同社は倒産し、破産宣告を受けたことから、当時の同社の代表取締役が個人として報告書を提出したものである。そのため、報告書に記載されている住所及び電話番号は報告者の自宅のものであり、印影も個人印のものである。これらは個人に関する情報であって、ただし書ア「法令等の規定又は慣行により公にされ、又は公にすることが予定されている情報」には該当しない。

2 特定有害物質取扱事業所設置状況等調査報告書の調査実施機関の担当者の氏名及び登記簿による所有者調査結果氏名は、条例第7条第2号に該当する。登記簿による所有者調査結果氏名は、登記簿そのものの情報ではないため、ただし書ア「法令等の規定又は慣行により公にされ、又は公にすることが予定されている情報」には該当しない。

第4 審査会の判断の理由
1 本件対象行政情報①について
本件対象行政情報①は、保全条例第80条第2項の規定により、「土地改変者」が実施機関に対し提出した、当該改変予定地である特定地番の土地(さいたま市桜区所在)に係る土壌汚染状況調査結果報告書である。
本報告書の受理は、知事の権限に属する事務処理の特例に関する条例(平成11年埼玉県条例第61号)第2条の規定により、さいたま市が処理をすることと定められている。
本報告書は、埼玉県生活環境保全条例施行規則(平成13年埼玉県規則第100号。以下「施行規則」という。)第63条第1項の規定により、土壌の汚染の状況の調査の結果を同条第2項に定める所定の様式で報告したものである。本報告書で調査の対象となっている特定有害物質は、人の健康を損なうおそれのある物質(保全条例第76条)として施行規則第60条で定めたものであって、具体的には、鉛、六価クロム、シアン、フッ素等である。このようなことから、本報告書は、人の健康に係る被害を生ずるおそれのある物質の取扱いの状況や当該物質による土壌の汚染の状況などについての調査の結果を内容とするものとして公益性の高い、秘匿性に乏しい性質を有するものということができる。しかし、実施機関は、本報告書の報告者の住所、氏名、電話番号及び印影を非公開と決定した。

2 本件対象行政情報②について
本件対象行政情報②は、保全条例第80条第5項の規定により、「土地改変者」が実施機関に対し提出した、前記1記載の改変予定地に係る汚染拡散防止措置完了報告書である。権限委譲により、さいたま市がこれを処理することとされているのも、本件対象行政情報①と同様である。
本報告書は、施行規則第62条第3項の規定により、当該改変予定地に関わる汚染した土壌の処理又は汚染の拡散の防止の措置が完了したことを同条同項所定の様式により報告したものである。本報告書の報告者は、前記1の報告者から、実施機関の説明によると売買により当該改変予定地を取得したことにより、別の法人に変更されている。
本報告書がその内容に鑑み、公益性が高く秘匿性に乏しい性質を有するものである点は、①の情報と同様であり、実施機関が非公開と決定した部分はない。したがって、本件対象行政情報②に係る決定については、異議申立人の異議申立てはない。

3 本件対象行政情報③について
本件対象行政情報③は、保全条例第80条第1項の規定により、「土地改変者」が実施機関に対し提出した、当該改変予定地である特定地番の土地(さいたま市北区内所在)に係る特定有害物質取扱事業所設置状況等調査報告書である。
権限委譲により、さいたま市がこれを処理することとされているのも、本件対象行政情報①及び②と同様である。
本報告書は、施行規則第66条第4項の規定により、過去の特定有害物質取扱事業所の設置の状況等の調査の結果を同条同項所定の様式により報告したものである。
実施機関は、本報告書中の調査実施機関の担当者氏名及び登記簿による所有者調査結果の個人所有者氏名を非公開と決定した。

4 本件処分の妥当性について
(1) 本件対象行政情報①の一部公開決定のうち、非公開部分の妥当性について
実施機関の説明によると、保全条例第80条第2項に規定する「土地改変者」は、事業を営む株式会社であったと認められたところ、同社が倒産し、破産宣告を受けたので当時の同社の代表取締役を同条同項による「土地改変者」として報告書を提出するよう指導し、爾後の土壌汚染処理に関する手続を進めることとしたとのことである。
さいたま地方法務局発行の閉鎖事項全部証明書によると、同社は、平成16年9月28日に東京地方裁判所の破産宣告を受け、平成18年6月6日同裁判所の破産手続が終結している。また、本報告書の報告者は、同証明書によると、平成10年12月11日に同社の代表取締役に就任し、同社が破産宣告を受けた時点においても引続き重任していたことが認められる。
会社が破産して破産管財人が選任されても、破産財団に関係のない事項については、破産宣告後も依然として代表取締役が会社を代表してその職務を執行できるとされている。
とすると、本報告書の報告は、破産財団の管理又は処分に直接関係する事項とは認められないので、本件の場合においても、本報告書の報告者は、破産宣告を受けた当時の同社の代表取締役であるべきであり、同人が本報告書を提出すべきであったと考えられるのである。
本報告書は、前述のとおり、破産宣告を受けた当時の代表取締役が個人名で保全条例第80条第2項に規定する「土地改変者」として平成17年8月26日付けで実施機関に対し提出したものであるが、実質的には、同社の代表取締役として本報告書を提出したものであると解するのが相当である。このように解すると、本件対象行政情報①は、条例第7条第3号に規定する「法人等に関する情報」と解するべきであり、同号のア及びイに規定する非公開事由の公にすると正当な利益を害するおそれがある情報にも、非公開条件付き任意提供情報にも当たらないと認められることから、本報告書における報告者の住所及び氏名が一見すると形式的には個人に関する情報と認められても、条例の適用上非公開とすべき事由は見当たらない。また、上記証明書においても、代表取締役の住所及び氏名は明記されているから、すでに公示されている情報であるといえる。
条例上「個人に関する情報」(条例第7条第2号)と「法人等に関する情報」(同条第3号)とは、それぞれ異なる類型の情報として非公開事由を規定し、法人等を代表する者が職務として行う行為等当該法人等の行為そのものと評価される行為については、専ら条例第7条第3号の規定により「法人等に関する情報」として、公開請求に対する諾否を決定すべきである。
法人等の代表者又はこれに準ずる地位にある者が当該法人等の職務として行う行為に関する情報及びその他の者の行為に関する情報であってその者の権限に属する当該法人等のために行う契約の締結等に関する情報については、当該法人等の行為そのものと評価される行為に関する情報に含まれると解されるので、条例第7条第2号に規定する「個人に関する情報」に該当しないと考えられる。(前掲最高裁判所平成15年11月11日判決参照)
しかしながら、本報告書の報告者の電話番号及び印影については、同人の私的なものと認められることから、これらの情報を公開することによって生ずる当該報告者の生活上のリスクや不利益を受けるおそれなども十分予測できるところであり、特定の個人を識別できる情報として保護する必要が認められる。これらの個人識別情報は、条例第7条第2号ただし書アに規定する「法令等の規定又は慣行により公にされ、又は公にすることが予定されている情報」とも認められないから、実施機関においてこれらの情報を非公開とした本件処分の当該部分に係る決定は、妥当であり、維持されるべきである。因みに、「慣行により」とは、事実上の慣習によりという意味であり、社会通念上慣行といえるものであればよいと解されている。また、「公にされている」とは、現在、何人でも知り得る状態に置かれていることをいうとされている。本件電話番号及び印影については、何人でも知り得る状態に置くという慣行の存在は認められないし、何人でも知り得る状態に置くという法令等の規定も存在しない。
一方、本報告書の報告者の住所及び氏名については、「法人等に関する情報」として条例第7条第3号ア及びイに規定する非公開事由に該当する情報も見当たらないことは前述のとおりである。よって、本件対象行政情報①の一部公開決定のうち、報告者の住所及び氏名を非公開とした部分に係る決定は、取り消されるべきである。
本件処分の当該部分に関し、条例第7条第2号の「個人に関する情報」を前提とした実施機関の主張は、その論旨において理由がなく、採用できない。

(2) 本件対象行政情報③の一部公開決定のうち、非公開部分の妥当性について
本件対象行政情報③は、保全条例第80条第1項の規定により、平成18年4月28日付けで事業を営む株式会社が実施機関に対し提出した報告書である。同書に添付されている土壌環境評価報告書は、報告会社の委託を受けてその成果品として作成されたものと認められ、非公開とした部分は、同環境評価報告書中の「1調査概要(5)調査実施機関として記載されている担当者の氏名」と「2調査結果及び評価(1)登記簿による所有者調査結果の表中の個人所有者氏名」である。
同環境評価報告書は、上記のとおり、本報告書の報告会社の委託を受けて、受託会社が報告した成果品であると認められることから、法人その他の団体に関する情報であり、本環境評価報告書中の「担当者の氏名」の記載は、同受託会社の社員として調査に当たった者の氏名の記載であり、調査の信頼性を担保し、調査結果の内容の一部をなすところのその者の職務の遂行に関する情報であると認められる。
ところで、法人その他の団体の従業員がその職務として行った行為に関する情報は、職務の遂行に関する情報であっても、当該従業員個人にとっては自己の社会的活動としての側面を有し、個人にかかわりのある情報であるということができる。(前掲最高裁判所平成15年11月11日判決参照)
上記のとおり、本件「担当者の氏名」は、組織体に所属する従業員の一人としての個人の活動に関する情報であると認められるから、個人の職業ないし所属組織体に関する情報として、条例第7条第2号に規定する「個人に関する情報」に該当し、氏名であることから特定の個人を識別することができる情報である。
したがって、本件「担当者の氏名」は、法人その他の団体に関する情報における個人識別情報であるといえるのである。
また、同情報は、条例第7条第2号ただし書に規定する「ア法令等の規定又は慣行により公にされ、又は公にすることが予定されている情報」及び「イ人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報」のいずれにも該当しないと認められる。
したがって、実施機関が本件「担当者の氏名」を公開しないとした本件処分の当該部分に係る決定は、妥当であり、維持されるべきである。
なお、本件「担当者の氏名」の記載がその者の権限に属する当該法人等のために行う契約の締結等に関する情報に当たるかどうかについては、上記のとおり、委託契約の履行行為として、受託会社が作成した成果品の内容の一部を構成するものと認められ、契約の締結等に関する情報とは認められないと解する。
次に、「登記簿による所有者調査結果の表中の個人所有者氏名」については、異議申立人主張のとおり、土地の所有権の移転の情報と認められ、不動産登記簿に記載されている情報であるから、条例第7条第2号ただし書ア「法令等の規定又は慣行により公にされ、又は公にすることが予定されている情報」に該当し、非公開とすべき「個人に関する情報」に当たらない。
受託会社の委託契約の履行行為として作成された成果品の中で登記簿謄本により対象地の所有者の変遷を調査した結果を記載したもので、当該登記簿謄本を調査すれば、誰でも同じ結果の情報を入手できるものである。
したがって、本件「個人所有者氏名」を非公開とした本件処分の当該部分に係る決定は、取り消されるべきである。

5 以上の次第であるから、当審査会は、本件異議申立てに対し、前記第1の結論のとおり答申するものである。

第5 調査審議の経過
審査会は、本件諮問事案について、次のとおり、調査審議を行った。
① 平成20年2月19日諮問の受理
② 同年3月3日実施機関から理由説明書を受理
③ 同年4月17日審議
④ 同年4月24日異議申立人から意見書を受理
⑤ 同年5月15日異議申立人からの意見聴取及び審議
⑥ 同年6月19日実施機関からの意見聴取及び審議
⑦ 同年7月17日審議

さいたま市情報公開・個人情報保護審査会委員





職名氏名備考
委員伊藤一枝弁護士
委員岡本弘哉弁護士
会長小池保夫大学教授
会長職務代理者小室大行政経験者
委員満木祐子弁護士

(五十音順)

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