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愛知県情報公開審査会 答申第451号 県立高校校長の処分の検討を始めたことがわかる文書等

2009年03月06日 | 行政文書該当性/文書の特定/理由付記
答申第451号
諮問第759号

件名:県立高校校長の処分の検討を始めたことがわかる文書等の不開示(不存在)決定に関する件
答 申


1 審査会の結論
愛知県教育委員会(以下「教育委員会」という。)が、別記に掲げる文書1から文書3までの文書(以下、併せて「本件請求対象文書」という。)のうち、文書2及び文書3について、不存在を理由として不開示とした決定は妥当であるが、文書1については、不存在を理由として不開示とした決定を取り消し、「相談整理簿」を対象として、改めて開示決定等をすべきである。

2 異議申立ての内容
(1) 異議申立ての趣旨
本件異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成19年3月6日付けで愛知県情報公開条例(平成12年愛知県条例第19号。以下「条例」という。)に基づき行った開示請求に対し、教育委員会が同月20 日付けで行った不開示決定の取消しを求めるというものである。

(2) 異議申立ての理由
異議申立人の主張する異議申立ての理由は、概ね次のとおりである。

ア 異議申立書における主張
(ア) 新聞報道等で、すでに公開されていることである。社会的関心を呼んだ内容である。報道について「誤りとの訂正はしていない」との教育委員会事務局の言葉からすると、報道については、周知の事実と理解できる。

(イ) 処分検討に関して、記録があり得ないということは考えられない。何らかの記録等はあると言える。

(ウ) 「セクハラ」は、相談において明らかになったことであり、記録がないとはあり得ない。

(エ) 今回の請求を非公開にすることは、違法不当について隠蔽することになると言われても仕方のないことであり、容認できない。

(オ) 本件に関する不開示で、教育委員会の処分等に関する姿勢について
一貫性を欠くことになっている。行政文書の不開示が教育委員会の信頼を無くし、セクシャル・ハラスメントに対する対応に問題を残すことになっていると言える。

イ 意見書における主張
(ア) 文書1について
教育委員会は、セクシャル・ハラスメントについては懲戒処分の対象としている。仮に、本件請求内容が処分の対象でないとしても(請求者は懲戒処分対象と考える)、懲戒処分の中にセクシャル・ハラスメントに関する項があるからには、処分の対象かどうかの判断はなされたと考えられる。セクシャル・ハラスメントに関する事実関係を把握するための文書が、教育委員会が請求に関する文書でないと言うことは、理解に苦しむところである。請求者が、請求している文書を特定できるのに、あえて開示しないということは違法であるということである。

(イ) 文書2及び文書3について
請求者が請求している文書について、教育委員会はどのようにするのか不明である。理由になっていない。
処分者の理由を明確にされたら(意見をお聞きしたら)意見を述べるものである。もし理由がないなら開示されるべきである。理由がなく開示がなされないなら、違法ということである。

(ウ) 本件請求対象文書の存否について
前校長が非違行為を行ったものと判断されなかったためということである。しかしながら、前記したように、懲戒処分の対象かどうかの判断をすることになったことは明らかである。その経過の中での記録等は、請求者が求めている請求文書の範囲に当たることは明らかである。事実確認で前校長が非違行為を行ったかどうかの判断をしたということなら、当然その記録などが請求文書であるということは明らかである。もし、セクシャル・ハラスメントについての苦情相談を含め、それらの関係する記録などが一切ないということなら、担当当局の職務怠慢等の責任が問われることである。その結果、請求者の請求文書が開示されないということなら、そのことも違法であるということになる。

(エ) また、文書2について、請求者が請求する文書は、該当する人物は当時校長であり、学校名、時期等明確にできるものであり、文書は特定できる。そうであるなら、対象文書が存在せずというのは理由にならない。特定できる文書を、不存在とする理由で不開示にすることは違法である。

(オ) 今回の情報開示請求は、各紙の新聞報道等によるものがきっかけである。「知る権利」によるものである。
さらに付け加えるなら、開示請求は住民・市民としての行政参加の手段である。そのための情報収集でもあるわけである。行政に市民サービスを求める権利によるところでもある。行政に本来のあるべき姿を求めるため、場合によってはその追求のための資料を求めるということである。
住民・市民が行政における出来事、事実について正確に知り、解決を求めたり考えたりすることに対して理由もなく止められることはない。
「本来あるべき姿でないこと」の原因追求、その解決のための提言等の受入れ機能は当然確立されていると考えていたが、残念ながら不開示ということで、そうではなかったということが明らかになったということである。

(カ) 校長の職務中に関する情報、それも校長という職責に当たるものの「職務」に関すること(逆の立場で言えば、公務員の職務中の被害行為に対することがら)であるから、全面的な不開示という決定は、不当、違法と言わざるを得ない。管理職の起こした事件に対しては、公表をすることが住民・市民の信頼回復、更に今後の事件防止につながると言える。逆に、不開示にすることは、問題解決を遅らせ、今後事件の再発、隠蔽などにつながることになる。

3 実施機関の主張要旨
実施機関の主張によると、次の理由により本件請求対象文書を作成又は取得しておらず不存在であるので、不開示の決定をしたというものである。

(1) 本件請求対象文書について
行政文書開示請求書の記載から、本件請求対象文書は、本件高校の前校長(以下「本件校長」という。)に関する文書で、別記に掲げる文書1から文書3までの文書であると解した。

ア 文書1について
「県教委が処分の検討を始めたことがわかるもの」とは、処分の前提となる非違行為が行われたとの事実に基づいて、懲戒処分の検討がなされた文書であると解した。ところで、本件校長について、セクシュアル・ハラスメントを受けた(以下「本件事案」という。)と思っている職員から苦情相談があり、その相談内容を記録したものとして相談整理簿(以下「本件相談整理簿」という。)があるが、これは本件事案に関する事実関係を把握するために作成する記録簿であり、処分の検討をするための文書ではないため、本件請求対象文書とはしなかった。

イ 文書2について
本件開示請求の前日(平成19 年3 月5 日)付けで本件高校あてに、本件校長の2006 年度出勤簿、年休・療養休暇簿の開示請求がなされていることから、開示請求者に確認したところ、本件請求に関しては、教職員課保管のもので、本件校長に関して体調不良を理由に出勤せずということが分かるものを対象とするとのことであった。

ウ 文書3について
一般的に、セクハラとはセクシュアル・ハラスメントを指す。ところで、県立の高等学校教職員を対象とする懲戒処分については、「懲戒処分の基準」として標準的な処分量定を掲げており、その中でセクシュアル・ハラスメントも標準例として掲げていることから、「セクハラと認定」とは、懲戒処分の対象としてのセクシュアル・ハラスメントに当たると判断したことが分かる文書と解した。

(2) 本件請求対象文書の存否について
本件では、本件校長について、本件事案についての苦情相談があったことから、関係者に対し、聞き取りによる事実の確認を行っている。その結果、本件校長が非違行為を行ったものとは判断されなかったため、懲戒処分の検討は行われていない。したがって、異議申立人が求めている、処分の検討を始めたことが分かる文書及び「セクハラと認定」したことが分かる文書は存在しない。
また、体調不良を理由に出勤しない場合において、教職員課に報告又は文書の提出を要するとする特段の定めはないため、教職員課保管のもので、体調不良を理由に出勤せずということが分かる文書は存在しない。
以上の理由により、本件請求対象文書は存在せず、条例第11条第2項に該当するものとして、不開示とした。

4 審査会の判断
(1) 判断に当たっての基本的考え方
条例第5 条に規定されているとおり、何人も行政文書の開示を請求する権利が保障されているけれども、開示請求権が認められるためには、実施機関が行政文書を管理し、当該文書が存在することが前提となる。
当審査会は、行政文書の開示を請求する権利が不当に侵害されることのないよう、実施機関及び異議申立人のそれぞれの主張から、本件請求対象文書の存否について、以下判断するものである。

(2) 本件請求対象文書について
ア 文書1について
実施機関の主張によれば、懲戒処分の検討は、その前提となる非違行為が存在した場合に行われるのであり、非違行為の存在が確認されなければ、懲戒処分の検討は行われないとのことである。そして、文書1については、本件校長が非違行為を行ったという事実が確認された場合に、当該事実に基づき行われることとなる懲戒処分の検討に関する文書であると解したと主張している。
この実施機関が主張するところの懲戒処分の検討は、非違行為が存在し、懲戒処分の対象となることを確認した後に行われる検討であって、そもそも懲戒処分の対象となるかどうか、すなわち非違行為が存在したかどうかについての確認又は検討は含まれないとする主張である。しかしながら、懲戒処分に係る手続としては、懲戒処分の対象となることを確認した後に行われる検討だけでなく、その前に行われる非違行為の存否についての確認又は検討を含むと解するのが一般的であると認められる。また、異議申立人は、懲戒処分の対象かどうかの判断はなされているはずであり、その経過における事実関係を把握するための文書は、異議申立人の求める文書1に該当する旨主張している。
こうしたことからすれば、文書1については、本件校長の行為につき、懲戒処分の対象となることを確認した後に行われる検討に関する文書に限定すべきでなく、当該行為が非違行為に当たるか否かについての確認又は検討に関する文書も含むと解した上で、対象となる文書を特定すべきであると認められる。
ところで、実施機関は、本件校長に関し、本件事案に関する事実関係を把握するための記録簿として作成された本件相談整理簿が存在すると説明している。本件相談整理簿には、相談員名、相談日、相談者の氏名及び性別、学校名、相談内容並びに対応の状況が記録されており、別紙として、相談者、加害者とされる本件校長及び本件高校の教頭からそれぞれ聴取した事実関係等の状況を記録した文書が添付されている。
前述したように、非違行為の存否に係る確認又は検討に関する文書も文書1に含まれると考えられるところ、事実関係を把握するために本件相談整理簿が作成されたとすれば、当該文書を基に本件校長の行為が非違行為に該当するか否かについての検討が行われたものと解するのが相当である。
したがって、文書1については、本件相談整理簿がこれに該当するものと認められる。

イ 文書2について
職員が体調不良を理由に出勤していないということが分かる行政文書としては、職員の出勤状況を記録するための「出勤簿」が想定される。
また、職員が体調不良を理由に出勤しないというときには、職員は年次休暇若しくは療養休暇を取得又は欠勤することになることから、当該行政文書としては、年次休暇の届出を行うための「年次休暇処理簿」又は療養休暇の申請又は欠勤の届出を行うための「休暇及び職免承認簿・欠勤簿」が想定される。これらは、学校職員の休暇等取扱要領(平成18年3月31日付け17教職第1180号愛知県教育委員会教育長通知)によりその様式が定められているものであり、通常、職員の所属において作成及び管理されるものである。
本件開示請求に関しては、本件校長に係る「出勤簿」、「年次休暇処理簿」及び「休暇及び職免承認簿・欠勤簿」が想定され、これらは、本件校長が所属していた本件高校において管理されているものと認められる。
ところで、実施機関の主張によると、異議申立人は、本件開示請求とは別に、本件校長に係る「出勤簿」、「年次休暇処理簿」及び「休暇及び職免承認簿・欠勤簿」についての開示請求を行っていることから、文書2の特定に当たり異議申立人に確認したところ、「教職員課保管のもので、本件校長に関して体調不良を理由に出勤せずということがわかるもの」を対象とするとのことであったということである。この点について、異議申立人は、特に異議を申し立てていない。
したがって、文書2は、本件高校において管理されている本件校長に係る「出席簿」、「年次休暇処理簿」及び「休暇及び職免承認簿・欠勤簿」以外の、教職員課において管理されている行政文書であって、本件校長が体調不良を理由に出勤していないという情報が記録されているものであると解される。

ウ 文書3について
県立の高等学校教職員を対象とする懲戒処分については、「懲戒処分の基準」として標準的な処分量定が定められており、その一つとしてセクシュアル・ハラスメントに関する標準例も掲げられている。
文書3は、本件校長の行為が、当該標準例として掲げられているような懲戒処分の対象となり得るセクシュアル・ハラスメントであると実施機関が判断したことが分かる文書であると解される。

(3) 本件請求対象文書の存否について
ア 文書1について
前記(2)アで述べたとおり、文書1は本件相談整理簿であり、存在するものと認められる。
したがって、文書1について不存在を理由として不開示とした決定を取り消し、本件相談整理簿を対象として、改めて開示決定等をすべきである。

イ 文書2について
実施機関は、県立の高等学校の職員が体調不良を理由に出勤しない場合において、教職員課に報告又は文書の提出を要するとする特段の定めはないことから、文書2は存在しないと主張している。
そこで、学校職員の休暇等取扱要領及び愛知県立学校職員服務規程(平成19年愛知県教育委員会訓令第6 号)を確認したところ、県立の高等学校の職員が休暇を取得するなどして出勤しないことを教職員課に報告等しなければならないとする規定は認められなかった。
したがって、本件校長が体調不良を理由に出勤しないことについての報告等を教職員課が受けておらず、文書2を作成又は取得していないとしても、不合理であるとは認められない。

ウ 文書3について
実施機関の主張によれば、本件校長に係る本件事案についての苦情相談があったことから、当事者及び第三者から事情を聴取し、事実関係等を確認しようとしたとのことである。そして、確認することのできた事実関係等からは、本件校長の行為は非違行為に当たるもの、すなわち懲戒処分の対象となるセクシュアル・ハラスメントに当たるものとは判断できなかったことから、文書3は存在しないとのことである。
当審査会は、条例に基づき、行政文書に記録された情報が条例第7条各号に規定する不開示情報に該当するか否か、行政文書が存在しないとされる場合はその不存在であることの説明が合理的か否かなどについての判断を行うものであり、実施機関の行政処分の当否を判断するものではないことから、本件において実施機関が本件校長の行為は懲戒処分の対象となり得るセクシュアル・ハラスメントに当たるものではないと判断した以上、文書3を作成又は取得していないとする実施機関の説明が不合理であるとまでは認められない。

(4) まとめ
以上により、「1 審査会の結論」のとおり判断する。

別記
本件高校に関する件(校長セクハラ報道等に関して)
1 県教委が処分の検討を始めたことがわかるもの(文書1)
2 体調不良を理由に出勤せずということがわかるもの(教職員課保管のもの)(文書2)
3 「セクハラと認定」したことがわかるもの(文書3)

(審査会の処理経過)
年月日内 容
19. 4. 20諮問
19. 12. 25実施機関から不開示理由説明書を受理
20. 1. 18異議申立人に実施機関からの不開示理由説明書を送付
20. 2. 18異議申立人から不開示理由説明書に対する意見書を受理
20. 2. 19
(第218 回審査会)
実施機関職員から不開示理由等を聴取
20. 3. 7
(第220 回審査会)
異議申立人から意見を聴取
20. 7. 16
(第232 回審査会)
審議
20. 8. 6
(第234 回審査会)
審議
20. 10. 29
(第241 回審査会)
審議
20. 11. 18
(第244 回審査会)
審議
20. 12. 3
(第246 回審査会)
審議
20. 12. 24
(第248 回審査会)
審議
21. 1. 19
(第250 回審査会)
審議


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