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情報公開・個人情報保護審査会 平成20年度(行情)答申第195号 特定少年院に係る監査報告書

2008年09月01日 | 行政文書該当性/文書の特定/理由付記
諮問庁 : 法務大臣
諮問日 : 平成20年 2月27日(平成20年(行情)諮問第104号)
答申日 : 平成20年 9月 1日(平成20年度(行情)答申第195号)
事件名 : 特定少年院に係る監査報告書の不開示決定に関する件

答 申 書


第1  審査会の結論
 「監査報告書(特定少年院のもので直近年度のもの)」(以下「本件対象文書」という。)につき,開示請求に形式上の不備があるとして不開示とした決定については,取り消すべきである。

第2  異議申立人の主張の要旨
1  異議申立ての趣旨
 本件異議申立ての趣旨は,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)3条の規定に基づく本件対象文書の開示請求に対し,平成19年12月12日付け名管総発第275号により名古屋矯正管区長(以下「処分庁」という。)が行った不開示決定(以下「原処分」という。)について,その取消しを求めるというものである。

2  異議申立ての理由
 監査報告は,どのような行政機関においても実施されている。監査報告に関して特別なものがあれば,担当者は,開示請求者に対して説明すべきである。予算執行に係る監査報告であることは,開示請求者の発言から明白である。

第3  諮問庁の説明の要旨
1  理由説明書
(1)  本件開示請求書には,請求する行政文書の名称等として,「監査報告書(特定少年院のもので直近年度のもの)」と記載されていたが,処分庁は,同記載内容からは対象となる行政文書の特定が困難であるとして,審査請求人が来庁した際の面談又は求補正書の送付により,審査請求人に対し,文書特定に関する補正を求めたものの,補正がされなかったことから,形式上の不備により原処分に及んだものである。

(2)  処分庁は,本件開示請求書の記載内容からでは文書を特定することが困難であり,補正もされなかったことを原処分の理由とするところ,審査請求人は,「監査報告は,どのような行政機関においても実施されている。監査報告に関して特別なものがあれば,担当者は,開示請求者に対して説明をすべきである。予算執行に係わる監査報告であることは,開示請求者の発言から明白である。」などと主張し,原処分の取消しを求めていることから,原処分の違法性又は不当性の有無について,以下に検討する。

(3)  法4条1項2号は,開示請求書の必要的記載事項として,「開示請求に係る行政文書を特定するに足りる事項」を掲げており,特定の方法については,一般的に,行政文書の名称,行政文書の様式の名称,標題,記録されている情報の概要,作成(取得)年月日,作成者等を適宜組み合わせて表示することとされている(「詳解情報公開法」(総務省行政管理局編))。また,同条2項によれば,「開示請求に係る行政文書を特定するに足りる事項」の記載が不十分なゆえに文書が特定できない場合を含む「形式上の不備」が認められる場合は,行政機関の長は,相当の期間を定めてその補正を求めることができ,その際,開示請求者に対し,補正の参考となる情報を提供するよう努めることとされている。

(4)  本件開示請求書の記載内容について検討すると,少年院の管理について,少年院法3条2項が「法務大臣は,少年院を適当に維持し,且つ,完全な監査を行う責任を負う」と規定しており,これに基づき,矯正局及び矯正管区の職員が,定期的に各少年院の監査を実施していることを踏まえると,「監査」といった場合,当該監査を指すものとすることができるが,一方で,それ以外でも,会計検査院等の他機関による監査等も考えられ,その趣旨が必ずしも明確でないため,請求の趣旨について補正を求めた処分庁の対応は,法にのっとった適切なものである。
 しかしながら,平成19年11月27日付け事務連絡(求補正書)により,処分庁自身が,本件開示請求の対象文書として,名古屋矯正管区が保有する①平成19年1月25日付け名管調発第25号「実施監査の結果について(通知)」(以下「通知文書」という。)及び②平成19年2月21日付け宮医少受第184号「実施監査の結果について(報告)」(以下「報告文書」という。)(以下,通知文書及び報告文書を併せて「情報提供文書」という。)の2件を対象文書として特定していることからすると,仮に当該文書を特定することの可否について,審査請求人の了解が得られていないとしても,本件開示請求に対して文書が特定されていないとする処分庁の主張は受け入れられるものではない。

(5)  取り分け,審査請求人は,本件開示請求時に開示請求手数料1件分(300円)を納付しているところ,今回,文書不特定により原処分を行った場合に,同手数料が消費されていることにかんがみると,当該文書(上記①及び②の文書を開示することとした場合の開示請求手数料も,1件分(300円)である。)を特定して開示決定等を行う方が,審査請求人の利益になるものであり,処分庁もこうした対応をすべきであった。

(6)  以上のとおり,処分庁は,本件開示請求に対し,対象となる文書として,上記(4)に記載した情報提供文書を特定し開示決定等を行うべきであり,原処分は取り消されるべきものである。

(7)  続いて,情報提供文書に記載された情報について,開示又は不開示相当性について検討する。
 通知文書は,名古屋矯正管区長が,特定少年院の監査を実施した結果について,同少年院の長あてに通知した文書であり,報告文書は,同通知文書を受け,同少年院の長が,同管区長あてに,改善又は検討を要する事項についての処理結果を報告した文書である。
 これらのいずれについても,法が規定する不開示情報に該当する部分はなく,全部を開示することが相当である。

2  補充理由説明書
(1)  諮問庁としては,理由説明書において,処分庁は,情報提供文書を特定すべきであって,原処分は取り消されるべきであるとするとともに,情報提供文書に記載された情報の不開示情報該当性について説明したところであるが,いくつかの点について,さらに補充して説明する。

(ア)  諮問庁として,情報提供文書が処分庁において特定されていると判断したことについて
 当初の理由説明書にも記載したとおり,少年院法上,監査に関しては明確な規定があり,当該監査は,少年院の事務全般にわたる総合的なものであることから,矯正行政を所掌する行政庁としては,「監査」といった場合に,通常,一義的には当該監査であると解することは当然である。本件の場合,審査請求書には,当該監査が予算執行にかかわるものである旨の主張が記載されているものの,開示決定に至るまでの求補正等の過程では,審査請求人からそうした意思表示はされておらず,その他,当該監査の趣旨についての確認も得られていないことから,処分庁が,該当する文書として,通知文書及び報告文書を情報提供したことは,相当な対応である。
 そして,本件開示請求は,「監査報告書」の「直近のもの」を請求するものであるところ,特定少年院の場合,直近の当該監査は,名古屋矯正管区の職員によって,平成18年12月12日から翌13日の2日間にわたり実施されていることから,当該監査に係る情報提供文書を,直近のものと判断したものである。
 諮問庁としては,本件開示請求に係る「監査」の趣旨が明確でない状況で,少なくとも,情報提供文書は,上記のとおり請求書の趣旨に合致するものであるため,当該文書で特定すべきであったと考えるものである。
(イ)  会計関係の監査に係る文書の保有の実情について
 特定少年院に係る会計関係の監査で,本件開示請求時点で直近のものとしては,開示請求日と同日の平成19年11月20日に,法務省大臣官房会計課が,経理事務全般について実施した「平成19年度第2次経理事務調査」があるが,当該監査に係る報告書は,本件開示請求時点では作成されていない。また,当該事務調査以前の会計関連の監査で直近のものとしては,平成17年11月17日から同月18日にわたり,会計検査院により実施された「会計実地検査」があり,これに係る検査結果について,同少年院長が法務大臣あてに報告した文書を,同少年院において保有している。
第4  調査審議の経過
 当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。

①  平成20年2月27日  諮問の受理 
②  同日  諮問庁から理由説明書を収受
③  同年4月24日  審議
④  同年7月1日  諮問庁から補充理由説明書を収受
⑤  同年8月28日  審議

第5  審査会の判断の理由
1  本件開示請求等について
 本件開示請求は,請求する行政文書の名称等の欄に,「監査報告書(特定少年院のもので直近年度のもの)」と記載された本件開示請求書により行われたものである。これに対し,処分庁は,少年院の管理について,少年院法3条2項が「法務大臣は,少年院を適当に維持し,且つ,完全な監査を行う責任を負う」と規定しており,これに基づき,矯正局及び矯正管区の職員が,定期的に各少年院の監査を実施していることを踏まえると,「監査」といった場合,当該監査を指すものとすることができるが,一方で,それ以外でも,会計検査院等の他機関による監査等も考えられ,その趣旨が必ずしも明確でないため,当該記載から文書を特定することは困難であるとして審査請求人に補正を求めたが,処分庁が設定した補正の求めに対する回答の期限までに審査請求人の回答が到達しなかったため,本件開示請求には形式上の不備があるとして,原処分を行った。
 これに対し,諮問庁は,理由説明書において,処分庁では,求補正書において本件開示請求に係るものとして行政文書を特定していて,審査請求人から納付されている開示請求手数料に見合うものとして行政文書1件を特定して開示決定等をする余地があったので,当該文書を特定して開示決定等をすべきであったとして,本件は,本件対象文書が特定できないとは言えず,開示請求書に形式上の不備があったとは言えないから取り消すべきであるとしている。また,諮問庁は,処分庁が求補正書において特定した文書である情報提供文書について説明し,当該理由説明書の添付資料として提出した。
 その後,当該理由説明書及び添付資料は,当審査会から審査請求人に送付されたが,審査請求人から意見書等は提出されていない。さらに,諮問庁は,補充理由説明書において,諮問庁として,情報提供文書が処分庁において特定されていると判断した理由及び会計関係の監査に係る文書の実情等について説明している。
 そこで,以下において,本件対象文書の特定の可否について検討する。

2  本件対象文書の特定の可否について
 法4条1項2号の「行政文書の名称その他の開示請求に係る行政文書を特定するに足りる事項」とは,行政機関の職員が,行政文書開示請求書の記載から開示請求者が求める行政文書を他の行政文書と識別できる程度の記載があれば足りると解される。
 上記のとおり,本件開示請求書には,請求する行政文書の名称として,「監査報告書(特定少年院のもので直近年度のもの)」と記載されている。そして,諮問庁の説明によれば,少年院法3条2項に基づく監査に係る報告書等と会計検査院等の他機関による監査に係る報告書等が存在するところ,これらはいずれも監査報告書ということができるので,本件対象文書は,行政文書に記載された情報の性質・内容及びそのうち直近年度のものとして,他の行政文書から識別できるものと解される。
 ちなみに,当審査会において諮問庁から提示を受けた本件求補正書によれば,処分庁は,本件開示請求につき,情報提供文書(通知文書及び報告文書)を監査の結果に係る文書として保有していること,通知文書は,名古屋矯正管区長が特定少年院長に対して,改善又は検討を要する事項を通知したものであり,それを受けて,特定少年院長が名古屋矯正管区長に対して処理てん末を報告したものが報告文書になっている旨などを説明した上で,本件開示請求の対象を情報提供文書として特定してよいか,回答の期限を設定して回答を求めたことが認められる。
 また,諮問庁においては,上記第3記載の理由説明書等において,通知文書及び報告文書が直近年度のものであることから,処分庁は,本件対象文書として,これらを特定すべきであった旨を説明していることが認められる。
 以上のことからすると,本件の場合,本件開示請求書の記載から本件対象文書を他の行政文書から識別することができると認められ,審査請求人が処分庁の補正の求めに応じなかったために本件対象文書を特定できないとは言えないから,開示請求書に形式上の不備があったとは認められない。
 なお,上記によれば,通知文書及び報告文書が本件対象文書に当たるものと認められる。

3  本件不開示決定の妥当性
 以上のことから,本件開示請求につき,形式上の不備があることを理由に不開示とした決定については,本件開示請求書に記載された文言により対象となる行政文書を特定できないとは言えず,対象となる行政文書を特定した上で,改めて開示決定等をすべきであることから,取り消すべきものと判断した。

(第1部会)
 委員 大喜多啓光,委員 村上裕章,委員 吉岡睦子


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