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情報公開・個人情報保護審査会 平成20年度(行情)答申第263号 特定会社特定工場に係る特定求職者…

2008年10月02日 | 存否応答拒否
諮問庁 : 厚生労働大臣
諮問日 : 平成20年 4月24日(平成20年(行情)諮問第224号)
答申日 : 平成20年10月 2日(平成20年度(行情)答申第263号)
事件名 : 特定会社特定工場に係る特定求職者雇用開発助成金支給一覧表の不開示決定(存否応答拒否)に関する件

答 申 書


第1  審査会の結論
 特定会社特定工場に係る特定求職者雇用開発助成金支給一覧表(以下「本件対象文書」という。)の開示請求につき,その存否を明らかにしないで開示請求を拒否した決定は,取り消すべきである。

第2  審査請求人の主張の要旨
1  審査請求の趣旨
 本件審査請求の趣旨は,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)3条の規定に基づく本件対象文書の開示請求に対し,平成20年1月7日付け岐労発総第8号により岐阜労働局長(以下「処分庁」という。)が行った不開示決定(以下「原処分」という。)について,その取消しを求めるものである。 

2  審査請求人の主張の要旨
 審査請求人の主張する審査請求の理由は,審査請求書及び意見書によると,おおむね以下のとおりである。

(1)  審査請求書
 独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構においては,同様の情報を開示した。なのに,処分庁が開示しないのは納得できない。

(2)  意見書
 以下の2点について調査願いたい。

ア  特定求職者雇用開発助成金
 特定業務への採用者は,6時間のうち3時間しか特定業務に携わらず,他の3時間は特定業務以外の仕事をしている。この期間の特定業務以外の費用(支払)に対して,特定求職者雇用開発助成金がおりているのを疑問に思う。本来,特定業務を行うにあたっては工場内清掃も付随するが,その清掃作業にかかる時間が明らかに道理を超えて多すぎると思う。その場合,直接特定業務に携わっていない時間に対して特定求職者雇用開発助成金が支給されていることになる。一度,この期間の特定工場における作業日誌と工場稼働を示す経費の調査をお願いする。特定業務に助成金が支払われたかどうか調査願いたい。また,仮にはっきりと清掃作業に支払われたことが明らかな場合,助成金の支払戻し等は行われるのかも同時に教えてほしい。

イ  重度障害者多数雇用事業所施設設置等助成金
 特定会社特定工場は,重度障害者多数雇用事業所施設設置等助成金(独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構より支給されている)の指定を受けて建てた工場である。障害者はその助成金を受ける目的で雇用されている。そのため,これらの障害者は,仕事がないにもかかわらず,工場にいるものと思う。工場は本来特定業務を行う工場で申請されており,特定業務こそ障害者の方の仕事のはずである。結論として,十分な仕事も確保せず,重度障害者多数雇用事業所施設設置等助成金の認定を受けるために障害者雇用を利用しているものと思う。本来,障害者雇用を通じて,障害者に仕事を提供し,その方が社会的尊厳を得られるものであるのに,助成金目当ての雇用に憤りを覚える。

第3  諮問庁の説明の要旨
1  本件審査請求の経緯について
 本件審査請求は,審査請求人である開示請求者から平成19年12月11日付けでなされた,「特定会社特定工場に係る特定求職者雇用開発助成金支給一覧表」の開示請求に対して,処分庁が行った原処分を不服として,平成20年1月29日付けで提起されたものである。

2  諮問庁としての考え方
 原処分は妥当であり,本件審査請求は棄却すべきものと考える。

3  理由
 本件対象文書は,仮に存在するとすれば,特定会社の特定工場に係る特定求職者雇用開発助成金支給に係る一覧表である。
 特定求職者雇用開発助成金制度は,雇用保険法62条3号及び5号並びに雇用対策法18条6号の規定に基づき,高年齢者や障害者,母子家庭の母等の就職困難者を継続して雇用する労働者として雇い入れる事業主に対して賃金相当額の一部を助成する制度である。
 審査請求人の請求文書の対象は,特定会社の特定工場に係るものであるため,その存否を明かすことは,特定の事業所が特定求職者雇用開発助成金の支給を受けている又は受けていないことを示すことになり,特定の事業所に障害者や母子家庭の母等が雇い入れられている又は雇い入れられていないことが第三者に明らかになる。
 仮に,特定工場に係る支給決定通知書の存在を明らかにした場合,特定の個人を識別できる情報が伏せられてあったとしても,少なくとも,1人以上の者が特定求職者雇用開発助成金の対象労働者であることが明らかになる。当該職場内では,同僚等関係者が障害者や母子家庭の母など就職困難者である者を探索し,特定の者が障害者や母子家庭の母であること等を推認することが可能となり,その結果,通常人には知られたくない機微な情報が明らかにされるおそれがある。このため,なお個人の権利利益を害するおそれがあり,法5条1号の不開示理由に該当することとなる。
 以上の理由から,文書の存否を明かすことは当該不開示情報を開示することに当たるため,文書の存否を明らかにすべきではない。

4  審査請求人の主張について
 審査請求人は,原処分に対し,独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構は同様の情報を開示したとして,不開示決定の取消しを求めているが,本件と同機構が支給機関となっている助成金とは事案が異なっており,法5条1号ただし書イに該当せず,また,同機構が支給機関となっている助成金に係る情報公開については,独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律に基づいて,同機構が意思決定を行っているものである。諮問庁としては,上記3の理由により本件開示請求に係る情報は不開示とすべきものと考える。

5  結論
 以上のとおり,法8条の規定を理由に行政文書の存否を明らかにせず不開示とした原処分は妥当であり,本件審査請求は棄却すべきものである。

第4  調査審議の経過
 当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。

①  平成20年4月24日  諮問の受理
②  同日  諮問庁から理由説明書を収受
③  同年5月21日  審査請求人から意見書を収受
④  同年9月9日  審議
⑤  同月30日  審議

第5  審査会の判断の理由
1  本件対象文書について
 特定求職者雇用開発助成金は,諮問庁の理由説明書によると,高年齢者や障害者,母子家庭の母等の就職困難者を継続的に雇い入れる事業主に対し,賃金相当額の一部を助成する制度である。
 本件開示請求は,特定会社の特定工場における当該助成金の支給状況を示した一覧表の開示を求めるものである。
 処分庁は,本件対象文書の存否を答えることは,法5条2号イの不開示情報を開示することとなるとして,その存否を明らかにしないで開示請求を拒否する原処分を行った。
 これに対し,諮問庁は,本件対象文書の存否に係る情報は,法5条1号の不開示情報に該当するとして,原処分は妥当であるとしている。

2  本件対象文書の存否応答拒否について
 本件対象文書の存否を答えることは,特定工場における特定求職者雇用開発助成金の受給の有無のほか,特定工場において,高年齢者や障害者,母子家庭の母等,当該助成金の支給要件を満たす労働者を雇用している事実の有無(以下,これらの情報を「本件存否情報」という。)を明らかにすることになると認められる。

(1)  本件存否情報の法5条1号該当性について
 本件存否情報は,それだけでは,法5条1号本文前段に規定する特定の個人を識別することとなる情報には該当しないと認められる。
 しかしながら,諮問庁は,本件存否情報が明らかになると,特定工場の職場の同僚等が,特定工場内において,障害者や母子家庭の母等の就職困難者を探索し,特定の者が障害者や母子家庭の母であること等を推認することが可能となり,その結果,通常人には知られたくない機微な情報が明らかになるおそれがある旨説明する。
 そこで,当審査会において,諮問庁のホームページにおいて公表されている特定求職者雇用開発助成金の支給要件等を確認したところ,当該助成金のうち特定就職困難者雇用開発助成金は,①60歳以上の者,②身体障害者,③知的障害者,④精神障害者,⑤母子家庭の母等,⑥中国在留邦人等永住帰国者,⑦北朝鮮帰国被害者等,⑧認定駐留軍関係離職者,⑨沖縄失業者求職手帳所持者,⑩漁業離職者求職手帳所持者,⑪手帳所持者である漁業離職者等,⑫一般旅客定期航路事業等離職者求職手帳所持者,⑬認定港湾運送事業離職者及び⑭アイヌの人々のうち一定の条件を満たす者を継続的に雇い入れた事業主に対して支給されるものであると認められる。
 特定の事業所において特定求職者雇用開発助成金を受給している事実が公になった場合,職場の同僚等が,特定の労働者について,当該助成金の支給要件を満たす者であると推認することは,考えられないことではない。しかし,当該労働者が,上記の①から⑭までの多岐にわたる要件のうち,いずれに該当するかについてまで,直ちに明らかになるものではない。このため,本件存否情報は,これを公にしても,当該労働者が,通常人に知られたくない情報を知られることとなるおそれがあるとは認められず,法5条1号本文後段に規定する,公にすることによりなお個人の権利利益を害するおそれがある情報には該当しない。
 したがって,本件対象文書の存否を答えるだけでは,法5条1号の不開示情報を開示することにはならないものと認められる。

(2)  本件存否情報の法5条2号イ該当性について
 諮問庁は,本件存否情報につき法5条2号イ該当性を主張していないが,念のため検討すると,特定会社が特定求職者雇用開発助成金を受給している事実の有無は,それだけでは,当該助成金の受給状況の詳細や当該助成金の支給要件を満たす労働者の雇用状況の詳細を明らかにするものではないから,これを公にしても,特定会社の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるとは認められない。
 したがって,本件対象文書の存否を答えるだけでは,法5条2号イの不開示情報を開示することにはならないものと認められる。

3  本件不開示決定の妥当性
 以上のことから,本件対象文書につき,その存否を答えるだけで開示することとなる情報は法5条2号イに該当するとして,その存否を明らかにしないで開示請求を拒否した決定について,諮問庁が,当該情報は同条1号に該当するとして開示請求を拒否すべきとしていることについては,当該情報は同条1号及び2号イのいずれにも該当せず,本件対象文書の存否を明らかにして改めて開示決定等をすべきであることから,取り消すべきであると判断した。

(第3部会)
 委員 名取はにわ,委員 北沢義博,委員 高橋 滋


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