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情報公開審査会の答申などを集めて載せています。

東京都情報公開審査会 答申第298号 医療法人社団○○における調査結果(医療不正請求にかかる)…

2005年07月29日 | 存否応答拒否

諮問第348号

答申

1 審査会の結論

 「医療法人社団○○における調査結果(医療不正請求にかかる)及び○○への指導に関する文書」について、その存否を明らかにしないで開示請求を拒否した本件非開示決定は、取り消すべきである。

2 異議申立ての内容

(1)異議申立ての趣旨

 本件異議申立ての趣旨は、東京都情報公開条例(平成11年東京都条例第5号。以下「条例」という。)に基づき、異議申立人が行った「医療法人社団○○における調査結果(医療不正請求にかかる)及び○○への指導に関する文書」の開示請求に対し、東京都知事が平成16年2月10日付けで行った非開示決定(存否応答拒否)について、その取消しを求めるというものである。

(2)異議申立ての理由

 異議申立人が、異議申立書、意見書及び意見陳述等で主張している異議申立ての主たる理由は、次のように要約される。

 請求した公文書が開示できないとの説明は納得できない。これらの文書が存在していることは知っているので今更このような回答をする理由を含めて、再度開示の検討をしていただきたい。

 この施設に関する公文書の存否を答えることが、この施設に対して指導が行われたという事実を明らかにすることになり、患者確保に不利となり、施設へ不利益をもたらすとは考え難く、むしろ疑念を抱くので、これからでも開示すべきである。

3 異議申立てに対する実施機関の説明要旨

 実施機関が、理由説明書、口頭による説明において主張している内容は、次のように要約される。 保険医療機関に対する個別指導は、都内に約27,000ある医療機関が全て対象になるわけではなく、何らかの疑いが生じた場合のみ当該医療機関の診療録と診療報酬明細書を照合して指導を行うものである。
 当該開示請求に関する公文書の存否を答えることは当該保険医療機関に対し医療費の請求に関する指導が行われたという事実の有無を明らかにすることになり、そのことにより、患者確保等の観点から不利な影響を及ぼす可能性が高く、当該保険医療機関の事業運営上の地位その他社会的な地位が損なわれると認められる。
 なお、指導・監査事務は都の法定受託事務になっており、保険医療機関等の不正請求の確定は監査により行われ、監査の結果、社会保険事務局長による行政措置が行われると公表されるが、個別指導の段階ではこのような公表は行われない。

4 審査会の判断

(1)審議の経過

 審査会は、本件異議申立てについて、以下のように審議した。



年月日審議経過
平成16年 5月31日諮問
平成16年11月11日実施機関から理由説明書収受
平成16年11月18日実施機関から説明聴取(第54回第二部会)
平成16年12月10日異議申立人の意見書収受
平成16年12月17日異議申立人の意見陳述(第55回第二部会)
平成17年 1月25日審議(第56回第二部会)
平成17年 2月21日審議(第57回第二部会)
平成17年 4月26日審議(第58回第二部会)
平成17年 5月23日審議(第59回第二部会)
平成17年 6月20日審議(第60回第二部会)

(2)審査会の判断

 審査会は、異議申立てに係る開示請求文書並びに実施機関及び異議申立人の主張を具体的に検討した結果、以下のように判断する。

 本件請求文書について 本件異議申立てに係る請求は、「医療法人社団○○における調査結果(医療不正請求にかかる)及びその後の○○への指導に関する文書一式」とされており、特定の保険医療機関を指定し、当該医療機関に係る健康保険法等に基づく個別指導の結果及びその後の改善の指導等に関する文書(以下「本件請求文書」という。)について開示を求めたものである。
 本件請求文書の有無を答えることは、特定の保険医療機関が東京社会保険事務局及び東京都による個別指導の結果、何らかの指導等を受けたという事実を明らかにするのと同様のこととなるものである。

 保険医療機関等に対する指導について
 地方社会保険事務局及び都道府県は、保険診療等の質的向上及び適正化を図るため、健康保険法等により定められた「指導大綱」に基づき、保険診療の取扱い、診療報酬の請求等に関する事項について周知徹底させることを主眼として、懇切丁寧に保険医療機関等に対し、指導を行っている。
 指導形態としては、集団指導(保険医療機関等を一定の場所に集めて講習等の方式により実施するもの)、集団的個別指導(一定の場所に集めて個別に簡便な面接懇談方式により実施するもの)及び個別指導(一定の場所に集めて又は当該保険医療機関等において個別に面接懇談方式により実施するもの)の3形態がある。
 指導を行う保険医療機関等の選定については、地方社会保険事務局に設置される地方社会保険事務局長が指名する技官及び事務官等を構成員とする選定委員会により行われる。
 個別指導の選定基準としては、「指導大綱」において、情報の提供があり個別指導が必要と認められたもの、個別指導の結果、再指導又は経過観察となったが改善が認められないもの、監査の結果、戒告又は注意を受けたもの、集団的個別指導の結果、大部分の診療報酬明細書について適正を欠くものが認められたもの、正当な理由がなく集団的個別指導を拒否したもの等が規定されている。
 個別指導後の措置については、診療内容及び診療報酬の請求の妥当性により、概ね妥当、経過観察、再指導及び要監査の措置が採られ、地方社会保険事務局は、当該保険医療機関等に対し、指導結果及び指導後の措置について文書により通知し、さらに、当該保険医療機関等に対して、指導結果で指摘した事項に係る改善報告書の提出を求める旨規定されている。
 また、個別指導において、診療内容又は診療報酬の請求に関し不当な事項を確認した場合は、経済上の措置として、当該保険医療機関等に対し事実の確認を行った上、自主点検させ、その結果を基に保険者に自主返還させることとしている。

 条例7条3号本文及び条例10条該当性について
 条例7条3号は、「法人(国、独立行政法人等及び地方公共団体を除く。)その他の団体(以下「法人等」という。)に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、公にすることにより、当該法人等又は当該事業を営む個人の競争上又は事業運営上の地位その他社会的な地位が損なわれると認められるもの」を非開示情報として規定している。
 また、条例10条は、「開示請求に対し、当該開示請求に係る公文書が存在しているか否かを答えるだけで、非開示情報を開示することとなるときは、実施機関は、当該公文書の存否を明らかにしないで、当該開示請求を拒否することができる。」と規定している。
 実施機関によると、個別指導を行った保険医療機関のほとんどは、診療内容又は診療報酬の請求に関し、何らかの不備が認められ、指導等が行われているのが実情であるとの説明であった。したがって、「本件請求文書」の存否を明らかにし、特定の保険医療機関に対する個別指導の有無が明らかになると、診療内容又は診療報酬の請求が妥当ではなかったのではないかという憶測を呼び、指導対象となった特定の保険医療機関の信用が低下し、事業運営上の地位に一定の不利益を与えることになる可能性は否定できない。
 しかし、本件請求文書の存否を答えることで明らかになるのは、当該保険医療機関が東京社会保険事務局及び東京都による個別指導の結果、何らかの指導等を受けたという客観的事実の有無に過ぎず、具体的な指導の内容まで明らかになるわけではない。したがって、何らかの指導等を受けたという事実が明らかになったとしても、個別指導の結果指摘事項があったという事実を超えて、当該保険医療機関の信用が低下し、甚大な不利益を被るおそれがあるとはいえない。
 また、現行の制度下では、個別指導の結果、妥当でない診療報酬の請求があり、診療報酬の過払いが判明した場合、保険者については過払い分の返還の制度が定められ、返還について行政指導の対象となっている一方、被保険者については、自己負担した医療費に過払い分があったとしても、全ての者にそれを知る機会が与えられているわけではない。
 被保険者の立場から考えると、医療費の過払い分は保険医療機関等の不当利得となるが、自分の受診した医療機関が指導等を受けたかどうかすら明らかにされないことになると、この不当利得の返還を求める機会が失われかねず、不利益を被ることになる。
 また、保険医療機関等は、各種の健康保険制度によって支えられており、診療報酬等の請求に関し保険者及び被保険者に対して一定の説明責任を負っているものと考えられる。
 以上のようなことを勘案すると、特定の保険医療機関が個別指導の結果、何らかの指導等を受けたかどうかが明らかにされないことにより被保険者の被る不利益と何らかの指導等を受けたことが公にされることにより特定の保険医療機関が被る不利益を比較衡量しても、後者が前者を上回るとは考えられない。
 したがって、特定の保険医療機関が何らかの理由で個別指導を受け、何らかの指導等が行われたという事実が公になったとしても、その不利益の程度は受忍の範囲内であり、特定の保険医療機関が健康保険法等の定める個別指導の結果、指導等を受けたという事実自体は、条例7条3号本文に定める事業運営情報には該当せず、条例10条の適用も受けない。

 よって、「1 審査会の結論」のとおり判断する。

(答申に関与した委員の氏名)
 貫洞 哲夫、下河辺 和彦、中村 輝子、山田 洋




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