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京都府情報公開審査会 京情審答申第53号 宗教法人の役員名簿及び収支計算書の公開請求拒否…

2005年08月04日 | 存否応答拒否
京情審答申第53号
平成17年8月4日

京都府知事
山田啓二様

京都府情報公開審査会
会長錦織成史

公文書非公開決定(公開請求拒否)に係る異議申立てに対する決定について(答申)


平成17年1月11日付け7文教第20号で諮問のあった事案について、次のとおり答申します。

第1 審査会の結論
本件事案ついて、実施機関が公文書の存否を明らかにしないで、公開請求を拒否した非公開決定は、取り消すべきである。

第2 異議申立てに至る経過
1 平成16年9月21日、異議申立人は、京都府情報公開条例( 平成13年京都府条例第1号。以下「条例」という。)第4条の規定により、京都府知事(以下「実施機関」という。)に対し、「宗教法人悟真寺の現在の寺院規則、現在の責任役員の名簿、平成11年度から平成15年度までの決算書」を内容とする公文書の公開を請求した。
2 実施機関は、本件公開請求のうち、「現在の寺院規則」を特定の上、平成16年10月5日、部分公開決定処分を行った。
また、本件公開請求のうち、「現在の責任役員名簿及び平成11年度から平成15 年度までの決算書」(以下「本件公文書」という。)については、同日、条例第11条第2項の規定により、公開決定等の期間を延長した上、平成16年11月19日、条例第10条第2項の規定により、非公開(公開請求拒否)決定処分( 以下「本件処分」という。) を行い、同日、異議申立人に公文書非公開決定通知書(公開請求拒否)を送付した。
3 平成16年12 月9日、異議申立人は、行政不服審査法(昭和37年法律第160号)第6条の規定により、本件処分を不服として実施機関に対して異議申立て( 以下「本件申立て」という。) を行った。
4 平成17年1月11日、実施機関は、条例第17条の規定により、京都府情報公開審査会( 以下「審査会」という。)に対して、本件申立てに対する決定について諮問した。

第3 本件申立ての趣旨
本件申立ての趣旨は、本件処分の取消しを求めるというものである。

第4 異議申立人の主張要旨
異議申立人が異議申立書、意見書及び口頭意見陳述において述べて
いる主張を総合すると、おおむね次のとおりである。
1 宗教法人事務所備付け書類の写しの提出制度について
宗教法人悟真寺は不活動宗教法人ではなく、通常の宗教活動の他に、自然幼稚園を経営し、収益事業として不動産賃貸事業を行っている。宗教法人悟真寺の会計期間は、毎年4月1日に始まり翌年の3月31日に終わる。従って、平成11年度から平成1 5年度までの決算書類は全て、少なくとも平成16年7月1日までには実施機関に提出されているはずである。
また、年間収入が8000万円以内の宗教法人は収支計算書の作成義務が免除されているので、大部分の宗教法人は収支計算書を実施機関に提出していないものと思われる。したがって、収支計算書が実施機関に提出されていないことを以って、不活動宗教法人かどうかは判明する筈がない。
2 条例第9条該当性について
実施機関は本件処分の理由として、不活動宗教法人対策を挙げているが、このような一般的な理由を認めれば宗教法人に関する情報公開は事実上行われなくなり、情報公開制度の意味をなさなくなる。
情報公開の趣旨は、公開が原則であって、公開しないのは例外のはずである。
実施機関は、公開請求案件ごとに個別の公開の適否を審査すべきものであって、実施機関の行政整理の都合により一括して公開請求を拒否するのは失当である。
書類の存否を回答しても、宗教法人悟真寺の宗教活動には全く影響がなく、また、不活動宗教法人の売買等とは全く無関係であることは明白である。

第5 実施機関の説明要旨
実施機関が、理由説明書及び実施機関の職員の口頭説明において述べていることを総合すると、おおむね次のとおりである。
1 宗教法人事務所備付け書類の写しの提出制度について宗教法人は、宗教法人法( 昭和26年法律第126号。以下「法」という。) 第25 条第2項の規定により、役員名簿、決算書類等を事務所に備付けなければならない。
また、宗教法人は、法第25 条第4項の規定により、毎会計年度終了後4 ヶ月以内に、役員名簿、決算書類等の事務所備付け書類の写しを所管庁に提出しなければならず、本件公文書は、これら提出書類の一部である。
法が定める書類提出制度は、宗教法人がその目的に沿って活動していることを把握することを目的としているため、当然、不活動状態にある宗教法人については、書類が提出されていない。したがって、これらの書類の提出状況が不活動宗教法人か否かの一つの目安となる。
2 不活動宗教法人対策について
不活動宗教法人とは、教祖の死亡、信者の離散等の事由により、宗教団体としての活動は行っていないが、宗教法人格のみ存在している法人のことである。
これらの不活動宗教法人を放置しておくと、脱税や犯罪行為の手段に利用される上に、宗教法人制度の信用にも関わる問題が発生するなど、最終的には公益を害する事態が生じてくる可能性が高い。
しかし、不活動宗教法人の売買自体には違法性がなく、一旦法人格が売買されてしまうと、実施機関には、一般的な調査や改善命令などの権限がなく、また、認証の取消しといった権限もないことから、表面上宗教活動らしきことを行っていれば、法人売買後は対策を施すことができない。
したがって、不活動宗教法人の存在が判明した段階で、早期に対策、すなわち解散手続きを開始することが不可欠である一方、どの宗教法人が不活動宗教法人かを把握し、不活動宗教法人の売買を防止する必要がある。
3 条例第9条該当性について
公文書公開制度は、何人に対しても等しく公開請求権を認めるものであり、請求の理由や利用目的等の個別事情は問わないものであることから、本件公文書の存否を応えると、今後同様の公開請求によって、他の宗教法人の書類提出状況の公開をも可能にし、個々の宗教法人の活動状態が明白となり、不活動宗教法人であるとの情報について容易に把握することが可能となる。
したがって、提出書類の存否に係る情報は、条例第6 条第5 号アに規定する違法若しくは不当な行為を容易にする情報に該当し、実施機関が不活動宗教法人対策を進める上で、解散指導等の整理事務に支障をきたすことになり、条例第9条に該当する。

第6 審査会の判断理由
1 基本的な考え方
公文書公開についての条例の基本的理念は、その前文においてうたわれているように、公文書の公開を請求する権利を認めるとともに、府の諸活動を府民に説明する責務を果たすため、積極的に情報を提供することにより、府民の府政に対する理解と信頼を深め、府政のより公正な運営を確保し、府民参加の開かれた府政の一層の推進を図り、併せて府民福祉の向上に寄与しようとするものである。
審査会は、このような基本理念にのっとり、府が保有する公文書の公開を請求する権利が、不当に侵害されることのないよう、条例を解釈し、以下に判断するものである。
2 具体的な判断及びその理由
(1)宗教法人事務所備付け書類の写しの提出制度について実施機関は、宗教法人事務所備付け書類の写しの提出制度について、宗教法人がその目的に沿って活動しているかを把握することを目的としているため、当然、不活動状態にある法人については、書類が提出されておらず、これらの書類の提出状況が不活動宗教法人か否かの一つの目安となると主張する。
しかし、宗教法人悟真寺は、幼稚園を経営していることから、書類の提出状況に関わらず、現在活動している宗教法人であることは一見して明白である。
(2)条例第9条該当性について
条例第9 条は、「公開請求に対し、当該公開請求に係る公文書が存在しているか否かを答えるだけで、非公開情報を公開することとなるときは、実施機関は、当該公文書の存否を明らかにしないで、当該公開請求を拒否することができる。」と規定している。
実施機関は、提出書類が存在しているか否かを答えるだけで、不活動宗教法人か否かの一つの目安を示すことになり、不活動宗教法人対策における解散指導等の整理事務の遂行に支障を及ぼすおそれがあることから、条例第6 条第5 号アに規定する非公開情報を公開することとなると主張する。
なお、条例第6条第5号アは、府等が行う事務事業に関する情報であって、公にすることにより、監査、検査、許認可、取締り又は試験に係る事務に関し、正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし、若しくはその発見を困難にするおそれがあり、当該又は同種の事務事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるものを非公開情報として規定している。
しかし、当該宗教法人の個別の事情を考慮することなく、書類の提出状況を明らかにすることが、広く一律に非公開情報を公開することになるという実施機関の主張は、公開を原則とする条例の趣旨とは異なるものである。
仮に、一般論として不活動宗教法人に関する法人格取引の問題が存在し、書類の提出状況を明らかにすることで、実施機関の主張する不活動宗教法人対策の事務に支障が生じることがあり得るとしても、本件事案に係る宗教法人は、第6 - 2- (1 )で述べたとおり、書類の提出状況を明らかにするまでもなく、外見的にその活動状況が明らかである。このような場合においてまで、書類が提出されているか否かを明らかにすることが、不活動宗教法人か否かを明らかにするといった問題を生じさせるという実施機関の主張に理由があるとは言えない。
したがって、本件公文書の存否を答えるだけで、条例第6条第5号アに規定する非公開情報を公開することになるとは認められず、条例第9条の規定により本件公開請求を拒否したことは妥当でない。
3 結論
以上の理由から、「第1 審査会の結論」のとおり判断するものである。

参考
審査会の処理経過
年月日
 処理内容
平成17年1月11日
 諮問書の受理
平成17年1月31日
 実施機関の理由説明書の受理
平成17年2月14日
 異議申立人の意見書の受理
平成17年3月30日
 第1回審査会
平成17年5月10日
 第2回審査会
平成17年6月7日
 第3回審査会
平成17年7月12日
 第4回審査会
平成17年8月4日
 答申


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