諮問庁 : 国立大学法人一橋大学
諮問日 : 平成20年 3月17日(平成20年(独情)諮問第70号)
答申日 : 平成20年12月17日(平成20年度(独情)答申第71号)
事件名 : 新副学長職に関する教授会のコメントについての部局長会議資料の不開示決定に関する件
答 申 書
第1 審査会の結論
新副学長職に関する教授会のコメントについての部局長会議資料(以下「本件対象文書」という。)につき,その全部を不開示とした決定については,その全部を開示すべきである。
第2 異議申立人の主張の要旨
1 異議申立ての趣旨
独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)3条の規定に基づく本件対象文書の開示請求に対し,平成19年12月25日付け橋大総第5-19号により国立大学法人一橋大学(以下「処分庁」又は「諮問庁」という。)が行った不開示決定(以下「原処分」という。)について,その取消しを求める。
2 異議申立ての理由
異議申立人が主張する異議申立ての理由は,異議申立書及び意見書によると,おおむね次のとおりである。
(1) 異議申立書
処分庁が挙げた原処分の理由は,「当該文書については,法5条3号に基づき,公にすることにより率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれがあると判断し,本件については不開示とする」である。
処分庁の主張する不開示の理由は条文の書き写しにすぎず,なぜその条項に該当すると処分庁が判断したかについて全く根拠が示されていない。処分庁が不開示の根拠とした法5条3号であるが,当該規定は補充的に不開示情報と規定されたものであり,これをもって理由付記とするには不十分である。
また,新副学長職設置及び副学長職に文部科学省出身者を充てることは既に決定事項であり,「公にすることにより率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ」は自明ではない。よって,原処分は,行政手続法8条の趣旨に反するものであり,違法又は不当である。
(2) 意見書
ア 開示の意義
法制定以後,一部個人情報を除き,原則公開の方向にあり,説明責任を十分に行うことが必要である。
また,本件は「国立大学法人の副学長職の新設,及び新設ポストに元文部科学省職員を就任させる」内容を扱ったものである。いわゆる「天下り」に関する問題に対する社会的関心の高い中,どのように決定に至ったか,議論の内容が開示されることは公益性が高いと考えられる。また,本件に関する教授会での審議について,学長の「若干の質問があった」という説明と,教授からの「強い反発があった」という情報に著しくかい離があるため,事実確認を求める次第である。
イ 不開示理由に対する反論
(ア) 理由説明書1「今回の事案に限らず,教授会コメント全般については,当該部局の教授会の総意を取りまとめたものではなく,各教授会において,構成員個人の自由な発言を記したものである。また,発言者においても当該コメントが外部に公開されることを想定して発言したものとは限らない」について
上記の理由は,当該文書の部分開示までも阻害するものではない。ゆえに理由説明書1は,法6条1号「独立行政法人等は,開示請求に係る法人文書の一部に不開示情報が記録されている場合において,不開示情報が記録されている部分を容易に区分して除くことができるときは,開示請求者に対し,当該部分を除いた部分につき開示しなければならない。ただし,当該部分を除いた部分に有意の情報が記録されていないと認められるときは,この限りでない」に反している。本件においては,発言者の氏名の含まれない形であっても,当方としては上記開示の意義の観点から差し支えない。
(イ) 理由説明書2「当該教授会コメントが外部に公開されることが前提となれば,今後各教授会において構成員個人の率直なコメント・意見等の発言を阻害する可能性がある」について
「今後各教授会において構成員個人の率直なコメント・意見等の発言を阻害する可能性がある」とあるが,本件では構成員が特定され不利益を被るとは考えにくい。
また,構成員の特定を配慮した場合でも,「公にすることにより率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれがあるもの」か否かは,請求の都度検討されるべきもので,「今後各教授会において構成員個人の率直なコメント・意見等の発言を阻害する可能性」について現時点でおもんばかるべきではない。
また,「天下り」に対する社会的な批判があるという本件のケースに限れば,意見が公開されることによって,「率直な意見交換が阻害」されるのは,各々の教授らというよりも,むしろ,行政機関たる大学であると考えられる。「独立行政法人等の有するその諸活動を国民に説明する責務が全うされるようにする」という法の目的からも,今回のケースにおいては,上記の理由説明は不適当である。
さらに,理由説明書3「今後の教授会コメントを会議資料としない」により,「教授会コメント」が開示請求の対象である法人文書とならないことを踏まえれば,今後「構成員個人の率直なコメント・意見等の発言」は保障されると言える。そもそも「会議資料としない」というのは,コメントについて記録を一切残さないのか,記録としては残すが特定の会議では出席者に公開しないのか,この一文のみでは詳細が不明である。
(ウ) また,新副学長職設置及び副学長職に文部科学省出身者を充てることは既に決定事項であり,この点からも今回の不開示理由「公にすることにより率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ」が成立するとは言い難い。
第3 諮問庁の説明の要旨
新副学長職に関する教授会コメントについての部局長会議資料に対する開示請求については,下記の事由により,法5条3号における「公にすることにより率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ」があると判断し,不開示とした。
① 今回の事案に限らず,教授会コメント全般については,当該部局の教授会の総意を取りまとめたものではなく,各教授会において,構成員個人の自由な発言を記したものである。また,発言者においても当該コメントが外部に公開されることを想定して発言したものとは限らない。
② 当該教授会コメントが外部に公開されることが前提となれば,今後各教授会において構成員個人の率直なコメント・意見等の発言を阻害する可能性がある。
③ 部局長会議において,今後の教授会コメントを会議資料としないことが合意された。
第4 調査審議の経過
当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。
① 平成20年3月17日 諮問の受理
② 同日 諮問庁から理由説明書を収受
③ 同年4月15日 異議申立人から意見書を収受
④ 同年6月16日 本件対象文書の見分及び審議
⑤ 同年11月10日 委員の交代に伴う所要の手続の実施,本件対象文書の見分及び審議
⑥ 同年12月15日 審議
第5 審査会の判断の理由
1 本件対象文書について
本件開示請求は,法人文書開示請求書の記載によれば,「10月10日の教授会に於いて新副学長職に関するコメントについての資料(部局長会議)」の開示を求めるものである。
処分庁は,これに対し,平成19年10月17日に開催された一橋大学部局長会議において使用された会議資料「10月10日(水)各部局教授会報告結果」(本件対象文書)を特定した上で,これを公にすると,一橋大学教授会における率直な意見の交換又は意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれがあり,法5条3号に該当するとして,その全部を不開示とする原処分を行った。
諮問庁は,原処分を妥当としていることから,本件対象文書を見分した結果に基づき,その不開示情報該当性について,以下,検討する。
2 不開示情該当性について
諮問庁は,本件対象文書は,①今回の事案に限らず,教授会コメント全般については,当該部局の教授会の総意を取りまとめたものではなく,各教授会において,構成員個人の自由な発言を記したものであること,②発言者においても当該コメントが外部に公開されることを想定して発言したものとは限らないこと,③ 当該教授会コメントが外部に公開されることが前提となれば,今後各教授会において構成員個人の率直なコメント・意見等の発言を阻害する可能性があることから法5条3号に該当すると説明する。
当審査会の事務局職員をして諮問庁に確認させたところ,平成19年10月10日に開催された各教授会において議題となった「新副学長職の設置及び関連規則の一部改正について」は,同月3日に開催された一橋大学教育研究評議会において既に決定された事項の報告であり,その決定を受け同日付けで「改正国立大学法人一橋大学基本規則」が施行されており,当該事項は,各教授会において,審議又は検討するものではなかったとのことである。
したがって,当該各教授会において議題となった「新副学長職の設置及び関連規則の一部改正について」は既に決定し施行されており,その後における当該議題に係る各教授会の意見が公になったとしても,新副学長職の設置に係る意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれがあるとは認められない。
当審査会において本件対象文書を見分したところ,当該文書には,各教授会メンバーのコメントが意見として記載されていることが認められるが,当該意見の内容は特段機微なものではなく,また,意見提出者の氏名等は記載されておらず,これを公にしても,当該意見提出者が特定されることはないと認められることから,今後の各教授会における教授会メンバーの率直な意見の交換又は意思決定の中立性を害するおそれについては,そのがい然性は低いものと認められる。
以上のことから,本件対象文書は,そのすべてを公にしても,諮問庁の主張する,一橋大学教授会における率直な意見の交換又は意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれがあるとは認められないため,法5条3号に該当せず,開示すべきである。
3 本件不開示決定の妥当性について
以上のことから,本件対象文書につき,その全部を法5条3号に該当するとして不開示とした決定については,同条3号に該当せず,開示すべきであると判断した。
(第5部会)
委員 戸澤和彦,委員 久保茂樹,委員 新美育文
諮問日 : 平成20年 3月17日(平成20年(独情)諮問第70号)
答申日 : 平成20年12月17日(平成20年度(独情)答申第71号)
事件名 : 新副学長職に関する教授会のコメントについての部局長会議資料の不開示決定に関する件
第1 審査会の結論
新副学長職に関する教授会のコメントについての部局長会議資料(以下「本件対象文書」という。)につき,その全部を不開示とした決定については,その全部を開示すべきである。
第2 異議申立人の主張の要旨
1 異議申立ての趣旨
独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)3条の規定に基づく本件対象文書の開示請求に対し,平成19年12月25日付け橋大総第5-19号により国立大学法人一橋大学(以下「処分庁」又は「諮問庁」という。)が行った不開示決定(以下「原処分」という。)について,その取消しを求める。
2 異議申立ての理由
異議申立人が主張する異議申立ての理由は,異議申立書及び意見書によると,おおむね次のとおりである。
(1) 異議申立書
処分庁が挙げた原処分の理由は,「当該文書については,法5条3号に基づき,公にすることにより率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれがあると判断し,本件については不開示とする」である。
処分庁の主張する不開示の理由は条文の書き写しにすぎず,なぜその条項に該当すると処分庁が判断したかについて全く根拠が示されていない。処分庁が不開示の根拠とした法5条3号であるが,当該規定は補充的に不開示情報と規定されたものであり,これをもって理由付記とするには不十分である。
また,新副学長職設置及び副学長職に文部科学省出身者を充てることは既に決定事項であり,「公にすることにより率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ」は自明ではない。よって,原処分は,行政手続法8条の趣旨に反するものであり,違法又は不当である。
(2) 意見書
ア 開示の意義
法制定以後,一部個人情報を除き,原則公開の方向にあり,説明責任を十分に行うことが必要である。
また,本件は「国立大学法人の副学長職の新設,及び新設ポストに元文部科学省職員を就任させる」内容を扱ったものである。いわゆる「天下り」に関する問題に対する社会的関心の高い中,どのように決定に至ったか,議論の内容が開示されることは公益性が高いと考えられる。また,本件に関する教授会での審議について,学長の「若干の質問があった」という説明と,教授からの「強い反発があった」という情報に著しくかい離があるため,事実確認を求める次第である。
イ 不開示理由に対する反論
(ア) 理由説明書1「今回の事案に限らず,教授会コメント全般については,当該部局の教授会の総意を取りまとめたものではなく,各教授会において,構成員個人の自由な発言を記したものである。また,発言者においても当該コメントが外部に公開されることを想定して発言したものとは限らない」について
上記の理由は,当該文書の部分開示までも阻害するものではない。ゆえに理由説明書1は,法6条1号「独立行政法人等は,開示請求に係る法人文書の一部に不開示情報が記録されている場合において,不開示情報が記録されている部分を容易に区分して除くことができるときは,開示請求者に対し,当該部分を除いた部分につき開示しなければならない。ただし,当該部分を除いた部分に有意の情報が記録されていないと認められるときは,この限りでない」に反している。本件においては,発言者の氏名の含まれない形であっても,当方としては上記開示の意義の観点から差し支えない。
(イ) 理由説明書2「当該教授会コメントが外部に公開されることが前提となれば,今後各教授会において構成員個人の率直なコメント・意見等の発言を阻害する可能性がある」について
「今後各教授会において構成員個人の率直なコメント・意見等の発言を阻害する可能性がある」とあるが,本件では構成員が特定され不利益を被るとは考えにくい。
また,構成員の特定を配慮した場合でも,「公にすることにより率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれがあるもの」か否かは,請求の都度検討されるべきもので,「今後各教授会において構成員個人の率直なコメント・意見等の発言を阻害する可能性」について現時点でおもんばかるべきではない。
また,「天下り」に対する社会的な批判があるという本件のケースに限れば,意見が公開されることによって,「率直な意見交換が阻害」されるのは,各々の教授らというよりも,むしろ,行政機関たる大学であると考えられる。「独立行政法人等の有するその諸活動を国民に説明する責務が全うされるようにする」という法の目的からも,今回のケースにおいては,上記の理由説明は不適当である。
さらに,理由説明書3「今後の教授会コメントを会議資料としない」により,「教授会コメント」が開示請求の対象である法人文書とならないことを踏まえれば,今後「構成員個人の率直なコメント・意見等の発言」は保障されると言える。そもそも「会議資料としない」というのは,コメントについて記録を一切残さないのか,記録としては残すが特定の会議では出席者に公開しないのか,この一文のみでは詳細が不明である。
(ウ) また,新副学長職設置及び副学長職に文部科学省出身者を充てることは既に決定事項であり,この点からも今回の不開示理由「公にすることにより率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ」が成立するとは言い難い。
第3 諮問庁の説明の要旨
新副学長職に関する教授会コメントについての部局長会議資料に対する開示請求については,下記の事由により,法5条3号における「公にすることにより率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ」があると判断し,不開示とした。
① 今回の事案に限らず,教授会コメント全般については,当該部局の教授会の総意を取りまとめたものではなく,各教授会において,構成員個人の自由な発言を記したものである。また,発言者においても当該コメントが外部に公開されることを想定して発言したものとは限らない。
② 当該教授会コメントが外部に公開されることが前提となれば,今後各教授会において構成員個人の率直なコメント・意見等の発言を阻害する可能性がある。
③ 部局長会議において,今後の教授会コメントを会議資料としないことが合意された。
第4 調査審議の経過
当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。
① 平成20年3月17日 諮問の受理
② 同日 諮問庁から理由説明書を収受
③ 同年4月15日 異議申立人から意見書を収受
④ 同年6月16日 本件対象文書の見分及び審議
⑤ 同年11月10日 委員の交代に伴う所要の手続の実施,本件対象文書の見分及び審議
⑥ 同年12月15日 審議
第5 審査会の判断の理由
1 本件対象文書について
本件開示請求は,法人文書開示請求書の記載によれば,「10月10日の教授会に於いて新副学長職に関するコメントについての資料(部局長会議)」の開示を求めるものである。
処分庁は,これに対し,平成19年10月17日に開催された一橋大学部局長会議において使用された会議資料「10月10日(水)各部局教授会報告結果」(本件対象文書)を特定した上で,これを公にすると,一橋大学教授会における率直な意見の交換又は意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれがあり,法5条3号に該当するとして,その全部を不開示とする原処分を行った。
諮問庁は,原処分を妥当としていることから,本件対象文書を見分した結果に基づき,その不開示情報該当性について,以下,検討する。
2 不開示情該当性について
諮問庁は,本件対象文書は,①今回の事案に限らず,教授会コメント全般については,当該部局の教授会の総意を取りまとめたものではなく,各教授会において,構成員個人の自由な発言を記したものであること,②発言者においても当該コメントが外部に公開されることを想定して発言したものとは限らないこと,③ 当該教授会コメントが外部に公開されることが前提となれば,今後各教授会において構成員個人の率直なコメント・意見等の発言を阻害する可能性があることから法5条3号に該当すると説明する。
当審査会の事務局職員をして諮問庁に確認させたところ,平成19年10月10日に開催された各教授会において議題となった「新副学長職の設置及び関連規則の一部改正について」は,同月3日に開催された一橋大学教育研究評議会において既に決定された事項の報告であり,その決定を受け同日付けで「改正国立大学法人一橋大学基本規則」が施行されており,当該事項は,各教授会において,審議又は検討するものではなかったとのことである。
したがって,当該各教授会において議題となった「新副学長職の設置及び関連規則の一部改正について」は既に決定し施行されており,その後における当該議題に係る各教授会の意見が公になったとしても,新副学長職の設置に係る意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれがあるとは認められない。
当審査会において本件対象文書を見分したところ,当該文書には,各教授会メンバーのコメントが意見として記載されていることが認められるが,当該意見の内容は特段機微なものではなく,また,意見提出者の氏名等は記載されておらず,これを公にしても,当該意見提出者が特定されることはないと認められることから,今後の各教授会における教授会メンバーの率直な意見の交換又は意思決定の中立性を害するおそれについては,そのがい然性は低いものと認められる。
以上のことから,本件対象文書は,そのすべてを公にしても,諮問庁の主張する,一橋大学教授会における率直な意見の交換又は意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれがあるとは認められないため,法5条3号に該当せず,開示すべきである。
3 本件不開示決定の妥当性について
以上のことから,本件対象文書につき,その全部を法5条3号に該当するとして不開示とした決定については,同条3号に該当せず,開示すべきであると判断した。
(第5部会)
委員 戸澤和彦,委員 久保茂樹,委員 新美育文