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情報公開・個人情報保護審査会 平成20年度(独情)答申第70号 保険料及び特別保険料領収書等

2008年12月15日 | 事務・事業に関する情報
諮問庁 : 預金保険機構
諮問日 : 平成19年 4月 3日(平成19年(独情)諮問第37号)
答申日 : 平成20年12月15日(平成20年度(独情)答申第70号)
事件名 : 保険料及び特別保険料領収書等の一部開示決定に関する件

答 申 書


第1  審査会の結論
 朝銀近畿信用組合の預金保険料の納付に係る別紙1の文書(以下,併せて「本件対象文書」という。)につき,その一部を不開示とした決定については,異議申立人が開示すべきとする別紙2に掲げる部分を開示すべきである。

第2  異議申立人の主張の要旨
1  異議申立ての趣旨
 独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)3条の規定に基づく本件対象文書の開示請求に対し,平成19年1月15日付け預保第20号により預金保険機構(以下「処分庁」,「諮問庁」又は「預金保険機構」という。)が行った一部開示決定(以下「原処分」という。)について,その取消しを求める。

2  異議申立ての理由
 異議申立人の主張する異議申立ての理由は,異議申立書及び意見書の各記載によれば,おおむね以下のとおりである。
 朝銀近畿信用組合は既に破たんしており,存在していない金融機関の保険料及び特別保険料の納付額を開示しても,経営上の正当な利益を害するおそれがあるもの,当該法人の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの,個人に関する情報等といった不開示理由には該当しない。
 組合加盟の金融機関の合計金額しか開示しないで,朝銀近畿信用組合の預金保険料が納付されているといえるのか判断できない。
 破たんし,解散した朝銀近畿信用組合の預金保険料の開示がなぜ守るべき法益といえるのか,開示してこそ公共性を有する金融機関としての公益が確保できるのである。
 預金保険機構は,事務処理に問題があり,朝銀近畿信用組合から預金保険料の徴収に過不足のおそれがあるにもかかわらず,全額保険金額を支払った可能性があると認めていると言わざるを得ず,保険料を収納せずに保険金額を支払っていれば,明らかに不法行為であり,国民に対する背信行為である。このような疑いを払しょくするためにも,朝銀近畿信用組合の保険料及び特別保険料の納付額を開示すべきである。

第3  諮問庁の説明
1  理由説明書
(1)  原処分における処分庁の決定及び理由
 本件開示請求は,「朝銀近畿信用組合の預金保険料の納付に係る文書」で,保険料及び特別保険料の納付の有無が分かる法人文書の開示を求めるものである。
 これに対して,諮問庁は,本件対象文書を特定し,一部開示とする決定を行った。

(2)  異議申立書における異議申立ての主張及びこれについての検討
 異議申立人は,原処分の取消しを求めているが,以下,原処分の妥当性について検討する。

ア  異議申立人からの,朝銀近畿信用組合の預金保険料の納付に係る文書を開示してほしいとの申し出に対して,諮問庁は,それぞれの年度の法人文書を照らし合わせれば朝銀近畿信用組合の預金保険料の納付の有無が分かる法人文書として,本件対象文書を特定した。

イ  その上で,今回,平成10年度から13年度の間の朝銀近畿信用組合の預金保険料の納付額について不開示としたのは,下記の理由により,法5条2号イに規定する「公にすることにより,当該法人等の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの」に該当するものであるからである。

(ア)  朝銀近畿信用組合は,平成14年8月に解散し,現在,清算法人が存在するのみであるが,預金保険料の納付額は,事業内容を反映する情報であり現在でも守られるべき法益である。また朝銀近畿信用組合から事業譲渡を受けた信用組合等にとっては,当該信用組合等の事業内容を反映する情報そのものであり,これを公にすることは,当該信用組合等の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある。

(イ)  個々の金融機関の預金保険料は,当該金融機関の預金保険対象預金等の前年度営業日の平均残高に保険料率を乗じて算出している。保険料率は一般に公開されており,預金保険料を明らかにすることは当該金融機関の預金保険対象預金等の営業日の平均残高を明らかにすることにつながりかねない。

ウ  これに対して異議申立人は「存在のしていない金融機関の保険料及び特別保険料の納付額を開示しても,不開示理由には該当しない。」との主張を行っているが,前記のとおり,預金保険料の納付額は,事業内容を反映する情報であり現在でも守られるべき法益であるとともに,朝銀近畿信用組合から事業譲渡を受けた信用組合等にとっても開示されることによって「正当な利益」が害される情報であると解される。したがって,朝銀近畿信用組合の預金保険料納付額を開示することはできない。

2  補充理由説明書
(略)


第4  調査審議の経過
 当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。

①  平成19年4月3日  諮問の受理
②  同日  諮問庁から理由説明書を収受
③  同月20日  異議申立人から意見書を収受
④  同年10月18日  本件対象文書の見分及び審議
⑤  平成20年2月26日  諮問庁の職員(預金保険機構財務部次長ほか)からの口頭説明の聴取
⑥  同年4月17日  審議
⑦  同年7月22日  諮問庁から補充理由説明書を収受
⑧  同月30日  異議申立人から意見書を収受
⑨  同年10月16日  委員の交代に伴う所要の手続の実施,本件対象文書の見分及び審議
⑩  同年12月11日  審議

第5  審査会の判断の理由
1  本件対象文書について
 本件対象文書は,朝銀近畿信用組合の預金保険料の納付に係る別紙1に掲げる文書である。
 処分庁は,原処分において,文書1ないし文書8,文書17及び文書18の預金保険機構の預金保険部長の印影並びに文書9ないし文書16の預金保険機構の口座番号については法5条4号トに該当するとし,文書9ないし文書16のうち朝銀近畿信用組合を除く金融機関の整理番号及び金融機関名並びに信用組合の総合計を除くすべての件数,保険料額,特別保険料額及び合計額については法5条2号イに該当するとし,文書17及び文書18の金融整理管財人氏名については法5条1号に該当するとして不開示としている。
 さらに,諮問庁は,別紙2に掲げる朝銀近畿信用組合の保険料,特別保険料及び合計額(以下「預金保険料額等」という。)について,法5条4号ト及び同号柱書きに該当するとも主張している。
 これに対して異議申立人は,朝銀近畿信用組合の預金保険料額等は開示すべきであると主張するので,以下,文書9ないし文書16の預金保険料額等の不開示情報該当性について検討する。

2  預金保険料額等の不開示情報該当性について
(1)  法5条2号イ該当性について

ア  朝銀近畿信用組合は,平成9年11月に朝銀兵庫信用組合(存続組合),朝銀京都信用組合,朝銀滋賀信用組合,朝銀奈良信用組合及び朝銀和歌山信用組合が対等合併して新たに発足した。
 その後,朝銀近畿信用組合は,平成10年5月に当時経営破たん状態にあった朝銀大阪信用組合から事業の譲渡を受けた。同12年5月実施の近畿財務局の検査において大幅な債務超過であるとの指摘を受け,同年12月に金融機能の再生のための緊急措置に関する法律8条の規定に基づき,金融再生委員会により,金融整理管財人による業務及び財産の管理を命ずる処分が行われた。また,同13年12月には,金融整理管財人より同法25条ただし書の規定に基づき,管理終了期限の1年延長に係る承認申請がされたことを受け,金融庁より朝銀近畿信用組合に対する管理の終了期限を同14年12月まで延長することが承認された。同年8月12日に,いずれも新たに設立された特定A信用組合,特定B信用組合及び特定C信用組合(以下「特定A信用組合等」という。)並びに整理回収機構へ事業譲渡を行ったことから,同法9条の規定に基づき,朝銀近畿信用組合に係る金融整理管財人による業務及び財産の管理を命ずる処分が取り消された。

イ  個々の金融機関の預金保険料額は,当該金融機関の預金保険対象預金等の前年度営業日の平均残高に保険料率を乗じて算出している。保険料率は一般に公開されており,預金保険料額を明らかにすることは当該金融機関の預金保険対象預金等の前年度営業日の平均残高を明らかにすることにつながりかねないことから,法5条2号イに規定する「公にすることにより,当該法人等の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの」に該当すると考えられる。

ウ  しかしながら,本件の場合,朝銀近畿信用組合の経営は破たん状態となり,金融整理管財人により業務及び財産の管理を受けた上,その事業を特定A信用組合等及び整理回収機構へ譲渡して解散し,現在は清算法人が存在するのみであることから,預金保険料額等を開示することにより,朝銀近畿信用組合の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するかどうかについては更に検討が必要である。
 諮問庁は,朝銀近畿信用組合は既に解散し,現在は清算法人が存在するのみであっても,預金保険料の納付額は,事業内容を反映する情報であり現在でも守られるべき法益である旨主張するが,朝銀近畿信用組合が営業していた当時の預金保険料額等を公にすることにより,同信用組合の預金保険対象預金等の前年度営業日の平均残高を明らかにすることになるとしても,既に事業を他に譲渡して解散し清算手続を行っている同信用組合の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるものと言うことはできない。これを実質的に見ても,金融機関が経済・社会の中で重要な役割を果たす公共性の強い存在であると同時に,朝銀近畿信用組合に対しての破たん処理の過程で,諮問庁を通じての金銭贈与や資産買取の形式で多額の公的資金が投入されたことを踏まえると,朝銀近畿信用組合の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあることを理由に,同信用組合の預金保険料額等を開示しないものとするのは相当でない。
 諮問庁自身も,朝銀近畿信用組合が破たんした際には,金融庁長官による事業譲受けについての適格性の認定,金融庁長官及び財務大臣による特別資金援助を行う必要性の認定等の経緯を踏まえ,整理回収機構への贈与及び救済金融機関への事業譲渡コストの贈与等の金額について記者発表し,説明責任を果たそうとしている。
 こうした事実は,破たんした金融機関の情報の開示と現に業務を行っている金融機関の情報の開示は意味合いを異にすることを示していると言える。

エ  次に,朝銀近畿信用組合は,上記アのとおり,平成14年8月12日に特定A信用組合等及び整理回収機構へ事業譲渡を行っており,朝銀近畿信用組合の預金債務は,特定A信用組合等に分割承継されたものであるから,朝銀近畿信用組合の預金保険料の納付額を公にすることが,これらの承継金融機関の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するかどうかを検討する。
 破たん金融機関を承継する金融機関が一つである場合は,上記イに記載のとおり,預金保険料額から預金保険対象預金等の前年度営業日の平均残高が明らかにされることにつながることにかんがみると,破たん金融機関の預金保険料に係る情報は,承継に近接した時点においては承継金融機関に関する情報でもあると言うことができ,とりわけ,当該承継金融機関が承継直前に設立されたような場合には,公にすることにより法5条2号イに言う当該法人たる承継金融機関の権利,競争上の地位,その他正当な利益を害するおそれがあると考えられる。
 しかしながら,本件においては,朝銀近畿信用組合の預金債務に係る事業は,新たに設立された特定A信用組合等の三つの信用組合に分割承継されており,三つの信用組合が新たに設立されたものであることを考慮しても,承継預金の分割割合が公表されていない以上,それぞれの承継金融機関が,朝銀近畿信用組合から預金債務をどの程度引き継いでいるかはうかがい知ることはできないのであって,朝銀近畿信用組合の預金保険料の納付額がそのまま承継金融機関の事業内容を反映する情報を示していることにはならないと考えられる。また,朝銀近畿信用組合の事業を特定A信用組合等が分割承継した平成14年8月から開示請求までに4年以上が経過しており,現時点では6年以上が経過し,承継金融機関においてもその後の営業活動や預金者の動向等により,預金残高は少なからず変動しているものと推認されることからも,本件対象文書中の朝銀近畿信用組合の平成10年度から同13年度までの預金保険料額等を開示することにより,その各前年度の預金保険対象預金等の営業日の平均残高が明らかになったとしても,承継金融機関の権利,競争上の地位,その他正当な利益を害するおそれがあると考えるのは相当でない。したがって,本件においては特定A信用組合等との関係でも法5条2号イに該当するとは認められない。

(2)  法5条4号柱書き及び同号ト該当性について

ア  諮問庁は,破たん金融機関の預金保険料額等を開示した場合には,保険料収納業務に係る諮問庁の事務及び事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ並びに金融機関が破たんした場合の諮問庁の承継先探しに係る正当な利益を害するおそれがあるとして,法5条4号柱書き及び同号トに該当すると説明する。

イ  一般に,金融機関にとってその顧客情報を開示することは,顧客との信頼関係を損なうこととなり,当該金融機関の信用に重大な影響を与えるものと言うべきである。しかしながら,預金保険機構の業務は,法令の規定に基づき同機構が独占的に行うものであり,預金保険法50条の規定により金融機関は預金保険料を支払う義務を負っているのであるから,経営が破たんし事業を他へ譲渡して解散した金融機関の4年以上前(現時点では6年以上前)の預金保険料額等を開示することが,同機構の現に事業を継続している他の金融機関の支払うべき保険料収納業務に係る事務及び事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると言うことはできない。

ウ  また,本件においては,朝銀近畿信用組合の破たん処理手続は既に完了しており,同信用組合の事業が特定A信用組合等に譲渡されたこと,分割承継から開示請求までに4年以上が経過していること及び現時点では既に6年以上が経過していることから,この時期に朝銀近畿信用組合の預金保険料額等を開示することにより,朝銀近畿信用組合の事業を承継した三つの信用組合の開示請求時点での預金額を推認することは困難であることを考慮すると,預金保険料額等の開示によって,朝銀近畿信用組合を分割承継した特定A信用組合等に対して予測外のリスクを及ぼすとは認められず,将来,預金保険機構自体が破たんした金融機関の金融整理管財人に選任された場合に,破たん金融機関の事業の承継先探しに係る事業に関する正当な利益を害するおそれがあるとは認められない。したがって,本件においては法5条4号に該当するとは言えない。

(3)  以上のことから,文書9ないし文書16の朝銀近畿信用組合の預金保険料額等については,法5条2号イ,同条4号柱書き及び同号トのいずれにも該当せず,開示することが相当である。

(4)  諮問庁のその他の主張について
 諮問庁は,当審査会の先例答申に対する諮問庁の解釈及び金融機関の社会保険料等が開示された場合の預金保険機構の企業経営上の正当な利益を害するおそれ等について主張するが,当審査会の判断は上記のとおりである。

3  本件一部開示決定の妥当性について
 以上のことから,本件対象文書につき,その一部を法5条1号,2号イ及び4号トに該当するとして不開示とした決定について,諮問庁が,異議申立人が開示すべきとする別紙2に掲げる部分は法5条2号イ並びに4号柱書き及びトに該当することから不開示とすべきとしていることについては,当該部分は法5条2号イ並びに4号柱書き及びトのいずれにも該当せず,開示すべきであると判断した。

(第4部会)
 委員 西田美昭,委員 園 マリ,委員 藤原静雄

別紙1
 文書1:保険料及び特別保険料領収書(平成10年度第1回)
 文書2:保険料及び特別保険料領収書(平成10年度第2回)
 文書3:保険料及び特別保険料領収書(平成11年度第1回)
 文書4:保険料及び特別保険料領収書(平成11年度第2回)
 文書5:保険料及び特別保険料領収書(平成12年度第1回)
 文書6:保険料及び特別保険料領収書(平成12年度第2回)
 文書7:保険料及び特別保険料領収書(平成13年度第1回)
 文書8:保険料及び特別保険料領収書(平成13年度第2回)
 文書9:平成10年度保険料及び特別保険料の第1回納付額の収納依頼について
 文書10:平成10年度保険料及び特別保険料の第2回納付額の収納依頼について
 文書11:平成11年度保険料及び特別保険料の第1回納付額の収納依頼について
 文書12:平成11年度保険料及び特別保険料の第2回納付額の収納依頼について
 文書13:平成12年度保険料及び特別保険料の第1回納付額の収納依頼について
 文書14:平成12年度保険料及び特別保険料の第2回納付額の収納依頼について
 文書15:平成13年度保険料及び特別保険料の第1回納付額の収納依頼について
 文書16:平成13年度保険料及び特別保険料の第2回納付額の収納依頼について
 文書17:平成14年度保険料の納付を猶予する件
 文書18:平成14年度保険料の納付を免除する件

別紙2  開示すべき部分
 文書9
 ・ 朝銀近畿信用組合の保険料,特別保険料及び合計額
 文書10
 ・ 朝銀近畿信用組合の保険料,特別保険料及び合計額
 文書11
 ・ 朝銀近畿信用組合の保険料,特別保険料及び合計額
 文書12
 ・ 朝銀近畿信用組合の保険料,特別保険料及び合計額
 文書13
 ・ 朝銀近畿信用組合の保険料,特別保険料及び合計額
 文書14
 ・ 朝銀近畿信用組合の保険料,特別保険料及び合計額
 文書15
 ・ 朝銀近畿信用組合の保険料,特別保険料及び合計額
 文書16
 ・ 朝銀近畿信用組合の保険料,特別保険料及び合計額


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