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情報公開審査会の答申などを集めて載せています。

新潟市情報公開・個人情報保護審査会 新情審第16号の7 H14年度中学校教科書選定委員会議事録及び…

2006年12月27日 | 審議・検討等に関する情報
新情審第16号の7
平成18年12月27日

新潟市教育委員会 様

新潟市情報公開・個人情報保護審査会
会 長 風 間 士 郎

不服申立てに関する諮問について(答申)

平成18年3月16日付け新教指第2694号の2によって諮問のあった案件について,次のとおり答申する。

第1 審査会の結論
新潟市教育委員会(以下「実施機関」という。)が平成17年11月25日付け新教指第1807号の2において,「公開することにより,率直な意見交換若しくは意思決定の中立性が損なわれるおそれがある」として非公開決定した「平成14年度中学校使用教科書用図書(社会科)に関する選定委員会議事録及び教育委員会議事録」中の発言者個人名の部分については,公開とすることが妥当である。

第2 事実関係
1 答申に至る経緯
(1) 異議申立人は平成17年11月9日に,新潟市情報公開条例(以下「条例」という。)第5条の規定に基づき,「平成14年度中学校教科書採択(社会)に関わる選定会議及び教育委員会会議の議事録」を実施機関に公開請求をした。

(2) 実施機関は,同年11月25日,本件請求文書のうち,議事録中の発言者の氏名の部分を非公開決定して,その旨異議申立人に通知した。非公開理由は,当該情報が,条例第6条第5号の「公開することにより,率直な意見交換若しくは意思決定の中立性が損なわれるおそれがある」情報に該当するためというものであった。

(3) 異議申立人は,この決定を不服として,平成18年1月23日,実施機関に対して,非公開とされた部分について,決定を取り消すよう異議申立てを行った。

(4) 実施機関は,平成18年3月16日,条例第12条の規定に基づき,当審査会に諮問した。

(5) 当審査会における審査の経過は次のとおりである。

平成18年 3月16日諮問書受理
平成18年 4月 5日実施機関から弁明書受理
平成18年 4月28日異議申立人から弁明書に対する意見書受理
平成18年 6月28日審査会開催(第1回
平成18年 7月25日審査会開催(第2回)異議申立人意見陳述
平成18年 8月29日審査会開催(第3回)
平成18年10月26日審査会開催(第4回)実施機関意見陳述
平成18年11月28日審査会開催(第5回)
平成18年12月25日審査会開催(第6回)


2 教科書採択における本件公文書について
「教科書選定委員会議事録」
教科書選定委員会の職務は教科書の選定について教育委員会からの諮問に基づき調査研究を行い,その結果を教育委員会に答申として提出することにある。その構成員は,小学校長,中学校長,養護学校長,教科に造詣の深い教員,加えて児童生徒の保護者代表を含む一般有識者から成り,教育委員会によって委嘱されている。
当該文書は教科書選定委員会が,その答申決定にいたるまでの審議の記録である。

「新潟市教育委員会議事録」
新潟市教育委員会は市議会の同意を得て,市長が任命する5人の委員で構成される行政委員会であり,合議制の執行機関である。このうち委員長は,委員の中から選任され,教育委員会会議を主宰し,教育委員会を代表する。教育長は,教育委員会の指揮監督のもとに教育委員会の権限に属する事務を統括する。
当該文書は教科書選定委員会からの答申を受けた教育委員会が,教育委員会定例会及び臨時会において教科書採択決定にいたるまでの審議の記録である。

第3 当事者の主張の要旨
1 異議申立人の主張要旨
実施機関は非公開部分について,公開することにより率直な意見交換及び中立性が損なわれるおそれがあり,条例第6条第5号に該当するとしているが,すでに審議が終了しているものについてはあたらないと考える。
特定の委員が特定の教科書をなぜ推薦するのかということについては,市民には知る権利があり,実施機関には説明責任がある。
実施機関は議事録中の発言者名が公開されることで次回の選定委員に心理的な影響を与えるとするが,そのことが委員の心理的負担になるとすれば委員の適性を欠くといえる。加えて選定委員は地方公務員法に定める「地方公務員」にあたる。
すでに委員名は公開されており,委員に対する圧力や働きかけは可能である。だからこそ,そのような疑念を払拭するためにも議事録中の発言者氏名の公開は必要であると考える。
発言者名が不明の議事録では発言者を憶測で読まざるをえず,本件平成14年度の選定委員会会議録と平成18年度の同会議録を比べたとき,審議内容の変化も理解できない。

2 実施機関の主張要旨
教科書採択にかかる会議録については,委員名簿を公開,発言内容も公開している。
しかし,発言者の個人名については公表した場合,いろいろな団体や個人等からの委員個人への強い働きかけや圧力が懸念され,率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が損なわれる恐れがあるため条例第6条第5号に該当すると考えられ非公開としている。
また,そのような圧力は会議終了後も同様に予想され,発言者が特定されることになると次回の採択を行なう委員にも心理的な影響を与えることになる。
教科書採択に関しては,文部科学省より静謐な環境を確保し,その中で適正かつ公正,または公平・中立に行うよう指導を受けている。採択は4年に1度行われ,次回採択まで静謐な環境を維持する必要がある。

第4 審査会の判断
実施機関は,教科書選定委員会議事録および教育委員会議事録の発言者の個人名については,公表した場合,率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が損なわれる恐れがあるために,情報公開条例の公開適用の除外事項にあたる条例第6条第5号に該当すると主張している。

しかし本号における「意思決定の中立性」とは意思形成過程におけるものであると理解され,本件公文書の請求時点ではすでに平成14年度の教科書採択は終了しており,意思決定がなされた後であるから,意思形成過程は終了していることになる。したがって,実施機関の非公開理由として本号は該当しないといえる。

次に,委員個人に対する働きかけや圧力の懸念については,実施機関の説明によれば「委員の自宅に,業者や政治団体からの特定の教科書を使用しないように等,かなり荒い口調の電話があった」「分厚い書籍やパンフレットなどが添えられた手紙が委員に届けられている」などというものであり,それらは未だ一般的な働きかけに過ぎず,それにより直ちに率直な意見の交換や意思決定の中立性が損なわれるとは考えられない。また,教育委員については,新潟市の慣例として任期が2期8年となっていることから同じ委員が再度教科書採択に関わることはあろうが,同様の理由で率直な意見の交換や意思決定の中立性が損なわれるとまではいえない。

さらに,実施機関は文部科学省より,教科書採択に関しては静謐な環境を確保し,その中で適正かつ公正,または公平,中立に行うよう指導を受けていること(平成14年8月30日付 14文科初第683号)を非公開理由にあげているが,これらの指導が議事録中の発言者名の非公開を予定しているとは言えず,これらを理由に条例の情報公開原則の例外とすることはできない。

およそ教科書選定という重要な事業は市民の理解の下に手続きが進められるべきである。議事録の発言者名が非公開とされれば,かえって市民の間に職務遂行の公正性への疑惑が生じ,市民の教育行政への信頼が失われる結果となるおそれがある。

したがって,発言者の特定が委員個人に仮に不利益をもたらすとしても,公開することにより得られる公共の利益の方がそれらを上回ると考えられる。

以上のことから,「第1 審査会の結論」のとおり答申するものである。


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