付け焼き刃の覚え書き

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「秘密の動物誌」 フォンクベルタ&フォルミゲーラ

2007-08-26 | エッセー・人文・科学
 『……この種は、約4000万年前の始新世に見られた普通のバシロサウルスときわめてよく似ているため、当初私は活きている化石を発見したのだと信じた……』

 一時期、『鼻行類』に代表される、架空生物研究書に凝っていた時期があって、そのときに購入した1冊。羽のある象、足の生えた蛇、巨大海獣など奇妙な動物の発見と観察記録の記録集。
 もちろんすべてフェイクなのだけれど、これが『鼻行類』や『平行植物』などの先行類似書と一線を画すのは、文章と図版だけではなく、解剖標本・骨格標本、剥製、捕獲写真、解剖図、水中写真の写真、スケッチ、レントゲン写真、発見された当時の記録等、いかにももっともらしく見える資料のみを提供しているところ。
 唯一、インチキくさかったのが、動物の写真ではなく、それらを研究する科学者のポートレイトだったというところがポイント。いかにも若造がつけひげで誤魔化してますといった感じで……。

 この手の本は、それが何でどういう形式であろうと、できる限りもっともらしく、たとえウソと判っていても"もしかしたら…"と思わせるだけの説得力を与えようとしているから面白いのですね。この本の発刊以後、似たような架空の動物写真集とかが出ていますが、その方面でこれを越えるものはなかなか現れません。面白いものは幾つかあるんですけれどね。
 パソコンRPGでは、飲まず食わずで500年も地底の奥底で冒険者を待ちかまえている伝説の魔獣とかがときどき登場します。「おいおい…」と思わず突っ込みたくなるような話です。
 たとえ架空世界であっても、1つの生き物が存在するには、どこかに棲み、何かを食べ、どうやってか繁殖する必要があります。毛皮の色や姿形でさえも進化の結果です。もしも何も食べない、不老不死でたった1匹の存在であるというなら、それを補完する設定が必要です(たいてい魔法か神の力で生まれたことになってます)。
 実在の生物でも、その存在が確認されるまでは伝説の生き物に過ぎなかったことは『世界動物発見史』(ヘルベルト・ヴェント)などにも詳しいですが、逆のこともいえるのです。荒唐無稽な想像の産物であっても、しっかりとその存在を世界に焼き付けることができれば現実の存在に等しくなるのです。

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