
誰もが時と場合に応じていくつもの名前を使い分けているのにと、エベニザー・ロングこと龍先生。
19世紀末。英国では蜥蜴女王の王朝が繁栄していたが、海峡の向こうのフランス共和国では、思考する自動人形による議会が権力を握るようになっていた。
議会のエージェントであるミレディ・ド・ウィンターは、モルグ街で起こった怪事件の捜査を進めていたが、その行く手に東洋から来た謎の暗殺者集団が立ちふさがる。
それは人類の存亡をかけて、フランス共和国、大英帝国、清帝国、ヴェスプッチア等々、さまざまな勢力がぶつかり合う闇の戦いの幕開けだった……。
異世界から漂着した蜥蜴によって大英帝国が支配され、またそれによってテクノロジーが部分的にかさ上げされた世界での冒険SF……というか、後半はどこの片腕マシンガールかと思ってしまいました。
主役を務めるのは、女スパイのミレディ。ミレディというと『三銃士』の敵役でおなじみの悪女ですが、こちらも英国貴族と結婚した過去はあるもののアマゾンの女王とかダホメのクレオパトラなどの異名をとった褐色の美女。ここらあたりは時代的にも設定的にも元ネタとはかなり違いますが、その傍らにダルなんとかいうガスコーニュ人の警部の姿がちらほらあったりして、やっぱり『三銃士』ネタなのねと再確認。
三部作の2作目で、1作目の『革命の倫敦』を未読なのですが、独立したスチームパンクSFとして堪能しました。『ドラキュラ紀元』とか『屍者の帝国』が気に入った人にはお勧め。
思考機械が支配する背徳の都パリを密偵ミレディが駆け、立ちふさがるのは殺人鬼ファントムや英国情報部のマイクロフト・ホームズ、西太后の密使に紫禁城の秘密結社たち。そして敵か味方か、少林寺から来た拳法少女。さらにはヴォーカンソンの後継者にして近代魔術の父と呼ばれたウーダンや電磁気学の創始者アンドレ=マリ・アンペールも顔を見せ、舞台は欧羅巴から海中を経由して西の新大陸にある部族国家ヴェスプッチアと移ります。
アステカ王国とかズールーランドとかダホメ王国とかメヒカ帝国の外交官とか顔を出すので、普通にTRPGにしたら面白いと思います。というか、すでにありそう。大統領シッティング・ブルって、すごいよな。こういう世界の架空戦記も読みたいです。
最初はミレディの行動動機がわからなかったのです。
静かなる議会の命令で動いているけれど、それで膨大な報酬が入るわけではなさそうだし、共和国に忠誠を誓っているというようにもみえない。不正確な情報とあやふやな指示だけで、いつもチェスのコマだか釣りの餌扱いされているのに、なぜ彼女は前に進むのか?
その問いには龍先生が答えてくれました。彼女は武侠の者であるから。
つまり、この話はスチームパンク武侠小説だったのです。
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