(2009年取材 当時の記事に加筆・修正)
前回からの続きです!
・本当の秘境・小幌洞窟遺跡
トンネルと崖に囲まれた小幌駅から、唯一のびる海岸への細道を歩いてみる。
実はかつてこの細道の脇には小さな待合室があり、なんとホームレスが1人住んでいたという。彼は「小幌仙人」と呼ばれ、マニアの間では有名な存在だったという。
数年前にその仙人が亡くなり、待合室は取り壊された。現在は仙人の住んでいた痕跡はおろか、待合室の建っていた跡すら確認することはできない。
少し細道を歩くと、分かれ道にぶつかった。右へ行けば海岸に出られるが、左は・・・。
・・・小幌洞窟遺跡?
気になったので、左に行ってみることにする。
道は急な上り坂で、かなり狭い。前日降った雨のせいで足元はぬかるみ、歩きづらい。足を踏み外すと、右側の崖にまっさかさまなので、慎重に足を進めなくてはならなかった。
聞こえるのは鳥の声と、はるか下に打ち付ける波の音、そしてかなり遠くを走る国道の橋を渡る自動車の音。
坂を登りきると、今度はつづら折りの急な下り坂。途中にはロープもあり、かなり急であった。
ロープを頼りに、転ばないように気をつけながら道を下りていくと、急に視界が開けた。
入り江だ・・・。
数分道を下り、ようやくその入り江に出ることができた。駅から20分ほどの道のりだっただろうか。
周囲を見まわすと、この場所は崖と森に囲まれていて、僕が今まで歩いてきた道以外、つながっている道がない。つまり、この場所は、駅から20分歩いてくるしか方法はない「秘密の入り江」なのだ。
…それにしてもいい場所である。現在この空間にいるのは自分だけで、自分だけのプライベートビーチ状態だ。駅から20分歩いてきただけなのに、ものすごい秘境に来た感じである。
ちなみに手前のコンクリートの人工物はたぶん桟橋。船もやってくるようだ。
ふと、もう一度入り江全体を見渡すと、あるものに気が付いた。
…なんか鳥居がある!!
どうやらあれが小幌洞窟遺跡らしい。少し不気味だが、近づいてみよう。
なんだか不思議な雰囲気・・・。「史跡・岩屋観音堂」とある。
暗い洞窟の中には、小さな仏像が何体か置いてある。一番奥には、祠のようなものが。中は真っ暗で、何があるのかは分からなかった。
洞窟の近くに建っていた説明板を読んでみる。
岩屋観音
通称 首なし観音
1666年、僧円空が、この洞くつで仏像を彫って安置した。
修行の僧が、熊に襲われこの仏像の後に隠れて、難を逃れた。仏像の首を熊に食いちぎられて以来「首なし観音」と言われてきた。
1894年、泉藤兵衛により首は修復された。と伝えられている。
祭礼は、9月16、17日に行われる。
(すべて説明板より)
…何とも不気味というか、秘境に佇んで一人で読むには恐ろしすぎるお話である(汗)。
どうかクマに襲われませんように…。
12:30 もう昼なので、洞窟の前の岩場に腰をおろし、海を見ながら持参の弁当を食べる。実に静かで贅沢な時間であった。
・思わぬ出会い
入り江からまた20分歩き、再び小幌駅に戻って来た。時刻は1時。意外と時間がたつのが早い。
先ほど駅にいた作業員たちは建物の中に入って行ったらしく、とても静かだ。
ふと、ホームに僕と一緒に降りたおじさんがいるのに気づいた。
現在、この空間にいるのは僕とおじさんだけ。2人が話さないわけがない。
このおじさん、見た目は怖そうな感じだったが、話してみるととても穏やかな方であった。
なんとこの人、札幌市白石区の人で、赤電車の時から僕と同じ列車に乗っていたという。つまり、札幌市の全く違う場所に住んでいた2人が、札幌からはるか遠いこの小幌駅で出逢ったわけである。なんだか不思議な気分~!
彼は鉄道マニアというわけではなく、友人の紹介で小幌駅の存在を知り、おもしろそうなのでやってきたという。もちろん、僕と同じく1日散歩きっぷを使って。
おじさんとは妙に話が合い、趣味の話などでかなり盛り上がった。
しばらく話していると、あっという間に時間は午後3時。
おじさんは、もうすぐやってくる下り列車で帰るという。僕も本当はこの列車で帰りたいが、この列車に乗ると帰宅が約1時間遅れてしまうので、ガマン。
そのうち、例のサイレンが鳴り始め、トンネルの中から1両編成の列車がゆっくり出てきて、止まった。
「じゃあ、また会いましょう。」とおじさんは僕に別れを告げ、列車に乗り込んでいった。
彼は列車の窓からもう一度、こっちに向かって手を振った。僕も笑顔で手を振り返す。
「じゃあ、また会いましょう。」
ゆっくりとトンネルに入っていく列車の後ろ姿を見ながら、おじさんの言葉を思い出す。名前も住所も知らない彼と会うことは、もう二度とないだろう。
旅は一期一会。なんだか切ない気分・・・。
・小幌駅の真実
帰りの列車まで残り約30分。おじさんがいなくなり、僕は日が傾きかけた小幌駅の上りホームに1人で立ち尽くす。
そのうち、建物から先ほどの作業員たちが出てきて、ホームに上がってきた。この人たちも僕と同じ列車で帰るようだ。
ふと、作業員たちの中でいちばんご年配の方(50代後半くらい)が僕に話しかけてきた。「どこから来たの?」と聞くので「札幌から来ました」と言うと、「へ~わざわざ札幌から!?」と関心しているというかあきれた感じの反応をしていた(笑)。
なんだか小幌駅についていろいろ知っていそうな方なので、チャンスとばかりにいろいろ聞いてみる。
「ここは昔から作業員のための駅なんですか?」
「前は信号場だったんだよ。下の海岸には海水浴場もあってね、降りる人は結構いたんだ。昔は上の道路から簡単に降りてこれたんだけどねぇ…。」
えっ、それは知らなかった。こんなところが海水浴場だったなんて。現在のひとけのない雰囲気からはとても想像できない・・・。なんだか小樽の「オタモイ海岸」を思い出した。
「今はこの駅で降りる人っているんですか?」
「あぁ、もうすぐ釣りのシーズンだから、釣り人がときどき来る。この辺りはカレイがよく釣れるらしい。」
そんな事を話していると、またあのサイレンが鳴り始めた。時計を見ると、列車が来る1分前。ようやく帰りの列車、もとい、この閉鎖空間からの唯一の脱出手段、がやってくる。
トンネルの奥から、列車の音がだんだんと聞こえてきた。大きくなってくる二筋のライトの光。
そしてトンネルの出口から、2両編成の新型車両がヌウッと出てきて、僕の前で停車した。
ドアが開いたときに妙に安心したことは言うまでもない。
作業員たちに交じって乗車し、ガラガラの席に座る。
思い返してみると、小幌駅という不思議な空間での4時間は、思ったよりも短かった。しかし、その短い時間の中で、僕は数え切れないほどいろいろなことを体験したようにも感じる。
それは、今日ここに訪れなかったら体験できなかった様々な事。
一生の思い出に残るような有意義な4時間だった。
列車は小幌駅のホームからゆっくりと動き出した。すぐに真っ暗のトンネルに入り、夕暮れの小幌駅はあっという間に見えなくなった。
帰りの列車に乗れたという安心感で、僕は列車のイスで、ぐっすりと深い眠りに落ちていった。
日本最強の秘境駅・小幌駅訪問、
完。
前回からの続きです!
・本当の秘境・小幌洞窟遺跡
トンネルと崖に囲まれた小幌駅から、唯一のびる海岸への細道を歩いてみる。
実はかつてこの細道の脇には小さな待合室があり、なんとホームレスが1人住んでいたという。彼は「小幌仙人」と呼ばれ、マニアの間では有名な存在だったという。
数年前にその仙人が亡くなり、待合室は取り壊された。現在は仙人の住んでいた痕跡はおろか、待合室の建っていた跡すら確認することはできない。
少し細道を歩くと、分かれ道にぶつかった。右へ行けば海岸に出られるが、左は・・・。
・・・小幌洞窟遺跡?
気になったので、左に行ってみることにする。
道は急な上り坂で、かなり狭い。前日降った雨のせいで足元はぬかるみ、歩きづらい。足を踏み外すと、右側の崖にまっさかさまなので、慎重に足を進めなくてはならなかった。
聞こえるのは鳥の声と、はるか下に打ち付ける波の音、そしてかなり遠くを走る国道の橋を渡る自動車の音。
坂を登りきると、今度はつづら折りの急な下り坂。途中にはロープもあり、かなり急であった。
ロープを頼りに、転ばないように気をつけながら道を下りていくと、急に視界が開けた。
入り江だ・・・。
数分道を下り、ようやくその入り江に出ることができた。駅から20分ほどの道のりだっただろうか。
周囲を見まわすと、この場所は崖と森に囲まれていて、僕が今まで歩いてきた道以外、つながっている道がない。つまり、この場所は、駅から20分歩いてくるしか方法はない「秘密の入り江」なのだ。
…それにしてもいい場所である。現在この空間にいるのは自分だけで、自分だけのプライベートビーチ状態だ。駅から20分歩いてきただけなのに、ものすごい秘境に来た感じである。
ちなみに手前のコンクリートの人工物はたぶん桟橋。船もやってくるようだ。
ふと、もう一度入り江全体を見渡すと、あるものに気が付いた。
…なんか鳥居がある!!
どうやらあれが小幌洞窟遺跡らしい。少し不気味だが、近づいてみよう。
なんだか不思議な雰囲気・・・。「史跡・岩屋観音堂」とある。
暗い洞窟の中には、小さな仏像が何体か置いてある。一番奥には、祠のようなものが。中は真っ暗で、何があるのかは分からなかった。
洞窟の近くに建っていた説明板を読んでみる。
岩屋観音
通称 首なし観音
1666年、僧円空が、この洞くつで仏像を彫って安置した。
修行の僧が、熊に襲われこの仏像の後に隠れて、難を逃れた。仏像の首を熊に食いちぎられて以来「首なし観音」と言われてきた。
1894年、泉藤兵衛により首は修復された。と伝えられている。
祭礼は、9月16、17日に行われる。
(すべて説明板より)
…何とも不気味というか、秘境に佇んで一人で読むには恐ろしすぎるお話である(汗)。
どうかクマに襲われませんように…。
12:30 もう昼なので、洞窟の前の岩場に腰をおろし、海を見ながら持参の弁当を食べる。実に静かで贅沢な時間であった。
・思わぬ出会い
入り江からまた20分歩き、再び小幌駅に戻って来た。時刻は1時。意外と時間がたつのが早い。
先ほど駅にいた作業員たちは建物の中に入って行ったらしく、とても静かだ。
ふと、ホームに僕と一緒に降りたおじさんがいるのに気づいた。
現在、この空間にいるのは僕とおじさんだけ。2人が話さないわけがない。
このおじさん、見た目は怖そうな感じだったが、話してみるととても穏やかな方であった。
なんとこの人、札幌市白石区の人で、赤電車の時から僕と同じ列車に乗っていたという。つまり、札幌市の全く違う場所に住んでいた2人が、札幌からはるか遠いこの小幌駅で出逢ったわけである。なんだか不思議な気分~!
彼は鉄道マニアというわけではなく、友人の紹介で小幌駅の存在を知り、おもしろそうなのでやってきたという。もちろん、僕と同じく1日散歩きっぷを使って。
おじさんとは妙に話が合い、趣味の話などでかなり盛り上がった。
しばらく話していると、あっという間に時間は午後3時。
おじさんは、もうすぐやってくる下り列車で帰るという。僕も本当はこの列車で帰りたいが、この列車に乗ると帰宅が約1時間遅れてしまうので、ガマン。
そのうち、例のサイレンが鳴り始め、トンネルの中から1両編成の列車がゆっくり出てきて、止まった。
「じゃあ、また会いましょう。」とおじさんは僕に別れを告げ、列車に乗り込んでいった。
彼は列車の窓からもう一度、こっちに向かって手を振った。僕も笑顔で手を振り返す。
「じゃあ、また会いましょう。」
ゆっくりとトンネルに入っていく列車の後ろ姿を見ながら、おじさんの言葉を思い出す。名前も住所も知らない彼と会うことは、もう二度とないだろう。
旅は一期一会。なんだか切ない気分・・・。
・小幌駅の真実
帰りの列車まで残り約30分。おじさんがいなくなり、僕は日が傾きかけた小幌駅の上りホームに1人で立ち尽くす。
そのうち、建物から先ほどの作業員たちが出てきて、ホームに上がってきた。この人たちも僕と同じ列車で帰るようだ。
ふと、作業員たちの中でいちばんご年配の方(50代後半くらい)が僕に話しかけてきた。「どこから来たの?」と聞くので「札幌から来ました」と言うと、「へ~わざわざ札幌から!?」と関心しているというかあきれた感じの反応をしていた(笑)。
なんだか小幌駅についていろいろ知っていそうな方なので、チャンスとばかりにいろいろ聞いてみる。
「ここは昔から作業員のための駅なんですか?」
「前は信号場だったんだよ。下の海岸には海水浴場もあってね、降りる人は結構いたんだ。昔は上の道路から簡単に降りてこれたんだけどねぇ…。」
えっ、それは知らなかった。こんなところが海水浴場だったなんて。現在のひとけのない雰囲気からはとても想像できない・・・。なんだか小樽の「オタモイ海岸」を思い出した。
「今はこの駅で降りる人っているんですか?」
「あぁ、もうすぐ釣りのシーズンだから、釣り人がときどき来る。この辺りはカレイがよく釣れるらしい。」
そんな事を話していると、またあのサイレンが鳴り始めた。時計を見ると、列車が来る1分前。ようやく帰りの列車、もとい、この閉鎖空間からの唯一の脱出手段、がやってくる。
トンネルの奥から、列車の音がだんだんと聞こえてきた。大きくなってくる二筋のライトの光。
そしてトンネルの出口から、2両編成の新型車両がヌウッと出てきて、僕の前で停車した。
ドアが開いたときに妙に安心したことは言うまでもない。
作業員たちに交じって乗車し、ガラガラの席に座る。
思い返してみると、小幌駅という不思議な空間での4時間は、思ったよりも短かった。しかし、その短い時間の中で、僕は数え切れないほどいろいろなことを体験したようにも感じる。
それは、今日ここに訪れなかったら体験できなかった様々な事。
一生の思い出に残るような有意義な4時間だった。
列車は小幌駅のホームからゆっくりと動き出した。すぐに真っ暗のトンネルに入り、夕暮れの小幌駅はあっという間に見えなくなった。
帰りの列車に乗れたという安心感で、僕は列車のイスで、ぐっすりと深い眠りに落ちていった。
日本最強の秘境駅・小幌駅訪問、
完。