語りかける花たち

角島 泉(かどしまいずみ) 花日記
 ~石川の四季、花の旅、花のアトリエ こすもす日々のこと


工藤和彦さんの工房

2014年09月06日 | 旅日記
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8月のはじめ、北海道・旭川郊外にある

陶芸家・工藤和彦さんの工房を訪ねた。

3年ぶり、2回目の訪問。

大雪山系の麓、豊かな自然に抱かれるように

そのユニークな工房は在る。


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家のまわりは豊かな森、ぜんぶ敷地内。

前回 訪れた時は

散歩していて、道に迷い

工房にもどれなくなったほどの深い森。

いろんな野鳥がいて、時折、カッコーが木を彫る音が

のどかに こだまする。

そんな自然の営みを感じながら、

工藤さんはうつわ作りに没頭している。








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工藤さんは、北海道にしかない素材にこだわり、

土は、近くの剣淵町へスコップ持って採集に行く。

この土は、大陸からの風に乗ってやってきた、

なんと2億年前の黄砂が混ざった粘土。

古代から時間をかけて堆積した土は、

もちろん他の地域にもあるはずだが、

表出しているのが、ここだけなのだという。




ダイナミックな大壺。

大地の力。

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日本の陶芸家の中で、すべて自力で土を採取して

作陶しているのはほんの2割くらいと言われるそうだが、

豊富にあるとはいえ、容易いことではないようだ。

自然のままの土には当然、異物も混入しているので、

まずはその除去作業、かなり根気がいることだろう。

そして、えんえん 練る作業。



本当は使いにくい土なのだそうだ。

もっといろんな選択肢はあるけれど、

この土が好きでしょうがない。

真剣に向き合っていれば、

この土の魅力を最大限に活かす道が開けるのではないか、

と信念をもって、いく歳月、

さまざまな技法を生み出し、

オリジナルの作風を作り上げてきた。



練り終わって、まとめて、

ようやくこれで ロクロの前に。










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土に着せる衣、釉薬(ゆうやく)も

この地に自生する木から手づくりする。

ナラ、白樺、カラマツ . . .

ひと冬、ストーブで木を燃やし続け、

春までにとれる灰は驚くほど少ないそうだが、

それを素に釉薬を作る。

どんな配合から、何色に仕上がるか、

気の遠くなるような実験を繰り返しながら

出来上がったのが、今の作品たち。

これからも挑戦はつづいていく。

自分で道を切り開いていく人のエネルギーはすごい、と

つくづく思った。

作っている時は、周りに他人がいようが

お構いなしで、ものすごい集中力。

泉の底から泡が出るように、

工藤さんのからだから、次から次へと

うつわが生まれていく。

どれだけ作っても、

うつわ作りが楽しくてしょうがないのだそうだ。







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おおらかなデザインの大皿。

飾っておいても美しいけれど、

たっぷりのお料理も映えそう。


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最近、工房内に設けられたギャラリースペースで

さまざまな作品を見ることができる。


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工藤さんは陶芸家であるけれど、

もう一つ、特別な一面を持っている。

「アール・ブリュット」の研究家であり、

アート ディレクターでもあり。

「アール・ブリュット」とは。

汚れのない純粋なアート、つまり、

「芸術的訓練や芸術家として受け入れた知識に汚されていない、
古典芸術や流行のパターンを借りるのでない、創造性の源泉からほとばしる真に自発的な表現」
(by ジャン・デュビュッフェ)

例えば、子供や精神障害者などの作るものには、

この定義にあたるものが多くみられる。

「アウトサイダー・アート」という言葉の方が一般的かもしれない。

この言葉には、" 正当な芸術からはみ出たもの "

のようなニュアンスが あるため、

欧州を中心に「アール・ブリュット(生 /なま・き の芸術) 」

と呼ばれる。

日本でもいくつか専門の美術館ができはじめ、

少しずつ知られてきたと思う。

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工藤さんは、昔、身障者施設の職員として、

陶芸を教えたりしながら、働いた時期があり、

その時に、教えるつもりがかえって教えられた、というほど、

自分の作りたい衝動を、純粋なまま作品に表す人たちに、

ずいぶん感化されたそうだ。

今でも工藤さんの師匠は、そういう源泉のような心を持つ人たちで、

その心は、器作りに熱中するその背中が物語っている。

工藤さんは数年前に、アール・ブリュットの大規模な展覧会の

アートディレクションも経験している。

アール・ブリュットのシンボルともいえる

「アロイーズ」(スイス人)の作品展、

東京、滋賀、旭川、と 巡回展すべてを動かし、

日本に一つの道すじをつけたといっても過言ではない。


旭川新聞には、何年にも渡り、

アール・ブリュットに関する執筆を続けている。



工房内には、工藤さんが見そめた

日本のアール・ブリュット作品がいろいろ置かれている。

とてもユニークで 精緻で、崇高で。

工藤さんの永遠の師匠、という言葉に共感できる。

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国内外の専門家との交流、

アール・ブリュットの情報がここで得られるおもしろさ。

滞在中、たくさんの映像や本を見せていただいた。

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さて、そんないろいろを内包した工房のまわりには、

春から秋にかけて、様々な花が咲き乱れる。

工藤さんの奥さんが植えた花々も、のびのび育ち、

自然と一体になって、ほんとうに心地よい場所。


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朝に咲く花、夕に咲く花、

色とりどり、あたたかい家族のもとで、

花たちも楽しそう。






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滞在中、好きに花を摘み、

工藤さんの花器に、自由に生けさせていただいた。


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工藤さん自身、花をよく生けるそうで、

最近、本格的に花の師匠のところで習い始めたこともあり、

すばらしい花ハサミを持っていて、使わせていただいた。




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春の作品展の時には、大ぶりの桜を生けさせていただいた花器に、

お庭の桔梗、シャクヤクの葉などを。


素朴な野花は、小さい器にちょこちょこと。



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自然豊かな場所では、何かを作りたいという気持ちが

ゆったり自然に湧き上がってくるので、

環境がいかに大切かを感じ取ることができた。



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この広い敷地には、廃墟となった温泉施設などがあり、

現在、工藤さんは作陶の合間を縫って、

その改修を進めている(自力で!)。

いつかそこにアール・ブリュット作品や

北の大地で生まれた芸術 を紹介できるギャラリー、

おいしいパンやコーヒーが楽しめるカフェなどを思い描いているようだ。

工藤さんの情熱は、きっと近い将来

その夢を実現させると思う。

私は、なにかわからないけど、心が満たされた。

そう、自分が信じた道は、多少の失敗があっても

簡単に放り出さず、他に浮気せず、

とにかくいろんな手だてを絞り出して

やるだけやってみると、道が開けてくる、

そんな希望を、北の大地で見つけた気がした。






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