語りかける花たち

角島 泉(かどしまいずみ) 花日記
 ~石川の四季、花の旅、花のアトリエ こすもす日々のこと


工藤さんのうつわに花を生ける。

2010年11月12日 | アトリエから
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先月、私の店のギャラリースペースで開催した

陶芸家 工藤和彦さんのうつわ展で、

私は野に咲く草花や庭で育てた花などを

2週間にわたって生け続けた。


初めて生けて思ったこと。

こんなに自然に手が動くうつわになかなか出会えない。

なぜ、どこが違うのだろう、

期間中、私はずっと考えていた。

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北海道、旭川市の郊外で作陶する工藤さんとは

ひょんなことから4年ほど前に出会って、

なんとなくコラボレーションができそうな

根拠のない直感がはたらき、

この秋、ようやく実現したのだ。

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工藤さんはもともと食器の制作が主で、

花の器はそれほどたくさん作っていないので、

今回の作品展の為に、新作をたくさん持ってきてくれた。


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そのうつわはどれも美しいフォルムをしており、

そのまま飾っておいても絵になるが、

さらに花を生けたくなるような余裕がある。

生ける花によって、ひとつのうつわからいろんな表情が引き出せる。

そんな大らかさが工藤さんのうつわの魅力なのだ。

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かたちもそうだが、その肌色のすばらしさを実感する。

やわらかい黄色、クリーム色は、

不思議とどんな花色も引き立ててくれる。

同系色はもちろん、反対色の青、紫色、

そして白い花もその純粋さがきりっと際立つ。


「黄粉引(きこひき)」と呼ばれるこれらの作品は、

工藤さんが自力で開発した土と技法によるものだ。

中国大陸から飛来し、北海道のある場所に蓄積された

推定2億年前の「黄砂の粘土」だというから驚きだ。

地質学的にはまだ解明しきれていない、謎の土らしい。


誰も試したことのない土を、10年近くも試行錯誤して

工藤さんはようやく自分のものにした。

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高台の紅い色は、焼く時にくっつかないようにと

たまたま敷いたホタテ貝と反応して出た色だとか。

北海道の自然環境を存分に生かした技法。


やわらかな黄色と、力強い緋色。

工藤さんの作品は深い魅力をたたえている。

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たっぷりした片口の大鉢。

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大地に還っていきそうな感じ、

と来場者が表現した、迫力の大皿。

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料理をする人の創作意欲を駆り立てるうつわ。

誰もが、素材を生かしたシンプルな料理を盛りたい、という。

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花を生ける人もしかりである。


花のほうからすっと身を寄せていく、というくらい

自然にうつわの中に入っていく。


作品展の搬入時、工藤さんが配置していった器に

私は次々と花を生けていった。

用意したいろんな花材の中から、

迷わずとも花の方から「私ここ」と向かっていくようだった。

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ある壺を前にして、私は初めて工藤さんにお伺いを立ててみた。

庭から採ってきたブルーサルビアの花を壺にさっと挿し、

こんな感じでどうだろう、と聞いてみたのだ。

「ああ、いいですね。」

と言ってもらえたので、壺に水をはって、

先ほどパッとあててみた時の、自然な感じを再現しようとしたら

なぜか うまく生けられなくなってしまったのだ。

まったく同じ花を使おうとしているのに。


あれこれやってみたが、その日は結局だめだった。

それから期間中は意地になって、

庭からブルーサルビアを採ってきては同じ壺に生け続けた。


肩の力がようやく抜けて、最後の日に

やっと自然な感じで生けることができた。


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工藤さんは笑いながらこう言った。

「僕も変な欲を出して作るとうまくできないです。」

そういうことなのだ。

こういう風に生けてやろう、という自分の欲が出てしまったら、

花は堅くなってしまったり、これ見よがしな感じになってしまう。

試しにあててみたときの形を再現しようという欲が

つい出てしまったから、花本来の魅力を引き出せなかったのだ。


私が生涯目指しているのは、

草花の素性と魅力を引き出す、という生け方。

つまり自分の思い描く形におさめない。

デザインしない。

無欲で向かった時にはじめて、植物は応えてくれ、

内なる魅力を発揮してくれる。


工藤さんの造形力は、普遍的なバランスと美しさ。

やはり欲を消して、さっと造形する。

土の美しい風合いが引き出される。

そして、使う人の手にすっとなじむ。

自分の主張を前面に出さない。

でもその人の個性がにじみ出てくる。

それは確かな技術あってこその話で、

実はとても難しいことなのかもしれない。


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花と器。

目指す方向性が似ているので、

いいコンビを組めるな、という手応えをつかむことができたと思う。


来年の秋もまた、二人で作品展をする計画だ。

今度はどんな器を作って来てくれるだろう。

私はその時、どんな花を見つけてこられるか、

心の眼も養っておかなければならない。


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