京都の「花ノ木」という町から、一枚の絵葉書が届いた。
薔薇の花が咲く中を、お祭りの行列が進んでいく。
花や楽器や香水の瓶のようなものを持って
人々は楽しげに進んでいく。
この幻想的な絵葉書の差出人が、
私の店を訪ねてきてくださったのは、一週間ほど前のこと。
楚々として、瞳のきれいな女性だった。
以前、金沢を紹介するある本の中で、私は、
「一年中、白い花の咲く道」や
「夕べの月見草の原っぱ」
など、漠然とした情報を掲載してもらったことがあるのだが、
この京都のひとは、そこがどこか教えてほしいのではなく、
美しい幻想の世界に共感するために、
私をわざわざ訪ねて下さったのだ。
そのひととき、私たちは、花咲く情景を語りながら
それぞれの想像の世界を浮遊していた。
地球上にある美しい風景を、私たちは
一生のうちで、いくつ見に行くことができるだろう。
私も、時間があればいろんな旅をしてきたが、
遠くへ行かなくても、身近にこんなみずみずしい世界があり、
またそこへ行く時間さえもない時は、
私たちには「想像力」という宇宙がある。
たくさんの情報があふれかえり、
おぼれそうになる今の世の中で、
ひとつ感性にひっかかったことに
じっと目をこらし、
反すうし、
大事に心の中で育てていくこと。
京都のひとは、この葉書の絵が大好きで、
長い間、お部屋に飾ってあったのだという。
そんな丁寧な生き方をしているひとは、
白色の花の印象を残して去り、
心の中で染めた花びらを一枚、
私のもとへ送ってくださった。
そして私はこの一枚の小さな絵から、
想像の世界を旅していく。