語りかける花たち

角島 泉(かどしまいずみ) 花日記
 ~石川の四季、花の旅、花のアトリエ こすもす日々のこと


橋本雅也「殻のない種」

2012年05月08日 | 心の花
Photo

  山を流れる一筋の沢が

  鹿の血で赤く染まった夜

  私の中に一粒の種が落ちた



  種はやがて芽を伸ばし

  光で満たされると

  いっせいに花を咲かせた

  ( 橋本雅也 作品集「殻のない種」より )


.

彫刻家、橋本雅也さんの作品展が、

近くの禅寺、広誓寺(こうせいじ)で 先日 行われた。

橋本さんが彫った数点の花々は

かつて山を駈けていた一頭の鹿だった。

その骨や角をすべて使って、花を彫った。

橋本さんの苦しみ抜いた心に咲いた花たち。

骨や角だったと言われなければ気がつかないほど

精緻で繊細な花。

骨や角は曲げられないので、

そのままの形を生かして彫った。

骨から咲いた花たちの、柔和で気品ただよう表情は、

見る側の心まで清めてくれる。

それは、花の姿をした仏のようにも見えた。











Photo_2

橋本さんは、もともと骨や角などを彫刻の材料にしてきたそうだが、

材料のもとの姿と ちゃんと対峙しなければ、

という思いが強まり、知り合いの猟師さんに頼んで

鹿猟に同行させてもらうことになった。


そしてその夜、一頭の雌鹿が撃ち殺された。

雌鹿のお腹には、もう一つの命が宿っており、

二つの鼓動が夜の冷気に消えていく様を

橋本さんは、目の当たりにすることになる。


その時の思いを、写真集「殻のない種」で

せつせつと綴っている。


.

受け取った命を、自分なりの方法で生かしたい、

と思うものの、

すぐに彫り始めることはできなかったと . . .

.


その夜、心の中に宿った種が

ある日、光に満たされて

一斉に花を咲かせた . . .


.

私は橋本さんの作品を拝見して

どの花とも目が合わないことに気がついた。

思うに、とても謙虚な気持ちで、

自分を消して、ただひたすら

鹿への供養と、花に託す命を彫っていったのではないかと思った。

花が正面切って魅惑してこない。

つまり、「どうでしょう、きれいでしょう」

という感じではないのだ。

自然に咲く花が無心に命を燃やすように、

橋本さんの花も、媚びず、おごらず、咲いている。

私は身を正される思いだった。


.

お寺の、座禅堂での展示がまたすばらしかった。

企画してくださった方々に心から感謝します。

































Photo_3

ここに掲載した写真は、すべて私が撮ったものです。

橋本さんの作品集の写真は、格段に素晴らしいです。

.


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